こんなのうまくいくわけない!
海風渚「ねぇじゃんけんしよ、負けた方があのビッグパフェ奢りで」
カフェの外に置いてある見本のパフェを指して海風渚が急にそんなことを言う。
「渚さんが勝つから嫌です。それにまた夕飯食べれなくなるでしょ、今日はあなたのリクエストでハンバーグなんですよ。」
呆れ果てて俺は言う。どうしてもハンバーグが食べたいと言ったのは数時間前の渚さんだ。「今日はハンバーグがいい〜それ以外は食べない!」
今の俺は金欠なのだ。ここでジャンボパフェ(3〜4人前!ワクワクの大きさ!!2500円)を奢るわけにはいかない。それに今ジャンボパフェを食べさせたら…。夕飯のハンバーグを目の前に悔しそうな顔で食べられない…とむくれる渚さんの顔が目に浮かぶ。パフェ食べたからでしょう、だから言ったのに。と返してクッションが飛んでくるところまで。やっぱり諦めさせよう。
「食べたいんだって〜!夕飯も食べるし!それにじゃんけんしてみないとわからないじゃん。パフェ私に奢ってもらえるチャンスかもよ〜??」
「ハンバーグ美味しく食べるために我慢してください。付け合わせにポテト付きですよ。」
渚さんの表情が少し動く。あとちょっとかな。
「ポテトって…フライドポテト?」
ワクワクした顔で聞いてくる。餌を目の前にしたハムスターか。よっしゃ、ここであとひとおし。
「そう。しかも今日のハンバーグはチーズ入り。上には目玉焼き。」
俺はさらっと言う。本当は目玉焼きの予定はなかったけど。でも目玉焼き乗せるとなんか渚さんテンション上がるし。
「言ったな!いつも目玉焼きかチーズかどっちかだけなのに!両方は贅沢だとか言うくせに!絶対だぞ」
目をキラキラさせて渚さんが言う。ほんとに俺より年上の社会人なんだろうかこの人は。
「ほんとですよ。だからパフェは今度ね」
「…。しかたないなぁ。」
少し未練がましそうに見本のパフェを見るも諦めてくれたり良かった。これで救われた。俺もこれから食べられるであろうハンバーグも。
家に帰る道すがら俺は思う。慣れてはきたものの我ながら不思議な生活をしているな、と。
渚さんの食の好みや生活能力のなさはわかってきたけどまだまだわからないことは多い。仕事は何なのか、恋人はいるのか、家族はいるのかーーー。聞いたらこの快適な生活が崩れそうな気もして怖い。渚さんも俺の事情を詳しく聞いてこないし。
ハンバーグ〜♪と嬉しそうに歌う渚さんを横目に俺は思う。
俺の秘密がバレなければいいな、と。