表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

宇宙人との邂逅1

1章の途中までにになります。最初なので少し長めにアップしました。

001


 通学途中に見ず知らずの美少女からいきなりストーカー宣言された経験のある人はいるだろうか――残念ながら、僕は経験したことがある。


 そしてそれが僕こと久間倉健人クマクラケントと彼女――村雨類ムラサメルイとの最初の出会いだった。


 それまでたった十六年しか人生を経験していなかった僕にとって、人とそのような形で出会うことなんてことは想像していなかったし、何より迷惑この上なかった。


 しかしそんな出会いすらも後に彼女のことをある程度知ってから振り返ってみると、おそろしいことに、そんな狂気性を帯びた彼女との出会いすらもなかなかどうして彼女らしいと思わなくもないのだ。


「結局のところ、どこまでいっても私はあなたの劣化版でしかないのよ。だから私はあなたが心の底から羨ましいわ。本当、ひと思いに殺してしまいたくなるくらいにね」


 部室で電子書籍を読んでいる僕の横で、僕の持ち込んだ週刊誌をびりびりに破りながらそんな物騒なことを言ったかと思えば、その数分後には同じ口で僕に対して『愛している』と連呼してくるのだから全くもって女心というのは分からない。(少なくとも彼女の思考回路についてはいまだに僕も完全には理解しているとは言い難い)


 誰よりもヒーローに憧れているくせに弱々しく、誰よりも正義に従順であるにもかかわらず狂気に走ってしまう少女――それこそが僕の知る村雨類という人間である。


 ファーストインプレッションは最悪で、それから今に至ってもなお彼女のそんな印象の悪さは払拭されるどころかより増していくばかりなのだけれど――それでも唯一あの当時と異なるところがあるとすれば、僕のもとに派遣されたのが彼女であってくれたことを僕は心の底から感謝しているというところだろう。


 僕の物語が劇的な変化を遂げたのは紛れもなく高校一年生の春休みで、その件について彼女は全く関与していないわけなのだけれど――それでも僕の物語が『動き出した』のは間違いなく彼女と出会ったあの高校二年生の四月なのだから。


 だから僕は彼女にとても感謝しているし、それと同時にぼくもまた彼女に負けず劣らず、こんな風に僕を巻き込んでくれた彼女のことを恨んでいる――それこそ殺したくなるくらいに。




002


「はじめまして久間倉健人君。あなたを勧誘に来ました。また大変恐縮ですが、しばらくの間あなたの行動を逐一監視させていただきますのでそのつもりで」


 開口一番彼女は初対面である僕に対してそんな言葉を口にした。


 時刻は朝の八時過ぎ。空には雲一つない青空が広がっていて、舞い散る桜の花びらが非常に美しく感じる――そんな麗らかな春の日の朝に僕は突然不審者に声をかけられた。


 その不審者は僕と同じくらいの年齢で黒髪のロングヘア―が似合うとても綺麗な女の子だった。


彼女は僕と同じ制服を着ていたが、僕は彼女を学校で見かけたこともなかったし、もちろん面識などなかった。


「安心してください。私は比較的健全なストーカーです。あなたの日常生活に害をなすようなことはしません。ほんの少しあなたの日常生活を覗き見るだけです。――ただほんの少し、できればほんの少しだけあなたが毎朝何を食べたのか報告してくれたり、あなたの家がゴミ捨て場に捨てたゴミ袋の中身をあさったりすることを許可していただければそれだけで私としては十分ですので」


 ……おそらくは僕に信用してもらうため、できるだけ状況や目的を丁寧に話そうとしているのだろうが、不思議なことに目の前の不審者が状況を説明すれば説明するほど益々目の前の彼女に対する不信感が募っていくばかりだった。


 そして、そんな不審者に対して僕がとった行動は――彼女と一切目を合わせることなく全力で走り出すという非常に単純なものだった。


 要するに、僕は怖くなってその場から逃げだしたのである。


「久間倉君! ねぇ聞いているの? 何で逃げるの? ねぇ何ででなの? 答えてよ、ねぇ何で? ねぇ何で? ねぇ何で? ねぇ何で? ねぇ何で? ねぇ何で? ねぇ何で? ねぇ何で? ねぇ何で? ねぇ何で? ねぇ何で? ねぇ何で? ねぇ何で? ねぇ何で?」


「うわぁー!?」


 呪文のように狂気の言葉を呟きながら僕の後を追いかけてくる彼女に背を向けて僕は全力で走って逃げる。


 先月からとある事件をきっかけに僕は普通の男子高校生をはるかに上回る身体能力を持っており、そのため、普通の女子高生がどんなに必死で追いかけてきたところで僕に追いつけるわけはない――はずだった。


「――!?」


 しかし驚くべきことに彼女は僕に追いつけないまでも、引き放されない速度で僕の後を追随していた。


「何で引き離せないんだよ!?」


 このままでは引き離すことは難しいと感じた僕は咄嗟に目の前の曲がり角を曲がった瞬間にすぐ横の路地裏に繋がる細い道に入って身を隠した。


 すぐ後に獲物を狙うハイエナのような目をした彼女(雌豹ではなくハイエナであるところがポイントだ)がものすごい速度で通り過ぎていった。


「……本当に何なんだよ」


 路地裏でそう呟く僕に無情にも母校のチャイムの音が聞こえる――本日僕の遅刻が確定した瞬間だった。


「……はぁ」


 ため息を吐く僕の心境とは裏腹に空は憎たらしいまでの青空が広がっていた。




003


「はじめまして。本日よりこのクラスに転校してきました――村雨類と申します。この街に来たのは昨日が初めてなので色々教えてくれると嬉しいです。皆さんよろしくお願いします」


 通学途中に出会った見知らぬ美少女が実は転校生で自分のクラスに転校してくるという展開は漫画や小説なんかではテンプレめいた、あるいは王道ともいえる流れではあるのだけれど、しかし、その美少女というのが自分をストーキングしてくる不審者であるという展開はあまり見かけないのではないだろうか。


 今朝僕を全力疾走で追いかけてきた不審者――村雨類は僕に逃げ切られた後、何食わぬ顔で僕のクラスに転校性としてやってきた。


(いやいや、確かに同じ制服を着ているわりには見かけたことないなって思ったけどさ……)


 クラスの男子たちはクラスに美少女が転校してきたとあって大はしゃぎしている。


 自己紹介をそつなくこなした後、指定された席に座る彼女はなかなかどうして堂に入っていた。それはつい今朝僕を追い回していた不審者と同一人物なのかと疑ってしまうほどに。


 その後、彼女が僕にいつ話しかけてくるのか、あるいは何を仕掛けてくるのか不安で仕方がなかったのだけれど、信じがたいことに彼女はその後僕には一切話しかけることはおろか、目を合わせることすらしてこなかった。


 そうやって普通に過ごしている分には彼女はとても優等生で、転校生というもの珍しさも相まって、授業がすべて終わり下校時間になる頃には、彼女はクラスの人気者という地位を確立していた。


 僕はその様子をなんともおぞましいものを見るような目でみていた――けれども、そうなってしまった以上、普段から決して友達の多いわけではない、いわばクラスの日陰者の僕にとっては彼女と特に接点を持つこともない。


 その結果、僕は何事もなく無事に下校時間を迎えることができたのだった。




004


「あらあら本当に奇遇ね、久間倉君。私が『偶然』あなたが所属している壁新聞部の部室に不法侵入して、あなたの置いてある荷物を物色しているところに――これまた『偶然』久間倉君が部室にやってくるなんて。これってもう運命なんじゃない?」


 僕が唯一この学校で心休まる場所である部室でいつものように放課後読書をしようと部室に入ってみると、そこには僕の持ち込んだ本や資料を物色する村雨類の姿があった。


 ……怖いよ、もはやホラーじゃねぇか!?


「それにしても久間倉君っていい小説の趣味をしているのね。私も『俺ガイル』は好きよ。アニメ化されて以降、なんだか急に人気になってしまったけれど、当時は『はがない』のパクリ設定だとか結構批判も多かったのにね。


 ちなみに私は『俺ガイル』という呼称ではなく、初期の略称を決定するアンケートで敗れた『はまち』という呼び方の方が好きだったのだけれど」


「村雨さん、『はまち』についての話は、僕としてももっと聞きたいところなのだけれど、でももしよければその前に何で村雨さんが僕しか部員がおらず、廃部寸前のこの壁新聞部の部室にいるのか聞いてもいいかな?」


「あらやだ、久間倉君も『俺ガイル』ではなくて『はまち』派はなのね!! 嬉しい。これってもう運命なんじゃないかしら」


「そんな何でもすぐ運命にされてたまるか」


 思春期の男子なら誰でも一度は夢見る『運命の出会いを』簡単にでっち上げないでほしい。


「あら? そうとも限らないわよ? これだけ『俺ガイル』という略称が浸透して、もはや原作初期の頃からのファンの間でも定着している中で、それと異なる略称を使う男女が偶然出会うなんて、それこそパンをくわえて登校していたら曲がり角でトラックに衝突してしまうくらいの運命を感じない?」


「それだと始まるのはラブコメじゃなくて異世界転生ものになってしまうけどな――いい加減そろそろ何で僕を付け回すのか教えてもらっていいかな?」


「あら? おかしなことを聞いてくるのね? 学校ではストーキング行為はしていないはずだし、むしろ私のことを見ていたのは久間倉君の方ではなかったかしら?」


(……僕が見ていたのはバレていたのか)


「本当もう、やめてよね。いくら私でもあんな熱い視線を送られてしまうと濡れ……もとい発情してしまうかと思ったわ」


「言い直せてないぞ」


「でも私のことをずっと見ていたことは否定しないのね」


「――うっ!?」


 一瞬、僕は言葉に詰まる。


 するとそんな僕の姿に満足したのか、村雨は少し笑うと突然真面目な口調で話し始めた。


「別に付け回しに来たわけじゃないわ。もちろん久間倉君をストーキングしてお近づきになることも私にとっては重要なことだけれど、本来の目的は久間倉君を私たちの組織に勧誘することなの」


 咄嗟に『いやいやいややいや、ストーカー女の所属する組織なんて狂気じみたものの仲間になんてなるわけがないだろ』と言い返しそうになったのだけれど、次に彼女が口にした一言で僕は何も言えなくなってしまった。


「私は『超人集団』のメンバーです。今回久間倉君の監視役として派遣されました」


 そんな村雨の一言――きっとここに来る前から僕に言うために準備してきたのであろうそんな定型文を聞いた後、僕は部室のドアがきちんと閉まっていることを確認して、空いているイスに座ってゆっくり彼女に向き直った。


「……まあ村雨さんも座りなよ。あと、コーヒー入れるけど……、飲む?」


「ありがとう。できればいつも久間倉君が使っているコップに入れてくれると嬉しいわ」


 そう言って村雨はさっきまで僕が座っていたイスの隣のイスに腰かけたが、僕はコーヒーを入れるために一度立ち上がって、ケトルに二人分の水を入れた。


「それじゃあ悪いけれど、お互い知り合って間もないから、自己紹介から始めていこうか」


 僕はそう言いながら、村雨が座ったイスの机を挟んだ正面のイスに腰をかけた。


「僕の名前は久間倉健人。先月から宇宙人やってます。どうぞよろしく」


「私は村雨類。七年前から改造人間をやっているわ。こちらこそ末永くよろしく」


 たったそれだけの短い自己紹介で僕たちはお互いがこれまでどんなに非現実的な日常や逃げ出したくなるような修羅場に出会ってきたのか概ね分かってしまった。


 やっぱり自己紹介はきちんとしておくものだ、なんてことを慣れない他人とのコミュニケーションをとりながら僕はぼんやりと考えていた。

次話はすぐにアップします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ