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 今日もわたしは昨日と同じように技術と学問の塔に登る。これからも登ることもあれば下ることもある。そういう今までと変わらない日々が続くのだろう。

「おはようございます」

「おはようアデール」

「……なにかトラブルでも?」

 最上階の扉を開けると既にガスパルが仕事をしていた。思わず窓の外を確認してしまう。まだ薄暗いから、私の通勤時間が遅かったわけではなさそうだ。しかしガスパルはいつものように穏やかな顔で書類をさばいている。

「いやあ。アデールを見ていたらわたしも頑張らなくてはいけないなと思ってね」

「はあ」

「まずはエメにストレスを与えない人間になろうかと」

「よくわかりませんが、よろしいことだと思いますよ」

 私も自席に着いて仕事を始める。しばらくするとエメもやってきて首をかしげていたが、何を言うでもなく仕事を始める。

「アデールさん」

「なにかしらリゼット」

「軍の補給部隊が備品について要望を上げてまして」

 リゼットの相談に乗って水や食料品の管理について考える。魔法でできることを誰でもできるように。生活全体の底上げを。最初は軍部や一部の王族貴族のためだけでも良いのだ。そこからの更なる汎用化は人間の役目だ。

 エメと昼食に出ると城下町の定食屋でロンとエロワを見かけた。けど何も言わないでおく。きっと彼女にも彼にも自分の生活と友達がいるのだ。それは家族であれ口を出すことではない。

 午後も仕事を続けて夕方になるころに部屋の扉がいきなり開く。

「アデール! 仕事終わったか?」

「もう少しよ。ロン、いつも言っているけど扉は開ける前にノックをするか呼び鈴を鳴らしてちょうだい」

「はいはーい」

 適当な返事に苦笑しつつも仕事を終わらせて帰る準備をする。

「お待たせロン。帰りましょうか」

「おう! 今日の夕ごはんは肉にしよう」

「昨日もその前も肉だったじゃないの。じゃあお先に失礼します」

「はーいお疲れ。ロンもまた明日」

「お疲れ様」

 バタバタと騒がしく階段を駆け下りるロンを追いかける。そのまま塔を飛び出すかと思いきやロンは不思議そうな顔で空を見上げていた。

「なんか冷たい匂いがする」

「冷たい匂い? ……ああ、もうすぐ雪が降るのね」

「雪?」

 首をかしげるロンに空から小さな氷が降るのだと説明する。温かい地方出身のロンは見たことがないそうだ。

「じゃあ一緒に見ましょう。触ってもいいし、少しなら食べてもいいわ。でも冷たいからきちんと防寒具をつけなくてはね」

「おう! じゃあ寒いから帰ろう!」

 そう言って走り出すロンを追いかける。今日も明日も明後日も。私は彼女と前に進むのだ。

 

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