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 ノックの音がして、悪魔登場です。後ろには兄様もいます。


「入るよ、アニー」


 私が開けに行くのも待てなかったようです。勝手に入ってきました。犬でも待てはできるのですよ、悪魔。


「レオ様、素敵な贈り物、こんなにもたくさんありがとうございます!!」


 そうでした。忘れていました。この贈り物の山を片づけなければ。


「気に入ったかい?」

「はい、もちろんです。レオ様が選んでくれたとセレナから聞いて、とっても、とってもうれしいです」


 お嬢様は飛びつかんばかりの勢いで喜びを伝えています。お嬢様と悪魔の間にテーブルがあってよかったです。お嬢様に抱きつかれたら、また悪魔が思考停止してしまいますからね。


「気に入ったものがあったなら、よかった。今日のドレスにはこの髪飾りが似合うと思うよ」

「私もそう思います」


 エメラルドとアメジストの髪飾りですね。お嬢様のドレスも悪魔のプレゼントなのですから、合うに決まっていますよね。ちなみに淡いピンク色のプリンセスラインで、デコルテが美しいレースで覆われている露出の少ない上品なドレスです。


「テーブルを片づけてくれないか、セレナ」

「はい」

 

 言われなくてもわかっておりますよ。


「そろそろ、マーサがお茶を運んでくるから、飲みながら話をしようね。飲まず食わずで疲れただろう、アニー。侍女は婚約者とゆっくりお茶をしていたというのに」


 はあ? 今の今まで、悪魔のフォローをしていた私に嫌味ですか? 本当にいい性格をしていらっしゃること。

 私は憮然として大量の贈り物を運ぶことに集中しました。憤りをお嬢様に気づかれないように。私だって人の子です。お嬢様に自分の心の醜い部分を知られたくはありませんからね。




 私が衣装室から戻ると、テーブルにはケーキスタンドとティーセット、それから悪魔の前にはコーヒーが用意されていました。悪魔はコーヒー党です。


「セレナさんもミルクティーでいいかしら?」


 マーサさんが訊いてくれます。お嬢様のご希望がミルクティーだったようです。

 兄様もテーブルについているので、私もご一緒してよいということなのでしょう。こういうことはよくあります。悪魔は私たち兄妹を使用人ではなく、幼なじみ枠で扱ってくれることが多いのです。


「セレナはさっきまで紅茶を飲んでいたのだから、今度はコーヒーにしたらどうだい?」


 私がコーヒー嫌いなのを知っての嫌がらせです。嫌味がしつこいです。


「いえ、お気遣いありがとうございます。ですが私はミルクティーの気分なので。マーサさん、ミルクティーをお願いできますか?」

「ええ、もちろん」

「セレナもレジナルドのとなりへ座ってくれ」


 兄様のとなりに腰を下ろして気づきます。といいますか、今初めて気がついたことがあります。悪魔が私たちをよく同席させるのは、私たちを幼なじみとして扱っているとか、子爵家の人間として接しているからとか、そういうことではなく、ただたんにお嬢様のとなりに座りたいからなのではないのかしらと。今もふれ合わんばかりの近さで並んで座っていますし。ヘタレな悪魔は二人きりでお茶するときは、必ず正面の席ですから。


「マーサも今日は座ってほしい」


 マーサさんは私のとなりに座りました。


「アニー、しっかり食べながら聞いていてね」


 悪魔はお嬢様の好物のイチゴタルトを取ってあげています。時間があればあーんとかしたいのでしょうが、時間がないので話し始めてくださいね。


「まずここの警備のことだが、寮の前に二人、エントランスに一人、二階の入り口に二人、護衛騎士が常駐する。アニーの暮らす三階には護衛騎士は立たないが、二階の護衛騎士が三階も守っているので心配はいらない」


 本音はお嬢様の生活空間にできるだけ、ほかの男性を入れたくない、でしょうね。


「夜間は学園全体、さらに各寮全体には結界が張られる。それは夜十時から朝六時まで、魔法具で時間設定された結界なので、基本的に十時までに寮に入っておかないとならないし、六時までは寮から出られないから気をつけてほしい。それから学園は、その性質上、不特定多数の人間が出入りすることになる。だから結界を張る段階で不審者が内部にいる可能性は排除できない。しかしギルバートの部屋とアニーの部屋には、寝る前に私が室内を確認してから結界を張るので大丈夫だ。またアニーにはまだあまり関係ないが、夜会などで遅くなるときは学園外で泊まってくることになる」


 いやいや、就寝前のお嬢様の部屋に入る気満々とか、まったく大丈夫じゃないでしょう。


「そういうことだから、不本意ながら」


 何で悪魔は私を見てため息を吐いたのでしょうか。吐きたいのはこちらなのですが。


「アニーの寝室とセレナの私室は続き扉でつながっている」


 そういうため息ですか。うらやましいのでしょうね。


「まあ、私とセレナ、まるで夫婦になるみたいね」


 お嬢様、となりを見てください。悪魔がめちゃくちゃ苦虫噛みつぶしていますよ。


「ではレオポルド様は殿下と続き扉の部屋に?」


 違うのはわかっていますよ。ただもっと苦々しい顔にしたかっただけです。


「まあ、そうですの?」


 お嬢様、将来詐欺に遭いそうで心配になります。


「そんなはずないだろう。ギルバートの続き部屋には、侍従と当番の騎士が詰める。ラルフとかな」


 いや、それ仕事ですし、全然うらやましくないですし、悔しくもないですよ。


「私の部屋は二階の一番手前、そのとなりがレジナルド、マーサの部屋は一階のエントランスカウンターの奥だ。ここまではいいかい?」


 いちいちお嬢様に微笑まなくていいですよ。ちゃっちゃとお話しください。


「三階には基本的にここにいる私たちと、ハウスメイドしか入ることができない。ハウスメイドの作業はアニーのいない間、そして作業中はマーサかセレナに監視してもらう。二人ともいないときはレジナルドが、レジナルドもだめなときはハウスメイドの仕事は休みになる。やりすぎだと思うかもしれないが、遠隔の攻撃魔法を発動する魔法道具や、毒の類などが持ちこまれる可能性がある以上、徹底してほしい」

「はい。かしこまりました」


 マーサさん、いいお返事ですね。私はとりあえず頷いておきますけど、盗聴器仕掛けている犯人に言われてもですよ。


「そういう環境なので、マーサとセレナには悪いけど、入浴や食事の準備、茶の手配などをすべて頼むことになる。二人で協力して仕事にあたってほしい」

「はい」

「はい」

「ではここからが本番だが、ここにいる五人は密に連絡を取り合う必要がある。それで新しい通信具を作った」


 悪魔が目配せすると、兄様がケーキスタンドをサイドテーブルへ移動して、テーブルの真ん中に五つのイヤーカフを出しました。華奢な金の土台に、宝石があしらわれている素敵なデザインです。宝石は五種類で、どれも美しい輝きのものばかりです。


「このイヤーカフが通信具なのですか?」


 お嬢様が不思議そうに手を伸ばされます。そうですよね、お嬢様が今まで通信具として渡されていたのはテディベア型でしたから、まずサイズ差に驚かれますよね。でもこれが普通なのですよ。基本的に通信具はピアスやネックレスなど、身につけるもので作りますから。お嬢様の通信具がテディベアだったのは、完全に悪魔の趣味だったのですよ。お嬢様がテディベアを抱えて自分に話しかける姿を想像すると萌えるとか言っていましたから。


「そうだよ。アニーの入学に間に合わせるために急いだから、まだ不完全ではあるのだが、使いながら、どんどん改良していくからね」

「はい。だからクマさんはお家でお留守番っておっしゃったんですね?」

「…………そう、だね」


 どんな顔してお家でお留守番とか言ったのでしょうね。兄様、肩が震えています。笑わないでくださいね。つられて笑う自信がありますから。


「私たちはもう魔力を流し終わってるから、あとはアニーとセレナが魔力を通してくれるかい?」


 通信具は通信する人間の魔力を事前に流しておく必要があるのです。

 お嬢様が先に、私が続いて魔力を流します。痛くも痒くもありませんし、時間もかかりません。これだけで遠く離れた相手と会話できるようになるなんて、本当に不思議です。


「では各自、好きなものを取って。どれも性能は同じだから、どれでもいいよ」


 そう言われて、私たちがアメジストとエメラルドを選べるとでも? さっさと、エメラルドを確保して、アメジストをお嬢様に渡してくださいよ、悪魔。


 誰も動きません。そうでしょう。みんな遠慮しますよ。特にマーサさんが手を伸ばせるはずがありません。お嬢様は悪魔に選んでもらいたいのですよね、でも悪魔はお嬢様の意志で手を伸ばしてほしがっているのですよ。

 はあ。結局、私の出番なのですね。


「お嬢様はネックレスとの相性もありますし、アメジストがよろしいのでは?」

「そうね、セレナ」


 お嬢様、そんなにアメジストがお好きですか? 悪魔のことが好きだからアメジストが好きとか、私はまだ認めたくはないのですよ。


「それと同じ理由で、レオポルド様はエメラルドがよろしいのでは? ピアスがエメラルドですし」

「まあ、うん、そうだな」


 はあ? 何ですか、その反応。お嬢様に選んでほしいとか、図々しいのですよ。

 あとはアクアマリンとアンバーとブラックトルマリンですね。あきらかにエメラルドだけ高価だということにお嬢様は気づかれてはいないのでしょうね。


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