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「そうだ、今日は二人にポーション作りをやってもらおうかな」


朝食からしばらくしてディドとまだ少し拗ねた様子のフィーテにクシアはそう言った。


「またポーション作りかよ? なー師匠、そろそろ他のを教えてくれよ」

「それなんだけど、今回は他の錬金術に手を出せるレベルかを見るために二人が作ったポーションを実際にお客さんに使って貰おうと思ってる」

「えっ!? 私たちが作ったのを?」

「ほんとか師匠!」

「ほんとだよ。 夕方ごろには警備兵や冒険者の人が店にくるだろうからその人たちに協力してもらう」


フィーテは不安そうに自分の手を握り、ディドは目を輝かせて立ち上がった。


「とは言っても商品としてじゃなく試供品としてね。 今回は僕の品質チェックは最低限。 ちゃんとポーションかどうかだけを見るから。 効果は実際に自分の目で見てもらうよ」

「わ、わかりました。 がんばります!」

「へへ、めちゃくちゃいいポーション作るからな」

「それじゃあ俺が合格ラインと認められるポーションを三つ、遅くても午後のお茶の時間までに提出すること。 材料は錬金室にあるものを使いなさい。 店のことやお昼の用意は僕が全部やるから二人ともポーション作りに集中して取り込むこと。 いいね?」

「「はい!」」

「うん。 それじゃがんばってね」


二人の頭を撫でるとクシアは店の方に出ていった。

バタン、と扉が閉まる音がするとディドが「よっしゃー!」と歓声をあげた。


「やったな! ようやく俺の実力を見せる機会がきたってわけだ!」

「もう、なんでそんな楽観的なの? 嬉しくないわけじゃないけど・・・いつものテストと違うのよ? 自分が作ったポーションを人に使ってもらうなんて・・・」

「大丈夫だって。 ポーションぐらいなら何度も作ってるだろ? 余裕余裕」

「その能天気さが羨ましい・・・」


二人は錬金室に向かうと早速準備を始めた。

ディドが錬金器具を二人分テーブルに並べ、フィーテはポーション材料を棚から取り出した。


「えっと、エイド草と清水はポーション十個分ぐらい、かな。 これなら少しは失敗しても大丈夫そう」

「必要な道具は並べ終わったぜ。 ・・・そういやエイド草はわかるけどなんでわざわざ清水を用意して使うんだろうな? その辺の井戸の水じゃだめなのか? 十分綺麗だろ?」


エイド草は傷の治りを早める効果がある野草で道具屋では薬液に漬けて薬効を増したものを薬草として売ったいたりするほか、ポーションの材料にもなる。

そして清水というのは錬成術や調合で使われる特別な水のことである。ここで用意してあったものはクシアが錬金術で作ったものだ。

目の前に並べたポーションの材料をじっと見つめるが二人の見習いには普通の水と見分けがつかなかった。


「清水じゃないと品質が下がるって聞いたことはあるけど・・・なんでかな? あとで師匠に聞いてみようかな」

「井戸水でできたら準備が楽なのになー」

「楽ばっか考えないの。それじゃ始めよっか」


二人の若き見習い錬成術師たちは気合いを入れて器具を掴むのだった。





「へー、今ディドたちそんなことやってるんですね」

「そろそろ二人には次のステップに進んでほしいからね。 ・・・まああまりにも出来が酷いなら学び直しだけど」


太陽が真上に来る頃、クシアはカウンターでポーションの代金を持ってきたナッシュと話していた。


「でもディドが少し羨ましいです。 俺もまだ見習いだから雑用ばっかりで・・・」

「不満かい?」

「そういうわけじゃないんですけど・・・」

「気持ちはわかるよ。 でもガラさんはナッシュに期待してるんだと思う。 だから雑用でもしっかり身につけてほしいんだよ」

「怒られてばっかですけどね」

「そんなものだよ。 僕も師匠にはよく怒られたもんだから」

「店長さんの師匠って・・・」


その時、町にゴーンという音が響いた。昼を告げる鐘の音だ。


「あっ、やべ。 そろそろ戻んなきゃ。 店長さん、俺戻りますね」

「ああ、気をつけて。 ・・・そうだ、ナッシュこれ」


クシアは小さな袋をナッシュに投げる。ナッシュがキャッチして開けてみると中にはいい匂いがする焼き菓子が入っていた。


「ナッシュも頑張ってるからね、ご褒美だよ」

「ちょっと、子供扱いしないでください」

「そういうわけでもないよ。 甘いものを食べると疲れがとれるからね。 それにそれも錬金術で作ったものだから体力回復するよ」

「えっ、このお菓子錬金術で!? へー、そんなことも・・・」

「奥深いでしょ?」


いたずらっ子のようにクシアは笑った。

ナッシュも笑うと深々と頭を下げて仕事場に戻っていった。


「どこも見習いは大変だ。 さて、うちの見習いたちはどうしてるかね」


店の奥からはカチャカチャと道具を使う音が漏れ聞こえていた。



それからディドと、それから遅れてフィーテがポーションを持ってきたのはお茶の時間になる頃だった。


「で、できました・・・確認お願いします」

「お疲れさま。 すぐ終わるからディドとそっちのテーブルで休んでて。終わったらお茶にするから」

「はーい」


フィーテは自分の椅子に大きく息を吐いてテーブルに突っ伏した。

そんなフィーテを見てディドがにやりと笑う。もっともディドもまた疲れてテーブルに伏しているのだが。


「相変わらず手際悪いよなー」

「そういうディドは仕上げ雑じゃないの」

「いーやあれは完璧な出来だぜ?」

「今はその自信が羨ましいわ」


呆れたようにフィーテが息を吐いたちょうどその時、クシアが二人に声をかけた。


「終わったよ。 フィーテ、合格だ」

「やった!」

「二人ともお疲れさま。 お茶にしようか」


クシアはお茶をいれると焼き菓子といっしょに二人の前に置いた。

焼き菓子は作ってから時間が経っているはずだが柔らかく、またほんのりと口当たりのいい甘さなのでディドもフィーテも大好物である。

ディドがさっそく焼き菓子にかぶり付きお茶を一口飲むとあっ、と声をあげた。


「これミトラス茶じゃん。 お茶で出るなんてめずらしー、これうまいんだよな」

「二人ともがんばったからね。 魔力回復も必要だし」

「私もこれ大好き! ・・・気軽には飲めないんだけど」

「なんでだ? 師匠に作ってもらえばいいじゃん?」

「いやいや、一杯50ルピもするのよ!? 高級品なのよ!?」

「材料はフィーテが取ってきてくれたやつだしそこまで気にしなくても」

「私が気にするんですよ!」


そう言ってフィーテは大事そうにちびちびとお茶を飲み始めた。

それをディドは呆れながら、クシアは苦笑しながら焼き菓子を口に運ぶのだった。


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