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3話 ゴールデンウイークと用件

 ゴールデンウイークに突入し、古賀峰奈南はオタク御用達の町『秋葉っぱら』へ訪れていた。目的は柳家怜の用件の為である。


「まだかな……」


 集合時間の2時間前から呟き、スマホを随時確認中。現時刻でさえ15分前、単なる早過ぎだ。

 通行人が必ず振り向く美女、加えてわがままボディー。スカウトマンやナンパ野郎が今か今かとチャンスを窺う中、古賀峰奈南は色々と思い返す。

 ゴールデンウイークに近付くにつれ、連絡待ちにスマホ前で正座する日。柳家怜のカワイイを完成させる資金調達に短期バイト。吉田部長達から柳家怜に関する趣味趣向などの情報収集などなど、時間は瞬く間に過ぎた。


「デカ目印」

「ふぇ? あ!」


 ジャージ姿で見上げる柳家怜がいた、かなりの近距離で。思わず後退るも持ち直し、顔を見直す。

 眼鏡はせず蒼眼がチラ見、思わずニヨっと笑顔になる古賀峰奈南。


「見下ろすな」

「き、気を付けます!」


 優に身長差20cm以上、自然と見下ろす形。少々体勢に窮屈さを感じつつ、目線が合うように屈んだ。


「おい、わざわざ目線合わすな。子供か」

「え。あ、ごめんなさい!」

「……たく」


 溜息交じりで過ぎ去る柳家怜、即座に隣へ陣取り歩幅を合わせる。


「ど、どこ行くの?」


 返事もなく黙々と進み続け、数十分後にようやく立ち止まった。


「行……列?」

「これ、アンタに」


 突如差し出された1万円、恐る恐る受け取り一言尋ねる。


「お小遣いですか?」

「アホか」


 本日の用件内容は大人気ソフトドラゴンファンタジー、通称DF最新作の購入。秋葉っぱら店の初日店舗特典であるフィギュアが2種類あり、両方入手の為に古賀峰奈南は呼ばれた。


「アンタはピゼロを頼む」

「ピゼロね! うんピゼロ! カッコいいよね!」

「ピゼロなんかいねぇから。にわかめ」

「あう!」


 弱点の横っ腹を小突かれ、色気立つ空気が一瞬漂う。色香に勘付いた人々は仄かに頬を染めた。近くにヤバく色っぽい人がいると。自覚無きモテフェロモン放出は人々を惑わす。

 彼女達の番になり、2種類のフィギュアを無事入手。


「おほ~! 麗しぺティーちゃんのデティール最高~うへへ~」


 箱越しから造形を堪能し、光沢の笑みを浮かべる柳家怜。緩んだ口元には涎、荒ぶる鼻息、非常にだらしない。


「じゅる……じゃ、解散」


 瞬時に気分を切り替え、帰路へ歩んでいく。所要時間約1時間、用件は無事に完遂された。

 1人取り残された古賀峰奈南は持ち前のしなやかな長脚で距離を縮めた。


「ま、待って!」

「……なに」

「お昼! 一緒に食べよ!」


 咄嗟に出た誘い文句、現時刻は11時前。昼食には早過ぎる時間帯、古賀峰奈南は何かと早過ぎる。


「……めんど」

「おごるから!」


 懐事情は元々心配ない、曇りなき自信を抱き堂々と言い切った彼女。数秒の沈黙後、小さな腹の音が鳴る。元デブの古賀峰奈南ではなく、柳家怜から鳴った。


「……覗き見すんな」

「むぴゃ!」


 強めの頬掴みから解放され、若干の赤みを帯びた。

 近場のチェーン店、リーズナブルな価格で美味いファミレスゴストに入店。古賀峰奈南は野菜中心のバランス食、柳家怜は茶色系統オンリー。


「野菜も食べないとダメだよ?」

「アンタに言われたくない」

「うぐ……」


 元デブに突き刺さる返し、ぐうの音も出ない。取り留めのないコミュニケーションを挟みつつ、昼食を終えた。


「けぷぅ……食った食ったー」


 美少女らしからぬオッサン仕草、女性らしさの片鱗すら感じられない。用件達成に満足する柳家怜に対し、古賀峰奈南が長い腕を絡め始める。


「あ? 暑いんだけど」

「午後からは私に付き合って」

「はぁ?」

「フェアじゃないでしょ? レッツゴー!」

「ちょ、おま!?」


 元デブとはいえ従来の筋力量は多く、柳家怜を逃がさない事は容易。強制的に秋葉っぱらを去り、地下鉄でリア充の巣窟『新宿原』へ。


「まずは髪!」


 にこやかに進撃する古賀峰奈南は、柳家怜と縁も所縁もない洒落乙な美容室に。数々のコースメニューを眺め、どれも新作ソフトを余裕で買える価格。既に交通費以外すっからかんな財布、若干の焦りが滴る。


「おい。手持ちねぇぞ」

「大丈夫! 私持ちだから! では、お願いします!」

「お任せあれー!」


 小一時間程して、ゴワゴワのキモ黒ロン毛が一新。艶やかなショートヘア、端正な美顔を惜しみなく全開。


「おぉ……」

「きゃわわ~……ぶはっ!」

「天使の君臨……」


 絶句、鼻血、号泣、感情手段の洪水が店内を埋め尽くす。私の眼に狂いはなかった、内心ドヤる古賀峰奈南。


「金取んぞ」

「いいよいいよ~お幾らで?」


 冗談交じりの本心さえ通用しない程、古賀峰奈南は財布を緩め始める。面倒臭い空気に窮屈さを感じ、そそくさと退店する柳家怜。

 かなりの出費にもかかわらず、ホクホク顔の古賀峰奈南に再度腕を絡められズイズイと進む。


「……まだ何かあるのか」

「次はファッション!」

「……」


 新宿原の名物衣服店100通称イチマルマルで古賀峰奈南のコーディネートが始まった。初夏に相応しい爽やかな衣服一式、一通りの着こなしが出来る衣服など、肩掛けの大袋を2袋分購入。自身のプロデュース力に酔い痴れ、態度にドヤが出る。


「……アンタのお陰で大荷物だ」

「カワイイには付き物だよ?」

「この野郎……」


 爽やかな容姿とは裏腹に不機嫌な形相の柳家怜。スカート、ヒール、ブラウス、着慣れないどれもが違和感。常に好奇心の眼差しを送る外野、自分とは真反対の環境。新宿原はストレススポットでしかないと再認識、以上の点から柳家怜が発言した。


「帰る。もう止めるな」

「あ……う、うん……」


 大荷物を両脇抱え帰路を目指す柳家怜。古賀峰奈南はたじろいながら反省の色を見せる。無理に振り回してしまい申し訳ない気持ちだと。でも同時に、ここだけの関係で終わらせたくないと強く思った。


「ま、また付き合うから! えっと……」


 友人とも言えない関係な以上、先の言葉が詰まった。自分におこがましさを覚える中、LINSに新着メッセージ。


《第三土曜、欲しい初日店舗特典がある》


 視界から遠ざかる柳家怜からだった。


「いいの?」


 声が届いたのか素っ気ない手振りだけの返事。古賀峰奈南には充分過ぎるぐらいだった。

 その日新宿原では、乳揺れ長身美女と蒼眼美少女カップルがトレンドになる程盛り上がっていた。

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