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34話 トリック・オア・トリートと奇跡

 10月末、和み同好会の室内で寄り添う2人がいた。


「長かった研修ライフも終わって、卒業までかなり自由だぜ……」

「私もー……でも一気に気が抜けちゃって、体が疲れてだるいんだよねー……」

「分かるわー……動きたくねぇー……」

「ねぇー……」


 ゆるんゆるんな空気、まるで長年連れ添ってきた老夫婦。

 仲良くお茶を啜る姿はまさにそれ、晴れの日の縁側にも見えてくる。

 平和な室内を扉の隙間から覗き見する2つの眼、頬を赤く染めていた。


「……どうする。2人の空間を邪魔するわけにはいかねぇよな?」

「当たり前です……あぁ……尊い……」

「なにしてるデスカ?」

「「ひょ?!」」


 息ピッタリで驚いた部長と副部長、後輩の格好にも驚く。

 童話青ずきんの衣服、絶対領域に谷間を見せるエロずきん。


「今日はハロウィンデス! 皆さんも一緒に仮装デス!」

「か、仮装か? ふ……アタシらも抜かりねぇよ」

「お見せしましょう……そい!」


 アウターを可憐に脱ぎ去り、仮装姿の部長と副部長がお披露目。

 黄と紫のコントラスト衣服がトレードな映画のヴィランキャラ・ホーレクイーンの美影。

 海外警察風のミニスカヒールの紫音、ハイクオリティ且つ美しさを際立たせる。


「お似合いデスネ! で、何で入らないんデス?」

「中見てみな」

「んー? oh! 素晴らしき百合景色! スケッチしないとデスネ!」

「相変わらず速いですね。あら……こんな姿に……」


 ロゼによって脳内変換された尊い先輩達のツーショット、眺める2人も頬を染める。


「おはようございますわ、皆様。入らないのですか?」

「おはようデース! 蕾ちゃん!」

「蕾は……中学生の仮装にしたのか?」

「お馬鹿な美影さん、あれはDFのぺティーですよ。そろそろ知ってはいかがですか」


 ゆるふわ白髪ウィッグ、白ニーソに赤い学生服の上下。

 従来ロリキャラであるぺティーとは違い、胸元にお尻がパツパツ、丈が足りなかったのか色々と肌が露出、軽い変癖痴女にも見えなくはない。


「怜様に舐って貰えると仮装しましたが、思いの外無理がありましたわ……ギチギチで今にも弾けそうです」

「エロイな」

「えぇ、それには同意です」

「ナイス仮装デス! そんな蕾ちゃんにはいいもの見せてあげるデース! さぁさぁ、扉の隙間を見て下サイ♪」

「何かあるですか……こ、これは?! ぶは!」


 自ら吹き飛んだ蕾、一気に赤面した理由は言わずとも分かっていた。

 主要メンバーも揃い、そろそろ恒例の挨拶で突入する。


「「「「せーの……トリック・オア・トリート! お菓子くれなきゃ悪戯するぞー!」」」」

「んぁー……? 菓子? ……ほらよ」

「ちょっと待ってねー……何かあったかなー……んー……」


 怜から気怠い感満載で手渡されたチョロルチョコ4つ、意外に呆気ない反応だがチョコはその場で貪った。


「まむまむ……怜も奈南ちゃん先輩もお疲れなのは分かりますが、期待外れなリアクションでシタ」

「ごめんねー……あ、ポッヒーでも良かった?」


 それぞれポッヒー小袋を貰い、ポリポリとリスのように完食。

 今年のハロウィンはなんだかイマイチな空気、後輩らが盛り上げようと一致団結。


「怜様! 妾の仮装はいかがですか? 思う存分舐りたくありませんか?」

「ない。そもそもロリキャラ天使ぺティーたそが、ただのエロ露出女になってるだけ。乳削って出直してこい」

「が、ガーン!」


 兎良瀬蕾あっけなく撃沈、2番手はホーレクイーン美影、突っ伏してダラダラな奈南の向かい席へ座る。


「奈南の姉貴! 仮装を忘れたのならご安心下さい! この亜咲原美影がご用意しました! しかもアタシとお揃い!」

「な! 抜け駆けですか!」

「へ。早い者勝ちだ、部長さんよ~」

「ぐぬぬ……」


 してやったりなドヤ顔、お手製のペアルック仮装はやったもん勝ち、そう言っているのも同然だった。


「さぁ! あ、アタシがお手伝い……ゴクリ……して……じゅる……あげるっす!」

「あ、美影ちゃんー……私アウターの下、仮装なんだー……よいしょ……」


 するりと脱がれたアウターの先、ハロウィンではあまり見かけない仮装だが、奈南の二次元によってそれは従来の魅力を数十倍にも増加させた。つまり女神降臨。


「ちゃ、チャイナ服! ガハ!?」


 想像を絶する破壊力、真っ正面から直視してしまった美影、椅子ごと倒れノックアウト。

 涎をだらしなく流しピクピク痙攣、ズリズリと後輩らの手によってリングアウト。


「せ、静寂からの天変地異ですね……はぁ……はぁ……」

「何を言ってるんデス、紫音部長さん」

「お鼻から血が出てますわ」

「助かります……」

「怜も脱いだらー……?」

「おぅー……そうすっかー……」


 休憩すら与えずに第二波、身構える後輩らに対し、前のめりの近距離で焼き付けようとする変態がいた。

 はらりと脱がれたアウターの向こう側は自分のもの、変態の眼力からはそう読み取れる。

 圧倒的なスローモーション、彼女の世界だけ別次元。真の変態とは時間すらも操れる。


「よっとー……自分で言うのもなんだけど、超絶似合ってるんだわ」

「OH! とってもキュートデス♪ すっかり清純派デスネ♪」

「やっぱり怜は何でも似合うねー……好きー……」

「柔肉サンドはやめろー……うぇ……」

「く、黒セーラ服ぅうううう?! はひぃ……」


 変態怜マニア兎良瀬蕾、圧倒的クォーター美少女の黒セーラ服にあっけなく散る。

 柔肉サンドに抗うことすら面倒だと、好き勝手に挟まれ続ける。


「そういえば輝親さん先輩はいないんデスカ?」

「店がハロウィンキャンペーン中で、そっち行ってるってよ~……」

「あとで皆の写真送ってあげようねー……スンスン」

「だなー……」


 単体でも十分な破壊力を持つメンツ、それが束となって写ったらどうなるか。輝親が出血多量で死ぬ可能性大、止めてあげないといけないが止める者がいない。救えない事を残念に思う。

 後輩らの復帰を機にキャンパス内へ、そこらかしこに仮装の学生、出店はもちろんハロウィン仕様。


「今年も出店が賑わってるっすね!」

「練乳入りチョコバナナが人気みたいですね。まるでタピオカ店並みの人気です」

「ほぅ……」

「なんで私を見てるの? 怜?」


 いつぞやの練乳入りチョコバナナが切っ掛けではないだろうかと、まさにその通りであった。

 キャンパス内を巡り、出店や催し物を楽しむ一同、なにをしても絵になる美女集団。

 モブらは鼻の下を伸ばすも、絶対的存在の奈南&怜コンビが今年で卒業と考えるだけで泣けてくるのだった。どうしようもない。


「あ、美影姐さぁあああん! こちらにいらしたっすね!」

「おぅ実葉月来てたのか。バニーガールとは強気に出たな」

「ピョンピョンっす! あ」


 自身がヒールであるとこ忘れていたドジっ子、小走ったことで体勢を崩し転倒。

 ポロリは当たり前、持っていた数本のチーズチリドッグが宙を飛び、奇跡的に和み同好会の女性陣へと着地。

 しかし着地地点が何故か卑猥に思える場所、何があっても卑猥を拡散させる朧実葉月、何て恐ろしい子。


「わ! 胸の間に入っちゃった!? あちち! あわわ! チーズが出て来ちゃった!?」

「いてて……って、どうやったらパンツに挟まんだよ! あちぃわ!」

「ち、チーズが顔に! 熱いデス! あ、美味しい」

「ケハ……きゅ~……」

「み、美影さん……チーズが満遍なく掛かって、どえらいことに……弱みをゲットで……ぼ、僕の手に濃厚チーズが!」


 美女達がドジっ子卑猥の犠牲になった中、トラウマが過る者が1人いた。


「ひぃぃい!?」


 3日間恐ろしい時間を共にしてきた蕾であった、卑猥さよりもトラウマが上回り気を失ってしまう。


「いたた……あ! み、皆さん! 大丈夫っすか!? 生きてるっすか?!」


 これがのちにキャンパスへ語り継がれる、チーズチリドッグの奇跡であった。


「たく……ひでぇ目にあったぜ」

「でも、美味しかったよ? もう1本食べたくなっちゃった♪」

「奈南ちゃん先輩は大らかデスネ。さっきまでの疲れはどうしたんデスカ」

「たぶんお腹空いてただけみたい! やっぱり疲れたら食べるに限るね!」

「流石元デブ、ポテンシャルが段違いで」

「むぅ……そんな怜には強制的に付き合って貰います! えい!」


 腕を絡められても、ズイズイと引っ張られても、彼女は嫌な顔をせず無邪気に笑っていた。

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