001-3
第二話 こんな生徒会は嫌だ
「やられたっ!」
「姫様……」
生徒会室に戻り、乱暴に座り込む生徒会長、姫宮 龍華。屋上は既にもぬけの殻、下手人は逃亡中である。昼休みを丸々。そして、不審者対策のために緊急的に生徒会権限を使い、役員を公欠扱いで繰り出し、捜索が行われた。そして、五時間目が終わり、一時的に生徒は授業へ出席、警備員は学園の玄関である大正門を厳重警備にしつつ、捜索範囲を大学まで伸ばしていた。
そんな中、対策を練る為に生徒会ツートップと風紀委員長は生徒会室へ訪れた。約一名、余計なものまでついてきたが。
「しかし、姫。幾ら、変態といえど学園の警備を抜くのは難しいのではないか?」
「……えぇ、そうね」
入れたての紅茶で喉を潤し、呟く。
「二宮さん、わたくしにも紅茶を」
「……なんで、あなたがいるのかしら? 金剛院さん」
「ふふふん、よくぞ聞いてくれましたわ! 姫宮 龍華! あなたが取り逃した変態を捕まえれば、わたくしこそがこの学園の頂点! つまり、あなたのミスをわたくしが拭って差し上げれば、わたくしこそが支配者にこそ相応しいと証明できるのですわッ!」
「……あら、そう」
げんなりとした様子で龍華は返事をする。相手にするだけ無駄であると悟り、お茶を出してさっさとお帰りを願おう、と。そこへ。
ガンガンガンガンガンガンガンガン!
物凄い音が部屋の中に鳴り響く。
「な、なんですの、一体!?」
「な、何奴!?」
金剛院 華子と風塵 雷子はびくりと肩を震わせる。すわっ、幽霊か! と想像力豊かな二人。そして、龍華は何かを思いついたのか、ポンと手をあわせて。
「あら、大変。二ノ宮」
「はっ!」
生徒会室客室の鍵を開ける。そして、倒れこむように一人の少女が。華子と雷子はすわっ、死体か! と怯えたが生きている。一応。
そこには昼休みを丸々、生徒会室に連行された挙句、出すことも許されなかった一人の少女が居た。そして、少女はお腹をきゅるきゅると鳴らし、泣きべそをかいていた。
「う、うぇっ、ひぐっ、ぐすっ」
自由ヶ丘 アヒル。生徒会室客室で二時間近くを孤独に過ごす。最初はただ、数を数えていた、しかし百を超えたあたりから苦痛になり、次に素数を数えはじめた。これもまた三桁を超えたあたりから面倒になりはじめ、最後に何か暇を潰せるものがないかと考えはじめた。そして、その辺りでお腹がなり始め、いつになったら終わるのかなと呟き始めた。
生徒会室に余計なものはない。睡蓮という学園において最も清貧という言葉が似合う場所だ。下手に物がなさ過ぎて、何もできない。携帯など、睡蓮ではゴミである。故にアヒルは携帯電話を所持していない。せめて、時間くらい確認させろよな、と思ったが時計も見当たらない。
時間もわからない一室でお腹を空かせながら唯、ひたすらに待つ。放送が止まったかと思えば誰もこない。孤独に震えた。会いたくて、会いたくて震えるとはこの事か、と理解した。この時点で軽く泣きが入る。
今までの人生を振り返りながら何が悪かったのかネガティブな思考がぐるぐると渦巻いて死にそうな時、隣の部屋に入室の声。
生徒会長の声である。
なるほど、これが恋か! と一瞬、思ってしまったアヒルは悪くない。むしろ、人恋しさで軽いレズビアンに目覚めても不思議ではなかった。しかし、現実は非常。誰も、こっちへ来ない。むしろ、確認すらしない。
そこで、アヒルは思う。
(あれ、私の存在感……なさすぎ……?)
あんまりな扱いである。不当である。幾らお嬢様学校に憧れて、一生懸命頑張った野良女子とはいえ、こんな扱いまっぴらだ! こんなお嬢様学校に居られるか! 私は一人で寝る! と憤慨した。
まるでヴェートヴェンの運命が扉を叩く音を再現するかのように。激しく扉を鳴らし、扉は開かれるにいたった。
結論。自由ヶ丘 アヒルは不遇である。
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パクパクパクパクパク。
生徒会室のお茶菓子が見る見るうちに消化されていく。清貧? なにそれ、とばかりに用意されたのは高級和菓子。アヒルは食べる、まるで鬱憤を晴らすかのように。
「ご、ごめんなさいね、自由が丘 アヒルさん」
「きっ!」
まるで邪魔をするな、とばかりに生徒会長を一睨み、あまりの眼光と罪悪感に姫宮 龍華もたじろいでしまう。呼び出されただけで震えていた自由ヶ丘 あひるは犠牲になったのだ……あまりにも図太い。
しかしながら、アヒルはこの時、思うまい。冷静になったとき、今の出来事を振り返った時に、恐怖のあまりに震えることになるとは。あれ、めちゃ失礼じゃない? 学園生活……無事に送れるわけ? あ、あわわわわ、あわーっ! と壊れていたバイブ機能(あひる本体)が復旧することになろうとは。
そして、それはそう遠くない未来のお話である。
【五分後】
「あ、あわわわ、先ほどはも、申し訳ありませんでした。唯の一介の雌豚風情であるこの私ごときが生徒会長を睨みつけるなど……」
「い、いいのよ」
余りの変貌っぷりに龍華は苦笑いをするしかない。流石に昼食も飲み物すらとらせずに忘れていたなどいえないし、罪悪感もある。睨まれてもしょうがないという部分は自分自身で理解していたのだ。
しかしながら、対するアヒルは小物も小物。睡蓮学園で小物ランキング上位に名を連ねる程度には小物な人間である。自分の犯した罪に対して、恐怖という感情を思い出し、すぐさまゲザった。素晴らしいまでの掌クルーに賞賛すら零れる。
実際に生徒会室に鎮座するドリルが「見事な土下座ですわ! 私の下僕達にも見習わせたいものですわ!」などと抜かしていた。ちなみに全員がドリルをスルー。小物女子は余りにも恐れ多い人物に視線を合わせることなど出来ない。
「姫、それでは私も授業に出てくる」
「えぇ。雷子、また力を借りるとは思うけれども、よろしくね」
「あぁ、勿論だ」
竹刀少女、鬼の風紀委員は「ではな」と部屋を後にする。それに続いたのがいつまで居座るのか不安だった巻き髪ドリルこと、金剛院 華子である。
「わたくしもこの辺で失礼しますわ」
「あなたはきちんと授業に出なさい」
「……本日はお茶会の予定がありますの。変態のことを調べておきますわ、使いならサロンへ」
「……感謝はしないわ」
「結構ですわ。これは学園に売られた喧嘩ですわ。即ち、このわたくしっ! 金剛院 華に売られた喧嘩も同義! 必ずや、わたくしの手で制裁を加えてあげましょうとも。おほほほ、おーっほっほっほ、おぉぉーほっほっほっほっほ!」
片手を口元に添えて、高らかに笑い去っていった。アヒルにとって大きな爆弾は去った。再度、お茶菓子に手を伸ばす。相変わらずの肝の太さである。
「自由ヶ丘 あひるさん。あなたにも悪いことをしたわ、ごめんなさいね」
「い、いえー、け、けど、まだ捕まってないんですねー」
あひる、まさかの失態。リーディング・エアーに失敗ッ……
「あら、それは遠回りに生徒会を無能って言っているのかしら」
ニッコリと実にいい笑顔で微笑む龍華。再度、アヒルのバイブ機能がオンとなる。口は災いの基、それがはっきりわかんだね。
「い、いえいえ、お、お話から推測する辺り、き、昨日の変態が現れたんですよね!? だったら、半裸で逃亡しているとはいえ、目撃情報のもと、もう捕まってても……って、あわわ、ち、違う、ひ、批判じゃありませんよぅ!?」
何気なく漏れた本音に龍華は自分の思い違いに至る。そんな様子に気づかず、アヒルは必死に泣きべそをかきながら弁明を続ける。自己弁護を続けるアヒル。思考に耽る龍華。そんな中、一人、秘書のように龍華の背後で控えている祥子は思った。
自由ヶ丘様には泣き顔がよく似合う、と。
ともあれ、アヒルの一言により龍華は再度、ありえない点を考え直す。
(そ、そうよ……常識で考えれば『ありえない』ことが起きている。何故、屋上に昇った変態が未だに発見されていないのかしらっ!? 普通、半裸という変態がいたのならば――当然、気づくはず。それが校舎内ならば当然。にも関わらず、五階の特別クラス周辺からは目撃情報が全くない……即ち、変態は屋上から、どこへ行ったわけ!?)
龍華の脳裏には完全な密室が出来上がっていた。屋上にはロープが一本。そして、屋上の出入り口は一つ。そして、出入り口を利用すれば、必ずしも校舎を通らなければならない。ならば、目撃情報があるはず。
しかしながら、現実には未だに校舎内での変態の目撃情報は無い。
まさか、六階から飛び降りたのか!? そんな馬鹿な、校舎の屋上から飛び降りて無事で済む場所――あるのかしら!?
「しょ、祥子! 屋上の見取り図を用意なさいっ!」
「はっ、只今!」
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龍華と祥子は屋上の見取り図と高等部の地図を見ながら、論議を続ける。自由ヶ丘 あひるは空気と化した。空気を愛し、自然を愛する。私は背景なのだ、モブキャラなのだ。お嬢様学校に通っているが取巻きAでも、なければ名無しの登場人物ですらない。台本にすら描かれない端役なのだ、と自分にひたすら暗示をかけていた。
「自由ヶ丘 あひるさん」
「は、ひゃわっ!? な、なななな、なんでしょうか! わたくしめごときに!?」
「……あなたの意見も聞きたいわ」
「わ、わたわた、私目ごときの意見ですか!?」
あまりの挙動不審っぷり、恐れっぷりに。このまま「あひるは悪い子! あひるは悪い子」と生徒会室にある花瓶か壁で自分の頭を打ち続けそうまである。
しかし、あひるの自己評価よりも龍華は遙かにあひるという存在をかっていた。
自分とは異なる視点を持つ少女。そして、その視点に一度、助けられた。ならばこそ、自分たちとは何か、違う考えが思い浮かぶのではないだろうか。
「えぇ、是非、あなたの意見も聞きたいの」
「では、不詳、私めが説明させていただきます。予想される逃亡ルートはおよそ三つ。一つは屋上からの飛び降り、三階の屋根に飛び移りそのまま移動するルート。もう一つは屋上から飛び降り、プールに飛び込むルート。最後に屋上から飛び降り」
「どんだけ、飛び降りるんだよ、変質者!? 屋上ってアレですよね!? この建物六階建てですよね!? 大怪我しますよっ!?」
あひるの驚愕は至極、最もである。しかし、これ以外に考えようがないのだから仕方ないではないか、と若干むくれる姫宮さんじゅうはっさい。
「校舎内を通らないという前提がある以上、屋上を使う必要性があるわ。半裸マントが見たなんて情報は一つもないもの。それとも、あなたには違う考えがあるのかしら、自由ヶ丘 あひるさん」
「……ふぁっ!? な、なんか、怒ってます!? 姫宮さま、怒ってらっしゃります!?」
「お、怒っていません。た、ただ、あなたが一生懸命、考えたのに違うっていうから……」
怒っているし、拗ねている姫宮さんじゅうはっさい。お姉さまにしたいと慕う女子生徒には見せられない姿である。
「え、えぇ……?」
あひるは若干、ひきながら思う。なんで、この人たち、当たり前のことに気づかないのだろうと。
「半裸マントを見かけたら、気づくでしょう!? でも、半裸マントなんていないのっ! いないんだもんっ! 誰も見てないもんっ! だったら、飛び降りるしかないでしょ!? そうでしょ!」
「……ソーデスネー」
若干、遠い目をしながらアヒルは答えた。隣で龍華を見つめる祥子の息が荒い、なにこれ怖いとも思った。
「え、でも……屋上で着替えたんじゃないんですか?」
「「なるほど!」」
あかん、この人達……あひるは切実にそう思った。あひるの言葉を受けて、再度、行動を開始し始める二人。睡蓮学園内専用の携帯デバイスを取り出し、連絡を取り始める。あひるはその様子を眺めて、もう帰っていいかなー? 駄目かなー、駄目なんだろうなーと現実逃避にくれるのであった。
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「いない!? そんな筈はない! もう一度、きちんと洗いなさい!」
デバイスに怒鳴るように告げるのは生徒会長室の主、姫宮 龍華である。今、報告を受けた内容は現在の建物、睡蓮学園高等部の中には着替えは愚か、フルフェイスマスクを持ち込んだり、持ち運びが出来るようなバッグを抱えた人間は存在しないという報告であった。
「……飛び降りた、いえ、それよりも着替えたという方があまりにも自然。学校のどこかに隠したのかしら。いえ、外部の業者が出入りできるスペースは制限されている筈。それに本日、外部からの業者で学園に足を踏み入れた男性の数は二人。二人が二人共、厳重な持物検査を受けている筈。ならば、どうやって? 以前から用意していた? 計画的犯行?」
龍華がブツブツと呟く。あひるは用意されたオレンジジュースをストローで飲みながら思う。おれんじじゅーす、おいしいですー、と。最早、目のハイライトは仕事を放棄していた。完全なるレイプ目である。
「姫様」
「……実に腹立たしいわ、エロのカリスマとやらは。どれだけ、綿密に計画を立てていたのか。いえ、外部の職員にここまで自由を許されるとなれば、学園の危機管理の問題でもありますね」
カリカリと爪を噛みながら、呟く龍華。あひるはそんな龍華の逆鱗に触れることがないよう、肩を縮こまらせて、ジュースを飲んでいた。
「……といれ」
そして、ぼそりと呟くあひる。
「トイレじゃなかった、お花をつみにいきたいです……」
「……二ノ宮」
「はっ!」
女子同士でトイレに行くことは多々とある。けれども、これ、違う。仲良しグループのいつも一緒って雰囲気のアレじゃない。これ、連行とか監視とか呼ばれるアレでしょ? えっ、なんで……と自分の置かれた境遇に泣きそうになるアヒルである。
そして、何事もなくお小水を終えたあひる。但し、トイレの扉から出て、祥子の顔を見た時、若干、頬を赤らめて、その上、息が荒かった為に軽い恐怖を感じたが。それでも無事にトイレから脱出して、再び生徒会室へ。
さりげなく教室に戻ったら駄目かなー、もう帰っていいんじゃないかなー? とまるで独り言のように呟いてみたが、二ノ宮 祥子はこれを拒否。自由ヶ丘 あひるは帰ることを断念せざるを得なかった。
六時間目が終わり、帰りのホームルームが始まるまでの休憩時間。生徒会ナンバー2と歩く姿はお嬢様学園では噂となり、雑多な雰囲気に紛れ込む。いつもなら、その他大勢という枠でその雑多な雰囲気の中に居る筈であったアヒル。しかし、残念ながら今はその雑多な雰囲気は遠く。幸せな日々は有限であることを実感していた。もっと、日常を大事にしていればよかったんだ……まるでどこぞのヒロインのように打ちひしがれていた。
「戻りました、姫様」
「もどりました……」
疲労困憊。何故、トイレ一つでここまで精神的に負荷がかかるのか。世界ってふっしぎーとばかりに現実逃避。現実から逃げすぎて、むしろ夢の中である。なるほど、夢か。そう思い、ガッガッと自分の右拳で頬を殴り始めた。
「自由ヶ丘様!?」
「自由ヶ丘 あひるさん!?」
流石の奇行に目を剥く二人。もう、解放してやれよ……
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「……サロンの方も似たような情報ね。大正門の人物の出入りは?」
「同じく厳重な荷物検査を行っていますが、誰一人として怪しい人物はいません」
「……」
あひるはとうとう、机に突っ伏した。もう帰してよ……放課後のチャイム鳴ったし、もう皆、帰りはじめたじゃん。時間を潰すものが何もないこんな状況でどうしろって言うの。弱音が喉まで出掛かるがぐっと堪える。ここで逆らえば身の破滅。あひるにとって、生徒会やモノホンのお嬢様とはやくざと同義。
「……まさか、本当にこの学園に侵入したというの? 有り得ない、有り得ない出来事、あの大正門をどうやって抜けるというの!?」
日本だけではなく、世界トップクラスに侵入が難しい睡蓮学園。そんな場所へ、忍び込んだというのだ。
「あのぅ……」
「……自由ヶ丘 あひるさん。今、忙しいから後にしてちょうだい」
ぞんざいな扱いである。流石に泣きたくなった。あひるは思う。いつか痛い目にあえばいいと。しかし、自分では行動を絶対に起こさない。他力本願。他人の不幸を神頼み。実に小物である。
「男子は……?」
ボソリと呟いたのはあひる。そう、さっきから常々、思っていたのである。何で、うちの学園の男子が初めから除外されているわけ? 中等部は? 流石に初等部はないだろうけど。アリバイでもあるわけ? どう考えても話から察するに外部よりも内部の愉快犯のような気がするのですが。そーですか、私の意見、がん無視ですか。はいはい、わろすわろす、とやさぐれた瞬間。
「い、今、あひるさん、なんて言ったのかしら?」
「え? い、いや、うちって今年から共学になったじゃないですか。だから、男子も容疑者なのかなーって。いや、あはは、と、当然調べてますよねぇ……えっ、嘘」
二人の驚きにとまどった顔に固まるあひる。
「祥子! 今すぐに男子の昼休みの行動を裏どりなさい! 中等部にも連絡ッ!」
「はい、畏まりましたッ!」
そして、五分後。祥子の携帯デバイスが鳴り、幾つか会話をした後、閉じる。そして、会長でる龍華を見つめ、意を決し、口を開く。
「該当者一名、存在しました」
「誰?」
「伏見家の人間です」
「伏見……まさか、伏見 聖とでも言うの!? まさか、有り得ないわ、彼が……彼はあの伏見家の御令息よ!?」
「……ですが、本日三時間目から伏見 聖は教室に姿を見せていません。同様に保健室へ向かった筈の彼は保健室でもその姿を確認されていません。そして、戻ってきたのは昼休みを終えて。つまり、屋上で着替える時間もあれば、動き回る時間も自由にありました」
「……祥子、連行なさい」
「……サロンはどうするおつもりで?」
「向こうが変態を庇うというのなら、この私、姫宮 龍華も容赦しないわ。全面戦争も辞さない」
「ふふっ、大事ですね」
その決意の頼もしさから微笑が零れる祥子。その微笑に対し、龍華も血が騒ぐと口角を吊り上げる。そんな中、あひるは、というと。
(た、大変なことになった。どげんかせんといかん! どげんかせんとーっ! あわーっ、戦争ってなに? やくざこわい、やくざこわい!)
震えが五割増し。内臓されたバイブは絶好調である。
「自由ヶ丘 あひるさん。助かったわ。あなたのおかげでどうやら、問題は解決しそうよ」
「そ、そそそそ、そうですかー」
えっ、これって私、生徒会側の人間になるわけ? お嬢様グループに拉致されてサロンのあるガーデンの桜の木の下で大変なことになっちゃう系? 桜の木に血液をちゅーちゅーされちゃう系? うわぎゃわー!?
「あ、あのぅ……」
「大丈夫よ、自由ヶ丘 あひるさん。何があろうとも外部生は生徒会が守ります。あなたには手出しはさせないわ」
(あかん、こりゃ、濡れる)
一瞬、呆けてぶるぶると頭を振る。何を思った、今、わたしーっ!? 混乱の最中、容疑者を呼びにいっていた二ノ宮 祥子が戻ってきたようだ。
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後に、エロのカリスマはこう零す。
『扉を開けた時、彼女が居たことは不思議であり、納得があった、と』
『私の好敵手であるということはこの日の前日、四月の十七日に予感がしていた』
『自由ヶ丘 アヒル。私は生涯、この名前を忘れることはないでしょう』
『彼女こそ、私ことエロのカリスマの最大の壁である』
『そして、その直感は間違っていなかった。彼女こそが私の最大の好敵手であった』
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