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昔、書いてた奴のまとめ  作者: 無職童貞
異世界クラス転移もの
18/39

002-9



 例えば、そう先週の晩飯の記憶だ。僕は一週間前の晩飯の記憶を探ってみても、酷く曖昧なことが多い。今、探ってみても思い出せない。いや、探ってみたら、そういえば二日寝込んでいた日だった、覚えていないのも当然だ。


 けれども、話はそんなに明るいものじゃない。ならば、クラスメイトを覚えているかどうかだ。何も数年前、記憶が懐古と化すような古ぼけた記憶なんかじゃなく、極々、当たり前に昨日まで一緒に授業を受けていた生徒を忘れるものなのだろうか。


 結論。忘れる。いや、忘れてしまった。思い出せない、思い出も無い。名前しか覚えていない。忘れるべきではない当然のことを、僕は忘れてしまっているのだ。大切と思いながらも忘れていく。


 僕はいつだって、間違ってきた。きっと、昨日も間違ったのだろう。僕はいつも間違っていた、きっと一昨日もそうだったのだろう。たくさん、間違いを積み重ねた結果、今の僕があり、今の僕として生きている。


 これは前向きな結論ではない。どこまでも後ろ暗く、恥ずべき結論だ。今の僕が生きているということは生き恥を晒し続けているということだ。クラスメイトを助けられず、あろうことか、記憶から失って。それでいて、今の僕があるのだ。


 そんな恥ずべき人間だ。そんな恥を送り続けている人間だ。恥の多い人生を送ってきたなんてものじゃない、恥の多い人生を送り続けているのだ。現在進行形で今も、尚。


『田中 由』『三浦 数子』


 二人消えたことに気づかずに、気にもせずに起きた朝。僕は何をすればいいのか、何を思えばいいのか、何を悲しめばいいのか、何を間違ったのか。それすらもわからない。


 恥の多い人生を送ってきました。

そして、また恥を上塗りします。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 淡々と告げる。意識と身体が別居したかのように。何、不思議なことじゃない。いつもの通りだ。いつものようだ。だって、僕は頭で色々とごちゃごちゃと考えたとしても、結局は普段通りに振舞える。それは美点ではない、汚点だ。どこまでも汚い、どこまでも嫌悪すべき悪い点でしかない。欠点も欠点、短所も短所。いわば、僕は人でなしでしかないというわけだ。


 不安を見せるな、動揺するな、心配を掛けるな。誰も周りを気遣っているわけじゃない、心配を掛けて他人の世話になどなりたくもない。求めていないのだから、求めちゃいけないのだから。だから、心配を掛けない、心配なんてさせない。


 あくまでいつも通りに振舞う。手に入れたカードキー。残りの扉の数。この後、酒場で食事を取って、班の振り分け、探索。昨日の新しい化け物について。魔法について。それぞれの魔法の特性について。特殊な魔法について。


 和気藹々とほのぼのといつも通りに、いつも通り。知らないところで、覚えていないところでどれだけ残酷な出来事があったのかも悟らせないで、僕はただいつも通りに振舞う。あぁ、問題はない。こんなこと、殆ど毎日やってきたことじゃないか。どれだけ、辛くても、どれだけ、死にたくなったとしても。僕は何でもないように生活をしてきた。


 それと今、何が違うのか。他人の命を預かっていても尚、恥知らずに僕はそう問いかける。自分の命だけではないことを知りながら。それでも僕はひとでなしよろしく、普段どおりに振舞った。


「それじゃあ、僕は法理の部屋に伝言を書いて挟んでから行くよ」


 僕は全員が出発する直前に一応、法理に部屋の外に出ないように伝えておこうと決めた。恐らく、一人で行動することないだろうが、それでも万が一という場合がある。これ以上、勝手に消えていなくなってしまうなんて想像するだけで吐き気がする。


 部屋に紙を挟んだ後、全員で宿を出て、僕は歩きながら考える。誰が教会を利用したのか。いや、それ自体は別に僕が文句をつけるわけではない。けれども、僕は自分がメモ帳に乱雑に書きなぐった現状、教会を使えば『生徒に関する記憶』が失われることと『死んだクラスメイトがゾンビ』であることを書きなぐっている。


 その書き込みを見るたびに、それは僕の妄執ではないのだろうか、そんなことを考える。本当は三十三名しか居なくて、残りの五名は僕が作り出した妄想なのではないだろうか。そう考えた方がよっぽど辻褄があう。


 あの時、教会に居た理由もゾンビを開放する為、と書きなぐっているが、果たして本当にそうだったのか。聖水とやらを探していたことは覚えている。けれども、クラスメイトを救う方法を探していた、確かにそうだったのだろうか?


 わからない。けれども、もし。もしも、だ。もし、新たに二人の女性型のゾンビが出たのならば僕は疑えない。このメモ帳の存在を二度と疑うことが出来ない。妄執でない、確実にある現実として捉えなければならない。それがどれだけ怖いことなのか。


 クラスメイトが死んだというのに、危機感もなくのうのうと生きている。これがどれだけ怖いことなのか。実感しなければいけないだろう、認めなければならないだろう。


 気持ちを改め、警戒心を引き上げる。そして、今、僕がまずやるべきことは、帰る方法を探すことよりも、教会を利用した人間を探し出すことだ。何故なら、秘密を知ってしまえば、きっと、罪悪感を感じるだろう。今まで、倒してきたゾンビがクラスメイトだった可能性を知れば、きっと耐えられないだろう。僕なんかと違って、人であるクラスメイトなら。


 僕が知っている中で教会に入ったのは二人。紫香楽 アリアと僕だけだ。この二人の違いがあるとすれば教会がどんな場所かを知っていることかいないかだろう。クラスメイトの記憶を消すこと。それが魂の救済。誰を救っているのかはわからないが、人の死体から動く肉塊に変える為の場所。


 ならばこそ、そんな事実を知っている人間に口止めをするべきだ。混乱を招く情報を開示するべきではない。利己的だ、自分の為だ。自分がどれだけおぞましい事をしているのか隠すような行動。恥ずべき人間だ。恥ずかしい人間だ。


「……ソラ? 食事が全然、進んでないわよ?」


 考えているうちにいつの間にか班が決まり、食事をとっていた。この酒場の最大の特徴は何故かオーブンからサラダがでてくる点である。食堂の券売機のように選択して、蓋のついた窯が自動で開き、冷温一体の食事が出てくるのだ。恐怖でしかない。


 まぁ、そんなことはさておき。どれだけ考えていたのか。思考に溺れながらも、身体は動く。まるで生きていることが当たり前の作業のように。生きていることの方がオマケのように、僕は身体を動かす。そういえば家庭科で「ながら」作業という言葉を習った気がしないでもない、そうなると、僕は思考をしながら、ついでに生きているのだ。


「……ん、相変わらず不味いなって思って」

「そうよねー、もっと美味しいものを食べたいわ、ザリガニとか」


 仙道が呟いた台詞に僕は驚愕する。何、お前、どんな食生活送ってきたの?


「えっ、えっ? ど、どうして皆、あたしの事をそんな目で見るのよ……」


 今日、同じ班である那賀島、小堂、花畑、矢口、そして僕が、仙道 美代子を見つめてしまう。憐憫、悲哀。様々な感情だ。


「だ、だって、ザリガニ、皆、食べるじゃない!」

『えっ』


 全員が絶句していた。そして、僕は考える。仙道が何かを間違っていると。人生という大きな問題点で間違うことなら、僕は負けないつもりだが(笑えない冗談)、知識とか一般常識という点で仙道 美代子の発言はとても信用にならない。


 海老と間違っているのか……いや、待て、そうじゃない。落ち着け。確かにザリガニは食えるかもしれないが、そこそこいいとこのお嬢様である仙道がザリガニを日常的に食べているわけがない。家政婦が見たら失神ものである。


 仙道の家はそこそこの規模の家庭である。父は建築士として有名で、母は下着ブランドで大成している。そんな両親は実の娘を目に入れても痛くないほどまで可愛がった。結果、ここまでの馬鹿娘が出来てしまったのだ。そして、そんな仙道の食生活は極めて、いいものを食ってきたことだろう。いや、勝手な見方かもしれないが、あの両親が少なくとも、そこいらのザリガニを食べさせるなんて蛮行を許すわけがない。


 ならば、そう、ならばだ。仙道が言うザリガニは何だろうか。高級食品、いい食事、ザリガニ。海老ではない、有名なザリガニ。


「……ロブスターか!」

「推測できる空洞殿の方が変でござる……」

「あ、そうそう。それよ、それ。あたしはいつもザリガニと呼んでいるのよ」


 どこのレストランで「ザリガニください」という女が居るのだろうか。いや、居る。ここに座っている馬鹿は間違いなく注文する。


「姉御殿、流石にロブスターをザリガニ呼ばわりできる胆力は拙者らにはござらんよ」

「胆力の問題じゃねぇよ……」

「それにしてもミヨ姉さんの食生活は凄ぇな」

「んー? 別に普通よ」


 いや、普通じゃない。言おう、僕は一度、こいつに無理矢理、食事につれていかれそうになった時、回らない寿司屋につれていかれそうになった。僕はその時、財布の中は二千円しかないというにも関わらずだ。一生懸命、首を振って、結局は牛丼屋で我慢してもらった。こうにまで、生活ランクが違うと色々とずれてくるのは仕方ない。


「……まぁ、ミヨ姉の金銭感覚は異常だしねー」


 思うところがあるのか花畑も突っ込んでくる。とはいえ、六道の学校に通う人間は結構数は平均収入を大きく上回る両親を持っていることが多い。何を隠そう那賀島とかも医者を両親に持っていたりする。デートで必ず、男が奢るという蛮行をやっているらしい。それ、当たり前になったら男の方が困るんだけど。


「……」


 ふと、そう。ふとした疑問だった。僕は誰からそれを聞いたのだったか。那賀島が他校に彼女が居る話など聞いたことがない。別に那賀島について詳しいことなど知らないし、同じクラスで付き合っていると聞いたこともない。


「……なぁ、那賀島」

「ん、なんだよ、委員長」

「そういえば、その指輪……いつからつけていた?」

「目ざといと言えば、目ざといな、委員長。他人のアクセサリーに興味を持つなんて珍しいな。そんな気が利くなら女相手にしてやれよ……」


 何故か僕が責められるように言われた。いやいや、待てよ。僕はこう見えても女であろうが、男であろうが、他人の装飾品に興味などない。ましてや服装なんてものを気にも留めないし、自分のことですら疎かなのだ。


「んで、これは、何か昨日、あたりに見つけたんだけど」

「へぇー。どこで、どこでー?」

「いや、曖昧なんだよなぁ……教会だったような、外だったような……」


 その台詞を聞いて、僕は息を吐く。それも、大きな。とても大きな安堵の息だ。覚えていないのなら、後一人の方が限りなく、間違いなく、教会を利用した人間なのだろう、と。那賀島が指にはめている指輪には小さな石が嵌めてある。色は違う、黄色だ。形も違う、男の指輪にしては装飾過多ではあるものの、それでも一ミリ正方の石が幾つも埋まっている指輪だ。


 形も違えば、見たこともない。けれども、僕はそれを『魂石』であると直感的に悟る。確証などない。けれども、那賀島が彼女も居ないのにデートは男が奢るものという行動を知っているのか悟ってしまう。無論、これにだって、彼女じゃなくてもデートと言う、と言われればぐうの音もでないが。それでも、僕は那賀島には彼女が居たのではないかと思う。


 そして、それを僕達は忘れている。消されている。


「それで、今日はどうするの、ソラ?」


 仙道の声に我に返る。余りにも思考に潜り込みすぎて、つい回りにまで気が回らなかった。


「あぁ。今日はまず、カードキーで扉を開放しなければならない」


 今日、酒場に来るまでの道のりに僕が新しく手に入れた『防具屋』の扉は無く、その為、カードキーを持つ僕がまず防具屋なる扉の元に行かなければならないのだ。扉のマークは一度、全部確かめているので、何番目の場所にあるのかは既にわかっている。まっすぐ向かうとしよう。


「それにしても防具屋が出るまで遅かったでござるなぁ。様式美で言えば始めの方に出るべきものだと思うのでござるが……」

「いや、俺としては雑貨屋と呼ばれる場所が早いうちに開放されてよかったと思う。あれがなきゃ歯ブラシも、針も布も手にいれられなかったわけだし」

「一理あるでござるな……確かにそのおかげでノーパン生活にならずに済んだのでござるが」

「まぁなぁ、シーツで服を作った奴がクリーニングに気づいてよかった……」

「それよりもお風呂がよかったよー、流石に臭くなりすぎちゃってたからねー。皆、出しすぎだよー」

「おい、食事中」

「てへぺろー」


 花畑が舌を出して謝ってくる。そもそも臭くなった原因は自分のせいじゃねーかよ。自重しろよ、自重。


「あ、アクセサリーと言えばさー」

「ん?」

「カズキーも持ってたよー、数珠ブレスレットみたいで、なんか趣味じゃないけどー」


 僕はその情報聞いて、知念と話し合う時間を作るように決めた。ただ、ここから見た感じ、普通に談笑しながら食事を取っているようだ……あれが普通なのだろうか。いや、そもそも僕は自分がメモ帳でクラスメイトの人数を把握しているから違和感を覚えている。


 もし、もしも、だ。メモ帳が無かったら。僕はそれを信じただろうか。いや、わかりもしなかっただろう。何せ、記憶が消えています、と言われたところで知らないものは知らないし、わからないものはわからないのだ。眉唾な話にも程がある。


「……ん、花畑」

「なーにー?」

「後で少し、知念と話がしたいんだけど……おぉぉぉっ!?」


 僕が花畑にお願いしていると仙道と小堂がテーブルを思いっきり叩いて立ち上がった。えぇぇっ? 何だ、その反応……


「ちょ、ちょっと、ソラ! どういうことよ! な、なんでカズの奴と話し合うなんて……」

「そ、そうでござるよ! そ、そんなにアレがアレなら! アレでござるよぉ!」


 なんだ、こいつら。顔を真っ赤にして激怒するなんて……特に小堂の方はアレアレ言い過ぎてなんて言っているかわかんねーよ……


「ふーん、委員長ってば、カズキーが好みなんだー」


 アヒル口で僕にそう尋ねてくるのは花畑。些か、声色に不満が聞こえるような気がするが気のせいだ。


「はぁ? 別に好み云々じゃねーだろ……ただ、話があるってだけだ」


 僕は変な勘ぐりをされる前にさっさとこの話を切り上げる。ブツブツブツブツと小声で呟く二人が特にうっとうしい。そこで、ふと気づいた。矢口が静かだな……と思えば、寝ていた。


「おい、起きろ、矢口」

「はっ!? 委員長、先ほどまでに抱き合っていた北村くんはどこに行きましたの!? まだまだ堪能してないですの! もっと続きを見せるですの!」

「一生、眠ってろ!」


 静かと思って声をかけてみればこれだ。こいつはやっぱり、黙らせていた方がいいのかもしれない。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「そういえば、矢口、錬金術って魔法なのか……?」


 僕達は防具屋の扉を目指すために歩き出す。那賀島が先頭で、小堂、仙道がそれに続き、花畑が真ん中、その後ろに矢口。そして僕が後方警戒だ。本来なら僕が先頭でもいいのだが、この面子だと前衛が四人も居るので、後方担当を守る人間がどうしても一番、運動能力の高い人間になってしまう。小堂がコマンダーと呼ばれる司令の立場が必要と言ったので言いだしっぺに任せた。まぁ、適任だろう。


 僕よりも知識が深い小堂の方が判断能力に優れているのは誰が考えたってそうだ。そもそも、僕は間違いだらけの人間なのだから。


「ふっ……甘いですわね、委員長。錬金術と言えばファンタジー定番ですの。つまり」


 そういって、いきなり手と手を合わせた。そして、次に地面に両掌をつけて。立ちあがり、前髪をファサァッと掻き揚げて、ふっと鼻で笑い。


「ですの」

「何がだよ!」


 いきなり奇妙な行動を取ったかと思えば、意味がわからない。わからない僕がおかしいのだろうか、いや、矢口のことなんてわかりたくもない……こいつはマジで僕と北村をくっつけようと画策する女だ。ゲイ推奨、ホモ推奨の女である。


「つまりは等価交換、すべての錬金術はそういうことですの」

「だ・か・ら! 説明しろと言ってるんだよ!」


 グリグリと拳でこめかみを締め付ける。ツインテールを激しく揺らしながら「ぎゃぁぁぁぁぁっ、やめるですの! 暴力反対ですのぉぉぉ!」と叫んでいるが、聞こえない。


「空洞殿、錬金術には素材が必要なのでござるよ」

「なら、そういえばいいじゃねぇか……」

「言いましたの!」

「言ってねぇーよ!」


 いつ言った。すげぇな、お前、堂々と言い切れるその性格を素直に驚嘆する。


「素材がないから、何もできないですの! フィルムを作りたいのに、素材がないから、カメラも我慢していますの!」


 トレードマークのカメラを掲げて、言い放つ。素材があればフィルムできるのかよ……おかしい、物作り大国で育ったにも関わらず、フィルムの作り方がこんな場所で出来るなんて想像もできない。


「まぁ、素材があれば結構なものができますの。魔法屋で買えるのはランクの違う釜とレシピのようですの」

「へぇ……」

「へぇーではござらん! 何もわかっていないでござるよ! 錬金術! これは凄いことでござる! 言ってしまえば! 錬金術を使えば自分の身体の半分と弟の身体全部を犠牲にして、大失敗できちゃうでござるよ!」

「失敗してんじゃねぇか……」

「まぁ、回復薬やら、解毒薬やら重宝するのは間違いないでござる」

「……回復薬?」


 僕はイマイチ、ピンと来ない。何故か矢口が得意そうにこちらを見て、鼻を鳴らす。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ふふん、委員長。そんなことも知らないのですの?

「回復薬、つまりは怪我が治るお薬ですの!

「あいたっ! 委員長はすぐに暴力を振るうですの!

「えっ? 後藤や仙道、自分より強い奴には振るわない?

「最低ですの!

「せ、説明しますの! 説明しますのぉ、だから、ぐりぐりやめるですのぉぉぉ!

「まったく、委員長の癖に生意気ですの

「うそうそ、冗談ですの!

「回復薬、ポーションと呼ばれるものですの

「これを使えばあら不思議。怪我が治るのですの

「用法・用量はきちんと守るですの!

「えっ? 用量があるのかって? 知らないですの

「あいたっ

「すぐに叩かないでほしいですの!

「えっと、どこまで話しましたの?

「あぁ、ポーションですの。実際にポーションには飲む・かけるといった使い方がありますの

「効能は傷口を塞いだり、体力を回復したり

「えっ? 現実的じゃない?

「何を今更ですの。

「魔法と言っても過言ではないようですの

「魔法屋でレシピを調べてみれば部位欠損を直すポーションもあるようですの

「無論、レシピも高ければ、高い値段の釜も必要ですの

「つまり、怪我のお供にポーションというわけですの

「けれども、大きな怪我に対応するようなポーションはまだ作れませんですの

「今、使える錬金術でのポーションは

「怪我の治りを早くするポーションだけですの

「これを使えば、骨折も半日で回復するですの!

「まぁ、最下級ポーションですからこんなものですの

「え? 今、作れるのかって? だから、まだ素材がないですの!

「素材? 手に入れ方?

「あぁ、恐らく、素材屋というものが存在するのですの

「全部の扉、メモ帳にめもってある? ない?

「……なら、さっぱりですの!

「と、ともかく! 素材を見つけたら私に持ってくるですの!

「混ぜるぜー、超混ぜるぜー! ですの!



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「だが、素材って何だ?」

「ゴブリンの耳が必要な薬剤もありますの」

「ゴブリンの耳? けれども、あいつらすぐ灰になって消えるじゃねぇか……」

「ふむぅ……恐らく、ギルドの可能性があるでござるな」


 僕は小堂を見つめる。ギルド……?


「小説やゲームによって様々なギルドが存在するでござるが、大体のギルドがクエストを受けて報酬を受け取る、と言ったような具合でござる」

「でも、お金をもらっても練金できないですの」

「いやいや、お金なんてそんなに必要ねーだろ……あっ、そういうことか」

「おや、空洞殿、察しがいいでござるな」

「どういうことですの?」


 小首を傾げながら僕を見てくる矢口。気づいていないのだろう。お金は確かに必要ないのだ。なぜなら、僕達はお金ではなく、別のもので生活しているのだから。それがポイントと呼んでいる何か。化け物を倒すと貰えるお金の代わり。


「ギルドが仕事を貰える場所というのなら、給料に素材がもらえるんだろう?」

「お見事でござる。無論、ポイントの支払いという形もござるが、素材支給の可能性も高いでござるよ」

「と、もうすぐつくな」


 僕は扉がうっすらと見え始めていた。そこに一人のゾンビ、元クラスメイトの姿が見える。けれども、その顔は今まで見たこともなかった。右腕がなく、顔の造詣はゾンビだけれども、まだ死体が新しいのかそこまで腐っていない。顔の形は中の下といったところか。


「新顔のゾンビですの」

「……油断するなよ」


 僕達はそれぞれ、構えを取り、動き出す。僕は後衛を守る為に背後からの奇襲に備える。ただ、新しい顔が増えていることが、僕の勘違い、妄想説を見事に否定した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……ふむ」

 

 防具屋に入ったところで何かを考えるかのように小堂が呟いた。気になることでもあったのだろうか?


「どうかしたか、小堂」

「空洞殿。実は拙者、一つ、気になったことが。幾ばくか、あのゾンビ再生力というか、体力が強かったような気がするでござるよ」

「……そうか?」


 後ろから見てた分は滅多刺しだったような気がするが……


「それに、ポイントも全員見たらわかるように一〇〇ポイント増えているでござる」

「五十ポイントゾンビよりも効果的な一〇〇ポイントゾンビ。ボーナスゾンビですの!」

「……」


 心当たりはある。彼女達は前の三人とは決定的に違う部分がある。それがレベル。彼女達はレベル1と呼ばれるような人間……であった筈だ。少なくとも、昨日まで居たということなら、それが剱山達と違うところだ。


「そういえば、花畑は魔法、使わなかったな」

「んー、なんかねー。あんまり気乗りしなくてー」


 苦笑気味に頬を掻いている。


「ごめんねー」

「まぁ、僕はいいが、戦っていた奴らに言えよ、それは」

「別にいいわよ。顔も綺麗だったし、あたしも多少、攻撃しにくかった」

「拙者は……特にそういうのはござらんかった」

「俺は、そうだな……何か嫌だった。それと悲しかった」

「ゾンビはゾンビですの」


 分かれる意見。どちらも分かることは分かる。ゾンビに攻撃慣れしている、という点で既に一定の数は殺し、くり返していた。けれども、あそこまで顔の綺麗な状態のゾンビは居なかった。どちらの言い分も是である。どちらの言い分もわかる。


「……ま、気にしても仕方ないよな。さて、装着でもするか」

「……着替えは別にしたいところでござるな」

「まぁ、男子は出ておくか」


 用意されていたのは女性用の布で出来たワンピースと、男性用の布で出来たズボンと服だ。お洒落に無縁な僕でもはっきり言ってダサいと思う。防具でも何でもない気がするが、それでも小堂が『布の服』と呼んだそれは防御力があがるらしい。防御力があがれば怪我をしにくくなるらしい。眉唾すぎる……いや、でもそれでも散々に非現実な体験をしてきたのだ、何を今更、といった話だ。それとは別に地面に小さなショルダーバッグが人数分おいてある。制服の着替えはこれにいれろってか? いや、バッグなんて無かったから便利だけどさ……


 いや、実際に服の周りに浮かんでいる文字に『Def+2』と書かれていた。学生服には文字は何も浮かばない。下手をすれば学生服の方が頑丈なようにしか思えないのだが。まぁ、怪我をする可能性が減るのならば従うほかないだろう。女子も全員、嫌そうな顔をしているな……


「それにしても、不思議だよなぁ」


 外に出て、女子の着替えを待つ間、那賀島が呟いた。何のことかわからなかったので那賀島の言葉の続きを待つ。


「いや、何か女子が扉の中で着替えてるってのにドキドキも何もしないんだよ。俺みたいなブサイクが、だよ? それこそ、興奮して覗きくらいしてもおかしくないのに。まぁ、流石に身分の違いとかは重々、承知してるけどさ。こう、なんていうの常時、賢者モードって奴?」

「なんだよ、賢者って」

「ほら、ヌいた後のあの倦怠感の状態だよ。虚しい境地というか、なんとなく冷静になれるだろ? あれを賢者って言うんだ」

「知りたくなかったなぁ……」


 変な知識を得て、遠くを見つめてしまう。どこまでも薄暗い、蝋燭と闇の中を見つめる。警戒心を解かないまでも、緊張しすぎない程度に。


「まぁ、俺なんか、誰も相手にしてくれねぇけど。けど、どうしよう。俺も男だから、溜まるんだよね」

「……それこそ、知念とかに頼めばいいだろ」

「いや、知念でも嫌がるかもしれないじゃん。流石に面と向かって拒否られたら傷つく……」

「知らないのか? 知念の奴『うち、男は顔で選ばんよ。男の価値はアソコの大きさで決まるんよ』って言い放ったことあるんだぞ?」

「うぇぇぇ……それはそれでやだなぁ……」


 女性に対する幻想を持っていたのかどうかは知らないが落ち込んでいた。まぁ、こんな状況だし、率先して処理をしてくれる存在というのは非常に助かる。男というのは本当にどうしようもない生き物だからな。時折、下半身が本体のような奴までいる始末だ。


 だからこそ、僕は花畑達が引き受けてくれたことに関しては実は感謝している。それこそ、北村や猿渡が暴走して、しっちゃかめっちゃか食い散らかさないように気を使わなければいけなかった。北村も猿渡も、そういうことを犯さない為に二人に頼んだのだから理性という部分が幾分か残っているのだろう。


 本来、災害時に最も怖いのは人間である。盗み、犯し、暴れ。人の理性という部分を根こそぎ消し去る。僕達は本来ならば、そうなるべきだったのだろう。けれども一人一人がギリギリの所で倫理観を保ち続けた結果、僕達は今日も、まだクラスメイトで居られる。


 クラスメイトが敵になる可能性。考えたくも無い、考えるべきでもない。僕の役割があるとするのならば、僕がそれを統制しなければならないのだろう。三十三人しか居ない世界。破綻している、既に壊れているのだ。モラルは、社会は。


 けれども僕達はまだ個ではなく、群である。それは誇るべきことだ。胸を張るべきことだ。仙道が居たから出来たことだ。北村が居たからこそ出来たことだ。檜山が居たからこそ成しえたことだ。そう、僕なんかと違って。


 もし、もしも、だ。もし、僕以外の誰かがリーダーをしていれば、きっとクラスメイトを殺すことなどなかっただろう。僕以外誰であっても、正解だった。僕だけが、たった一つの間違い。それでも、僕は、未だリーダーとなっている。


 降りたい、辞めたい。言い出すことは簡単だ。口を開けばすぐにでも出来るだろう。けれども、僕はそれよりも遥かにこの状態が崩れることを怖がる。全員で決めたことを破れば、次々と安定は崩壊するだろう。その引き金をひくことなど出来るわけがない。


 だから、僕は間違いとわかってても、間違う。間違えるとわかったまま、間違ったままで居る。間違えたくないと思っているのに、間違ってしまうのだ。そもそも、この状況が間違っているのだから。


「着替えたわよ」


 扉が開き、仙道が声をかけてくる。その声に空返事をしながら、僕は中に入り着替える。逃げ出したいと思いながら、逃げ出すことも言えない愚か者。間抜けな演者。喜劇の道化、悲劇の道化。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 今日の成果。ゴブリン三匹。うち、青一体、緑二体。さ迷っていた新しいゾンビ一体が僕達の班の成果である。新しいカードキーはなかった。大きな怪我が見当たらなくてよかった。他力本願ではあるものの、他の班に期待をするとしよう。


 帰り際に僕達の班は宿屋により、法理を呼ぶ。どうやら、眠っているようなので女子に任せて、僕達は外の部屋で待っていた。


「おはよう、法理」

「あぁ、おはよう。ゆっくり眠れたよ」

「厭味に対して、堂々とここまで言われたらとぐうの音もでねーよ……」

「ふふっ、厭味が理解できる頭脳がこの私にあるとでもお思いかな? 委員長。片腹痛いぞ」

「……」


 弓をもってきてはいる。一応、理論上ではまだ敵が出現する七人なので、警戒しながら歩く。


「どうやら、晩御飯のようだね。働かないで食べる飯が上手いとは実によく言ったものだ」

「本当にお前はいい性格をしているよ……」

「褒めるな、照れるぞ」


 頬を染めて、俯いた法理。いや、待て。本気で照れているのなら、僕はもう何も言えないよ。何も言えるわけないだろ……


「さて、委員長。まず、伺いたいのだが……アレをどうする?」

「あぁ、アレな」


 僕と法理は宿を出た瞬間に見つけてしまった。新しい化け物を。トカゲだ。間違いなくトカゲだった。ただし、昨日の豚と同様に皮の鎧を着て、槍を持っている。ただし、昨日と違うのは豚と違って、僕達のことを「きちんと」見ているのだ。


 昨日の豚は最後、適当に槍を放り投げたが、あれが誰かに当たっていたらと思うとゾッとする。けれども、紫香楽と僕で前衛を、魔法攻撃の援助と弓があれば何とかなった。そして、僕達は生きていく上できっと、あの化け物を避けては通れない。


 なればこそ、勝てないのなら、どれくらい強いのか。それを調べる必要性がある。撤退も考慮した一当て。


「後は酒場で晩飯食べるだけだって言うのに、いいタイミングですの……」

「どうする? 疲れているならやめるが……」

「やるわよ、皆。最高とは行かないまでもそこそこ能力の高い面子が集まってるんだから、最悪の班に比べたらマシでしょ?」

「りょーかいー、那賀島くんが後方警戒でいいよねー?」

「あぁ、回復というか、何か医療治癒術って言うんだが……応急処置って技が使えるから安心してくれ。ヒールと違って、体力の回復は出来なくて、怪我の治療のみだが。後方警戒しながら、怪我人がさがってきたら、行えるように準備しておく」

「体力的には十分でござるな。リザードマンを倒せば、晩御飯だけ、全力で一槍、馳走するでござる!」


 僕は槍を構える。前衛は三人、小堂、僕、仙道。後衛で攻撃するのが矢口、花畑、法理。警戒が那賀島である。


「それじゃあ、行くぞ!」


 僕達は駆け出す。三方向に分かれ、僕が正面から蜥蜴人間に槍を繰り出す。ただ、昨日の豚と同様、槍を扱う腕と頭はあるらしい。


「足元がお留守でござるよ!」


 回りこんだ小堂が右後方からリザードマンの足に切りかかる。


「……硬いでござるなぁ」


 言葉の通り、鱗で覆われた足には小さな切り傷をつける程度にしか打撃を加えられなかった。


「あたしを無視してんじゃないわよ! 蜥蜴!」


 左後方から突撃するように仙道が一撃を繰り出す。けれども、その槍の穂先は鎧の合間を貫いたにも関わらず、化け物の悲鳴を漏らすには至らない。耳元にシュルルルと息遣いがかかる。その瞬間、嫌な予感がして後方に飛ぶ。


 縦一閃。


 ドゥンと鈍い音が僕の眼前の床に衝撃と共に叩きつけられた。


「なんって馬鹿力!」

「それだけではござらん。防御力も硬いでござるよ!」


 囲むように槍を構えているにも関わらず、僕達は一体三という状況下で攻撃手に決めかねていた。槍の腕に大差があるかのようには思えない。素人であるが、相手が素人以上とは思えなかった。


 単純に受け止め、振るう。


 それが蜥蜴人間の攻撃方法。だからこそ、予想しやすい。駆け引きも何もない単純すぎる攻撃。恐怖を覚えないわけでもない。下手にあたれば怪我をする。それでも、震えるほどと聞かれれば否。まだ、素人である僕達の方が槍でフェイントを入れようとしたりする分、マシであるような気すらしてくる。


「ござっ!」

「はぁっ!」

「ッ!」


 僕達は槍を突き出す。一人が受けて、二人が突き刺す。しかしながら、そう。僕達は決め手にかけていた。有利であろうが、何であろうが、僕達は攻撃を通すことが出来ない。


 法理の矢が蜥蜴に当たってもカツンと音をたてて弾かれる。その間にも僕達は何度も、攻撃を繰り返す。槍を受け止め、他二人が攻撃。


 何度も、それこそ、何十度も繰り返すがシュルルルと口から漏れる息のような音しか聞こえない。こうなれば、あいつしか頼れない。


「いいんちょー! いっくよー」

「全員、離れろ!」

「精霊よ、我が命に答えよ、汝、闇から光を照らし出す、神、鳴る怒り! 『ライトニング』っっ!」


 どう考えてもクラスメイトの中で最長の文言を呟きながら、花畑が魔術の詠唱を完了する。実はこの女、全財産をはたいて魔法を購入したのだ。明日のパンのことも、酒場で飯代がかかることも、武器を買うために少しずつ貯金するべきでござる! という小堂の進言も。全部を全部無視して、魔法屋で魔法を購入したのだ。


『精霊魔法・ライトニング』


 雷を呼び出す魔法。値段五〇〇ポイント。クラスメイトの手持ちが四〇〇~六〇〇ポイントである。ゾンビの討伐頻度やゴブリンの強さによって獲得ポイントが異なる。酒場で食事が一回四十ポイントかかり、食パン一切れ五ポイント。浴場利用が一回二十ポイント。一日の平均収入が一〇〇あるかどうかの状況で、コツコツと溜めた分を一気に使ったのだ。


 そして、あろうことか。こいつは朝ごはんを僕にたかってきやがった。


『えへへー、委員長ー、お腹すいたから、ご飯おごってー』


 人懐っこい笑みに僕は溜息を吐きながら、食事を奢ることにした。ちなみに昨日の晩飯は猿渡にたかったらしい。


 そもそも、何故、花畑はそんな魔法を買ったかと言えば。一番安い魔法がそれだったのだ。同じランクの種類の魔法でも五〇〇DPである。通常の最低ランクの魔法が一〇〇DPであることを考えれば高いにもほどがある。我慢しろよ、とか思ったが、今、僕はその評価を改める。


 僕が退いた瞬間に迸る稲光。目で追うことが困難な白い一撃が一本の糸のように蜥蜴男に襲い掛かる!


「GURUAAAAAAAAAAAA」


 絶叫。今まで、僕達が攻撃しても、まともに一撃を当てても悲鳴すらあげなかった化け物が断末魔をあげていた。


 何故、これほどまでの一撃を最初にしなかったのか。一つは精神集中に時間がかかること。精霊魔法という名前の魔法は精霊を見て、祈りを捧げて、許可が降り、祝詞を唱える。そんなプロセスを踏む必要があるらしい。普通の魔法と呼ばれるものに比べてめんどくさい代物である。そして、もう一つ。この魔法は一日一撃しか撃てないのだ。花畑曰く『まだ私のレベルが低いかららしいよー』とどこ情報かもわからないことを言っていた。


 故に切り札。故に奥の手。


 話し合いでそういう扱いをすることに決めていたが、僕は話半分だった。けれども、実際に見て思うのが。凄まじい。


 それ以外になんと言葉で表せばいいのか。


 昨日の紫香楽が『オーク』と呼んでいた化け物は熱い脂肪で深くは突き刺せないものの、それでも大量の血を流させた。水魔法も使っていたが、それでも槍の攻撃が主な原因だったのだろう。失血死。それが相手を倒せた原因。だからこそ、死に際に槍を投げられるというヘマをしてしまったのだが。


 そんな偶然すらも許さない。


 焼け焦げる肉の臭いを嗅ぎながら、灰になる化け物を見つめた。一撃、まさに一撃必殺である。悪あがきすら許さない、一撃であり、一発である。


「……ほぇー」

「……ござー」


 仙道と小堂が呆気にとられたかのように灰になった化け物を見つめていた。これこれ、女の子なんだから、みっともなく口を開けないと親切な人なら突っ込むのかもしれないが、僕も同じように間抜け面なのだろう。


「えっへへー、どぉーだぁー、いいんちょー」

「いや、どーだ、とか言われても……というか、コレ、昨日も撃ったのか?」

「いやー、今日が初めてだったよー?」

「こんな危険なものを本番ぶっつけで撃つなよ!?」


 敵の化け物よりも花畑の方が怖かった。


「大丈夫だよー、精霊さん達も、問題ないって言ってるしー」

「精霊さん?」

「そだよー。ほら、お店みたいにー、文字が映ってるでしょー?」


 花畑が指差す方向を見ても何もない。


「……そうか」


 僕は凄く優しい気持ちになった。優しさなんて欠片も持ち合わせていないけど。それでも優しい気持ちになって、花畑を見つめる。


「そうか」

「ちょ、ちょっと、いいんちょー、その失礼な視線なんなのー! 信じてないよねー! まったく、ぷんすかだよー!」

「そうな」

「むぅぅぅー!」


 膨れっ面になる花畑を後にして、僕は灰になった化け物を見る。するとお馴染みの四角いモノが地面に落ちていた。カードキーである。


「ふひっ、最後の最後であたり来たでござる!」

「本当だー。やっぱり、私のおかげなのー」

「……まぁ、その点においては認めるが、アレ、他の奴にあてないように気をつけろよ」

「あははー、大丈夫だよー、私が敵と認めなければ大丈夫なんだってー」


 その言葉は逆に。そう逆に、だ。普通に接しながら、笑いかけてくる花畑と普通に接しながら。僕は花畑が敵になったら、逆に打ち込んでくる。そう捉えてしまった。穿ちすぎな見方だ。あろうことか味方である少女をそんな風に思うなんて最低だ。けれども、最低だと言いながらも、そのもしもの時を考えてしまう僕がいる。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 酒場に着いたのが六時十八分。時間厳守というわけではなく、なるべく六時を目安に帰り着くように全員で決めたルールの一つ。いや、だって今日みたいに帰り際に襲われたら、どうしようもないからな。


 酒場に帰ると殆どの面子が呑んだり、騒ぎはじめていた。僕達は配給よろしく、カウンターに行き、浮かび上がる文字から食事を選ぶ。僕が選んだのは『日替わりAセット』である。これだけ日本臭を漂わせながらも未だに白米の一つも出てきたことがない、詐欺である。


「おぅ、空洞」


 後藤が片手に木のジョッキを持ったまま近づいてくる。そんで、僕に一枚のカードキーを手渡した。


「出たのか」

「おぅよ……なんか犬の顔してた、新しい化け物だ。よわっちかった」

「実は僕達も一枚、出てる」

「大量だな……まぁ、何にせよ、お前が狙ってるもんじゃなかったみたいだな」

「ん、まぁな……」


 僕がカードキーを集めるのに精を出しているのには理由がある。無論、危険を遠ざけるために、生活を豊かに。などと言った理由もあるが、僕の理由は帰る方法を探すためが大きく理由の大半の割合をしめるだろう。


『図書館』


 僕が個人的に望んでいるカードキー。元の世界で利用したこともなければ、行ったこともない場所。学校の図書室ですら授業以外で近寄った覚えがない。けれども、他の場所に比べたら、情報量が違うだろう。


 僕達が新たに手に入れたのは『道具屋・レベルⅠ』『訓練場・レベルⅠ』と文字がカードの上に浮かび上がる。


「何にせよ、残り五分の一か……」

「まぁ、結局、全部手に入れた方が早ぇような気がするけどな」


 ごきゅごきゅと盛大に喉を潤しながら、後藤が言い放つ。お前、よく呑めるよな、それ。僕も一度、呑んでみたがとてもじゃないが呑む気になどなれなかった。不味いのだ。ひたすらに。現代のお酒がどれほどまでに清廉されたものか僅か十七歳で思い知る羽目になるとは思わなかった。


 いや、まぁ、積極的に飲んでいるというわけではないが、口にしたことがある。向こうの世界で飲んだことのあるチューハイは確かにジュースのような味がしたことを覚えている。けれども、ここにある酒は不味い。ただ、ひたすらに不味い。苦い、臭い、不味いの三拍子である。


 そんな代物を飲んで、クラスメイトの大半が顔をしかめていた。それでもアルコールを飲む人間は現れるもので特に菊池先生が浴びるように飲んでいた。あの人はもう、戻った時に教師として大切な何かを失っていることだろう。


 その他にも後藤が飲んでいる。後藤自身も決して美味しいと感じているわけでもなく、他の飲み物も大して美味しいわけではなく、無味無臭であり、美味しいわけでもない水が一番人気しているのだから、よっぽどの事態である。


 まぁ、後藤の奴も好きで飲んでいるわけではなく、少しでもアルコールに任せて酔おうと思っているのだろう。いわば、ストレスの発散だ。同様に大量に食べる人間もいたりする。見えないところで確実にストレスは蓄積しているのだ。


「残り五枚。五日で全部集まるというのは無理、だろうな……」

「あぁ、前みたいに何も出ない日があるかもしれねぇよ」


 僕はカウンターの隅の席に移動しながら、後藤の話を聞く。酒場についたら各自解散なのだ。無論、全員で浴場、宿屋と行動することになるが、各々が自由に誰と食べるか、行動するかはこの時間帯から自由になる。


 僕は大体、夕食は一人で食べることが多い。全員が仲良く食べている姿を遠目に見つめながら、だ。後藤もカウンターの隅の席でごきゅごきゅと飲みながらもクラスメイトを見る。時々、猿渡や北村と喋ったりしているが、この男の本質は『一匹狼』なのだ。むしろ、妹以外は要らないと言える人間でもある。


「んじゃ、確かに渡したからな」

「あぁ、受け取った」


 フラフラと歩きながら、後藤はカウンターの端、文字が出るスペースに立つ。あいつ、また何か注文するのか……ポイントの使い道が殆ど食事ってどうよ……


 ポイントの使い道。クラスメイトは様々だ。少しずつ、全員を見渡すと武器が変わっていたり、着ているダサい服ではなく、違う服、いや鎧も見られる。それに食べる食事もそれぞれが異なっている。この店で最高値の『硬いステーキ』を食べているものもいれば最安値の『芋麦粥』を食べている人間も居る。パカパカとお酒を飲んでいる人間も居る。いや、菊池先生なんだけどさ……


「……ん、花畑、どうした?」


 先ほどまで知念と話をしていた、花畑がこちらにやってくる。尋ねてみれば、何故か不機嫌そうに眉を潜めた。


「どうしたー? じゃないよー。いいんちょーが言ったんでしょー。カズキーとお話したいってー」

「あぁ、話をつけてきてくれたわけか。助かる」

「……べっつにー。今日の夜ならいつでもオッケーだってさー」


 やけに不機嫌だな。そんなことを思っていると、急に「もうー、今日は自棄酒だよー」と言って、注文するためにカウンター近くに歩いていく。四角いボードのようなものを手馴れた様子で操作して、窯の前へ。チーンという間抜けな音がしたら、窯が開いて、中から木のジョッキが一つ現れた。だから、おかしい……どうして、飲み物が窯から出てくるのか。


 そんなことを思いつつ、僕達は食事を楽しんだ。そして、全員が一通り出来上がったところで移動する。場所は酒場の直ぐ近く。扉と扉が最も短い距離にある大浴場である。何人かがフラフラと歩く姿を見つめながら、僕は最後尾につけている。


 この人数では今まで一度も遭遇がなかったとはいえ、完全に油断するわけでもない。正面には素面な人間、最後尾は僕がつけている。真ん中あたりは当然、菊池先生を筆頭に酔っている組だ。


 危機感という意味では非常に薄いのかも知れないが、慣れとは怖いものでどうしてもこの時間帯の危機感は薄くなってしまう。そんなことを考えていたら、あっさりと大浴場の扉の前についた。まず女子が入る為にぞろぞろと中へ。


「おい……」


 僕は一人の肩を掴む。


「げっ、ばれちまった……」


 さりげなく渡辺も入ろうとしていたので止める。こいつ、彼女としかそういうことしたくないとか言いながらも、性に関してアグレッシブすぎるだろ……


「ふっふっふ、空洞。俺を甘く見てもらったら困るぜ?」

「あ?」

「我は影、我は陰、誰にも見えぬ、誰にも悟られぬ!『インビジブル!』」


 渡辺が変な言葉を叫ぶと同時に渡辺の顔が透過して、消えた。


「なっ!?」


 僕は驚いてしまった。まさかの透明人間である。よほど、こいつは覗きがしたいのか。けれども……


「いや、渡辺……掴んでるから、な?」

「げぇぇぇっ!? しまったぁぁぁぁぁぁぁ!」


 そう僕の掌には渡辺の肩を掴んでいる感触が確かにあった。それに、もしこいつが中に突撃しようとしたら扉は開くだろう。さらには透明になったのは身体だけで、ふよふよと浮いている僕とお揃いの『布の服』と布で出来たバッグ、背中にかけていたであろう槍が空中に浮かんでいる。


「まるで、駄目だろ……それ……」


 欠陥にも程がある。むしろ、どのタイミングで使うのかわからない魔法でもある。不意打ちも何も出来ない……いや、全裸だったら出来るのだろうけど、その場合は素手で戦わなければならないだろう。


「く、くそっ、い、いいじゃないか! 俺は一度でいいから、神威さんの裸を見たいんだよっ! てめぇに俺の気持ちがわかるか、空洞ッ!」

「わかんねーよ……」

「これがッ、選ばれしもののッ、余裕ッ!」


 別に選ばれし者じゃねーし……そもそも、そんな恰好で見つかったら死ぬのはお前だぞ、渡辺……


 僕がそんなことを懇々と説明しているとぞろぞろと女子が出てくる。長湯する奴はいつまでも長湯するらしいので、入浴時間は三十分と決めていた。これに関して、そろそろ文句が出てきてもおかしくないが『大浴場・レベルⅠ』というものが一つしか湯船がなく、男湯も女湯も無いので諦めてほしい。北村の『混浴でいいんじゃね?』を止めた僕をむしろ褒めてほしいよ……


 そして、何故か渡辺よりも僕の方がジロジロと見られていた。いや、見ろよ、渡辺が透明というか服が浮いているんだぞ、誰か驚けよ。むしろ、怖いよ、逆に……僕が一体、何をしたと言うのだ。


「……そらくん」

「ん、神威か、何だ?」

「……後で、お話が、あります」

「今日か?」

「……はい」


 こくりと何かを決めたかのように頷いた。いや、何か決心しているところ悪いが……


「いや、今日は都合が悪い」

「……そ、そんな!?」


 無表情の神威が驚きに満ちて、更には悲壮な表情になっていた。いや、逆に表情が豊かすぎてこっちがびびった。というか渡辺を驚けよ。驚いた、僕が間抜けみたいじゃないか……


「そ、ソラっち!」

「ん、檜山か……なんだよ」

「あ、後で話がある!」

「てめーもか。今日は忙しいんだよ、今度にしろ、今度」

「なっ!?」


 顎をこれでもかと開いて、ショックを受けている。いや、別にいいだろ……相談とか他の奴らにしろよ……僕なんか何の役にもたたねーよ……その後も何人もの女子に同じようなことを言われたが、断った。どうして、今日に限って僕に話があるのか。


 もし、緊急的で必要な話ならば、わざわざ時間を求める必要も無い。けれども、だ。わざわざアポイントメントを取ってまで話す内容など、きっとろくでもない。そう、僕のように。わざわざ知念に会うために秘密裏に行動することなど、きっとろくでもないことだろう。


 例え、僕のように悪逆非道でなかったとしても。それはきっと不必要なことである。いや、必要のあることなら、明日の朝でいいだろう。それになんとなく、僕は察している。実は後藤の班が新顔のゾンビと遭遇した際に土の弾、いわゆる魔法を喰らったらしい。


 大怪我こそ無かったものの、今までにない個体と戦法だった為に注意しておいた方がいいのだろう。まぁ、確かに話し合うべき事柄ではあるもののわざわざ、個人で密会までする必要のない情報である。


 もしも、違うとして、緊急性の高い要件だったのならば、何もわざわざこのタイミングではない筈である。それこそ、酒場で食事中に僕一人の時を狙ってくるのが最も適したタイミングであろう。わざわざ、それを避けたということは――考えても答えが出ない。


 なればこそ、特に気にもする必要などないのだろう。悪いとは思うし、相談に乗ってあげるべきなのだろうけれども、僕は優しさなどというものは持ち合わせてはいない。だからこそ、他人を気遣う必要なんかないし、気遣うこともない。


 そういう人間だ、そういう人物だ。現に知念との密会だって、混乱を与えないためという建前を既に準備している。本当は自分の罪がばれるのが怖いだけの臆病者のくせに、わざわざ高尚に、小賢しくも言い訳を用意している。


 どこまでも愚かで、どこまでも救いようがない。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『大浴場』


 僕達が四枚目に手にいれたカードキー。緑のゴブリンが持っていた『らしい』カードキーの先には日本古来から伝わる伝統的な光景が広がっていた。


 浴場というよりも銭湯。扇風機はないが、明らかに脱衣所らしきものが存在し、タオルも用意されている。そして、更に扉の先には大きなタイルの床が広がり、シャワーノズルと桶、木椅子が用意されている。


 赤のボタンを押せばお湯、青のボタンを押せば水が出る。雑貨屋で石鹸が売っていたが、わざわざ買わなくても、石鹸ならば申し訳程度に用意してある。シャンプーが売っていない、用意されていないことに女子は大激怒していたが、男子は特に気にすることもなく、石鹸で頭を洗ってる奴、多数。北村と矢来だけ、嫌そうに顔をしかめていた。


 そして、大浴場らしく、大浴場ならではのものと言えば。広い浴槽。一つしか存在せず、座って足を伸ばせば肩まで浸かれる。無色透明であり、浴槽の下のタイルの色がうっすらと写っているくらいだ。


 つまりは典型的な銭湯。いや、銭湯ならばもう少し種類があったりするのかもしれないが、僕達はこれを銭湯と呼ばずに何と呼べばいいのかわからない程度には銭湯である。


「……ふぅ」


 タオルを頭に載せて、ゆっくりと浸かる。特に効能がある源泉ではないのだろうが、お湯に浸かるというだけで、疲れは取れる。新陳代謝が早くなり、などと言った薀蓄は僕にはないので理由を聞かれてもわからない。血行がよくなる、程度の当たり前の知識ならあるのかもしれないが。


「……なーに、黄昏ちゃってんの、委員長」


 北村がタオルをつけたまま、湯船に入ってきた。マナー違反とか言えばいいのだろうが、僕は特に注意しない。あと、お前、僕の股間をジロジロと見すぎ。矢口あたりが覗いていれば喜ばれる。絶対に嫌だ……


「委員長ってさ、でけぇよな……」

「あえて、聞かない」

「クラスナンバーツー? 太さはナンバーワンだけど。長さは那賀島に負けてるよな。硬さじゃ俺は負ける気はないぜ!」

「……やめろよ、そんな話をしていると野母が来るぞ」

「ねぇん? 呼んだ?」

「「ひぃっ」」


 僕達は情けない悲鳴をあげて、後ろを見る。バスタオルで女性のように身体を隠した筋肉ムキムキの男が立っていた。そして、男の象徴が主張している。


「……呼んでねぇ」

「あらん、いけず……よっこいしょ」


 野母が北村の隣に座る。これで北村は僕と野母に挟まれる形となる。そぅっと立ち上がり「さぁてー、俺、あっがろー」とか言い始めたから、僕は無理矢理座らせる。


「まだ、早いだろ。焦るな、習わなかったか? 肩までゆっくり浸かって、温まりましょうって?」

「な、習ってない、習ってない」

「そうか、僕も習った覚えはないが、どうも一般家庭ではそのようなルールが普及しているらしい。遠慮はするな、ゆっくり浸かれ」


 逃がすわけがない。防波堤を逃がしてしまえば僕に甚大な被害が流れ来る。やはり、風呂は時間など決めるべきではない……今まで、適当に風呂場に来ていたが、こういう事態に備えなければならない。


 警戒心。


 どうしても、生活を緩んでしまう。それこそ、宿屋と酒場、浴場が近い位置にあるせいか、夜中にこっそり抜け出している人物がいるくらいだ。


 本来ならばそんな危険なことあってはならない。あるべきじゃないにも関わらず、だ。円形の地下のようなこの場所で、化け物が居るというにも関わらず、僕達は無警戒の状態すらあるのだ。


 宿屋から左は魔法屋、酒場、浴場のならびになっている。それこそ、四つの扉の距離が百メートル以内に並んでいる。けれども、宿屋と武器屋の間は五百メートル空いている。さらに言えば、浴場の次のギルドの扉までは三キロ離れているのだ。


 なんたるランダム。なんたるテキトウ。いや、法則性があるのかもしれないが、少なくとも僕にはテキトーとしか思えない造りである。


「そういや、委員長。今日、知念の部屋に行くんだって?」

「あぁ……おい、何だ、そのゲス顔は?」

「そうよん! なんで、あたしのところにこなくて、知念の所にいくのよ! あたしのところでいいじゃない!」


 二人が騒ぎ出す。あぁ、もしかして。


「北村……」


 僕は勘違いを訂正しようと思ってやめる。下手に勘ぐられればどんな話をしたのか、するのかを聞かれるかもしれない。藪を突いて蛇を出すよりかは、マシである。


「まぁ、気にするな」

「いやいや、じゃあ、今日は俺と猿渡は花畑のところに行くか」

「あたしのところ空いてるわよん」

「行くかよ……」

「もぅん、いけず」


 北村がゲッソリしながら断る。いや、まぁ、花畑のところ行くのはいいが――


「お前、毎日行ってないか?」

「おぅ! 楽しみなんて、それくらいしかねぇし……まぁ、正直、他の女の子も食ってみたいと思うけどさ、そんなことしたら女子から総スカン受けるかもしれねぇからなぁ」

「そうよん! だから、あたしの所に」

「……まぁ、女子の中には潔癖な奴らが多いからな」


 僕はポリポリと頬をかく。別に誰と誰がやっていても、僕には関係ないし自由だ。それに、こんな世界だ。一夫多妻でも問題ないだろう。それこそ、北村が望めばの話ではあるのだが。今のところ、かろうじてだが自制心とやらが残っているのかもしれない。


 そもそも、男女比のおかしいクラスだ。そうなっても、僕は文句をつけないつもりだ。複数人と付き合っていようと複数で行為に及ぼうと。それが致命的で、修羅場になるような事態にならなければいいのだ。


 もし、この世界に年単位で暮らすとして。北村に集まるのは誰だろう、と考える。まずは檜山と仙道だろ? あいつらとこいつ仲いいし。それに横溝と渡会も北村には憧れているしな……となると、他には小堂とかも麻呂に彼氏が出来てから羨ましがっていたし、法理も僕なんかと付き合いたいとか冗談を抜かすくらいだから、結局は北村が掻っ攫っていくだろうな……


 神威は……どうだろうか? いや、引き取ってくれるならば、嬉しい。けれども、問題はアレが壊れていることだ。そう、神威 撫子は壊れている。最近こそ、普通に、一般の生徒のように振舞っているが、本質は壊れているのだ。


 花畑や知念は逆に一人の男に固執するという想像がつかない。他のクラスメイト……を思い浮かべてどいつもこいつも北村に靡きそうだよなーと結論。猿渡とくっつきそうなのは……結局、北村がもって行きそうな気がする。いかん、北村ハーレム恐るべし……


 ただ、どうしても、どうしても、だ。もし、クラスの女子で北村に絶対に靡かない女子を上げろと言われたら僕は間違いなく矢口 楓を押す。あいつは駄目だ、あいつだけは絶対に駄目なのだ。他にもBLを嗜む女子は居るが、矢口、あいつは頭がおかしい……


 僕が始めてBLというものを理解する(したくもない)、羽目に陥ったのは在原と桑山が読んでいた本を僕がそれとなく、没収した時だ。そして、気づく。作者・矢口 楓。こいつは恐ろしいほどまでにバイタリティを持つ。


 男同士をくっつけるためなら、自分の身すらも犠牲にしかねない程に。見た目こそ、普通に可愛い系女子と騙された別の組の男子がいる。そいつを呼び出して……あろうことか野母に……


 おっと、思い出しすぎには気をつけよう。あの時は大変だった。矢口は今はまだ牙を隠しているが、本来ならば他人を嵌めても自分の欲望を達成する人間である。だからこそ、信頼ができる、信用が出来る。


 逆説的に言えば、彼女に協力的であるのならば、利害が一致しているのならば。その力を十全と信じることが出来るのだ。ゆえに。


 そう、故に、だ。矢口と後藤。この二人だけは方向性が完全に一緒であり、信じることが出来る。信頼ではない、友情ではない。けれども信じるに値する。他の誰が口で「帰りたい」と言っていようとも、この二人ほどではないだろう。


 後藤は明確に、妹のために帰らなければならない。矢口は明確に、自分の『作品』のために帰らなければならない。もっとも、僕としてはその作品に関しては絶対に破り捨ててやると思っているが、それでも帰るという力の方向性が最も強いのがこの二人だろう。


 逆に。そう、逆にだ。


 逆に、帰らなくてもいい、と考えている人間はどれくらい居るだろうか。家族が居るから、友達が居るから、などと言った理由は信じられない。クラスメイトの家族の仲のよさを僕は目の当たりにしていないのだから。


 だからこそ、見てもいない、知りもしない理由を『頭』すべてを信じるにはいけないのだ。けれども、否定するわけではない。信じるの対義語が疑うだったとしても、信じないからといって、疑うわけではないのだ。


 僕の場合は信じていないから、無関心。故に裏切られたとしても、立ちはだかったとしても納得してしまうのだろう。裏切られて怒るよりも、僕は信じないで怒らない方がいい。信じるとか言いながらも、本質はどうでもいいとすら思っている。


 もし、後藤や矢口が敵に回ったとしても納得するだろう。僕は唯、信じないだけ。疑うわけじゃない。だから、裏切られても傷つかない。傷つきたくないから、信じない。単純な話だ。結論で言えば、それだけのことだ。


「ふぅ、もう、上がるか」

「あぁ……」


 北村とテキトウに雑談をしながらも、脳裏にグルグルと渦巻いていたのは今後の展望。もし、帰りたくないという人間が出てきたのならば、僕はどうするべきなのか。そして、僕はどちらにつけばいいのか。わからない。想像もしたくない。


 けれどもきっと、誰も信じていないから。そんな未来が来たとしても僕は驚かない。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 宿屋に戻り、僕は一度、部屋の中へ戻る。布の服のまま、ベッドに腰掛ける。そして、メモ帳を取り出そうとしたところで、気づく。


「……無い」


 バババと全身を両掌で撫でるように触ってみるが、メモ帳らしき感触がない。しまった、どこかで落としてしまったか……と、そんな簡単な話ではない。あのメモ帳が無ければ僕は誰が消えたのか正確に把握できないのだ。


 いや、大丈夫、落ち着け。消えたのは五人。剱山、椿、野原、田中、三浦。聞き覚えのない、メモ帳の中にだけあった人間。記憶も無い、思い出もない。けれども、覚えている。全員で三十八部屋分の人数が居たはずだ。メモ帳に書いてあったことを思い出す。


 明日、朝、必要な人数は三十三人。全員を一度、数えなければならないだろう。全員が揃っていると顔を確認しても、人数で判断しなければならない。そこに消えた誰かが居る可能性があるのだから。


「……明日の朝、落し物で議題にあげるか」


 メモ帳をどこかで落としたので見かけたら拾っておいて欲しい。ただ、危険性として中身を見られることだろう。中を見られるのは不味い。非常に不味い。何せ、教会について、事細かに書き入れている。


「……中身を覗くような奴は」


 脳裏にクラスメイトの顔ぶれを思い浮かべる。だ、駄目だ……どいつもこいつも中を見るなと言えば言うほど、見たがるだろう。絶対に押しちゃ駄目と書かれたボタンを押すような奴らだ。事実、六道で消火器のボタンで悪戯をした人間はクラスに五人も居る。小学生じゃないのに……


「いや、思い出せ……そうか、酒場か……」


 そうだ、僕は一度、酒場で取り出した。新しいゾンビと犬の化け物について軽くメモる為に後藤の話を聞きながら食事をして、書いていたことを思い出す。


「場所さえ、わかれば大丈夫だろう……」


 今から慌てて取りに行く必要も無い。ならば、まず宿屋内での用件を済ませておくべきだろう。僕は部屋を出て、二階への階段を目指す。


「「「「「……」」」」」


 何故か五人がスクラムを組んだままお喋りをしていた。なんだ、あいつら、気持ち悪い……特にジャンルの違う小堂や神威、紫香楽が居ることに違和感を感じる。檜山も居れば、仙道も居る。


「あ、ソラじゃない。偶然ね」

「お、おぅ……」


 肩を組んだまま、二階の廊下の入口を封鎖するように立ちはだかる集団を見て、僕は目をそらしながら返事をする。アレ、だ。よく町で変な人が居たら近づかないようにする。そんな心理によく似ていた。クラスメイトだったら、尚更だろう。


「ソラっち、ここの二階なら通行止めだ、他を当たりな!」

「……」


 なんだ、こいつら……どうして、今日に限ってここでこんなことをしているのだろうか。いや、僕が知らなかっただけでもしかしたら、こいつら、毎日ここでこんなことをしているのかも知れない。ヤバイ、本格的にこいつ等の頭の中身が怖くなってきた……


「……そら、くん」

「何だ?」

「……向こうの、階段も、通行、どめ、です」


 指さした方向には二階への別の階段がある。右上、左上、右下、左下の計四つの階段が宿屋にある。僕が登ろうとしたのはロビーから見える右下の階段だ。左下側の階段を指さして神威 撫子が通行止めと言い張る。確かにそこには野母と御伽、矢口が立っていた。御伽は日本人形のような前パッツン、黒髪のロングの子供髪型。体格は檜山よりやや大きい程度。顔立ちはかなり幼いが美少女と呼んでも差し支えない。が、いかんせん無表情のためか、いまいち男子の受けはよくない。


 いや、男子の受けがよくないのは同じクラスの男子だけで、何故か別のクラスの男子。それもオタク系の男子には大人気だったな……そんな御伽 夜が居た。ただし、その表情は非常にげんなりしている。野母と矢口に両腕を抱えられるようにしてスクラムを組んでいる。いや、よく見れば御伽の足が空中でプランプランしていた。


 御伽と僕の目が合う。さっと逸らす。助けろとアイコンタクトで指示してきたので、見なかったことにした。


「……そら、くん。これで、詰み、です」

「いや、何の?」


 自身満々に胸を張る神威。何の為にこんなことをしでかしているのかわからないが、まぁ、そっちがその気なら、こっちもその気である。


「……エッチな、ことは、いけません!」

「至極、名言でござるよ!」

「……いいだろう、僕を怒らせたらどうなるか教えてやる」

「やる気かよ、ソラっち。五対一だからって容赦しねぇぜ?」


 檜山がとっても物騒なことを言ってくる。僕はバッと階段を飛び降りる。十段、折り返し十段の階段を飛び降りる。


 そして、全力疾走で走りぬける。右上の頂点側へ走り階段を登る。


「甘ぇよ! ソラっち!」


 滑り込むかのように僕の目の前に立ちはだかる檜山。遅れて、仙道、小堂、神威、紫香楽が大差なく現れて再びスクラム。こっちから見れば、向こう側に慌てて走っていく矢口と野母の姿。ちなみに御伽は両脇を抱えられて戦国時代の篭屋の篭のように首をカクンカクンと身体を縦に大きく揺らしながら運ばれてきた。


「……くっ!?」


 僕は再び階段を飛び降り、左下を狙う。思いっきり走っているので、何人かが廊下の様子を見てきた。そして、僕を見た後、納得してから部屋に入る。おい、おかしいだろ、納得するなよ、この奇行に対して疑問を抱けよ。まるで、僕が普段から奇行をするような人間みたいじゃないか!


「あぁん!」


 僕が階段を駆け上るとこちら側へ向かおうとしてきた野母が声を出す。どうやら、阻止を失敗したことを嘆いているようだ。だったら、御伽を下ろしてやればいいのに……既に半泣き状態の御伽に僕は深く同情した。


「しまったですの! いかせませんですの! 委員長が女子とエロイことをするなんて断じてこの矢口 楓が目の黒いうちは許しませんですの! 委員長は男子とエロイことするべきですの!」

「そうよん! あたしが空いてるわん!」

「この際、野母さんでも許しますですの! 委員長、止まりなさい、止まりなさいですのぉぉぉぉぉっ!」


 ポイッと御伽を捨てる二人。扱いが酷すぎる。ペタンと内股になってへたり込み、元凶二人を睨んだ後に、僕もついでに睨みつける。いや、僕、関係ねーだろ……いや、一度、見捨てたけどさ……


「おっ、そこにいるのは野木山と霊山」


 歩いてきたのは二人組。野木山 禾。霊山 宮。どちらも御伽と同じオカルト研究会の部員である。野木山は大きな丸渕メガネに、ショートカットの女子。霊山は二つの編みこみを横にたらしている少女。野木山の方が大きくて、霊山の方は普通である。身長と胸の話でもある。


「い、委員長。わ、私達は忙しいのです! かまってる暇なんてないのです! ですから、どうか一階へお戻りください!」

「そ、そうよ……あんたなんかさっさと一階に帰ればいいのよ! 帰れ、部屋に帰れ!」


 何故か二人共、やる気満々である。特に霊山の方は口が悪すぎる。霊山の口が悪いのは元からなので今更、気にしたところでどうしようもない。一片、社会に出て、怒られろ。心底、そう思う。


「……とりあえず、退いてくれないか。その後、囮になってくれると嬉しい」

「お、お断りするのです!」

「あたし達はあんたを捕まえるために張ってたんだから!」


 どうしてだよ……


「皆の衆! 出会え、出会えでござるよぉぉぉぉぉぉ!」


 小堂の声にどたどたと集まってくる女子。よく見れば男子が野次馬になっていた。僕はジリジリと後退をしながら、道を防がれる。二回の廊下の形がΨで右下と右上、左下と左上に階段がある。そして、僕はジリジリとど真ん中の十字の中心に追い詰められる。


「ふっふっふ。観念するんだな、ソラっち」

「くぅぅっ…………」


 悔しげに唸ってみるものの、どうしてこんなノリになったのかわからない。というかオチの収拾どうするんだよ……


「……ふっ」


 そこへ、黒い影が三つ、割り込んでくる。正確には女子の集団を押し退けて三人の男が僕の周りに現れた。


「ふっ……誰が呼んだが、百年目」

「ここが地獄の三丁目!」

「俺達、素人童貞、非童貞を守る守護者!」


 シャキーンと音を口で出してポーズを決める三人。渡辺、北村、猿渡。馬鹿野郎三人組だった……なんだ、こいつら……恥ずかしいからちょっと近寄らないでほしい……


「俺達は考えた。いつもはわがままを言わない委員長が知念の部屋を訪ねると聞いたとき」

「そう、俺達は応援しようと!」

「ついでにあわよくば失恋した奴らを慰めて、可愛い子ゲットのチャンス! これでグッバイ、童貞!」


 最後の最後で渡辺の奴が余計なことを言って、北村と猿渡に足蹴にされている。いや、まぁ、僕に惚れている奴なんか一人だって居ないだろ……神威のアレは、好意なんて話じゃないのだから。だから、神威狙いだったというのなら、ご愁傷様、としか言いようがないのである。


「あ、あんたら、どきなさいっ!」

「み、ミヨの姉御! そ、それは出来ないそう、相談、で、ですぜ……」


 ガクガクガクガクと足を小鹿のように震わせながら猿渡が反論している。ちなみに仙道は強い。いや、強いというか、怖い。なんというか容赦がないのだ、無論、身体能力もかなり高い。


「……ていっ」

「ゲハァァァァッ!」


 一本背負いで床に叩きつけられたのは渡辺である。いつの間にか間合いを詰めていた神威が胸倉、袖と掴み、綺麗な三日月を描くように、人を地面に叩きつけた。おい、畳の上以外で柔道技使うなって習わなかったのかよ……何人かが拍手を送っている。


「へぇ、北村とマジでやんのは久々だな」


 ゴキゴキと指を鳴らすのは檜山。北村の顔は真っ青である。ちなみに檜山、仙道の強さは後藤と同格である。男子は後藤が頭一つ分飛びぬけて出ているので、その差がおわかりだろう。入学してから二ヶ月くらい経ったころ、北村が檜山にぼこられたのは懐かしい。


「い、行け、委員長……お、俺のことはいい。いや、出来るなら神威ちゃんとかに、北村君のココがいいところ! ってのを教えてあげてほしい。さぁ、行けっ! 行くんだ、委員長ーっ!」


 いやいや、行けって言われても囲まれてるし……無理だし。僕はこの混沌とした様相の中、どうしようかと考えていると、目に付いたのは花畑と談笑している知念の姿。コソコソと移動して、話かける。


「よぉ」

「あ、渦中のいいんちょーだー」

「あ、うちになんか用事みたいやね」

「ん、まぁな。実は、そのブレスレットについてなんだが……」


 知念の腕には確かに数珠のブレスレットがつけられていた。赤色の宝石のような魂石だ。


「あ、これ、綺麗やろー。うちの部屋の前に置いてあったんやよ」

「……」


 僕の眉間を押さえながら考える。つまり、知念は教会について一切の関係がないのだ。いや、隠しているのかもしれないが、それこそ意味のない問いかけになるだろう。いや、それどころか、本人が知らないと暗に言っているのに藪を突く必要性もありはしないのだ。


「このブレスレットのこと詳しく聞きたいん?」

「あぁ。那賀島や知念がどこからか装飾品を手に入れたって聞いてな。出所を聞いておけば、他の奴らも手に入れやすいと思ったが……」

「残念やね。うちのは親切な誰かがくれたと思うんよ。朝起きて、部屋の扉のノブにかけてあったんよ。粋な男子のプレゼントと思ったんやけど……」

「単純に誰かが部屋の前に落としてるだけかもー、拾った誰かが親切で掛けただけかもー」

「えー……結構、気に入ってるんやけどね……」


 僕は顎に手をあてて考える。もしかすれば、教会を利用した奴は『田中 由』もしくは『三浦 数子』のどちらかが知念と仲がいいと分かっていて、わざと渡したのかもしれない。それこそ、僕が紫香楽 アリアに二つのイヤリングを渡したように。


「……まぁ、落とし主が現れたら返せばいいだろ」

「そやねー。それまで、気づきやすいようにつけとくんやよ」

「……あれー?」


 小首をかしげる花畑。何か不思議なことがあったのだろうか。小首をかしげたと思えば、何だか、汗をダラダラとかき始めていた。


「も、もしかしてー、いいんちょーってばー」

「ん?」

「用事ってそれだけー?」


 本来なら、別に知念の部屋に『そういうこと』をしにいくと話を広められてもよかった。ただし、それは教会の話題を口止めするにあたって、致し方ないと思っていたためだ。けれども、現状。ブレスレットについて聞き出したので、わざわざ密談をする意味がない。


「あぁ。それがどうかしたか?」

「えっ、どうしよー、どうしよー」


 頭を抱え始めた花畑。


「今から、カズキーとエッチなことしないー?」

「なんでだよ……」

「じゃないと困るっていうかー、話を大きくしすぎちゃったというかー、色々と収まる話が収まらないというかー」


 酷く要領を得ない内容である。


「こういう時は寝ておこうー。そうしよう、そうしよー」


 こっそりと集団から抜け出して部屋に戻る花畑。よくわからん、行動だが、僕は用事が済んだので、遠回りになるが階段を下りる。どうやら、背後では戦い(?)が過熱しているようだが、まぁ、明日は朝一でメモ帳を取りにいく必要がある。こっそり抜け出すことは禁止されているが、まぁ、見つからなければ問題ない。特に罰があるというわけでもないし、な。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 翌朝、僕はメモ帳を無事に回収して、部屋に戻る。その時、扉の隙間に一枚のカードキーが挟まっているのを見つけてしまった。


『スペシャルショップ』


 嘘みたいな名前である。いや、事実、僕が外で扉を見て、うっすらと浮かび上がる『スペシャルショップ・未解放』と見た瞬間、うさんくさい感想を抱いたのは内緒だ。何がスペシャルだ、と思った。


「あ、委員長なの」


 僕が部屋の前でうさんくさい顔をしていると声をかけてきたのは御伽 夜。昨日、わけのわからない、運ばれ方をされた挙句、ポイ捨てされた女だ。オカルト研究部部長であり、日本人形のような前パッツン、長い黒髪、小さな体躯、綺麗な顔立ち。ただ、如何せん。御伽 夜は他人が苦手すぎる。


 僕が他人に対して興味がないこととは違い、また他人が嫌いということとも違い、御伽 夜は他人が苦手なのだ。極度の人見知り、極度の対人恐怖。それが御伽の本質である。クラスが一緒になった当初はちまっこい身体をガクガクと震わせて、事務会話をしたものだ。


 ただ、六道の矯正プログラムの成果か、本人の努力の結果なのかはわからないが、そこそこによくなってきている。事実、今ではクラスメイトには普通に接するようになってきた。普通に接して、努力しているにも関わらず、紫香楽に水を吹きかけられたり、野母と矢口にポイ捨てにされたりなど、可哀想な奴である。


「な、なんだか、とっても失礼な視線なの! よくも昨日は見捨てたの!」

「いや、僕としては御伽がよくあんな楽しそうなことをしているな、と感心してしまったところだ」

「あ、あんな、発見された宇宙人みたいな運ばれ方、楽しいわけないの! そもそも委員長が知念の部屋に行こうとするから悪いの! 全部が全部、委員長のせいなの!」

「えぇぇ……」


 北村と猿渡は入り浸っているというのに……納得がいかない。優遇されすぎだろ……イケメンだからって何でも許されるとか、現実世界じゃないのに、世知辛い……


「委員長、私、昔から言ってたはずなの。委員長如きが調子にのって、女の子とエッチなことをしないように! と言ってたの!」

「いや、そんな酷いことは言われてねーよ……」

「なら、覚えておくの! 委員長如きがエッチなことが出来るなんて万年! いや、億年早いの! わかったなら、返事をするの!」

「……」

「はいは一回なの!」

「返事してねーよ……」


 無茶苦茶、理不尽且つ、傷つけることに躊躇いがなさすぎる……僕だったからよかったものの、他の奴らだったら、体操座りでいじける程度の口撃である。


「そもそも、委員長はそろそろハッキリするべきなの」

「ハッキリ?」

「誰狙いだとか、誰を攻略するのだとか、誰と恋仲になるのとかなの!」

「ハァ……そんな状況じゃないだろ」

「そんな状況なの!」


 何言ってんだ、こいつ……こんな状況下で恋愛云々を考える余裕なんて僕にはねーよ……いや、こんな状況下でも、だろう。


「委員長がハッキリしないから――」

「いや、むしろ、僕はハッキリしてるだろ……」

「……」

「友達も要らない、恋人も要らない。僕は常々、言っている。皆知っている筈だし、僕はそのつもりで生活している」

「そういう、いいわけは聞きたくないのっ!」

「えぇぇぇ……」

「いいから、さっさと選べなの! 皆、困るの!」

「困るって……何でだよ……」

「そ、それは委員長のことを皆が皆、好きなの!」

「……嫌、それはねーだろ」


 何を言っているんだろうか御伽は。そんな事、あり得ない。利己的で、自分勝手で、自己中心的で、最低な僕を好きになる奴なんて居るわけがない。


「野母も矢口も好きなの!」


 昨日、肩を組んでいた二人の名前を挙げる。いや、待て。野母の奴は絶対に男子ならば誰でもいいって奴だろ。矢口に至ってはありえねー。あいつは心底、ホモを愛しているような奴だぞ?


「檜山も仙道も好きなの! それに、最近では神威さんも出てきたの! いい加減決めるの!」

「いや、神威のアレは違うぞ……」


 神威の感情は好意ではない。そんなものではない、もっとおぞましい何かである。そして、僕はそれを受け入れない。受け入れられるわけがない。おぞましさの余りに逃げ出したくなって、目すら背けていたのに。それを受け入れるなんて出来るわけがないのだ。


「な、なんなら、私でもいいの……」

「はいはい、また今度な」

「だーかーら!」


 廊下で騒いでいるせいか、続々と起きてくるクラスメイト。視線が集まったせいか、若干、萎縮し始めた御伽ではあるが、僕を睨みつけて。


「このまま、だとよくないことが起きるの!」

「……占いか?」


 御伽はオカルト研究会の部長とだけあって、占いが出来るらしい。それもそこそこの的中率を誇っている、とか。


「こんな下らないことに占いを使うわけないの! こんな当たり前でどうしようもない問題を放置してるんだから、いつか事が起きるに決まっているの! 委員長はもっと――もっと、自覚するべきなの」

「……だから、何をだよ」

「……ッ! 本当に鈍感で、鈍間で、鈍重で、鈍臭くて、鈍すぎるの!」

「まぁ、察しのいい方じゃないのは認めるが……」


 けど、そこまで言われることなのかよ。まぁ、怒っている理由が察せないあたり、言われても仕方のないことなのかもしれないけど。


「こんな状況下、だから委員長はそろそろ決めるべきなの」

「……決める?」

「そうなの。誰を抱くか――ってあいた!」

「あのなぁ……人が真面目に話を聞いているときに茶化すなよ……まったく」

「茶化して無いの! もぅーっ! わからずや、トウヘンボク! コンビニ店員!」

「おい、最後の悪口じゃねぇぞ……」


 足音荒く、階段を登り、部屋に消えていった。すると、そこへ那賀島が歩いてきた。


「朝から大変そうだな」

「ん、まぁ、御伽の奴がイマイチ何を言いたいのか理解できないのが悪いんだろーけど。僕に何を伝えたいのかわかんねーよ……」

「……まぁ、委員長はそうだよな」


 苦笑する那賀島。どうやら、那賀島はわかっているらしく、それでも僕に答えを示さない。けれども、僕はそれを『どうでもいい』と斬り捨て、教会の話をするべきだろう。


「なぁ、那賀島。その指輪なんだが……」

「あぁ、なんだ、委員長、欲しいのか?」

「いや、別に要らないんだが、どこで手にいれられるのかと思ってな。こんな状況下だろ? 指輪とかイヤリングとか、女子が欲しがると思って」

「……」


 那賀島が絶句していた。おい、そんなに驚くようなことを僕が言ったかよ。


「委員長が女の為にアクセサリーを送ろうだなんて……これが異世界か……怖ぇな」

「別に僕がプレゼントするわけじゃねぇよ……ただ、そういうキラキラしたもんでも持っていればストレスの解消くらいにはなるだろ? こんな場所だ、買物なりで発散場所くらいは見つけてやらないとな」

「……だよなぁ。委員長はそういう奴だ」

「なんだよ、その意味ありげな視線は。別に何もおかしいこと言っちゃいないだろ」

「ん、まぁ、そうだけどさ。御伽の奴も、他の奴らも気の毒というか、なんというか。まぁ、仕方のないことなんだろうけど」


 やはり、イマイチ意図がわからない。どいつもこいつもちゃんと言葉にするということを知らないのか。僕は察しがいい方ではないので、言葉にしてもらわないと困る。空気を読めという芸当は僕には高尚すぎるのだ。


「けど、ごめんな。これを見つけたの教会なんだけど……イマイチ、よく覚えてないんだよ」

「何が……あったとかは?」

「……んー、よく覚えてない。急に音がしたと思えば、祭壇のところに指輪があっただけだ。それがどうかしたのか?」

「いや、それならいいんだ」


 どういうことだ……? 那賀島は記憶を消したことを覚えていないのか? いや、考えてみれば、僕が覚えているのもメモ帳に書きなぐっているからだろうか? いや、覚えていたはずだ。メモ帳とは関係なかったはずだ。


 けれども、それを今、証明できるのか、と聞かれればわからない。僕は確かに妄想じみた効果をメモ帳に書いているが、果たして書いていなかったら僕は覚えていられたのだろうか。わからない、わからないが――問題はそこではないのだろう。


 問題は那賀島が覚えているか、否か、である。


 覚えていないのなら、知らないのなら。無理に知らせる必要などない。悪戯に知る可能性を増やすべきではない。建前は混乱を招かないため。


 本質は自分の汚さを隠すため。


「……まぁ、服飾店なるものもあるし、そこで別のアクセサリーがあるかもな」

「あ、そうか。新しいカードキーが出たんだよな。その中にあった?」

「いや、僕達が蜥蜴男を倒して、手にいれたのは訓練所だった」

「訓練所かぁ……って僕達が? まだ手にいれたのか?」

「あぁ、実はあと二枚、ある」

「大量だな……けど、どうして、そんな苦い顔してるわけ?」

「スペシャルショップってのがあった」

「あぁ……委員長がうさんくせーと言ってた奴か……」

「あぁ。なんだよ、スペシャルショップって。なんで、一つだけ横文字なんだよ、統一しろよ……不自然だろうが……それなら、宿屋じゃなくてホテルでもいいじゃねぇか……」


 僕は未だ見ぬ、スペシャルショップなるものの存在をいぶかしむ。絶対にろくなもんじゃない予感がする。


「まぁ、服飾店が出るまで我慢してもらうか……」

「そうだな。意外に落ちているのかもしれないし」

「ん?」

「いや、紫香楽さんのイヤリングや委員長のブレスレットだって拾ったものだって言ってたじゃん。それと同じ感じで拾えるのかもしれないな」

「……あぁ、そうだな」


 拾える。違う、これは全て同じ結果から生まれた品物である。けれども、深くは話さない。話してはいけない。知らないのなら、知らないままがいい。那賀島が知らないといっているのなら、この件はもう終わりにするべきだ。気にする必要もない。考えるべきでもない。


 思考の停滞、思考の取消、思考の放棄。


 それがどれだけ愚かしいことか、身をもって知っていたはずなのに。何度も、何度も、それこそ数え切れないくらいに何度も間違ってきたというのに。それでも、僕が空洞 空であることが当然なように、僕は間違える。


 決して、思考を停滞させるべきではなかった。思考を取り消すべきではなかった。思考の放棄をするべきではなかったのだ。そして、僕はまた致命的な間違いを犯す。




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 十日で五人。二日に一人。


 それが犠牲になった人間の数だ。けれども、僕達はそれを知らない。知らないがゆえに全員が無事で、全員が生きていると『感じて』しまっている。


 けれども、それは正しいことなのか。間違っていることなのか。きっと、僕のことだ、間違っているのだろう。けれども、だ。けれども、僕は間違っているとわかっていながらも、誰にも話すことなど出来ない。


 殺しすぎた。何度も、殺しすぎたのだ。


 止めるべきタイミングはあった。辞めるべきタイミングはあった。けれども、僕達は殺しなれすぎたのだ。生き返るクラスメイトを。立ちあがるクラスメイトを。それを今更。真実を告げたところで、何かプラスにでも働くのだろうか。


 言い訳だ。


 プラスに働かないだろう。危機感以上に自分がやったことに対する罪悪感を感じさせてしまうだろう。言い訳だ。ならば、危険を促しながら、注意を喚起しながら、生きていくしかない。言い訳だ。それが最も効率的で、頭のいいやり方ではないのだろうか。言い訳だ。合理的に考えるのならば、そうあるべきだろう。言い訳だ。


 結局のところはどれだけおぞましいことをしていたのか僕が他人に知られたくないのだ。ただ、それだけに過ぎない。怖い、恐ろしい、忌むべきだ。はっきりとした罪悪であるにも関わらず、誰も裁かない。ただ、殺されるだけなら受け入れることができる。けれども、その先にある蔑視が怖くて、僕は言い出せないでいるのだ。


 死んでも救われない、死んだとしても許されない。もし、誰かが僕を糾弾したとしても、その糾弾は酷く曖昧で記憶にないにも関わらず、ひどくアヤフヤな正義感の元に裁かれるとするならば、それほど怖いものはない。


 望むのなら。


 剱山 剣花に殺されたい。椿と野原の親友である紫香楽に復讐として殺されたい。田中か三浦の恋人であろう那賀島に殺されたい。田中か三浦の友人であろう知念に殺されたい。けれども、僕がもし殺される時、殺す相手は明確にわかっていて、殺してくれるのだろうか。


 犬死だけは嫌だ。それだけは嫌だ。意味のない人生を送ってきたとしても、間違いだらけで恥の多い人生を送ってきたとしても、犬死だけは嫌なのだ。なんて、醜悪。なんて、愚者。まるで自分の人生に意味があるとでもいうべき素晴らしい人物の如く、意味のある死を迎えたいと願ってしまっている。


 空洞 空はそんな素晴らしい人間では非ず。


 空洞 空は愚かで、卑怯者で、最低で、人でなしで、悪鬼で、畜生にも劣り、生きている意味などない人生を過ごしてきて、他人を壊し、他人を蔑み、他人を利用して、他人の屍を踏みつけて、大事な何かも捨て去って、何も持たざる、何も得られなかった、何の意味もなかった十七年を送ってきたにも関わらず。


 犬死だけは避けようと必至に生きている。


 愚かであり、高望みであり、やはり、救いようがない。


 死ぬべき場所を決める権利など存在しない。死ぬべき瞬間を悟る権利など存在しない。死んだ後に悲しまれるような権利など存在しない。あるべきは唯、愚かに死んでいくことだけである。意味のなかった人生だと、死んでよかった、と。愚かに蔑まれながら死んでいくことだけが空洞 空の死である。


 逃げ出したかった、怖かった。リーダーなど、本当に。本当に僕は嫌だった。犬死が嫌だと思いながら、犬死だけはしたくないと思いながら、それでも誰かに影響を与える意味のある死も怖かった。


 矛盾。明らかに矛盾している。


 意味の有る死が怖いと言いながら、意味の無い死が嫌だと思っている。意味の無い死を恐れながら、意味のある死を望まない。

 

 小学生でもわかる。おかしな間違い、小学生でも指摘する、明らかな間違い。けれども空洞 空は間違っているのだから、それで正しいのだ。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……で、誰がこのスペシャルショップを見つけたんだよ」


 朝の会議。全員が参加している班に尋ねてみてもカードキーの出所が判明しない。そもそも、昨日発見したのは僕と後藤の班の二つで『道具屋』と『訓練場』の二つだった。つまり、三枚目の『スペシャルショップ』のカードキーは時間外に外に出た誰かが手に入れたものだということである。


「……怒らないから正直に手をあげなさい」

『……』


 誰も手があがらない。溜息を吐く。問題は誰かが、もしくは複数人が、夜の間に抜け出して化け物を倒したということだ。危ないことだと思う、危険なことだと思う。けれども、僕は止める権利もなければ、叱責する権利もない。仮初のリーダーなのだし。


「……まぁ、いい。一応、全員に言っておくが、危険なことは自己責任だからな?」

『はーい』


 全員が間延びした声で返事をしていた。まったく、こいつらは……


「それにしてもスペシャルショップ。何がスペシャルなのか楽しみでおじゃる」

「そうですねぇ、公子さん!」


 麻呂が膝の上に矢来を乗せてそんなことを言っていた。よく見れば、小堂の奴が睨みつけているが気にしない方向でいこう。お前、矢来のこと好きなのかよ……嫉妬は少し、隠しとけって……


「さて、それじゃあ、今日の流れについてだが、新しいカードキーが三枚ある。酒場で別れたあとAからC班にはまずカードキーを嵌めに言ってもらう。そこからはいつもの通り、各班自由行動だ」

「……そら、くん」


 ビシィィィッと天高く、まるでフロアの高い天井を貫かんとばかりに手を挙げたのは神威だった。なんだ、まだ何かあるのかよ。新しいゾンビが魔法を使ってきたり、耐久力が高い話はしたし、蜥蜴と犬の化け物についても特徴というものを話した。他に何かあっただろうか……


「なんだ、神威……」

「……昨日の、件、終わって、ません」

「昨日の件? なんだ、一体……」

「……結局、そらくんは、溜まりっぱなし、です」

「……お前なぁ」


 呆れるような目で見るとうろたえる神威。


「……か、勘違い、しないで、ほしいのですが、わ、私が、はしたない女だと、いうことでは、ないのです!」

「お前はここ数日の言動を振り返ってみろ!」

「……り、リーダーの、健康、管理、大切、です!」

「言われてみればそうだなぁ! あたしも賛成だぜ、神威!」


 何故か檜山が賛成した。すると女子の何人かが賛成をしてくる。だから、そういうのはめんどくさい……


「別に僕なんかよりも後藤とか、北村とかの方が管理すべきだろ……こいつら、寝ないで探索に出ることもあるんだぞ……お前ら、少しは気をつけろよ」


 北村は女子と遊びすぎて、後藤は部屋で何かを作りすぎて。気がつけば徹夜なんてことは既にある。


「えっ? なになに、神威ちゃん、心配してくれるのー?」

「……どう、でも、いいです!」


 北村がサラサラと灰になっていく。おかしい、そのポジションは渡辺のはずなんだが……いや、僕としてはどうでもはよくない。むしろ、リーダーとして適正の強い北村、戦闘力の高い後藤とかに世話を焼くべきだろ……


「どうでもいいとは何だ、オラァッ!」


 後藤が流石にどうでもいい扱いの発言に腹を立てたらしく、立ち上がる。


「……妹さんの木像でも、眺めていれば、いいでしょう!」

「あ、それもそうだな」


 納得したのか座る。いや、まて、お前は妹の木のフィギュアを眺めているだけで健康になれるのかよ、すげーな……


「……と、いうわけ、です」

「ちょぉぉぉぉぉっと、待った!」

「……ちっ」


 そこで立ち上がったのは渡辺。神威の奴、今、明らかに舌打したよな……


「……なんで、しょう、渡辺、くん」

「俺! 滅茶苦茶、頑張るよ! 皆に健康、気をつけてもらったら、滅茶苦茶がんばる! 肉の壁だろうが! 肉の盾だろうが! 命張るよ!」

「……必要、ありません」

「そ、そんなこと言わずにさ! い、一度、げへへ、そ、その、さ! 俺と付き合ってみるのもいいんじゃない!?」


 さりげなく公開告白した渡辺。馬鹿野郎……自分で自分を処刑台に送る奴が居るかよぉ……こんな皆が見ている前で振られるなんて――


「……ゴー、トゥー、ヘルッ! ですっ!」

「委員長、悪い、俺、英語二、なんだわ……訳してくれ」

「オッケーだってさ」

「ひゃっほぉぉぉぉぉぉ!」

「……ち、違い、ます! 地獄に落ちろ! です」

「ひゃっほぉぉ?」


 渡辺が両手を挙げてガッツポーズしたかと思えば、すぐに膝をついたまま項垂れた。見事な五体倒置である。後、神威、お前は僕を睨むんじゃねーよ……むしろ、お前が悪いんだろーが……


「まぁ、健康管理は各々が気をつけるでいいだろ。それこそ、他人に面倒見てもらう事柄じゃねーだろ……」

「……そらくんの、正論、うざいです」

「うざいって何だ、こらぁぁぁぁっ!」


 さりげなく毒を吐く神威。こいつ、ここに来てから自由すぎだろ……



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「んじゃ、今日はこの班で探索だ」


 全員が籤を引き終わって、それぞれのテーブルに散っていく。僕はA班の北村に『道具屋』のカードキーを。B班の小堂に『訓練所』のカードキーを渡す。そして、C班の集まるスペースへ。


「今日は初めてうちとやね。よろしくやよ、委員長」

「何だか、お前が言うと卑猥に聞こえるな」

「そ、それは言いがかりなんよ……」


 知念がショックを受けているのか、肩を落としている。


「そういえば、先生とも初めてですね」

「そうよね。なんだかんだ言って、今まで別だったからね。空洞くんと一緒なら安心できるわ」

「はぁ、よろしくお願いします」


 全員を引っ張ろうという気概が見えない二十ピー歳。それでいいのか……? 僕はテーブルに飯を置きながら考える。菊池先生は体力が無い。それこそ、僕達の中で考えれば下から数えた方が早いどころか、一番下だろう……


「さて、今日はまずスペシャルショップなるものを開放しにいく。その後は探索……もしくは小堂の推奨していた訓練所で訓練を行うといった方向があるが」


 面々を見渡して、意見を募る。今日の班員は麻呂、小堂、知念、菊池先生、矢来、霊山である。考えてみれば、矢来と麻呂はこれで四日連続だよな……


「なぁ、矢来、麻呂」

「なんでおじゃるか、委員長」

「お前ら、四日連続で一緒だよな……」


 僕の言いたいことを察してくれ。そして、麻呂は堂々と言う。


「不正はなかった……でおじゃる!」

「し、知ってるでござるよ! こっそり、こっそりと籤を交換してるのを拙者見てたでござる! とうとう今日の今日、証拠を掴んだでござるよ!」

「ば、ばれてしまいましたぁ!」


 ……僕は眉間を解すように睨む。


「ふ、不正は無かったでおじゃぁ」

「そ、そうですよぉ、食事を奢ると快く交換してくれる予定で交換をしたんですよぉ、渡辺くんが! それに神威さんや美代お姉さんと同じ班の予定だったから、逆に食事を奢られちゃいましたぁ!」


 大声で二人は主張する。その主張を聞いた瞬間、少しはなれたテーブルで食事をしていた神威と仙道が立ち上がり、渡辺をけり始めた。


「……ハァ、ったく。籤の意味ねぇだろ」

「そもそも、どうして籤をするのでおじゃるか? これから連携も重要になってくるし、固定するべきでおじゃるよ」

「……」


 その発言を聞いて僕は溜息を吐く。そんなことをすれば。そんなことをしてしまったら……


「僕が余りモノになるだろうが……やだぞ、僕は、あまりものなんて。僕は皆が遊んでいるところに「入れて」といえるような子供じゃなかったんだ」

「いや、むしろ……まぁ、委員長がそういうのでおじゃったら、それでいいんでおじゃるが……けれども、籤では今後、前衛と後衛のバランスが悪くなるでおじゃる。そろそろ固定パーティーについても考えるでおじゃるよ」


 まぁ、一理あるか。六人五班を固定で組んで、僕や一人ボッチ組は折りを見て割り振ればいいだろう。ただ、そうなるとどのような組み方をすればいいのか考えなくてはならない。めんどくせーな……放っておいたら、好きな奴同士で組んで、能力とか考えないで組みそうだからな。


「あぁ、わかった。大体の魔法と能力は聞いているし、希望も聞いてみるから今夜あたりに誰と一緒がいいか聞いて、班……じゃなく、パーティーを分けてみる」

「わかっておじゃる。ちなみに麿は棗と一緒じゃなかったら嫌でおじゃる」

「……はいはい」


 僕はメモ帳を取り出し、書き込む。それにしても固定パーティーか。どんな割り振りにするかじっくりと考えなければならないな……




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『スペシャルショップ』


 名前が冗談みたいな場所である。特別な店。何が、特別なのか、わからない。わからないけれども、嫌な予感だけはどうしても感じてしまう。そして、僕の嫌な予感は高確率で当たってしまうことが多い。


 この『スペシャルショップ』とて例外ではなかった。


「ご、ござっ!?」

「おじゃ!?」

「あー……」


 小堂が驚き、麻呂も驚き、知念が納得する。続いて、扉に入ってきた矢来、霊山、菊池先生。


「あわわっ!?」

「ど、どういうことよっ、委員長! あんた、あたしをこんな店につれてきて、何をするつもりなのよっ!」

「……」


 大型のビデオ屋並みの広さを持つフロア。ピンクの照明、棚にはウヨンウヨンと動く道具。紐と丸い部分、リモコンらしき何かの部分の道具。そして、四角い箱。さらには液体のような何かが入ったボトル。そして、極めつけは『○○ちゃん』と書かれた縦二十センチ、横十センチのナマコのような道具。


『スペシャルショップ』


「アダルトショップじゃねぇかっ!」


 僕は棚のウヨンウヨンと動く物体を地面に叩きつけて、突っ込む。やっぱり、ろくでもなかった……



~~~~~~~~~~~~~~~~


「……委員長さん、これー」


 僕が奥の方にあった、申し訳程度のカウンターに近づくといつも通りに文字が浮かび上がる。奥の方にあった、


『いっひっひ、いらっしゃい、いらっしゃい。ここはスペシャルショップだよ。いっひっひ』


 癪に障る笑い声である。しかも、あろうことか『買物しますか Y/N』と文字が出た。正直、このまま帰りたいが、中身を見るまでは決め付けてはいけないだろう。も、もしかしたら、勘違いかもしれないし、そ、そうだ。勘違いだろう。落ち着け。冷静な僕らしくない。幾らなんでも、こんな世界でアダルトショップがあるなんておかしい。


『男用は本日この五人だよ、いっひっひ。

 全 二〇〇

オ○ホ トーカちゃん 

 オ○ホ キュウちゃん

 オ○ホ ありあちゃん

 オ○ホ ショウちゃん

 オ○ホ ケンカちゃん       』


 僕は案の定、ろくでもない、と思って溜息を吐こうとした瞬間――最後の列。最後の列に示された名前を凝視してしまう。そして、全員の名前を見てしまう。トーカ……檜山 桃花、キュウ……霊山 宮、ありあ……紫香楽 アリア、ショウ……桑山 松。


 そう、全員だ。全員がクラスメイト、女子の名前である。そしてケンカ。覚えていない、知りもしない。けれども、僕は知っている。覚えていなきゃいけない名前。


 剱山 剣花。そこには彼女の名前があった。


「ッ!?」

「ど、どうしましたかぁ!? 委員長さん!」


 余りの出来事に一瞬、顔を歪めてしまうが、僕は普段の通りに冷静になるよう心がける。そして、すぐさま言い訳を。


「いや、予想以上にくだらなくて……」

「は、はぁ……」

「とりあえず、内容はわかったが……必要ないな……」

「僕も見てみますねぇ」


 僕が離れようとしたところで、酒場と同じように空中で指を動かしながら、選択していく。そして『コトン』と音がした。こいつ……何か買いやがった……


「……」


 呆れた目で見ていると箱を手にもっている。大きさは煙草の箱より一回り大きく、そして見覚えがなくもない。類似品を僕は見たことがある。けれども、それは初日に那賀島に渡した筈……あぁ、そうか。やはり、那賀島には彼女が居たのだろう。僕が持って来た避妊具を那賀島に『今』なら渡す意味はない。けれども、彼女がいたなら、僕は渡していた。


 クラス内で現在唯一のカップルは麻呂と矢来。けれども、それは数日経てから知った内容である。初日の時点で僕が北村でもなく、猿渡でもなく、どうして那賀島に渡してしまったのか。思い出して、はっきりと納得してしまう。


 確かに那賀島 夕には彼女が居たのだ。そして、死んでしまった。その事すら覚えていない。


「……え、えへへぇ、買っちゃいましたぁ」

「買っちゃいましたじゃねぇよ……いくぞ。そいつは鞄にしまっとけ」

「はぁいです、委員長さん」


 それから、僕達はカウンターを離れる。店は棚が幾つも乱立していて、棚においてある商品らしきものを手にとってみるが、値札はついていない。あれ、もし、これ、万引きのように盗んだら、どうなるのだろうか……警察でも来るの? 試そうか迷ったが、やめておく。何せ、扉に罠が仕掛けられている可能性もあるのだ、危険は冒すまい。


 と、そこまで見ていて僕は奥にも更に扉があることに気づく。近づき、押すと簡単に開いた。木製の扉にいい思い出なんて無かったが、どうやらこの店の扉は簡単に開くようだ。


「……あれぇー、委員長さぁんー」


 背後で僕を探す矢来の声が聞こえたが、僕は扉を開けた先、別の部屋に入った。表のピンクのお店とは違い、そこは薄暗く、まるで刑務所の面会室のような雰囲気である。仕切られた向こう側には大きな剣や人の手で扱えるのかわからないような槍が飾ってある。


 異質。


 まるで表の場所がカムフラージュかのような場所だ。


『いっひっひ、お客さん。どうやら、表の人間じゃないね』


 カウンターに近づくと、文字が浮かび上がった。


『あぁ、お客さん。この場所のことは他の人間には教えない方がいいよ。なにせ、ここは秘密の秘密。秘奥の秘。知られると困る人間がたくさん居るからねぇ。命の安いこの世界。秘密を知った人間は死んじゃうよ? ひっひ。驚かしすぎたかい。嘘だよ、嘘。言っても大丈夫だけど、誰も来れないんじゃないかねぇ、ひっひ』


 これは喋るな、ということだろうか。いや、違う。ここにたどり着くことが出来ないのだろう。魔法という非現実を僕は見せ付けられた。だから、それも可能なのだろうとどこかで思う。


『まぁ、知ったとしてもたどり着けない。なにせ、適正が無ければ、この場所は見つけられないからね。どうやら、お客さんは適正があるようだね』


 適正。


『そう、普通の魔法屋じゃ売っていない。普通の魔法屋で仮に魔術を買ったとしても意味をなさない。何せ、適正だけでは意味のない魔法も取り扱っているからねぇ。お客さんの場合は媒体を持たなきゃ、意味がないのさ』


 媒体。媒体? 意味がわからない。魔法を使うための媒体とはどういう意味であろうか。そもそも媒体とはどういう意味だろうか。


『お客さんはネクロマンサーか。なら、棺だろうねぇ』


 そして、文字が表示される。棺。棺桶。死体の入れ物。


『棺、防具でもあり、武器でもあり、触媒でもある。お客さん、お買い得だよ。いや、お客さんは買わなければならない、そうだろう?』


 文字が、文章が勝手に進んで行く。


『……それじゃあ、支払いは一〇〇〇〇〇だ。はいよ、確かに』


 確かに僕は他の奴と違い『一〇〇〇〇〇』ポイントを持っている。持っているが――使うつもりは無い。けれども、勝手に話が進んでいる。まて、おい。僕は――

 

 ガタリ。


 いつから、そこにあったのか。いつから、用意されていたのか。いつから、置いてあったのか。分からない。漆黒の鉄で出来ているのか、わからない棺桶がそこにはあった。


 棺桶の頭から鎖が生えている。大きいわけではない、きっと日本の葬式で見る棺桶と同じくらいの大きさなのだろう。けれども、僕一人で持ち運べるといった大きさではない。


『ひっひ。ここに辿りつくためには『適正』『お金』が必要になるよ。また、お越しになるといいよ。ひっひ、なにせ、非合法のお店だ。年中、暇なのさ……おや、お客さん。どうやら、お客さんの知り合いにも何人か適正のある人が居るみたいだね。闇術に暗器術、それに珍しい、獣を飼っている人間も居るようだ』


 全てに覚えがある。何せ、僕はクラスメイトの適正を聞いている。そして、僕同様に魔法屋では魔法を手にいれられなかった人間も居る。


『そいつらが『お金』が溜まったら連れてくるといいね。ひっひ。まぁ、最低でも一万くらいは持ってこないと何も買えないけどねぇ……そう考えると、お客さん。十万もポンと支払えるなんて貴族かい? ひっひ』


 文字は勝手に浮かび続ける。勝手に会話を完結している。僕の意思など必要とせず、挙句には棺桶を渡して。


『……お客さん。覚えておくといいよ、その棺桶が防具であることを。何、棺桶が盾というわけじゃないのさ。棺桶は防具であることを忘れないでくれよ、棺桶が武器であることを忘れないでくれよぉ。ひひっ』


 僕はこんな悪趣味をさっさと終わらせたくて、部屋を出ようとする。けれども部屋の扉はまるで見えない壁があるかのように開かない。閉じ込められた……?


『おやおや、お客さん。棺桶を忘れてしまっているよ』


 扉に文字が浮かび上がる。ふざけるなっ! 誰が要ると言った! 僕は力を込めてみるが扉が開く様子はない。どうするべきか、この場所に来て、既に五分は立っている。


 諦めて、棺桶を手にとって見る。軽い。鉄製の箱にしては軽い。けれども、軽く小突いてみれば確かに金属音。裏返してみれば凹んでいる部分もある。そして、凹んでいる部分には取っ手がついていた。棺桶で身体全体を守るように盾に出来るようだ。


 流石に軽いとはいえ、あくまで予想していたより、と注釈はつく。片手で振り回せるほどじゃない。両手を使わなければ、きっと持ち上げることはできないだろう。けれども、そもそもそれがおかしいのだ。


 両手を使えば金属製の棺桶を振り回せる。意味がわからない上に馬鹿じゃねーの? と突っ込みをいれたくなる。いつから、僕はそんな力持ちになったよ……ただ、鎖の先。皮の部分を持ち、引き摺るように引いてみる。するとドアの壁がなくなったかのように動く。


「……どうしても、持ち帰らせたいみたいだな」


 笑えない冗談だった。ふざけた世界だった。クラスメイトを殺しておいて、棺桶を引き摺るなんて笑えないし、ふざけていた。空っぽの棺桶を引き摺って、僕にどうしろと言うのだろうか、意味がわからない。意味などないのかもしれない。


「……クソっ」


 それでもどうしようもないので、引き摺る。引き摺って、部屋を出る。


『ひっひ、またのお越しを』

「もう、来ねーよっ!」


 はき捨てるように無音で無感情の文字に言い放つ。来るわけねぇだろ……二度と。


「あ、委員長さ……何を引き摺ってるんですかぁ……」

「棺桶」

「は、はぁ……そうですかぁ……」


 扉から出て、幾つかの棚を越えると僕を探していただろう矢来と遭遇する。僕は背後の扉を指差してみる。


「なぁ、矢来、あそこ、何が見える?」

「壁ですけどぉ、どうかしましたかぁ?」

「いや、いい。女子は?」

「何か、色々と買い物してたみたいですぅ」


 この店で一体、何を買ったというんだ……いや、別にいい。気にしたところで意味がないし、どうでもいい。クラスメイトの性事情なんて知りたくも無い。


「全員、入口で待ってますよぉ……まったく、迷子にならないでくださいよぉ」

「……そうだな」


 別に迷子になったわけじゃないのだが、探しても見つからない僕は迷子と思われても仕方ない。それにしても、この店が広い理由はもしかしたら、あの扉を隠すためなのだろうか。いや、考えても意味のないことだろう。


『……』


 戻ると全員の視線が僕に集まった。恐らく、こいつ何で、棺桶引き摺ってんだ、とか思われているのだろう。僕だって謎だ。


「……委員長、流石にそれを聞かずにはいられないでおじゃる」

「なんか、隠し部屋みたいな場所で無理矢理渡された」

「「隠し部屋!?」」


 驚く麻呂と小堂。僕は起こった出来事を軽く話す。別に天罰とかはなかった。けれども、その後、僕以外の全員で探してみたが誰も見つからなかったらしい。どうやら、あの文字が言っていたことは本当のようだ。


 入れる人間と入れない人間がいる。必要なのは『適正』と『お金』


 僕はその両方を満たしていたのだろ。けれどもちっとも嬉しくないのは、当然である。何せ、望んでもいなければ、まるで僕の罪を笑うかのように存在する棺桶が酷く重かったから。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 連日、カードキーを発見できていたせいか。本日、カードキーが一枚も発見されなかったことに皆は落胆していた。そもそも昨日が三枚も発見できたのだから、上等といえば上等だろう。


 しかしながら、この日を境に僕達は少しずつ停滞することとなる。一週間で二枚。遊技場と、治癒院。遊技場にはトランプが置いてあり、賭け事を行える。治癒院は骨折などや大怪我の治療を行える……らしい。


 僕が目にしていないが、事実、腕を折ったクラスメイトが治癒院に行ったところ、回復してもらえたそうだ。ちなみに、ポイントが怪我の度合いによってかかる。さらには治癒院には今はまだ直せない奇病という存在もあるらしい。


 そして、パーティーを本格的に作ることになった。ここで、生まれたのが格差。能力の高いパーティーと、低いパーティー。今はまだ何も起こっていない。けれども、いつかはこの格差が原因で何かが起こりそうな気がする。


 そして、昨日。新たに二枚のカードを見つけた。ギルドと服飾店。恙無く進んだ二週間。悪夢のように五人が死んだ十日とは違い、誰も死なずに三十三人全員が生き残り、残すカードキーが残り一枚となった時。正確には僕達が『服飾店』のカードキーを嵌めた瞬間に、


 それは告げられた。


『おぉ、勇者殿よ! 町を開放してくださいまして、ありがとうございます!』


 ライトがついたかのように、今までの暗闇が嘘だったかのように。光がさす。人工物ではない、太陽が僕達の目に飛び込んできたのだ。


 恐ろしかった。まるで舞台が変わったかのような光景が。何よりも恐ろしかったのは残り一つの『図書館』が既に開放されていたことを、僕達は『誰か』から報告もされずに唯、過ごしていたのだと思うと、恐ろしいにも程があった。


 誰かは何故、僕達に図書館の存在を知らせなかったのだろうか。誰かは何故、裏切りと呼ばれてもおかしくないような行動を取ったのだろうか。


 一心同体。呉越同舟。


 今まで内側の壁と呼んでいた壁際には天高く聳え、果ての見えない巨大な白塔。そして、外側にはぎっしりと建物が並んでいた。隙間などなく、建物同士が繋がり、まるで外に出るのを拒むかのように。


 わからない。この場所は何なんだ? わからない。何故、誰かは隠していたのか。わからない、わからない上に、僕達はいつの間にか舞台に乗せられていた。わからないうちに死んだ人間も居た。わからない、こんな欧州のような街並で人っ子一人歩いていない理由を。


「委員長……一旦、戻ろうぜ」


 五班と呼ばれているグループ。今日、僕がついていったグループだ。女子が五人、男子一人。提案してきたのは男子の那賀島。


「あぁ……幾ら何でも、この状況は異常だ……緊急時は酒場に集合って言っていたから――早く戻ろう」


 終わったのか。それとも始まったのか。それすらもわからない。わからないけれども、僕達は確かに異常の中に居た。それだけは確かに言えること。棺桶を引き摺りながら、僕は酒場への道を歩く。ヨーロッパのような石畳の道を歩き始める。今まで、踏んでいた足元の床が、道が果たしてこんな感じだったのか、それすらもわからない。


 一つだけ、言えることがあるとしたならば。僕は間違えていたのだ。結局のところ。そして、それが致命的で取り返しがつかず、そして、僕が、僕自身が決着をつけなければならないということ。


 致命的。それは命に至る間違いである。

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