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アンチドーテと錬金術師

説明回。


二人の錬金術師見習いが新しい一歩を踏み出した翌日の昼下がり、彼らはうなり声をあげていた。

というのも彼らの師匠であるクシアから新たに教わった錬金術。それが一度も成功しないのだ。

今日の午前中に教わったばかりのディドはまだ良い。むしろ「そりゃポーションも満足に作れねえのに無理だよなぁ」とある種の開き直りであまり気にしていなかった。

だが教わってから何日も経っているフィーテは焦っていた。なにせ何度も試行錯誤し、師匠にヒントをもらったりもしたが一向に成功しない。

なにがダメなのかと悩むフィーテの元にひょっこりとクシアが顔を出した。


「良い感じに行き詰まってるみたいだね」

「あ、師匠・・・うう、そうなんです」


フィーテは今まで試したことをすべて話した。それは本で読んだりクシアからのヒントで思い付いたものだけではなく自分なりに工夫したりして努力していた。

しかしフィーテの話を聞いたクシアは「それは仕方がない」と言いきった。

あまりの言葉に疑問を浮かべる弟子たちにクシアは言葉を続ける。


「実を言うとほんとはまだやったことない錬金の方法だからできなくてもしかたないんだけどね」

「な、なんで!? なんで教えてくれなかったんですかー!?」

「ごめんね、悪かったとは思ってるけどそれ以上に試行錯誤してほしかったんだよ。 正直なところ今のうちにいろいろ考えることに慣れておかないと後々で大変だからね」

「うう、そうは言ってもですねー」

「許してよ。 今度とっておきのお菓子作ってあげるから」

「約束ですよ! ぜったいですからね!」

「お菓子に釣られんのかよ」

「いいじゃないのよ。 美味しいんだから」


二人のじゃれあいを他所に許されたクシアはローブを二人に手渡した。


「じゃあ二人とも、出かける準備をして」


そして自分のローブも取り出して羽織る。完全に出かける時の服装である。


「え? どこに行くんですか?」

「楽しい楽しい課外授業だよ」


余所行きの錬金術師らしい格好になったクシアはにこりと笑った。




「課外授業って商店街じゃねーか」


てっきり町の外に行くと思っていたディドは肩透かしを食らった気分だった。


「今教えるものに関してはここにあるものを使うのが一番良いんだよ。 必要なものがあればすぐ買えるしね」


いくつかの店を冷やかしながら商店街を歩く一行が足を止めたのは一軒の道具屋の前だった。

中に入ると店主のロスが商品の品だしをしていたがクシアたちに気づくと手を止めた。


「やあロス。 調子はどうだい?」

「クシアじゃないか。 今日はどうしたんだ? 弟子まで連れて」

「ちょっと課外授業をね。 ・・・ところでずいぶん景気がいいね。 なにかあったの?」


店内に並べてある商品はクシアが普段訪れる時よりもずっと数が少なかった。加えてロスがこの時間に商品の補充をしているのは珍しい。

それにクシアが疑問をぶつけるとロスはなんともいえない顔をした。


「ああ、それなんだが実は今・・・」

「おーやおやおや? お客様ですかな?」


口を開きかけたロスの前にひょろりとして眼鏡をかけた男が割り込んだ。


「なにがご入り用で? 今日はあちらの棚の商品がお買い得になっておりますが。 それからこちらの・・・おや? もしやクシア殿?」


男はクシアたちがなにか言う間も与えず営業トークを始めたがクシアの姿に気づくと驚いたようにトークを止めた。


「パサルさん? なんでロスの店に?」

「視察というやつですよ。 近頃は物の売り方を知らない商人が増えておりますのでね。 ここはマシなほうですが」


ディドがクシアのローブの裾を引いた。


「なあ師匠、知り合いか?」

「うん。 二人はまだあったことかがなかったね」


クシアは後ろにいた弟子たちをパサルの前に出した。


「紹介しますね。 この子たちはフィーテとディド。 僕の弟子です」

「なんと! クシア殿のお弟子さんでしたか」

「俺がディド・・・です」

「えと、初めましてフィーテっていいます」

「これはご丁寧に。 私は商人組合でこの地域のまとめ役をしておりますパサルと申します。 それでクシア殿、今日はどのような用向きで?」


丁寧に挨拶を済ませるとパサルはクシアに視線を向けた。


「今日はこの二人に手本を見せようと思いましてちょうどいい素材を探していたんですよ・・・そうだ、パサルさん。 貴方は鑑定ができましたよね」

「ええ、目は確かだと自負しておりますよ」

「それなら今からあるものを錬金しようと思うのでそれの鑑定をお願いできますか?」

「それくらいお安いご用というものです。 ところでクシア殿、せっかくですので我々も聞いても?」

「もちろんいいですよ。 錬金術の基本についてしか話しませんので」


クシアが手を叩くと弟子たちは居住まいを正した。錬金の授業のはじまりである。


「さてとそれじゃ基本のおさらいからだよ」


弟子二人に加えロスとパサルも耳を傾ける中、クシアは説明を始めた。


錬金術とは複数の術を使い分け、時には同時に行使する複合魔術である。

錬金術を構成するのは大まかに『分離』『付与』『置換』『昇華』『劣化』。

これらに加えその他細かい諸々を組み合わせて物質を変化させる術のことを錬金術と呼んでいるのだ。


「ここまではいいね?」

「はい。 ポーションの時にやっていたのは『分離』・・・であってますよね」

「そのとおり。 分離は『抽出』と言い替えてもいい。 エイド草の薬効を清水を使って抽出して、次に清水の薬効が溶け込んだ部分を他の部分から分離させ凝縮させる。 これがポーションの作り方だね」


フィーテとディドが頷く。その後ろでロスがわかってるのかわかってないのかどっちとも取れない声を出した。


「それで今度二人にやってもらうアンチドーテの作り方なんだけど、これは『分離』の他に『付与』を使う」

「『付与』・・・なあ師匠、それってどんなもんなんだ?」

「わかりやすい例を出すなら・・・火炎剣は知っているよね? あれは剣に魔術の力を付与してるからあれのイメージでいいよ」


ディドは納得できたようで何度も頷いている。


「あれは厳密にはエンチャントっていう別の魔術なんだけどやることはそう変わらない。 要は物から別の物に効果を移すことを言うんだよ。 そうだ、実例も見せようか。 ロス、薬草を二つくれるかい?」

「ん? ああ、いいぞ。 ・・・いや代金はいい。 使ってくれ」

「そんな悪いよ」

「それならこの講義のお代代わりにという事でどうでしょう。 この講義の本来の値段には足りるとは思いませんがね」

「うーん、まあそれなら」


ロスから薬草を二つ受け取ったクシアはそれをテーブルの上に置いた。


ちなみにではあるがここでいう薬草とは依頼で採取される草そのものではなく、傷を癒す効果を持つ草を薬液に漬け込み効力を上げた“商品”としての『薬草』である。


薬草のうち一つに手をかざしたクシアが手に魔力を込めると薬草から“なにか”を抜き出した。

その“なにか”は淡い光そのもので実体が無いながらもクシアの手の中に収まっている。

その光景にフィーテとディド、ロスはもちろんパサルまでも驚いたように目を見開いている。


「し、師匠、なんですかそれ?」

「薬草の治癒効果そのものだよ。 ある意味で魔力に近いものと言えるね。 本来なら清水とか媒体を経由するんだけど慣れればこんな風に直接取り出すこともできる」


そう言うとクシアはその光をもう一つの薬草に注ぎ込むように近づけた。

すると薬草は光を吸い込んでいき、あっという間に消えてしまった。


「それじゃパサルさん、この二つの薬草を鑑定してくれますか」

「え、ええ。 まかせてください」


なんでもないように言うクシアに面食らいながらもパサルは言われた通り薬草を手に取って眺め、すぐに「ふうむ」と唸りをあげた。


「ど、どうしたんですか」

「いやはや驚きました。 こちらの薬草、品質がかなり良くなっておりますねえ」


フィーテたちも薬草を見比べてみると確かに片方の薬草はまるで数ヶ月放置したかのようにくたびれており、もう片方は他の薬草と比べても明らかに瑞々しくなっていた。


「師匠、これって」

「そ、二つの薬草の治癒効果を一つにまとめたんだよ。 こうやって別の物に効果を移すのを『付与』っていうんだ。 わかったかい?」

「わかったような・・・わかんないような・・・?」

「え、待ってくれよ師匠。 俺たち次今のやんのか?」

「いや、今のはあくまで『付与』ってものを直接見せるためにやったものだからね? 付与のイメージができるようになるならそれでいいんだけれど、どう?」

「なんとなくは・・・」


自信なさげなフィーテの答えだがそれに満足したのかクシアは笑顔を見せた。


「うん、今はそれでいいよ。 でもアンチドーテを作るには付与ができなくちゃ話にならないからね。 帰ったら改めて教えるから頑張って覚えようね」


弟子たちに言葉を掛けるとクシアは次はロスとパサルに礼を言った。


「ロス、パサルさん。 協力ありがとうございました」


それにパサルは笑って応じる。


「いえいえ、今日は面白いものを見せてもらいましたよ。 どうか今後とも良い付き合いをしていきたいものです」

「こちらこそ。 また新しい物を作ったら連絡しますよ」

「それはありがたいですなあ。 クシア殿の作るものは素晴らしいものばかりですので」


二人が握手するその後ろでディドはロスに話しかけていた。その視線はパサルに向けられている。


「なんていうかよ、その道一筋の商売人ってもっと悪どいもんかと思ってた」

「その認識はまちがっていないぞ。 一般的な商人なんてどうすれば儲けられるかしか考えてないからな」

「え? でもあのパサルさんはあんなに師匠と・・・」


フィーテの言葉にロスは肩をすくめた。


「それは相手がクシアだからだ 」

「師匠だから?」

「そうだ、クシアは言い方は悪いが金のなる木なんだ。 あいつが作ったミトラス茶は仕入れれば仕入れた分だけ売れる。 商売をする人間にとってそれは夢のような話だ」


ロスは「だけどな」と一拍おいた。


「その夢のような商品はクシアにしか作れない。組合のお抱え錬金術師が作ろうとはしてるが今のところ劣化品しかできてない。 つまりあいつの機嫌を損ねたらその商品は二度と取り扱えないかもしれない。 そう考えれば組合が慎重になるのもわかるだろ?」

「師匠はそういうことしませんよ」

「それはわかっている。 だけど商人ってのはもしもを考えるものなんだ。 だからパサルさんはお互いに気持ちよく取引ができるようにしてるわけだ」


そうしているうちにクシアとパサルの話が終わったようだった。


「お待たせ。 それじゃせっかくここまで来たんだから買い物でもしながら帰ろうか」

「ほんとですか! やたっ!」

「えー、俺金持ってきてねえんだけど」

「少しだけなら出してあげる。 それじゃパサルさん、ロス、また今度」

「ええ、またのご来店を」


ロスとパサルに見送られクシアたちは店を後にしたのだった。


「なあ師匠、俺欲しいのあんだけど」

「ちょっとなに買ってもらう気でいるのよ。 貸してもらうって話でしょ?」

「んー、二人とも最近頑張ってるからね。 高いものじゃないならいいよ?」

「まじかよやったぜ!」

「その代わり今日は夜まで勉強だからね」


商店街にディドの悲鳴が響いたのだった。

設定考えるのすごい楽しいけど文章にするのすごいめんどいですよね。

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