終末のロボット(4)
「世界は思っているよりも、必然で溢れているのかもね」
お昼をすぎた後、公園のブランコであそんでいると、近所のおばさん達のひそひそ話が聞こえる。
「あそこの佐藤さんのとこ、犬飼い始めたそうよ」
「通りで、犬の声が聞こえるわけだ」
「大型犬かしらねぇ」
「あら? 噂をすれば、佐藤さんだわ。こんにちは」
…つまらないな。もっとワクワクすることないかなぁ。そう、たとえば、「ウチュウジンが来てさらわれた!」みたいな。
「あ、ねむい…」
ブランコに乗っていたハズなのに、急にねむくなった。そして、真っ白な夢のなかに…
「…あ、あのっ、風邪引くよ」
まだねむい。
「んー、あと、五分」
「え、っちょと、大丈夫?」
「学校の時間まだだか…ら…」
だれかが、わたしをユサユサゆらす。まだねむいって言ってるのに。わたしは、ばっとおき上がる。
「うるさいなーもう!」
どこを見ても、本。びっくりするくらいの本の山。赤、青、黄色、茶色にみどり…。あれは、まきもの? よく見ると、いろいろある。すっごくカラフルだ。
「ここ、どこ?」
はじめて見るかみが長い女の人に、カゼをひいた時のようにおでこに手を当てられた。少しあたたかくてホッとする。
「良かった。副作用はないみたい」
「あなたは、ダレ?」
目の前の女の人は見た目の通りやさしそうにわらって答えてくれた。
「私は結。ここの歴史博物館の管理者をしているの」
「ここ、歴史博物館?」
「そう。あと、最近は研究もしているの」
結に貴女の名前は? と聞かれ名まえを言っていないことに気がつく。
「わたしは坂之上夏音。小学二年生!」
「ショウガク…ああ。まだ、学校という制度があった時代なんだね。…学校、か」
…もしかして結は、学校を知らない?
「どういうこと?」
「夏音さん。ここは、未来なんです」
「わたし、ウチュウジンにさらわれた!?」
「え、違う違う! どちらかと言うと、タイムスリップ。いえ、正しくは、タイムトラベルです」
「それ、いっしょだよ」
「今の世界では、使い分けられているの」
「へぇー。そうなんだ」
「ねぇ、結はさみしくないの?」
「どうしてそう思ったの?」
「この歴史博物館、ダレもいないよ。人の声がまったく聞こえないの。車の音も、ひこうきの音も」
わたしがそう言うと、結は驚いた顔をした。
「…人間は、もういないの。絶滅してしまった。もう、随分と昔の事だけどね」
「結は、人じゃないの?」
「私は、ロボットだよ。最後の人間が造った、最後のロボットなの」
結は、どこかさみしそうに見えた。だから、こういう時は…。
「え、何!?」
「ぎゅー」
ぎゅーが一番だ。わたしは結にだきついて、アイジョウをいっぱい注入する。そうすると、あらフシギ。
「あったかい…」
「でしょ?」
結は、はじめてぎゅーっとされたらしい。未来にはアイジョウが足りないな。アイジョウが。
「でも、結もあったかいね。ロボットってウソ?」
「人間そっくりに造られているからね。痛いものは痛いし、食べようと思えば食べれるし。証拠に何かを見せてあげることは出来ないの」
ごめんね。と、結は謝った。
「未来ってすごいね!」
「うん。過去の人間は凄い!」
「そういえば、なにかケンキュウしてるって言ってたよね。なにをケンキュウしてるの?」
「タイムトラベルマシーンの改良だよ」
「なにそれ? 見たい見たい!」
タイムトラベルマシーンだなんて、面白そう!
「いいよ」
と言って結が見せてくれたものは、茶色いジミな表紙の本だった。ちがう。よーく見ると、本のカタチをしたハコだ。
「…これが、タイムトラベルマシーン?」
「そうだよ」
「フシギなカタチだね」
「使ってない時は、表紙の色が濃い緑なんだよ」
「おもしろいね。結スゴーイ!」
わたしがホメルと、結はかおをまっ赤にした。
「まさか、誰かに褒めてもらえるとは思っていなかったから…」
…やっぱり、未来にはアイジョウが足りないな。
「でも、どうして結は、わたしを未来によんだの? ほかにも、人はたくさんいるのに」
「このタイムトラベルマシーンは、未来に呼んでもいい人を選ぶように出来ているの。昔で言う、空港の入国審査みたいな」
「へぇー」
「でも、入国審査も完璧ではないから、相応しくない人も時たまに呼んでしまうの」
結はかなしそうにそう言う。
「ふさわしくない人?」
「未来に来て、パニックを起こしてしまう人」
「そうなんだ」
「でもね、夏音さんを呼んだのは、偶然ではない気がするの」
結は立ち上り、わたしのかおをじっと見た。
「世界は思っているよりも、必然で溢れているのかもね」
そう笑った結のかおは、まるでイタズラっ子のようだ。ロボットということが、しんじられない。
「ああ。もう時間だ…」
「じかん?」
結は「そう」と言って、すこしかなしそうなかおをする。
「夏音さん。最後にひとつお願いしてもいい?」
「いいよ。できるかぎりガンバる!」
「本を書いてほしいの」
結は、たくさんの本をゆびさした。
「……」
…わたしは、なんて答えたのだろうか。
「さようなら。夏音さん」
「さようなら。結」
ああ、まただ。ねむいや…。
おきたら、ブランコの上にすわっていた。夕やけ空で、
「五時半!?」
みんなが、しんぱいしちゃう!
「…あ、そうだ。しーちゃんに話してみようかな」
しーちゃんは、わたしのシンセキのお姉ちゃんだ。しかも、テレビとかザッシに出ているゲイノウジン。すごい美人で、やさしい。
そんなしーちゃんも、結に未来へよばれたことがある。と、知ったのは三十分後。まだ知らない未来の話。
「…懐かしい夢」
どうやらわたしは、うたた寝をしていたようだ。
「んー、ガンバるか」
そう言って、研究資料に目を通す。わたしは今、タイムトラベルマシーンの研究等ををしている。
「おい、ドラAもんが入ったぞ」
「調合は終わってますから、そこの引き出しから持っていって下さい」
『ドラAもん』とは。『ドラッグのA級品、注文』の略で、つまり違法ドラッグ。
タイムトラベルマシーンなんて、非科学的な研究が、表社会で受け入れられる筈がなかった。それはとても悲しい現実。わたしは恐ろしい程、約束に執着している…。
「…何処で、道を間違えたのだろうか」
世界が必然で溢れているのなら、誰かわたしを捕まえて。もう、自力では止まれなくなってしまった。
わたしは後に、警察に逮捕され服役を終え真っ当な道を歩んだ。そんなわたしにも、旦那が出来て娘が産まれる。
「…わたしなんかが、この子を抱いても良いのかしら」
娘の小さな手を見て、戸惑った。
「夏音、夏音!」
男勝りな娘が…いや、この子は男の子…。自分の子どもが、満面の笑みで駆け寄ってくる。
「あのね、夏音のね、本みつけたよ!」
「え?」
わたしはまだ、本を書いていない。
「違う人じゃないの?」
「夏音だよ! だって、ちゃんと写真が夏音だったもん!」
どうにも腑に落ちない。
「これは夏音だって結も言ってたもん」
世界は思っているよりも、必然で溢れているのかもね
「結ー!」
まだ、誰も知らない未来の話_
今日の空です。
お付き合いして下さり、ありがとうございます!
「噂をすれば〇〇さん!」
一説には、人間の第六感が働いて無意識の内に
人の気配を察知しているとのこと。
…つまり、偶然ではなく必然!
終末ロボットシリーズ史上
主人公サイドが始めて犯罪者になりました。
人生何があるか分かりませんね。
『報告』
そろそろ、終末ロボットシリーズの
エンディングが決まりかけてきました。
続くか終わるかは、
作者のモチベーションによります。
(読者様のお声にもよります)
精進します。