こんにちは赤ちゃん。私が魔王です。 その2
「こ、こちらです」
「ありがとうございます」
ハリルのオドオドとした対応に、ほんの少し顔をしかめつつパインは赤ちゃんと対面した。
するとたちまちのうちに笑顔になり感嘆の声を上げた。
「わぁ・・・・・・。可愛い」
「「え?」」
パインと魔王以外の驚きの声が医務室を包んだ。
無理もないだろう。
メイド達にとってパインは完全無欠の鉄のメイド。その存在は神にも等しい存在であるにも関わらず、今眼前で赤ちゃん相手に顔を綻ばせているのだ。
加えて、兵士にとってもパインはクール&ビューティーを体現したような存在であり、ボンテージ衣装と鞭の似合う女王様であるにもかかわらず、赤ちゃんに微笑みかけるという母性に溢れる姿を見せられたために新たなフェチズムに目覚めようとしているのだ。
「何か驚くことでも?」
ジト目というか切れ長の目によって半ば睨みつけるようになってしまっている瞳で、パインはメイド達と後ろの兵士を振り返り、見つめた。
「いえ、何も!」
「なんでもないですぞ、パイン殿」
「ふむ、まあいいです」
あまりにもわざとらしい笑顔で否定されたが、追求は無駄だと悟りパインはとりあえず納得した。
「つうか、俺にも赤ん坊見せてくれよ!」
魔王はメイド達に後ろにどいてもらい、ベッドの横から眠る赤ちゃんを見つめた。
「おー。なんか初めて見たかもしれねえな。生まれて間もない赤ん坊」
「そうなんですか?」
何故かキラキラと輝く瞳でハリルは魔王に問いかけた。
「ああ。俺は兄弟なんていねぇし、メイド達も基本独身だったからな」
「そうだったんですか。で、どうです?初めて見る赤ちゃん。可愛いですよね~」
「そうだな。なんかこう守ってやりたくなるっていうか」
「ですよね! もう本当可愛すぎる!」
両手を頬に当てて、鼻息を荒くしながら、にへら~と蕩けるハリル。
何故だろう。俺の知らないところでメイド達がおかしな変化を遂げている。
魔王は、これからのメイド達の変化に戦々恐々としながら、もう一度赤ちゃんを観察した。
「なあ、赤ん坊って角無いのか?」
魔王は赤ちゃんを見たままの格好で、医務室にいる全員に聞いた。
「いいえ。分かりにくいですが、あるはずですよ」
魔王が不意に放った疑問にパインはそう答えると、魔王の反対側へと回り込んだ。
「ごめんなさいね」
パインは一言呟くように謝罪の言葉を述べ、赤ちゃんを起こさないように細心の注意を払いながら、頭を撫でた。
「多分この辺りに・・・・・・あれ?」
数回頭を撫でると、パインは首を捻った。
パインが首を捻る事など滅多にないため、メイド達と兵士、加えて爺までもが赤ちゃんが寝息を立てるベッドを囲んだ。
すると、魔王の口から途轍もない言葉が飛び出した。
「なあ、この赤ん坊見た時から何と無く思ってたんだけどさ・・・・・・こいつ、人間じゃねーの?」