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カクテル

 「少しは落ち着いたかね」

 苦笑しながらエティエンヌ王は私の様子を伺った。ここは王宮のすぐ傍にある居酒屋である。エティエンヌ王御用達ということで一階は普通に解放されているが、地下に一部の特権階級しか入れないスペースが確保されている。私はそこで提供された麦酒やら果実酒やらをぐびぐび飲みながら管を巻いていた。

「ご迷惑おかけします」

「迷惑ではないよ。珍しいものを見られて十分楽しませてもらっている」

 まったく喜べない発言だ。

「本当に愚痴ばかりで申し訳ない。でもですよ。私には大事なものなんです。それをあんな風に乱暴に。だいたいロンは雑なんです。所作の一つ一つを気にかけもしない」

「でもかわいい娘なのだろう?」

「そうなんですよ~~」

 だからこそどうしていいかわからない。ロンは何の考えもなしに乱暴なことをするような子ではない。でもそもそもが粗雑なものだから完全にうっかりの可能性もある。それをどのように指摘したものか。

「エティエンヌ王はエロワ王子に困ることなどないのですか」

 ふと思い立って聞いてみる。注意や指摘の仕方など親として先輩である彼に話が参考になるかもしれない。でもそもそもあのエロワ王子に困らせられることとかあるのかな。

「無論ある。いくらでもある。あやつはアデール殿の前ではいい子ぶっているが、実際のところは母親を早くに亡くしたからかひねくれがちでな。私の至らなさはもちろんだが立場上甘える相手もいなければ甘えられる機会もない。だから私と二人きりだとひねくれ坊主だ。先日もヴェロニクにやたらめたらに突っかかっていて本当に申し訳ない」

「それはそれは」

 エティエンヌ王の怒涛のぼやきに口を挟めないし、碌な返事も返せなかった。何て言うか、苦労されているんだな、としか。

「まあでもひねくれていたエロワがヴェロニク相手だといきなり子供のようになるのは驚いたがね。アデール殿のことを母のように慕っているのは知っていたが、まさかあのような嫉妬をするとは」

「嫉妬なんですかね」

「おそらく」

 ロンの方はあまり相手にしてないっぽいし、それが余計に気に障るのかもしれない。いつかは和解とは言わずともすれ違うたびに喧嘩するのを止めてくれたらいいのだけど。

「しかしアデール殿もすっかり親の顔になって」

「えー……そうでしょうか」

「そうだとも」

 エティエンヌ王こそ父親の顔でニコニコしている。母親の顔とはどんな顔だろうか。自分の母の顔を思い出そうとするが酒に酔った頭ではうまく思い出せなかった。


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