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かけがえのない出会い

 とりあえず、体からできものが全てなくなったおかげでどうにかこの病院に戻ってこれてね、それからは病院の外でも生活できるように、かけた体の埋め合わせをすることになったんだ。

 特に入院してからというもの運動なんてできなかったから体力はなくなってるし、歩いたりしなかったから立つことも難しくってさ。立って歩くってこんなに難しいことだったんだ! ってびっくりしたよね。


 そこで、再び歩き回ったりできるようにリハビリをすることになって、私の担当になってくれたのは私と同じ年くらいの研修医の先生だったんだ。

 ……そう、さっき話してた人はその人だよ。


 好きになった理由? ……ほんと、きみってばこの話になってからぐいぐい来るよねぇ。

 あらかじめ言っておくけど、普通に顔はかっこいいけど、顔で好きになったんじゃないからね?

 あー、まあ、何かもらったからっていうのはちょっと惜しかったりするのかな。

 さっきも話したけど、私はその人に大切なことを教えてもらったし、こうやって歩き回ったりできるようにしてくれたから、もらったっていうのは間違いじゃないよ。

 まあまあ、ちゃんと話してあげるから、そうふてくされないでって。


 私がその人を好きになったのは、穴ぼこだらけの体になった私を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことなんだよ。


 うーん、きみくらいの年だとそれが普通なことなのかもしれないけどさ、それでもそう見てくれる人って結構少なくってね。

 例えばだけど、きみのクラスに男の子みたいに力が強くて声の大きい女の子っている? うん、ならわかりやすいかな。

 その子って誰かから、男みたいだ、って言われていたりしなかった?

 ……そう、私が言いたかったのはまさにそのことでさ。


 自分の身近にいる人って、悪い意味以外ではあまり性別を意識してもらえないんだよ。年が近いとなおさらね。

 それに、性別が男だから女だからって決めつける人もいるんだ。

 女の子だって男の子と混ざって外で遊びたい子もいるし、男の子だって女の子と一緒にお絵描きをしたい子だっているのにね。


 そうそう。私は昔から男の子っぽかったからさ、どんな時でも男の子扱いに違い状態だったんだけど、その人だけは違ったんだ。

 体が弱っていて全く動けなかった時から、また元気に歩き回れるようになるまでずっと、彼からしてみたら私は普通の女性だった。

 そう思ってくれていたのが何よりも嬉しかったんだ。


 それにね、ずっと凹んでいたってさっき言ってたと思うけど、そんな私をずっと励ましてくれてたのもその人なんだよ。

 それまでは、やっぱり体が穴ぼこだらけになってるし、病気が再発してまた辛い目に合うんじゃないかってばっかり思っていたからさ、必死に励ましてくれる彼に対してもついつい酷い言葉を使っちゃったりしてからね。


 もちろん、気持ちが落ち着いてからちゃんと謝ったよ。悪いことを言っちゃってたってちゃんと理解していたし。

 そしたらね、その人は何よりも私の気持ちが元気になったことを喜んでくれたんだよ。

 リハビリのおかげで立ち上がれるようになった時よりもずっといい笑顔で、目に涙まで浮かべてさ。

 私もついつい一緒になって泣いちゃった。


 ……ね、凄くいい人でしょ? 今思うと恋愛について初心だった私が惚れちゃうのも仕方がないよね……。

 あ、やっぱり気になっちゃう? どうしてそんなに私のことを気にかけてくれたのかって。

 え、いや、その……私に一目惚れしたとか、そんな理由じゃないよ。その時の私って今よりもっと顔色悪かったし、いっつも俯いてたから髪の毛で顔が隠れてたし。

 じゃあなんでかって? それはね、簡単な話だよ。

 その人にはね、憧れている人がいたんだ。


 なんでも、きみくらいの年に増水した川に流されちゃったそうで、もうダメだって思ってたんだって。

 そんな時に救助隊志望だった男の人に助けてもらったらしくて、それからはその人のように誰かを助けられる人間になりたいって思うようになったからなんだよ。


 動機としては甘い? ……きみってほんと、どこからそういう知識を身につけているのかなあ。

 まあね、言われてみるとそのとおりなんだけど、そこまで気にかけているのにもちゃんと理由もあるんだ。


 彼を助けてくれた人なんだけど、彼を安全な場所に運んだすぐあとに流されてきた木にぶつかっちゃってね。……うん、お礼をいうこともできないままの別れになっちゃったんだって。

 それからはずっと自分のことを責めていたらしいんだけど、ある日その人が夢に出てきたらしくてさ、誰かを助けられるような人でいてほしい、ってお願いされたそうなんだ。

 だから彼は自分に助けられる範囲の人たちを自分の手で助けてあげたいって心から思うようになったっていう────。


 いやいや、聞いた限りではなんか嘘っぽい気もするけど、ほんとの話だからね!?

 私が退院する最後の別れ際にこっそりと、涙ながらに話してくれたんだから!

 冗談とか嘘にしては流石に不謹慎なお話だしね!


 ……ああ、うん。それからは会ってないよ。

 また病院に来ることになるとはその時には考えてもいなかったし、彼はもうここには居ないし、連絡先も聞いてないからどこで何をしているのかもさっぱり。


 だーかーらー、恋人じゃないって。あくまで私の片思いで、最後の最後になっても連絡先を聞くどころか告白もできなかったんだから。

 まあね、きみが言うように伝えるだけならタダだけどさ。……私が愛を伝えることで、自然と彼の足を引っ張りかねないから。

 それにさ、やっぱり誰かを愛するには体が削られすぎてスリムになりすぎちゃったってか、体重もたぶんきみくらいに軽くなってるだろうし!


 あーもう、らしくない暗い言葉を言う羽目になったじゃん! この話はここまで!

 ……ただ、きみも彼のように困っている人や弱っている人に手を差し伸べてほしいな。

 それだけじゃなくて、相手と同じ位置に立ったり、気持ちを認めてあげたりできたらよりいいよ。

 実行するにはまだ気持ちが追いつかなくて難しいだろうけど、きっと相手のためだけじゃなくて自分のためにもなるからさ。


 ……うん? じゃあ、退院したのにまた病院に戻ってきた理由?

 これだけはあまりにも暗くて話したくないと言うか……ダメ? ……だよねぇ。


 じゃあ、ちゃんと聞いていてね。今なら昔の自分へのダメ出しもつけてしっかりと話すから。

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