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褐色の歌姫1

今回から新しい章に変わります。

001


 イヤホンをつけて歩く人たちをよく見かける。


 休日の街中で暇を持て余している人、下校中の高校生、通勤途中のサラリーマンなど彼らの時間や状況は異なっているし、何を隠そうこうやって話している僕自身もつい最近までそうやって歩いているうちの一人だった。


 しかし、それは大変もったいないことだと言わざるを得ない――自分のことを完全に棚に上げてでも僕は断固主張する。

 イヤホンをつけて自分の好きな音楽だけを聴き続けることもきっとそれはそれでその人の人生を豊かにしてくれるのだろうけれど、それでも僕は言わざるを得ない。


 イヤホンを外して歩いていると、様々な音が耳に入ってくる。


 それは小鳥の鳴き声であったり、雨の音であったり、風が凪ぐ音であるかもしれない。もちろん時には不快な音を耳にすることもあるだろう――それでも僕は偶然出会う音をもっと大切にしてほしいと思う。


 これから語る物語も大したものではない。


 偶然普段聞かないジャンルの音楽を聴いた僕がその曲を歌ったアーティストのファンになるという――たったそれだけの本当にありふれた物語だ。




002


「久間倉君、今度の週末に私とデートに行きましょう」


 僕がいつものように放課後の部室で読書をしていると、突然村雨からそんな提案をされた。


「それは別にいいけど、お前何でいつも当たり前みたいにここにいるの?」


『よく考えたらお前部員でも何でもねぇじゃん』と言外に僕は村雨に尋ねる。


「――? そんなの久間倉君がいつも放課後はここにいるからに決まっているじゃない?」


 村雨はさも当然といった感じで答える。


「ねぇ久間倉君? そんなことより週末のデートについてだけれど『ディアナ』のコンサートのチケットが手に入ったから一緒に行きましょうよ」


「――へ? ディアナのコンサート?」


 僕は音楽には疎い方だけれど、それでも名前は聞いたことがある。


 ――『ディアナ』。

 そのルックスと類まれな歌唱力で今や絶大な人気を誇る世界的に有名なアーティストだ。南米人の母と日本人の父の間に生まれたハーフで年齢は二十七歳――そして驚くべきことに彼女の出身地は僕たちが住んでいるこの街なのだ。


「ディアナが数年に一度この街のアリーナで凱旋コンサートをやっているのは知っているでしょう? そのペアチケットが手に入ったの」


 村雨にしては珍しくテンションが上がっているようでなんだか僕は彼女の意外な一面を見たような気がした。


「ねぇ久間倉君、一緒に行きましょうよ」


 村雨は普段のクールな態度からは考えられないほど目を輝かせて僕に言う。


 正直、コンサートに興味はないけれど、ここで断ってまたヒステリックを起こされてもかなわない。(もっとも、前回の発作ででこの部屋にあるほぼすべての備品は破棄してしまったわけだけれど)


「いいよ、行こう。ぜひ一緒させてくれ」


 僕は適当に答える。


「本当!? それじゃあ――」


「――悪いが、その予定はキャンセルしてくれ」


 村雨の言葉を遮って突然割って入ってきた声を追って入り口の方を向くと、面倒くさそうな顔をした醍孔先生が頭を掻きながら部室のドアの横に立っていた。


「……先生、キャンセルとはどういうことですか?」


 村雨は醍孔先生を睨みながらとげのある声で尋ねる。


「珍しく組織から指令が入ったんだ。面倒くさかったから代わりにお前たちを推薦しておいた」


 醍孔先生は近くのイスに座ると、大きく息を吐いて足を組む。


「……先生、後生ですから代わっていただけませんか?」


 村雨は自分の中で葛藤があるのか複雑な顔をしながら醍孔先生に懇願する。


「別に私は変わってやってもいいが、お前たちは後悔するんじゃないか? 特に村雨、お前はな」


「――? どういうことですか?」


 ニヤニヤした顔でそう言った醍孔先生の言うことは何だか要領を得ない。


「醍孔先生、組織から依頼された任務ってどんなものなんですか?」


 僕が醍孔先生に問いかけると、先生はやはりニヤニヤと笑いながら、


「今回お前たちに依頼された任務は、この街でコンサートを行う世界的アーティスト――ディアナの護衛任務だ」


 と、僕たちの方を向いてそう告げたのだった。

できれば明日続きをアップしたいです...(笑)

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