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血脈を継ぐもの 断片  作者: pico
荒野で
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贄の絆と同じ世界設定で、「血脈を継ぐもの」の後半にあるシーンの抜粋です。

王の側妃の子セイエイの物語。



夕闇が迫り、最後の陽光で照らされるその場所を、セイエイは確認した。

あたり一帯は、低木がいくつか見えるだけで、草もほとんど生えていない荒れ地。

そこは、とうに忘れ去られてしまった場所。付近の者でも覚えているものがいないほど遠い昔、激戦が繰り広げられた古戦場だった場所だ。

今はただ、生き物の気配のない荒野だが、夜になると魔物が現れるという話だった。

少し行ったところに、オアシスがあり、そこへ集まる行商や街道の要となって興った町がある。

夜毎に現れる魔物の発する声に、人は怯え、行商も激減したために、討伐の訴えがもたらされた。

訴えの内容から、この場所に現れるのは、おそらく実態を持たない悪霊のようなものだと予想された。

魔物討伐部隊には少々荷が重い相手である。

それで、セイエイが単身乗り出してきたわけである。

セイエイが最も多用するのは、雷の系統の術だが、悪霊相手ならば、浄化の炎に焼き尽くすのが最善と思われた。


ビョウと小石混じりの強い風が吹き抜ける。

セイエイの編んだ長い黒髪が風に煽られる。飛んできた無数の小石がセイエイの身体を打ちつけそうになった。その途端にその身の周りに渦を巻いて突風が生じ、小石を全て弾き飛ばした。

「キャハハっ、力比べしようってのかな!面白そう!」

セイエイの右手に抱きつくようにして、少年の姿をした風の精霊が姿を表す。

「どっちが早く遠くまで行けるか競争するほうが面白いわよ」

答えるように左手に抱きつく少女の精霊も姿を表す。

色の違いを除けば、二人はそっくりだ。

「フィーユ、シェーナ」

セイエイの呼びかけに、瓜二つの顔が左右から向けられる。

「悪霊が出るまで遊んでおいで」

「「やった!セイ、大好き!!」」

左右から同じ言葉が発せられ、右手のフィーユと左手のシェーナが同時にセイエイの周りをくるりと回って飛び去った。

風は変わらず強く吹いていたが、セイエイの周囲だけはクルクルと二人の残した風がとりまいて、もう乱されることはなかった。

あるじ。我はどうすればいい?」

セイエイの背後に精悍な顔立ちをした黄金の髪と浅黒い肌をした青年が現れ、尋ねる。

「シュヴァル。今回はグウェンの炎が最適だろう」

セイエイがそう答えると、シュヴァルと呼ばれた雷の精霊は眉を寄せた。

「しかし、アレが力を振るうと主が・・・」

「問題ないよ」

シュヴァルの言葉を打ち消すように、セイエイは答え、日が沈むのを見送った。


日がすっかり落ちて、あたりは闇に包まれる。

やがて、夜気だけではない、ヒヤリとした空気があたりをおおいはじめ、ぼうっと白いものが生じ、声ならぬ声を奏で始めた。

「イヤな音!」

「気持ち悪い!」

戻ってきたフィーユとシェーナが手を取り合って文句を言う。

セイエイはその頭を左右の手で撫で、それぞれの肩に手を置く。

「人にも精霊にも害をなすモノたちだ。浄化の炎で燃やし尽くす。お前たちは、一体たりとも逃さぬよう、飛び火もせぬよう、周囲をしっかり取り囲んでおくれ」

「わかった!」「まかせて!」

シュヴァルが具現化を解いたが、何かあればすぐ守ると示すように、その気配が傍にあるのが感じられた。

悪霊が出尽くし、人の気を狂わせる音が周囲に満ちるのを待って、セイエイは左手を眼前に伸ばす。

「・・・燃やせ、グウェン。一片残らず浄化せよ」

セイエイの左手を戒めるように朱金の光が線を刻み、ついでその光が溢れると炎となり、ゴウと吹き出した。

その手の先に、炎のドレスをなびかせた女の姿が現れる。彼女が右手を振れば右手に炎の波が生じ、左をねめつければ左に炎が駆け抜け、人ならぬモノは、一つ残らず炎に灼かれ、断末魔の叫びをあげた。

炎のドレスの裾からのびる朱金のラインが、セイエイの左の指先から腕にかけてまとわりつき、炎が生じるたびにキラキラと光った。

浄化の炎が場を焼き尽くす。

それを無表情に見つめるセイエイの額に脂汗が浮かび、震える左腕を右手が支える。

「・・・もどれ、グウェン・・」

しばらくして、唸るように発せられた低い声は、炎を生み出す彼女には届かず、悲嘆の叫びのように炎が吐き出され続ける。

「もう、じゅうぶん、だ。・・・・鎮まれ!グウェンドリン」

もう一度、セイエイが断固として告げると、かき消すように女の姿が消えた。

その途端、セイエイは左腕を抱えるようにして膝をつき、呻いた。

あるじ!」

シュヴァルの姿が再び現れ、くずおれるセイエイの身を支える。

「「セイ!」」

フィーユとシェーナも目前に現れ、うつむくセイエイを覗き込むが、セイエイは苦悶の表情を浮かべて答えない。

その時、すぐ傍に青く波打つ髪の女性の姿が滲むように現れた。

「「シャル姉!」」

フィーユとシェーナは嬉しそうに声を上げて飛び上がる。

「・・水の」

シュヴァルもその姿を認めて呟く。

シャルナは、黙ってセイエイの左手にそのほっそりした手を添えた。

それから、風の2人にしばらく休みなさいと告げると、いつもは騒がしいフィーユとシェーナも素直にその姿を消した。

「・・・殲滅・・確認・・」

セイエイが喘ぎながら発した言葉に、シャルナも頷き、シュヴァルを見上げる。

「承知」

短い応えと共に、その姿がかき消える。間も無く、荒野の遠くでいくつか雷光が発し、すぐに目前にシュヴァルが現れ、膝を折る。

「殲滅を確認した」

荒い息をつきながらも、ねぎらうように口の端に笑みを浮かべてみせるセイエイを、シュヴァルが気遣わしげに見る。

「水の、任せてよいか」

「ええ、もちろんだわ」

シュヴァルは、自身が具現化するために、セイエイの生命力マナを消費していることを知っている。常ならば問題にならない程度だが、今のセイエイにとっては、負担になると判断する。

いつでも御前に、そう言葉を残して姿を消した。


長くなったので分けました。


ストーリー展開によってはマイナーチェンジの可能性があります。

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