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その手で壊さないのなら
魔術や科学や信仰が交差する世界の事をよく知る人は、好きを形にして生きていくことが得意だ。
今まさに出港する船に向けて帽子を振る時、僕たちは決まって、良い旅を、と声を上げてしまう。声を上げたその時に、何かを振り切るかのように。
君は穏やかで、優しくて、でも時折見せる怖さがあったりもした。離れていくものに見切りをつけるのは一番遅くて、それでも起こってしまった事には色々な思いがあったはずだ。
僕は物書きだから、君の細やかな知識−多くが誰かの物語の中から見出された知識−に驚かされたりもした。
好きを基軸に学をつけた君がもし物書きになっていたら、きっと何か凄いものを書けるんじゃないかな。僕には書けない何かを。
噛み合わないのは時間のせいじゃないんだと気付いている。僕が噛み合わせられないのは、色々な事に関心を持たなくなったからだ。頭に入れられることが少なくなった。噛み合わないなら、せめてその手を離して欲しい。或いは、この世界が幻想だと、その右手を振るって欲しい。
一方通行な僕の言葉を、その手で壊さないのなら。