褐色の歌姫2
003
『ぜひその任務は私たちにお任せください!!』
と、醍孔先生に即答した村雨はそれから数日とてもご機嫌だった。(ちなみに手入れたペアチケットはメ〇カリで売り飛ばしていた)
僕たちに与えられた任務はこの街を訪れるディアナをコンサート中も含めて五日間護衛するというものだった。
ディアナがコンサートを行うのはゴールデンウイークの最終日で、それまでの間僕たちは彼女に付きっきりで護衛を行う。
護衛一日目。
僕たちはこの街にある、田舎にしてはやたら設備が整った音楽スタジオにきていた。
「まだかしら? もうそろそろ来る頃かしら?」
僕の隣で待つ村雨はそわそわしながら今回護衛する人物を待っていた。
すると、突然猛スピードで黒塗りの車が突っ込んできたかと思うと、その車は僕たちのすぐ目の前で急停車し、
――バタン!!
と、次の瞬間にはその後部座席のドアが乱暴に開かれて、中からサングラスをかけた褐色肌の女性が車から降りてきた。
「相変わらずこの街は静かで何にもないわね」
そう言って車から降りてきたのは僕たちが今回護衛する人物である――ディアナだった。
「あら? 見慣れない顔がいるわね?」
ディアナは少し背伸びをして周りを見渡すと、僕たちの方を見て不思議そうな顔をした。
「え、えっと……む、無理。私恥ずかしくて顔を見れない」
僕の隣にいる村雨はもはや感動のあまりキャラがぶれて、まるで好きなアイドルに会った女子高生のような反応をしている。
スゲーな。こいつにもこんな一面があるのな。
「はじめまして。僕たちは『超人集団』から派遣され、今回あなたの護衛を務めさせていただきます。僕は久間倉健人といいます。あと、隣にいるのは村雨類です。短い間ですがよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
村雨は僕の影に隠れながら消え入りそうな声で言った。
「ふーん。そっか、あなたたちが今回の護衛を担当してくれるのね」
そう言うと、突然ディアナは僕に近づいてきたかと思うと、僕の顔をじっと覗き込んで、
「あなた、なんだかつまらない顔をしているわね」
と、言うとそれ以降興味をなくしたのか隣にいる村雨に話しかけた。
「そっちのお嬢ちゃんはすごく綺麗ね。どう? 私これでも両方行ける口なの。よかったら今夜私のホテルで一緒に夜景でも見ない?」
「残念ですが、それはお断りします。私の愛は重いので、それを受け止めきれる人としか私は寝ない主義ですので」
突然ディアナに口説かれた村雨はそのときだけはいつもの凛とした態度に戻ってきっぱりと断る。
「あら残念。でも隣の坊やにあなたのその愛が受け止めきれるかしら?」
「無理でしょうね。だから彼が受け止めてくれるまで私はいつまででも待ちます」
意地悪な顔でにやけるディアナに村雨は答える。そして僕は恥ずかしいので二人と顔を合わせないように目をそらしていた。
「ははは、あなたたち面白いわね。いいわ、こちらこそ短い間だけどよろしく」
そう言ってディアナは持っていた手荷物を乱暴に僕に放り投げると、そのままスタジオの中に入っていった。
004
醍孔美妃は『超人集団』の支部にきていた。
いつも住んでいる街から車でおおよそ一時間半ほど走った市街地のビルの一室にそこはあった。
「やっぱり相手組織の超人化がどんどん進んでいるな」
醍孔は大きなモニターを眺めて調査結果を見ながらつぶやく。
「前回久間倉が戦った時点で敵の『作り出す』モンスターは言語能力に加え、複数の能力を持っていた。しかもこの能力は……」
『醍孔さん、お久しぶりです』
突然モニターの画面が変わって眼鏡をかけた三つ編みの女性の顔に画面が変わった。
「宗像、突然画面を切り替えるな。私は今調べ物をしているんだ」
モニターに映った女性の名前は宗像奏多――彼女は『超人集団』のバックヤードを担当する構成員である。
『いいじゃないですか。醍孔さんが支部を訪れることなんてほとんどないですし』
「うるさい、失せろ。お前に構っている時間はない」
醍孔は宗像を冷たくあしらうと手元のパソコンに先ほど調べたデータをコピーしていく。
『はいはい、分かりました。でも、醍孔さんも気を付けてくださいね。おそらく相手組織の手口やモンスターの傾向を見るとおそらく首謀者は……』
「ああ、おそらく『あの男』だろうな」
そう言って醍孔はパソコンの画面を見た。
データの取り込み完了まであと数秒だったが、醍孔にはその時間がとてつもなく長く感じられた。