善と邪
前のと比べて短いですが、だいたいこれくらいの文量で書いていこうと思っています。
ーーコツ、コツ、コツーーー
そこは、もう既に死んだ[王]の城だ。
もう[臣]も全て逃げ出し、虫さえもいない.....。
そう、数分前までは…。
今、城には[悪]を率いていた [彼]がいた。
「くっ、くくく、くははっはっはっははは」
[神]の解放という大きな罪を犯した[彼]は笑っていた。
[彼]は、壊れた...いや、もうずっと昔に壊れていたのだ。
[彼]も昔は、優しい[民]であった。
毎日を楽しく過ごし、幼い頃からずっと一緒だった少女といつも悪戯をして怒られていた。
そんな日々がずっと続くと思っていた…...。
「あハッは、ァぁあっはははあはっははははあっっはぁ」
[彼]は……泣いていた。
[彼]は、もうずっと1人だったのだ。
[彼]は、全てを奪われたのだ。
[彼]は、世界を[王]を[臣]を[民]を[悪]を......[神]を怨んでいた。
[彼]は、少女を....少女の仇を.......[神]を、そして世界を壊したかった。
「あァ、ティア.....僕も一緒に死ねたらどんなによかったか......」
少女の名は、ティア。
[彼]も少女を、ティアを愛していた。
しかし、もう.....ティアはいない。
ティアは、[彼]の住む世界から去ってしまった。
[彼]が殺したのだ。
[彼]は、ティアの元へと飛び立ちたかった。
しかし、同時にこの身体に宿ってしまった悪意の渦には抗えなかった。
[彼]は、自分の最も嫌う[神]をも取り込み、世界を壊す邪[神]へとなってしまった。
「あ"ァ…ァーーー!!!!!」
[彼]はもう人ではなくなったのだ。
その姿は紛れもない[神]であったのだ。
「グォオオォオォォォーーーー!!」
[彼]は、国を壊そうとする[神]よりも大きな[悪]を持った。
その体は、以前の[神]よりも大きく残虐な邪[神]であった。
しかし、[神]の中には[彼]の心があった。
体の主導権がなくとも心さえ残ってしまえば、
[彼]の心には人を殺したことでの罪の念が絡み付いてくる。
[彼]の心はもう限界だった。
しかし、そんな[神]の前に人影が現れた。
[彼]もう人の死を見たくはなかったがその手は、言うことを聞かない。
「ーーシュッーーーーズドンーー」
確かに首に当たったはずだったのだが
[神]の爪は空を切り、地面へと激突した。
[神]は驚き、前を向いた。
その目には少女の姿が映っていた。
[彼]は見てしまった。
[彼]は見てしまったのだ。
その少女を。
「てぃ、ティアぁッ!ーーーあぁあぁあァーー」
[神]の....[彼]の口からは、最愛の少女の名が飛び出した。
体の主導権を奪い返したせいか、頭をプレスされているような痛みに襲われる。
しかし、[彼]そんなことはもうどうでもよかった。
少女に、ティアに会えたのだ。
[彼]は、涙を流した。
「久しぶりね....」
ティアは涙を流し唇を噛んでいた。
「間に合わなかったのね…」
ティアは昔と見た目が全く変わっていないように思えたが
よく見ると、背には羽が生え、頭には輪っかがあった。
その姿は、とても輝かしく、まるで[神]のようだ。
「あなたも......[神]となったのね…......」
ティアは、[彼]が邪[神]となったのを知っているようだった。
そんなことよりも、彼女は、あなたも…と言ったのだ。
[彼]酷く動揺し震えた声を出した。
「ティ、ティアは....[神]となった、のか?」
ティアは、ゆっくりと頷いた。
「えぇ、私は、善[神]となったわ…」
その言葉を聞いて[彼]は、ティアが生きている事をやっと受け入れられた。
[彼]は、自分がティアを殺した事など忘れて歓喜し、
ティアと沢山の喋りたいと思った。
しかし、[彼]の心には憎悪が募っていく。
やけに善[神]というものに不快感を覚えてしまう。
「グォオオォオォォォーーーー!!!!!!!」
それどころか、また体を[神]に奪われた。
それを見てティアも中のモノと入れ替わってしまったようだ。
その手には長く美しい槍が握られていた。
「ラァァァァアァーーーー!」
[神]と[神]がぶつかり合った瞬間である。
「 ーーキンっ、ーーカチィーン、ーーシュッーーーー」
爪と槍、どちらも[神]の武器であり、その鋭さは他のものとは一線を画すものである。
2つの武器が重なる度に破壊の風が、城内を蹂躙した。
もうそこは、ただの戦場でしかなかった。
(あぁ....ティアと、こうしてまた出逢えたというのに...身体が....自由にう、ごかないッ!)
2柱の[神]の顔には、表情がなかった。
感情の無い2柱の[神]の戦闘はどんどんと激しさをましていく。
そして[彼]の意識は、だんだんと遠いものとなっていった。