セイエイとシャル
ワンシーンだけです。
火の精霊を喚んで対処した後、その後遺症で苦しむセイエイ。
王城の奥、余人を排除した国王の居室。
苦しげに息を乱して、ただ1人セイエイが倒れ伏し、熱に浮かされていた。
その傍らに、どこからともなく人影が姿を現す。
そして、痛ましそうにセイエイを見やり、たおやかな手をそっと額に乗せる。
そのまましばらくすると、セイエイが目蓋を開いた。
「・・・・しゃ、・・る?」
乾いた唇が開き、ほとんど聞こえないほどの、かすれた声がそう呟く。それに人影は涼やかな声で応えた。
「ええ、わたしよ」
セイエイの熱でうるんだ瞳は、茫洋として、覚醒しているようには見えない。
水の精霊シャルの姿も見えてはいまい。額に感じる水の気に、思わず溢れた呟きだろう。
うわごとさえも声にならず、荒く乱れた呼吸音だけ発している唇に、シャルがそっと指をあてる。
すると、唇にほんのりと湿り気が宿る。
唇から指が離れ、つっと首を辿り、胸の上でとまる。そして押し当てるように胸の上に手のひらを乗せられた。
しばらくすると、セイエイの呼吸が整い始めるが、浅く早いまま、それ以上はよくはならない。
シャルは麗しい顔を曇らせると、投げ出された左腕を眉をひそめて見遣る。
セイエイの左腕の肘から先には、乱れた文様を描くように火傷の跡がある。それが、今日傷を負ったばかりのように赤く熱を持っていた。
シャルは、そっと両手で包み込むようにセイエイの左手をとると、歌うように何かを口ずさむ。
そのまま、どのくらいたっただろうか。
「・・シャル」
セイエイがはっきりと呼びかけ、シャルは歌をやめる。
その時には、左手の熱は冷め、セイエイの呼吸も随分と落ち着いていた。
シャルは小さく微笑み、セイエイの頰に手を当てた。
「気づいたのね」
「あぁ。・・・面倒をかけてすまない」
「面倒ではないけれど。あなたがこうして傷ついているのを見るのは嫌いよ」
「すまない」
セイエイは謝罪してくれるけれど、もうこんなことにならないようにする、とは約束してくれない。シャルはそれが悲しい。
セイエイが、シャルの手に自分の手を添えた。
「いつも、ありがとう」
そうしてわずかに笑む。それだけでシャルはもうセイエイを責められなくなる。
でも、これだけは忠告しておかなければと、シャルは言葉を紡ぐ。
「もうあの子の力を使ってはダメよ」
セイエイは頷いてはくれない。
「あなたの身体はもう耐えられないわ。あの子を使いこなすだけの生命力を与えきれてないから、その分の代償が身体を傷つける」
シャルは身を震わせた。
「私が来なければ、その左手も、呼吸を司る器官もまだ何日もあなたを苦しめたはず。・・・次にあの子を喚んだら、きっとそれだけでもすまないわ。左手だけじゃなく身体のどこかを失う」
それを聞いても、セイエイは顔色一つ変えなかった。だからさらに言葉を重ねる。
「セイ、だめよ。あなただけじゃない。これ以上は、あの子のためにもよくないわ」
火の精霊グウェンのためにもならない、と重ねられて初めて、セイエイの表情が動く。
「現状がどうであれ、元々あの子は貴方を護るよう願われて存在しているのよ。これ以上に貴方を傷つければ、あの子も歪んでしまうわ」
「・・・それは考えが及んでいなかった。すまない」
歪んだ精霊は魔に落ちかねない。その危険性があるのなら、うかつにグウェンを喚ぶべきではなかった。
今回は、咄嗟にグウェンを喚ぶ以外の方法が思いつかなかったのだけれど。
そう思いながら、セイエイの表情が曇った。
「あの子は生い立ちが特殊だから。・・とにかく、もう喚んではダメよ」
シャルが表情を緩めて、そう締めくくる。
セイエイも小さく笑み、気をつける、と答えた。
絶対に喚ばない、とは約束しなかったことに、シャルが気づくのは、その何年か後のことだった。
セイエイは獅子王の関係で、火の精霊とは相性が悪い。火の精霊を喚ぶのは左手からなので、左手が火傷し、今回は喉から肺も熱風などで傷めてたのを、水の力で冷やし癒しということなのですが、説明省いたらよくわからなくなってしまいました・・・筆力不足ですね。精進します。