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カリーナ様のお身体を拭き終えましたので、次はお着替えです。
カイン様が用意されていたネイビーのドレスは、白い襟飾りの下に、白いパールが覗く愛らしいデザインで、お嬢様にとても似合いそうです。
「地味じゃない?」
では下着姿で馬車に揺られてみますか?
「上品なデザインでございます。お美しいカリーナ様でしたら、きっとお似合いになられます」
お嬢様の次にですけれど。
「そう」
少し胸周りが窮屈そうではありますが、サイズに大きな問題はないようです。
「アクセサリーはないの?」
「……申し訳ございません。では鏡台へ移動お願いいたします」
カリーナ様はお疲れなのでしょう。少し目の周りが黒ずんでいらっしゃるので、髪を結っている間に、目元にあたたかいタオルをあてておいていただきます。残念ながら化粧品は最低限のものしか用意されていませんので、少しでも血行をよくして、化粧のりがよくなるといいなと思います。
「どうして殿下はお部屋にいなかったのかしら?」
「わかりかねます」
刺客を捕まえるためとは言えません。
お答えしながら、生活魔法で髪の乱れを直します。すると、ゆるやかなウエーブのかかった、つやめくブロンドが現れます。
「お美しい髪でございますね」
「当たり前よ。毎日お手入れしているもの」
美は一日にしてならず、でございますね。
「殿下がね、部屋で待ってるって聞いていたのに」
妄想癖でもおありなのでしょうか。タオルで表情がうかがえないのが残念です。
「ねえ、ところであなた、私が昨日、舞踏会でひどい目に遭ったのを知ってる?」
「……はい」
この目で見ておりました。
「そう。きっともう、みんな知ってるわよね」
「それはわかりかねます」
残念ですが、噂は足が早いものです。捕まえることは不可能でしょう。
「殿下も見ていたらしくてね」
「セドリック殿下がですか?」
「そう」
見ていなかったと聞きましたが、記憶違いでしょうか。昨日は色々ありましたので、記憶に自信がありません。
「それでね、責任を取って私を妃にしてくれるって言ったの」
「殿下がですか?」
「そうよ。それでここまで来たんじゃない。殿下の近衛騎士が案内してくれたのよ」
「…………」
悪魔のネズミ捕りには副作用でもあるのでしょうか。それとも昨日の舞踏会でのことがショックで妄想が暴走していらっしゃるのでしょうか。真顔で語られているカリーナ様が怖いです。
考えているうちに髪が結い終わりました。カリーナ様の少しやわらかな髪質は纏めやすかったです。
髪飾りの用意がなかったので、私がつけていたリボンを髪の毛と一緒に編みこんで飾りにして、耳の下で少しきつめに結わえただけですが、素敵にできました。
そのでき上がりに満足しているところに通信が入ります。
「お飲み物のご用意をしてまいりますので」
カリーナ様の前で出るのは憚られますので、そう断って部屋を出ます。
「ミルクとオレンジジュースとアイスティーをお願い」
ドアを閉める瞬間に聞こえたリクエストは聞こえなかったことにしてもよろしいでしょうか。
「セレナ、遅い」
「申し訳ありません」
通信具を揺らしたのは悪魔でした。
カイン様は気を遣ってくださったのでしょうか、応接室のほうへ移動されました。
「セドリックと打ち合わせしてから出直せ」
悪魔はそれだけ言って、私の返事も待たずに通信を切りました。そんなに急いで切らなければならないなんて、悪魔と人間は時間の流れも違うのでしょうか。
悪魔への不満を呑みこんで、殿下のいらっしゃる応接室へ行きます。
「失礼します」
「さすがセレナだな」
なぜ殿下に褒めていただいているのでしょうか。
「聞いていたんだよ」
「はあ」
一応カリーナ様は犯罪者ですから、監視されていると思ってはいましたが、盗聴されていたのですね。
「カインがいくら訊いても話さなかったのに、セレナには自分から話してきたね」
それにしても何のお話でしょうか。
「手引きした人間のことだよ」
「手引き?」
「そう。ここまで私の近衛が案内したと、さっきアルビン嬢が言っていたろう?」
「はあ」
そのことでしたか、私は妄想話かと思って聞いておりましたが、まさか。
「刺客を捕らえるために警備をゆるめたとはいえ、貴族令嬢が単独で忍びこむことは容易ではない。アルビン嬢に接触した騎士は、十中八九、刺客の内通者か刺客本人だろう」
そうですよね、よくよく考えてみれば、昨夜、学園の敷地内は騎士たちであふれていたはずです。誰にも見つからずに寮内へ侵入するなど、カリーナ様お一人でできたとはとても思えません。
「さっき、アルビン嬢ご所望の品を注文したから、届き次第戻り、手引きした人間のことをできるだけ詳しく訊き出してほしい」
「はい、かしこまりました」
そう言っているうちにドリンク類が届きました。
「となりまではお持ちしましょう」
カイン様はジェントルマンです。ドリンクを運んでくださいます。
「ありがとうございます」
寝室に続くドアの前でドリンクの乗ったトレイを受け取ります。
「ところでカリーナ様のような方がタイプなのですか?」
つい出来心で訊いてしまいました。
「……違います」
「そうですか、では」
一礼してドアを押します。私の質問を受けて、カイン様が一瞬思いきり目を見開かれたことに、私は気づかなかったことにさせていただきます。




