僕はヒーローなんかじゃない6
010
「久間倉君!?」
床に崩れ落ちる久間倉君を見た瞬間、私は我を忘れて彼のもとに駆け寄った。
「久間倉君返事をして! 久間倉君!」
抱き上げた久間倉君は辛うじて息をしているものの、完全に意識を失っていた。
私が何度ヒステリックを起こして暴力を振るおうとも傷一つつかなかった彼の体には多くの傷跡がついていて、そこから大量の血が流れていた。
「えーっと、お前はどこかで見たことがあるな? 確か……ああそうか。お前、あの『失敗作』か」
木原は私のことなどまるで覚えていなかったのかそんなことを言った。
「ええ。久しぶりね、木原那由他。おかげさまで結構悲惨な人生を歩んでいるわ」
「はは、そりゃあよかった」
私の精一杯の悪態も木原に軽く流されてしまう。
「つーか、お前まだあの組織にいたんだな。俺が言うのもなんだが、あの組織ほどくそったれな集団もいねぇだろうに」
「見解の相違ね。私はそれなりに居心地がいい場所だと思うわ」
強がりだった。
あの組織をただの一度も居心地がいいなんて思ったこともなかったけれど、それでも木原の見解に賛同することはとても気分が悪かった。
「そうか。まあ、とりあえず死ね」
木原がそう言った次の瞬間、私と木原の間に人影が現れる。
「木原、抵抗をやめて大人しく退け!」
「……醍孔先生」
そこに現れたのは醍孔先生だった。
いつも学校で見る白衣の姿とは異なり、金属でできている鎧のような衣装をまとっている。
「おおう、醍孔美妃か。これはどえらいのが来たもんだな」
木原は心底楽しそうにつぶやく。
「残念ながらここに来るのは私だけじゃない。お前を追った『超人集団』の超人たちがじきにここにやってくる。私とその超人たち全員をお前一人で相手にできるのか?」
はったりだ。
醍孔先生が言っていることが嘘であることは私にもわかった――あの組織はこんな小さな街の問題くらいで超人をかき集めたりはしない。
きっと超人集団が行ったという木原の襲撃計画も超人ではない適当な戦闘員をかき集めたものなのではないかと思う。
木原が言うことを支持するわけではないけれど、それでもあの組織が信用するには値しない組織であることは私もよく分かっていた。
しかし、私と同じくそんなことは分かっているはずの木原は、
「分かったよ。今は一旦退こう。できればそこの宇宙人の腕の一つでも持ち帰って解剖したかったけれど、それはまた今度にしよう――あの組織が応援をよこすとかいうほら話も信じてやろうじゃねぇか」
と言うと、背中を向けてゆっくりと去っていった。
「もしその宇宙人が目を覚ましたら伝えといてくれ。今までご苦労様ってな」
そう言って木原は飛び立っていった。
あとに残された私は意識のない久間倉君の体をただただ抱きしめることしかできなかった。