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東京午前7時

作者: のあ

 時は西暦1997年。

 東京の浜松町に一人の高校生がいた。

 名前は鈴木大輔。17才。

 パソコンオタクだった。

 住んでいる場所は少しいいマンション。

 窓から少しだけ東京タワーが見える。

 大輔は今日も登校する。行き先は世田谷。

 青い制服を着て浜松町駅に走る。

「またやばい。」

 大輔は腕時計を見た。

 時間は朝の7時少し前。

……大輔は学校がつまらなかった。

 友達はいない。

 パソコンが大輔の友達。

 大輔は軽い鬱だった。

 鬱になると朝がきつい。

 大輔は山手線に乗る。

 渋谷で井の頭線に乗り換えだ。

 大輔は今日もぎりぎり学校に間に合った。

 大輔にとって学校は面白い場所ではなかった。

 大輔は誰とも喋らない。

 ただノートを取って机に向かうだけ。

 休み時間はイヤホンで音楽を聴いていた。

 昼ごはんは一人ぼっち。

 大輔はもう慣れていた。

 でも寂しかった。

 教室では一番右の一番前の席に座っていた。

 陽が射すと黒板がよく見えない。

 大輔はあまり成績が良くなかった。

 いじめは無かった。

 大輔は学校で誰にも相手にされない。

 夕方になった。

 大輔の下校時間だ。

 部活には入っていない。

 大輔は少し元気になった。

 鬱の特徴だ。

 大輔はかばんを持って学校を出た。

 大輔は家に帰る。

 唇が渇いていた。

 今日もほとんど口を開かなかった。

 大輔は駅の自動販売機でスポーツ飲料を買った。

 大輔のお楽しみだ。

 大輔は駅のホームでちょびちょびスポーツ飲料を飲んだ。

「もう行く」

 大輔はやっと少し話した。独り言だ。

 電車が来た。

 大輔は家に帰る。

 大輔は家に帰った。

 浜松町の少しいいマンションだ。

「はい、おかえり。」

 母親が言った。

「勉強しなさいよ。」

 母親が言った。

「うるさいなもう。」

 大輔が言った。

 大輔は自分の部屋に向かった。

 よくわからないパソコン雑誌とゲーム雑誌とアニメ雑誌だらけだ。

 作りかけのロボットの模型もある。

 勉強机の横にもう一つ机があった。

 お父さんのおさがりの事務用机だった。

 灰色をしている。

 椅子付きだった。

 事務用机の上には大きなパソコンが1台置いてあった。

 大輔は速攻パソコンの前に向かった。

 大輔はパソコンを起動させる。

 18禁ではないギャルゲーを始めた。

 格闘ゲームだ。

 キーボードを一生懸命叩く。

 あまり上手くはない。

 大輔はパソコン通信はやらなかった。

 親の許可が下りないのだ。

 大輔はずっとゲームをした。

 何度目かのクリアの後だった。

「ちょっと休憩。」

 大輔は立ち上がった。

 食堂に行った。

「お母さんジュースちょうだい。」

 大輔は言った。

「あー、はいはい。またゲームね。ジュースの時はゲームだもんね。まあいいわよ。」

 お母さんはペットボトルから炭酸のレモン味のジュースをプラスチックのコップに注いだ。

「はいはい。」

 お母さんは言った。

 大輔は一気飲みをする。

「きまった。」

 大輔は言った。

 大輔は部屋に戻った。

 大輔はまたゲームを始めた。

 さっきと同じギャルゲーだ。

 大輔は考えた。

 大輔は涙を流した。

「もう駄目だ僕。」

 大輔は言った。

「耐えられない。」

 大輔は言った。

 大輔には恋人がいた。

 名前は麗華。

 幼稚園に入る少し前に自分で考えた理想の恋人。

 それ以来ずっと好きなままだった。

 白肌に黒髪で目の大きな女の子。

 最近は青いセーラー服を着ている姿を考えている。

「麗華。どこにいるんだよ。」

 大輔は言った。

「もう駄目だ。」

 大輔は言った。

 大輔はパソコンの電源を切った。

「勉強なんかしても駄目だ。どうせ大学なんか落ちる。」

 大輔は言った。

「もう寝る。言い訳考えないと。」

 大輔は言った。

 大輔は食堂に向かった。

「お母さん、今日僕具合が悪い。もう寝てもいい。」

 大輔は聞いた。

「顔が違うわね。……寝てみなさい。なんかあったの。」

 お母さんは答えた。

「大したことないよ。今日は寝る。」

 大輔は言った。

 大輔はベッドに向かった。

 大輔は横になった。

 布団を被った。

 6月の夕方だった。

 大輔は自分式のお祈りを考えた。

 大輔は両手を握りしめて大の字になった。

 大輔は小声で言った。

「麗華に会わせてください。神様。」

 大輔は手足を元に戻して力を抜いて目をつぶった。

 大輔は寝た。

 大輔は深夜の3時過ぎに目を覚ました。

 大輔は起き上がった。

「僕はお祈りをした。不思議な夢を見た。」

 大輔は言った。

 大輔は不思議な夢を見た。

 大輔の住んでいるマンションの映像の前に年号が出てきて数字がどんどん進む夢だった。

 夢の数字は西暦2035年で止まっていた。

「本当なのかな。」

 大輔は言った。

 大輔は窓のカーテンを開けた。

……知らない灰色の高層ビルが目の前に立っていた。

 電燈は付いていない。

「おい、なんだよ。なんだよ。」

 大輔は言った。

 すごく驚いた。

「本当になったんだ。麗華がいる。麗華がいる。」

 大輔は言った。

 大輔は泣いた。嬉し泣きだ。

 大輔は玄関に向かって走った。

 青いチェックのパジャマだった。

 大輔は玄関前で少し考えた。

「待てよ、何があるかわからない。」

 大輔は言った。

 大輔は昔買った応急措置セットのバッグを部屋の棚から持ってきた。

「麗華に会いに行くんだ。」

 大輔は玄関のドアを開けて走った。

 エレベーターに向かった。

 1Fのボタンを押した。

 1階に着いた。

 大輔は門の外に出た。

 大通りだった。

 ガタガタ音がしてきた。

 1台のすごく大きな車が走ってきた。

 少し宙に浮いている。

「浮く車だ。浮く車だ。」

 大輔は応急措置セットを握りしめた。

 大型のゴミ収集車だった。

「僕逃げる。」

 大輔は歩道をとにかく走った。

 一人の若い女の子がいた。

「あんた何してるの。」

 女の子はいきなり大輔にビンタをした。

 大輔は転んだ。

「怖いよ。怖いよ。」

 大輔は言った。

 大輔は自分をビンタした女の子の顔を見た。

「……麗華だ、麗華だ。なんでだ。」

 大輔は言った。

 大輔は凄い勢いで泣いた。

 大輔が見た女の子は確かに麗華だった。

 青のワンピースを着て茶色いポシェットを持っていた。

「危ないよ。」

 麗華は言った。

「麗華だ。麗華だ。えっと、あの、こんばんは。」

 大輔は立ち上がって言った。

「こんばんは。待ってたよ。」

 麗華は笑った。

「もう夜も遅いんだよ。家に帰った方がいいよ。」

 麗華は言った。

「そ、そうか。じゃあ僕は家に帰る。」

 大輔は歩いて家に帰った。

 大輔は家の電気を付けた。

 お父さんとお母さんを叩き起こした。

「お母さん、タイムスリップだよ。タイムスリップだよ。」

 大輔は叫んだ。

「あんた何言ってるの。」

 お母さんは寝ぼけていた。

「とにかくベランダに出て。」

 大輔は言った。

 お母さんは寝ぼけたままベランダに出た。

 朝の4時頃だった。

 少し明るかった。

「あれ、はあ。」

 お母さんは驚いた。

 見たことのない高層マンションがあった。

「何よこれ、何の映画。」

 お母さんは言った。

「違うよお母さん、これタイムスリップだよ。」

 大輔は叫んだ。

「何なのよそれ。」

 お母さんは言った。

「今は西暦2035年なんだよ。」

 大輔は言った。

「凄いわね。コーヒーちょうだい。」

 お母さんは言った。

「はい。」

 大輔は急いでボトルコーヒーを持ってきた。

「何なのよこれ。」

 お母さんは言った。

 お母さんはボトルコーヒーを一気飲みした。

 お父さんがベランダに来た。

「なんだこりゃ。」

 お父さんは言った。

「どこだここは。」

 お父さんは言った。

「浜松町だよ。」

 大輔は言った。

「そ、そうか。」

 お父さんは言った。

「タイムスリップってなんだよ。」

 お父さんは言った。

「SFでよくあるでしょ、お父さん。」

 大輔は言った。

「……なるほどな。俺の仕事どうなるんだ。」

 お父さんは言った。頭が良かった。

「なんかあるんじゃないの。」

 お母さんが言った。

 半分以上やけくそだ。

「なんだろな。中途採用かな。」

 お父さんが言った。考えている。

「多分そうよ。」

 お母さんが言った。少し正気に戻っていた。

「頑張って。」

 大輔が言った。

「どうなってんだよ。」

 お父さんが言った。

 お父さんはベランダから身を乗り出した。

「凄い車走ってるな。」

 お父さんは言った。

 銀色のスポーツカーのような車が何台か大通りを走っていた。

「上どうなってるんだ。」

 お父さんは言った。

 お父さんは空を見上げた。

「おい、なんかあるぞ。空中都市だ。」

 お父さんは言った。

 空中に駐車場があった。

 宙に浮いた車が何台も止まっている。

「俺もああいうの欲しいよ。」

 お父さんが言った。

「免許まだ有効かな。」

 お父さんが言った。

「大丈夫じゃないの、せいぜい40年ぐらいよ。」

 お母さんが言った。

「僕夢で見たんだ。」

 大輔は言った。

「それはどうでもいい。しかし凄いな。」

 お父さんは言った。

「今起きて良かった。とにかく役所だ。それから職安。」

 お父さんは言った。

 お父さんの発想は早かった。

「おい、おまえ、スーパーマーケット調べろ。多分インターネットは使える。」

 お父さんは言った。

 お母さんはノートパソコンの前に走った。

 LANケーブルだ。

 お母さんはノートパソコンを起動した。

 インターネットのアイコンをクリックした。

「通じないじゃないの。」

 お母さんは言った。白い画面が映る。

「じゃあその辺の散歩だ。」

 お父さんは言った。

「ちょっと怖いわね。行ってくるわよ。」

 お母さんは言った。お母さんは散歩に行った。

「おい大輔、多分学校あるぞ。せいぜい40年だ。言い訳考えろ。」

 お父さんは言った。

「わかった。病気だったことにする。」

 大輔は言った。

「お父さんは役所だ。帰ってくるまで待ってろ。いろいろ変えてくる。」

 お父さんは言った。

 お父さんはスーツを着て髪を整えた。

 朝の5時頃だった。

「鉄道の下見もするぞ。」

 お父さんは言った。

 お父さんは出掛けた。

「……どうしようかな。」

 大輔は言った。

「さっきは怖かったな。」

 大輔は言った。

「麗華だ。麗華がいるんだ。」

 大輔は叫んだ。また嬉し泣きだ。

 大輔は歯磨きをした。

「西暦2035年の歯磨き粉ってどんなものなんだろう。」

 大輔は言った。

 大輔は部屋に戻ってラジオのスイッチを入れた。

 何も聞こえない。

「駄目だな。」

 大輔は言った。

 大輔はテレビをつけた。

 ノイズの画面が映った。

「これも駄目だ。」

 大輔は言った。

「冷蔵庫がやばい。」

 大輔は言った。

 冷蔵庫の電源は切れていた。

「食べ物が腐る。」

 大輔は言った。

 大輔は焦った。

「クーラーボックスが必要だ。」

 大輔は言った。

「お母さんが帰ってきたらすぐ連絡だ。」

 大輔は言った。

 大輔はガスコンロのスイッチを入れた。

 火が付かない。

「これも駄目だ。頑張ってカップラーメンを作るんだ。」

 大輔は言った。大輔は困った。

 お母さんが帰ってきた。

「スーパーあったわよ。」

 お母さんが言った。

 お母さんはお寿司の弁当を3つ持っていた。

「お母さん大変だよ。電気系統とガス全部使えないよ。」

 大輔は叫んだ。

「あら、駄目なのね。多分水道も無理ね。」

 お母さんは言った。

 お母さんは考えた。

「多分このマンション全部ね。自治会を開かなきゃ。」

 お母さんは言った。

「お父さんが帰ってきたら言っておくわ。大問題ね。」

 お母さんは言った。

 お母さんは考えた。

「多分市役所が動いてくれるわ。」

 お母さんは言った。

「そうだといいな。」

 大輔は言った。

「もう学校に行きなさい。少し違うわよ。電車が浮くわよ。」

 お母さんは真剣な顔で言った。

「わかった。」

 大輔は言った。

 大輔は制服に着替えてお寿司の弁当を食べた。

「行ってくる。」

 大輔は言った。

 大輔は教科書類が入った学校のかばんを持って出かけた。

 大輔は考えた。

「東京タワーどうなったんだろう。」 

 大輔は言った。

 大輔は東京タワーが心配だった。

「確かこの辺から見えるはずなんだ。」

 大輔は言った。

 大輔は大通りの角に立って西を見た。

「見えないな。おかしい。」

 大輔は言った。

 大輔は心配だった。

 大輔は芝公園に走った。

「公園はまだある。ここだ。」

 大輔は叫んだ。

「無い。無い。東京タワーが無い。」

 大輔は叫んだ。

 大輔は泣いた。

……東京タワーは無かった。

「東京タワーが無いよ。東京タワーが無いんだよ。」

 大輔は泣いた。

 大輔はショックだった。

 大輔はとぼとぼ芝公園を歩いた。

「かなり変わったんだな。」

 大輔は言った。

「東京タワーが無い。東京タワーが無い。」

 大輔はつぶやいた。

 大輔は時計を見た。

 もうすぐ朝の7時だった。

「まずい、遅れる。」

 大輔は泣きながら浜松町駅に走った。

 浜松町駅はかなり変わっていた。

 西口がひとつあるだけの少し大きなガラス張りの大きな建物だった。

 入口で電飾の看板が宙に浮いている。

 コンビニエンスストアの看板だった。

 チカチカ点滅している。

 大輔は改札前で倒れこんだ。

「東京タワーが無い。東京タワーが無い。」

 大輔は床を叩いた。

「何やってんだあいつ。」

 一人の高校生が言った。

 大輔と同じ高校の生徒だった。

 二人居た。

 もう一人が言った。

「俺知らない。ほっとけほっとけ。」

 冷たかった。

 ずいぶんあっさりしていた。

 通り過ぎていった。

 大輔は聞いていた。

「昔はこんなんじゃなかった。昔はこんなんじゃなかった。」

 大輔は泣きながら床を叩き続けた。

「どうしたの。」

 一人のセーラー服を着た女子高生が大輔の肩を叩いた。

……麗華だった。

 大輔は立ち上がって振り向いた。

「麗華だ。麗華だ。」

 大輔は言った。

 大輔は泣き止んだ。

「そうだよ。私が麗華だよ。昨日はごめんね。待ってたよ。」

 麗華が言った。

「全部わかるよ。」

 麗華が言った。

 大輔は嬉し泣きをした。

「なんとかして東京タワー。」

 大輔は叫んだ。

 麗華は黒い腕時計を見せた。

 午前7時だった。

「これから毎日この時間にここで会おうね。」

 麗華は言った。

「うん。」

 大輔は答えた。

 麗華は言った。

「ショックだよね。ちょっと話そうよ。」

 麗華は言った。

「付いてきて。」

 大輔は麗華に付いていった。

 麗華は駅ビルに入って行った。

 石のようなもので出来たエスカレーターがあった。

 麗華は地下一階に向かった。

「今のエスカレーター何。」

 大輔は麗華に聞いた。

「最近のエスカレーターだよ。このデザイン流行ってるの。」

 麗華は答えた。

 麗華は地下一階の廊下を歩いた。

 大輔は付いて行った。

 いろいろなお店がある。

 ラーメン屋さんがあった。

 たいして1995年と変わらない店だった。

 ショーウインドーの模型がホログラフィーなところだけ違う。

「ここ気になる。」

 大輔が言った。

「こっちだよ。」

 麗華が向かいの店を指さした。

 小さなカフェだった。

 麗華と大輔はカフェに入った。

「ここ少しレトロ。昔からあるの。ここならいいんじゃないかな。」

 麗華が言った。

 大輔は店の中に入った。

 普通の喫茶店だった。

 大輔は嬉し泣きをした。

「落ち着いて。」

 麗華が言った。

「ジンジャーエール。」

 大輔が言った。

「私が頼むよ。私はモカラテ。」

 麗華が言った。

 すぐに店員が来た。

 麗華はジンジャーエールとモカラテを注文した。

「今月はサービス月間です。おまけでワッフルが二つ付きます。800円です。」

 店員は言った。

 大輔と麗華は水を飲みながらしばらく待っていた。

 ジンジャーエールとモカラテと、チョコレートソースがかかったワッフルが二つ運ばれてきた。

「まず話そうよ。」

 麗華が言った。

「東京タワーはどうして無いの。」

 大輔が言った。

 麗華が少しどもりながら答えた。

「……あれは無くなったの。必要が無くなったの。」

 大輔は言った。

「そんなことあるわけない。なんとかならないの。」

 麗華は少し考えて答えた。

「……わかった。私署名運動を起こす。大輔も学校でやってみて。」

 大輔は言った。

「わかった。学校で俺頑張るよ。」

 大輔はジンジャーエールを一気飲みした。

 ワッフルをがつがつ食べる。

「今日のお話はここまで。もう学校だよ。」

 麗華は言った。

「わかった。俺頑張る。麗華も頑張って。」

 大輔は元気になった。

 麗華は急いでモカラテを飲んでワッフルを食べた。

「そろそろ店を出よう。」

 麗華が言った。

「うん。」

 大輔は答えた。

 大輔と麗華は会計を終えて店を出た。

「じゃあまた明日ね。帰り道はわかるでしょ。」

 麗華は言った。

「期待してるよ。俺も頑張る。」

 大輔は走って一階改札に向かった。

 麗華はゆっくり歩いた。

 大輔が一階に行った。

 麗華は見ていた。

 少し泣いていた。

 大輔は電車に乗った。

 少し丸い形をしていて何両もあった。

 「ゴー」という音がした。

 宙に浮いて走った。

 大輔は叫んだ。

「うわぁ。」

 大輔は電車の窓を見た。

 下に沢山の建物が見える。

 車も浮いている。走っている。

「すごいな。」

 大輔は言った。

「次は渋谷、渋谷。」

 車掌のアナウンスが聞こえた。

「降りないと。乗り換えだ。」

 大輔は言った。

 大輔は一生懸命案内板を見て乗り換えた。

 また宙に浮く電車だ。

「随分速いな。」

 大輔は言った。

 大輔は学校に着いた。

 変わっていなかった。

 速攻事務室に行った。

「これなんです。」

 大輔は1995年の学生証を見せた。

 事務員のお姉さんが出てきた。

「何ですかこれは。一応本物ですね。休学してたのかな。」

 事務員のお姉さんはタッチパネル式の小さなノートパソコンを開いた。

 折り畳み式だ。

「調べてみるよ。」

 事務員のお姉さんは言った。

「居るわね。とんでもない年数の休学。行方不明扱いだわ。」

 事務員のお姉さんは言った。

 事務員のお姉さんは困った。

 上司のおじさんが出てきた。

「通わせてやれ。警察に見つかったって電話しろ。」

 上司のおじさんは言った。

「はい。もういいよ。授業に行きなさい。教科書類のセットを渡しますよ。」

 事務員のお姉さんは言った。

 大輔はタッチパネル式の小さなノートパソコンをひとつ貰った。

 大輔は教室に走った。

 大輔は教室に着いた。

 ちゃんと上履きがあった。

 下駄箱には「鈴木大輔」と書いてあった。

 担任の先生がいた。

 数学担当だ。

 名前は石田。

「大輔君だね。自己紹介をしてください。私は石田。担任ですよ。」

 石田先生は言った。

 朝のホームルーム中だった。

 大輔は教壇の前に立った。

「僕は鈴木大輔です。ジャンプできるよ。」

 大輔は言った。軽くジャンプをした。

 大輔は頑張った。

 軽い拍手が起きた。

 授業が始まった。

 生物の先生が大きな白いホワイトボードを出してきた。

 大輔は小さなノートパソコンを取り出した。

「はい、今日は維管束。」

 先生は言った。

「あなたは初めてですね。大輔君。私は田村と言います。

維管束はわかるかな。これだよ。」

 先生が何か白い大きなホワイトボードの横のボタンを押した。

 大きな白いホワイトボードに維管束の写真が映った。

 大輔は立ち上がった。

「緊張するなあ。茎だと思います。少しやりました。

真ん中が大変なんですよね。」

 大輔は言った。

「まあいいですよ。真ん中が大変なのは合っています。

水を運ぶんですよ。大変なんですよ。よく出来ました。

水を覚えてくださいね。周りは栄養を運ぶんですよ。」

 先生は答えた。先生はウインクをした。やさしいおじさんだった。

 先生は続けた。

「道管と師管と言います。」

 先生はまた大きな白いホワイトボードのボタンを押した。

 維管束の説明図が出てきた。さっきの写真は消えていた。

 先生は言った。

「大輔君、これが葉っぱに広がったら模様が出来ますね。

それを指して何というのかな。大輔君答えてみましょう。」

 大輔は困った。

「……多分化石みたいなものです。」

 大輔はしどろもどろで答えた。

「全然違いますよ。何を言ってるんですか。」

 先生は怒った。

 先生は白いホワイトボードのボタンを押した。

 「こらこの野郎。」という大きな赤い文字が出てきた。

 大輔はわんわん泣いた。

「葉脈って言うんですよ。覚えてくださいね。泣かないで。まあまあ。」

 先生は言った。先生はウインクをした。

 先生は言った。

「今のは強烈でしたね。もう座っていいですよ。

大輔君はいろいろ知ってるいい子ですよ。

ちゃんと化石の映像をどこかで見てるんですよ。

さわったのかもしれないんですよ。

大輔君すごいですね。」

 先生は大輔を褒めた。

 大輔は座った。大輔は泣き止んだ。

 大輔は小学生の頃に図鑑を読んだのだ。それで葉の化石を知っていたのだ。

 軽い拍手が起きた。

「泣くなよ。」

 大輔の隣の席の男子が大輔に声を掛けた。

「俺、史郎って言うんだ。俺、恐竜好き。仲良くしような。」

 太った男子だった。少し泣いていた。

「うん。」

 大輔が言った。大輔が史郎の顔を見た。

「そんなに見るなよ。授業中だよ。」

 史郎は言った。

 授業が終わった。

 昼休みだ。

 大輔は史郎と弁当を食べた。

 大輔はお母さんが買ってきたスーパーのお弁当。

 から揚げがメインだった。

 史郎の弁当もお母さんが作っていた。

 カレー弁当だった。

 すごく大きなステンレス製の弁当箱にカレーライスが入っていた。

 史郎が言った。

「どこに住んでるの。」

 大輔は答えた。

「浜松町だよ。」

 史郎は言った。

「いい所だな。俺は杉並区。これ食べるか。」

 史郎は大輔にカレーの茹でた牛肉を一つくれた。

 大きかった。

 大輔は食べた。

「うん、しっかりしてる。おいしいね。」

 大輔は言った。

 大輔は史郎にから揚げを一つあげた。

「こんなのもらっていいの。」

 史郎は言った。

 史郎は一気に食べた。

「これいいやつだな。」

 史郎は言った。

 史郎はにっこり笑った。

 大輔が言った。

「……ちょっと話があるんだ。」

 史郎が言った。

「なんだよ。」

 大輔が言った。

「東京タワーが無いんだ。」

 史郎は言った。

「あれ、とっくに無いよ。昔聞いたことあるよ。」

 大輔は言った。

「直そうよ。署名活動だ。」

 史郎は言った。

「別にいいよ。」

 昼のお弁当の時間が終わった。

「はい、紙と鉛筆。僕も持ってる。」

 大輔は史郎に紙と鉛筆を渡した。

 大輔も紙と鉛筆を持っている。

 ノートが台紙だ。

「これから東京タワー復旧の署名活動だ。」

 大輔は言った。

「うーん、まあいいや。」

 史郎は言った。

 大輔と史郎は二人でトイレの前の廊下に立った。

 史郎が言った。

「東京タワーって知ってるか。建てたかったらこれに名前書いて。」

 二人の男子が寄ってきた。

 一人が言った。

「古いなー。何やってるんだ。俺書かないよ。」

 もう一人が言った。

「僕も不賛成。ネタが古すぎる。」

 史郎は言った。

「なんだよー。いいじゃないか。書けよ。」

 さっきの一人が言った。

「なんで今時東京タワーなの。」

 史郎が言った。

「大輔に聞けよ。」

 大輔は答えた。

「東京タワーは東京のシンボルだ。必要なんだ。」

 大輔の目は真剣だった。

 男子が答えた。

「そんなのいらないんだよ。俺達はそんなのいらない。東京はもう壊れた。」

 大輔が驚いて言った。

「何が起きたんだよ。東京に何が起きたんだよ。」

 男子は答えた。

「原子炉が壊れたんだよ。今の東京は半分スラム街みたいなものだ。大輔は知らないんだね。」

 大輔は答えた。

「じゃあやっぱり必要じゃないか。」

 男子は答えた。

「そんなものいらない。

……みんなもう諦めた。」

 二人は歩いて教室に行ってしまった。

 一人の男子がそれを見ていた。

 名前は敏郎。

「僕、敏郎って言うんだ。悲しいね。一通り見てたよ。

やめなよ大輔。もう無理なんだよ。

僕は相談役で有名。

ちゃんと答えるよ。

もうそんなものいらないんだよ。

東京はもう世界の中心じゃないんだ。

いらないんだよ。

わかってほしい。」

 敏郎は渋い顔をしていた。

 小柄で色白の男子だった。

 大輔は泣いた。

 史郎は困っていた。

 大輔は言った。

「……なんだよみんな。酷過ぎるよ。もういいよ。」

 大輔は泣いた。

「もういいのか。じゃあやめような。」

 史郎が言った。

 署名は一つも集まらなかった。

 昼休みが終わった。

 大輔の心は暗かった。

 敏郎の言葉が胸に響く。

 でも、大輔の心は折れなかった。

 大輔は授業を聴きながら考えていた。

 大輔は独り言を言った。

「なんとかしてやるんだ。東京をなんとかしてやるんだ。なんとかするんだ。」

 同じ日。

 麗華は高校に着いた。

 麗華も東京タワーの署名活動を考えていた。

 大輔との話し合いから思いついたのだ。

 朝のホームルームの少し前。

 麗華はいきなり教壇に立った。

 手にはノートを持っている。

 麗華は言った。

「いい話があるよ~。ちょっとみんな集まって~。」

 女子が大勢教壇の前に集まってきた。

 麗華の在籍している高校は九段下にある女子校だった。

 一人の女子が言った。

「何この絵。」

 彼女の名前は夕夏。

 麗華は言った。

「東京タワーだよ。レトロでいいよ~。」

 夕夏は言った。

「面白いね。かわいい。」

 麗華は言った。

「これ立ててほしいと思う人はここに名前と住所を書いて。」

 夕夏が言った。

「じゃあ書いてみる。」

 夕夏は署名した。

 いろんな女子がどんどん東京タワーの絵を見ながら署名する。

 東京タワーの絵は麗華が昔の写真から画像処理ソフトで作ったものだった。

 教室の生徒全員が東京タワー再建の企画に署名した。

 麗華は言った。

「みんなでこれやろうよ。セット作ろうよ。この絵と用紙の型をカラーコピーして。」

 教室の生徒全員が賛成した。

 全校中に署名のセットが広まった。中学校までだ。

 口コミで麗華の台詞が広まった。

 昼休みには全校生徒が署名した。

「やった。」

 麗華は言った。

「大輔に報告してやろっと。」

 麗華は言った。

……次の日の朝。

 大輔は起きた。

 水曜日だった。

「署名活動は失敗だった。どうしよう。

そうだ、麗華との待ち合わせだ。

相談してみよう。」

 大輔は言った。

……その頃の麗華。

 お母さんが弁当を作っていた。

 麗華は朝ご飯を食べている。

「お母さん、今日も大輔に会うよ。」

 麗華は言った。

 麗華のお母さんは言った。

「あら、あの子ね。面白いらしいわね。

まあ頑張りなさい。」

「うん。東京タワーの話なんだ。」

 麗華は言った。

 麗華の食事が終わった。

「もう学校行くよ。大輔にも会う。」

 麗華は言った。

「はいはい。」

 お母さんは言った。

「行ってらっしゃい。勉強しっかりやりなさいよ。」

 お母さんは言った。

「行ってきまーす。」

 麗華は言った。

 麗華は家から出た。

 麗華の家は浜松町駅の近くのマンションだった。

……麗華の家は大輔の家の隣にあった。

 麗華は浜松町駅に着いた。

 朝の7時少し前だった。

「大輔に会わないと。」

 麗華は言った。

「表玄関、表玄関。」

 麗華は言った。

 麗華は浜松町駅の表玄関に行った。

 大輔が立っていた。

「こんにちは。あ、おはよう。」

 大輔は言った。

 大輔の顔はひきつっていた。

「何かあったのかな。まあ来て。」

 麗華は言った。

 昨日と同じ喫茶店に大輔と麗華は行った。

「私ミルクティー。」

 麗華が言った。

「俺は、えっと、ミルクティー。」

 大輔が言った。

 ミルクティーが二つ運ばれてきた。

「何があったのかな。」

 麗華が言った。

「……東京タワーの署名活動に失敗したんだ。」

 大輔は言った。

「私は成功したよ。学校内全部だよ。全員署名したよ。」

 麗華が言った。

「やった。やった。」

 大輔は叫んだ。

「落ち着いて。」

 麗華は言った。

「問題はこれから。署名の数が全然足りないの。

家に帰ってから調べたの。東京タワーの書類。」

 麗華が渋い顔で言った。

「よし、俺がなんとかする。」

 大輔は言った。

 ただ興奮して言っただけだった。

「何するの。」

 麗華は言った。

「えーっと、何しようかな、直接都庁に行ってみる。」

 大輔は言った。

「それ多分無理があるよ。」

 麗華は言った。

「俺は直訴するんだ。」

 大輔は言った。大輔は興奮していた。

「……わかった。私も付いていく。」

 麗華は言った。

 麗華の目は真剣だった。

「落ち着いて聞いて。大輔。都庁には手続きが必要なの。」

 麗華ははっきり言った。

「そんなものいらないんだ。俺は直接言う。都知事に言う。」

 大輔は叫んだ。

 ミルクティーを一気飲みした。

「全部都知事なんだ。都知事が悪いんだ。俺は行ってやる。」

 大輔は言った。

 大輔はミルクティーを置いた。

「しっかり聞いて大輔。都知事に会うのは大変なんだよ。」

 麗華は言った。麗華の目は真剣だった。

「じゃあ史郎と相談する。敏郎とも相談する。」

 大輔は言った。

「誰なのそれ。」

 麗華は言った。

「学校で出来た友達だよ。俺は真剣だ。」

 大輔は渋い顔をしていた。

「そんなことじゃ都知事には会えないよ。落ち着いて大輔。」

 麗華は少し大きな声で大輔に言った。すごく真剣だ。

「俺は会うんだ。会うんだ。」

 大輔は言った。

「……わかった。もう時間がないね。今日は相談してみたらいいよ。」

 麗華は言った。

 二人でお会計をした。

「ありがとうございました。毎日ありがとね。」

 ホステスのお姉さんが言った。

「少し急いでるからまた今度。」

 麗華は言った。二人で店を出た。

「じゃあまた明日。」

 麗華は言った。

「うん。俺は頑張る。」

 大輔は言った。

「これどうなっちゃうんだろう……。」

 麗華は言った。

……大輔の高校。

 朝の授業前の休み時間。

 大輔は隣の席の史郎に切り出した。

「すごい話があるんだ。都庁に会いたいんだ。どうしたらいい。」

 大輔は言った。

「何言ってるんだ、よくわかんないな。予約を取ればいいんじゃないのかな。」

 史郎は答えた。

「何しに行くんだ。」

 史郎は大輔に聞いた。

「東京タワー再建の直訴だよ。」

 大輔は答えた。

「そうか……。考えたんだな。生徒会に予約の取り方聞いてみなよ。敏郎がいいよ。」

 史郎は言った。

 大輔は立ち上がった。

「敏郎はどこの教室なんだ。」

 大輔は言った。

「……ドアを出てすぐ左隣。」

 史郎は言った。驚いていた。

 大輔は敏郎に会った。

「昨日はありがとう。でも俺は諦めない。

敏郎は生徒会なんだろ。

都知事に会わせてくれ。

出来るだけ早くしてくれ。」

 大輔は少し大きな声で言った。

 敏郎は顔を上げて答えた。

「うーん、東京タワーの話かな。」

 敏郎は言った。

 敏郎はしばらく考えた。

「別に悪い話じゃないからね……。

生徒会長には言ってみるよ。

名前は廣田っていうの。

あとは先生次第。

今日言えばいいんだね。

理由は東京タワーの再建運動の直訴でいいんだね。」

 敏郎は大輔の気迫に負けた。

 敏郎は小さなノートパソコンを取り出した。

 廣田の学籍番号をタイピングしてチャットを始めた。

「知事に東京タワーの再建の直訴をしたい人がいるんだけどやってもいいかな。急いでる。」

 こう書いてあった。

 廣田から返事が返ってきた。

「特に問題は無い。今日の予定に入れる。あとは学校サイドの許可だけ。」

 こう書いてあった。

「こうなったよ。」

 敏郎は言った。小さなノートパソコンの画面を大輔に見せた。

 大輔は満足した。

「すごいこと考えるね。」

 敏郎は言った。

「俺は言ってやるんだ。」

 大輔は答えた。

「廣田に会いな。君と同じクラスにいるよ。」

 敏郎は言った。

「わかった。」

 大輔は答えた。大輔は自分の教室に戻った。

「廣田ってどこにいるの。」

 大輔は史郎に聞いた。

「一番前の真ん中の席だよ。今座ってる背の高い男。大輔すごいな。」

 史郎は答えた。史郎はまだびっくりしていた。

「廣田っていうのか。俺は大輔。敏郎と連絡を取った。学校の許可を取ってくれ。」

 大輔が廣田に言った。

 廣田が大輔の目を見た。体格のいい痩せた男子だった。

……この学校の生徒会長だ。

「本当にやるのかな。」

 廣田は低い声で言った。

「言いに行くんだ。」

 大輔は言った。

「笑い話じゃないんだよ。真面目にやりなよ。これから職員室に行ってくる。」

 廣田は言った。廣田は立ち上がった。

 早歩きで職員室に行った。

……約10分後。

 廣田が戻ってきた。

 廣田は大輔に言った。

「許可が下りたよ。うちの学校は強い。

インタビュー時間は10分。大輔君は今日の午後1時30分に都知事にインタビュー。

敏郎が付いていく。僕も付いていく。すごい根性だね。」

 廣田は大輔に感心した。

 廣田はこういう活動が好きだった。

「1時30分か。よし、用意するぞ。」

 大輔は言った。

 大輔はノートに台詞を書き始めた。

 勉強どころではなかった。

1時になった。

 大輔は職員室に呼ばれた。呼んだのは廣田だ。

 生徒会が集まっていた。

「都庁に出掛けるよ。」

 廣田が言った。

「よし。」

 大輔が言った。

 大輔と生徒会は電車に乗った。

 やたら速い。

 空を走る。

「新幹線に似てるんだよこれ。」

 敏郎が言った。

「とにかく早く。」

 大輔が言った。

 都庁前に電車が止まった。

 大きな卵型のガラス張りの建物だった。

「着いたよ。」

 廣田が言った。

 生徒会と大輔は都庁に入って行った。

 一階の受付嬢が言った。

「あ、はい。こんにちは。何ですか。」

 やたら痩せていた。長髪だった。

「東京タワーを立てるんだ。」

 大輔は言った。

「え、あ、はい。予約がありますね。6階の知事室にどうぞ。」

 生徒会と大輔は知事室に向かった。

 廊下に都知事が立っていた。

 都知事は言った。

「あ、君達、ちょっと困るんだよ。打ち合わせしようよ。」

 都知事は痩せていた。顔が土気色だった。

 都知事は言った。

「早く言えばお金が無いの。私はどうでもいいんです。お金がないんです。」

 大輔が言った。

「なんですかそれ。なんでお金が無いんですか。」

 都知事は答えた。

「財政が破たんしてるんですよ。何の予算も都には無いんですよ。それだけです。」

 大輔は言った。

「じゃあどこが街を作ってるんですか。」

 都知事は答えた。

「都民が頑張ってるんですよ。都庁は飾りです。私は飾りです。

東京はもう壊れてるんです。都民が自分で頑張って東京は持ってるんです。」

 大輔は言った。

「なんだそれは。」

 都知事は言った。

「30分になりますね。インタビューをしましょう。」

 生徒会と大輔は知事室に入って行った。

 都知事も入って行った。

 都知事の秘書が言った。

「インタビュー時間は10分です。」

 インタビューが始まった。

 大輔は言った。頑張って考えた台詞だ。

「これは新聞に載る大事件です。」

 都知事はしばらく考えるふりをして答えた。時間稼ぎだった。

「なんですか。」

 大輔は台詞を言った。

「東京にシンボルがありません。」

 都知事は焦った。知事は泣いた。

 都知事は答えた。

「それは私の責任ではありません。」

 大輔は叫んだ。台詞はもう関係ない。

「知事ならなんとか出来るはずなんだ。都民を動かせよ。」

 都知事は泣きながら答えた。

「放送に出ます。あなた達の学校に行きます。セットがありますよね。」

 敏郎が言った。

「東京用の放送セットなら一式ありますよ。」

 大輔は一生懸命署名の文章をメモ帳に書いていた。

 大輔が言った。

「これにサインして。」

 「私は東京タワー再建運動に協力します。」と書いてある。

 都知事はサインした。

 秘書が泣いていた。

 秘書が言った。

「インタビューは終わりです。」

 大輔と生徒会は帰って行った。

 大輔はノートを持っていた。

「一応成功だ。」

 大輔は言った。

 廣田が言った。

「なかなかやるな大輔。」

 敏郎が言った。

「ここまでやるとは思わなかったよ。都知事が学校に来るんだね。」

 大輔は泣きながら答えた。

「絶対そうなるんだ。運動を起こすんだ。」

 大輔は学校に帰った。

 大輔は職員室で言った。

「都知事が来るのは明日だ。」

 職員はびっくりした。

 廣田が言った。

「私達がなんとかします。」

 職員の一人が言った。

「頼んだよ。」

 廣田が言った。

「放送用のセット一式を貸してください。明日です。視聴覚室です。」

 職員が言った。

「あー、はい。大変なことになったな。」

 職員は驚いていた。呆然自失だ。

 敏郎が言った。

「大輔が責任を取ります。本人はそのつもりです。」

 校長が出てきて言った。

「大丈夫だ。うちの学校は強い。金がある。」

 校長は堂々としていた。

 史郎が職員室に来た。

「大輔やったな。もう噂だぞ。」

 史郎は興奮していた。

 大輔が言った。

「史郎も出るんだ。」

 史郎が言った。

「別にいいよ。何言えばいいのかな。」

 大輔が言った。

「脚本は俺が書く。」

 史郎が言った。

「任せたよ。」

 史郎はぶらぶら教室に帰って行った。

 授業が終わった。

 大輔は家に帰った。

 一生懸命会見の脚本を書いた。

「これはお父さんに見つかったらまずいな。早く書こう。」

 大輔は急いで脚本を書いた。

 ノートに鉛筆だ。

 何度も消しゴムで消した。

 脚本を書くには5時間ぐらいかかった。

「ご飯だ。」

 大輔は言った。

 もう夜の11時だった。

 大輔は部屋に鍵をかけていた。

 家族は寝ていた。

 食堂にご飯とお味噌汁と野菜の炒め物と焼き鯖があった。

 大輔は急いで食べた。

「明日は大変だ。目覚まし時計を5時にセットだ。」

 大輔は目覚まし時計を5時にセットした。

 大輔はパジャマに着替えて寝た。

 5時になった。

 目覚まし時計がジリジリ鳴った。

 大輔は起きた。

 大輔は目覚まし時計のボタンを押した。

「台本の最終チェックだ。」

 大輔は叫んだ。

 大輔は机の上のノートを開いた。

 大輔は寝ぼけながらずっと読んだ。

「出来はいいな。あとは知事がしっかりするだけだ。栄養剤を飲ませよう。」

 大輔は考えた。

 大輔は近所のスーパーマーケットに行った。

 カフェインがたくさん入った栄養ドリンクを一本買った。

 散々探した。

 お母さんの声がした。

「大輔、朝ご飯よ。」

 大輔は朝ご飯を食べた。

 卵かけご飯とお味噌汁と野菜炒めだった。

 大輔は急いで食べた。

 6時30分になった。

「行ってきます。」

 大輔は浜松町駅に向かった。

 表玄関で麗華が待っていた。

「麗華か。」

 大輔が言った。

「顔が違うね。」

 麗華が言った。

「まず喫茶店に来て。」

 麗華が言った。

 7時だった。

 大輔と麗華は浜松町駅のいつもの喫茶店に行った。

「これを見て。」

 大輔は台詞のノートを見せた。

 麗華が読んだ。

「これ3行しか無いよ。これじゃ駄目だよ。」

 麗華の目は真剣だった。

 麗華は読んだ。

「私は都知事です。東京タワーを再建しましょう。みんな頑張りましょう。」

 麗華は読み終わった。

「駄目だよ。これじゃ効かないよ。」

 麗華は言った。

「どうしよう。文芸部に頼んでごらん。即興だよ。」

 大輔は泣いた。

 嬉し泣きだ。

「その手があったか。タッグを組むんだ。」

 大輔は言った。

 大輔はまた言った。

「もう店を出る。収録が始まる。CMなんだ。」

 麗華は焦った。

「それいきなりだよ。大事件なんだよ。」

 大輔は言った。

「大事件でいいんだ。CMを東京中に流すんだ。」

 大輔は走って喫茶店を出ていってしまった。

 オレンジジュースは飲みかけだった。

 麗華はジンジャーエールを頼んでいた。

 麗華がお金を払った。

「いつもありがとね。」

 レジのお姉さんが言った。

「どうなるんだろう……。」

 麗華は心配だった。

 麗華は学校に行った。

 大輔も学校に行った。

 大輔は言った。

「ホームルームの時間が収録なんだ。8時30分からだ。」

 大輔は小さなノートパソコンを開いた。

 文芸部のボタンをクリックした。

「部長早く教室に来てくれ。鈴木大輔だ。」

 大輔はチャットをした。

「俺は斎藤。文芸部の部長。噂は伝わってる。すぐ行く。」

 返事が来た。

……数分後。

 斎藤が大輔の教室に来た。

 大輔が言った。

「これに加筆してくれ。」

 大輔は台詞のノートを出した。

 大輔は言った。

「もう時間が無いんだ。8時20分までに仕上げてくれ。」

 斎藤は言った。

「わかった。もう無理やりだ。10分で書く。」

 斎藤はすぐに書いた。全部即興だった。

「こんなんでいいかな。」

 斎藤は言った。

「上出来だ。最高だ。」

 大輔は台詞を読んで言った。

「セットを持たせる。古い東京タワーの絵葉書がある。」

 斎藤は言った。

 8時25分だった。

 大輔は視聴覚室に行った。

 知事と秘書と廣田がいた。

 文芸部員もいた。

 大輔は知事に言った。

「これを喋ってください。」

 大輔はノートを見せた。

 知事は言った。

「俺、俺、乞食になっちゃうよ。」

 大輔は言った。

「お前はずるをしたんだ。これでいいんだ。まあ飲め。」

 大輔は栄養ドリンクを出した。

 知事は飲んだ。

 知事はおかしくなった。

「なんだこれ。やたら目が覚めるな。やる気が出る。」

 知事は言った。

 廣田が言った。

「CMの収録だ。」

 秘書は泣いていた。

 収録が始まった。

 文芸部員は知事に東京タワーの絵葉書を持たせていた。

 知事は黒いスーツに青いネクタイをしていた。

 知事は校長の椅子に座った。

 生徒会が持ってきたのだ。

 知事はマイクを持った。

「収録スタート。」

 大輔が言った。

 知事は言った。

「私は知事です。

東京タワーを再建しましょう。

みんな頑張りましょう。

この絵葉書を見てください。

これがまた建ちます。

そういうことにしましょう。

私は都庁舎を売ります。

お金になります。

大変なことになりました。

私は都庁舎を売る契約書にサインをします。

みんな頑張って再建してください。

あとは皆さん次第です。

CMはここまでです。」

 大輔がカメラのスイッチを切った。

 秘書はボロ泣きだ。

「少し台詞と違ったけどまあいい。」

 大輔は言った。

 知事は酔っていた。

「俺帰るよ。」

 知事は言った。

 知事と秘書は帰って行った。

「大成功だ。」

 廣田が言った。

「あとはテレビ局に撒くだけ。」

 文芸部員が騒いだ。

 大輔は嬉し泣きだ。

 ホームルームの時間が終わった。

「授業だぞ。」

 廣田が言った。

 大輔は半径3センチぐらいの白く光るディスクを握りしめていた。

 次の日だった。

 大輔は早起きした。

 大輔はテレビを見た。

 壁掛け式の立体テレビだった。

 お父さんが最近買ってくれたものだった。

 朝のニュースがやっていた。

 大輔が言った。

「こうやって見るんだよな。」

 大輔は椅子に登った。

 アナウンサーの頭が机の上に浮いているのが見える。

 男の人だった。

 大輔が言った。

「こいつ今回もつむじ隠してる。」

 大輔は笑った。

 CMが始まった。

 大輔が言った。

「予定通りだな。朝の5時45分。出勤少し前だ。」

 大輔が考えた時間だった。

 全テレビ局で流れるのだ。

 きっちり一週間だ。

 都知事のCMが始まった。

 学校での収録そのままだった。

 大輔が言った。

「うん。上出来だ。ちゃんと出来てる。」

 CMは5分間続いた。

 文芸部と生徒会の演出だった。

 大輔が撮った収録の後に東京タワーの映像がずっと映っていた。

 ヘリコプターで撮った昔の映像だった。ぐるぐる左回りにまわる。

 大輔が言った。

「なんだよこれ。そのまんまじゃないか。平たいけど一応飛び出てるな。」

 青空と雲が綺麗だった。

 東京タワーの赤い色が映える。

 大輔が言った。

「いいものを作ったな。俺やるな。」

 大輔は笑った。

 大輔の携帯電話が鳴った。

 平たい腕時計だった。

 大輔は開いた。

 麗華の顔が映っていた。

 麗華の声が響いてくる。

「しっかり流れたよ。これどうするの。売却だよ。大問題だよ。世界が動くよ。」

 大輔は言った。

「みんなが頑張るんだ。廣田が考えたんだ。」

 麗華が叫んだ。

「何言ってるの。そんなこと世界中探しても無いんだよ。」

 大輔は言った。

「……じゃあどうしよう。もう取り返しがつかない。」

 麗華が言った。

「住民運動だよ。もうしょうがない。世界でネタにされるのは当たり前。運動開始だよ。」

 大輔が言った。

「何をするんだ。」

 麗華が言った。

「7時に浜松町駅前で待ってるよ。そこで話そうね。」

 大輔が言った。

「よし。わかった。」

 大輔は真剣だった。

 大輔の朝ご飯はチキンライスだった。

 お母さんが言った。

「どうしたの、随分早く食べるわね。」

 大輔が言った。

「たいしたことないよ。これ美味しいな。」

 お母さんが言った。

「あらそう。随分早起きしたみたいね。」

 大輔が言った。

「テレビが面白かったんだ。」

 お父さんが言った。

「あれやたら安かったぞ。大変なもんだな。本当に未来だよ。」

 お父さんは寝ぼけていた。

 お母さんが言った。

「お父さん、もう出勤ですよ。朝ご飯は食べ終わったね。早く行きな。」

 大輔が言った。

「お父さん、仕事どうなってるの?」

 お父さんが言った。

「サラリーマンだよ。銀行の下っ端になったよ。」

 大輔が言った。

「それ儲けるの?」

 お父さんが言った。

「そのうちな。今は普通。物価の問題で給料の説明は難しいんだよ。」

 大輔が言った。

「今いくら儲かってるの?」

 お父さんが言った。

「だいたい2億だよ。インフレで経済が滅茶苦茶だ。昔の金で25万ぐらいだな。」

 大輔が言った。

「よくわからない。インフレって何。」

 お父さんが言った。

「金の価値が下がってるんだよ。いいものが少ないの。もう仕事。」

 お父さんは服を着替えて革のかばんを持って仕事にでかけた。

 大輔はお母さんに聞いた。

「いいものが少ないってどういう事?」

 お母さんが答えた。

「簡単に言えば食べ物が足りないの。多分出し渋りよあいつら。」

 お母さんは食べ物の話をしていた。

 大輔は頷いた。

「俺、学校行く。」

 大輔は言った。

 お母さんが言った。

「もう時間ね。ちゃんと着替えてるわね。行ってらっしゃい。」

 大輔はかばんを持ってドアを出た。

 大輔は浜松町駅まで走って行った。

 麗華が待っていた。

 目が真剣だった。

 麗華が言った。

「もう動いてるよ。人が多いの。よく駅前を見て。」

 麗華は駅ビルの正面玄関を指さした。

 デモが行われていた。

 一人の若い男が叫んでいた。

「そのビル高いんだよ。」

 もう一人のおじさんも叫んでいた。

「そろそろなんだよ。」

 大輔が麗華に聞いた。

「これ何のデモなの?」

 麗華は答えた。

「駅ビルには都が関係してるの。お金が掛かってるの。それに怒ってるの。」

 大輔は言った。

「なるほどな。」

 大輔は駅ビルの正面玄関を見た。

 大きなアナログ式の時計があった。

 朝の7時だった。

「もう7時だ。」

 大輔が言った。

「まず喫茶店に行こう。ここは危険。」

 麗華が言った。]

 大輔が言った。

「日曜日なのに学校だよ。なんなんだよ。」 

 麗華が言った。

「それは今は普通。まずここから離れて。」

 大輔がうなずいた。

「こっちだよ。」

 麗華が言った。

 大輔と麗華はいつもの喫茶店に入って行った。

 麗華が言った。

「ついに始まったの。」

 大輔が聞いた。

「何が始まったんだ。」

 麗華が言った。

「東京の反撃よ。」

 大輔が言った。

「どういう意味だ。」

 麗華が言った。

「都の住人が怒ってるのよ。聞いた話では敵は業界よ。」

 大輔は真剣に聞いた。

 大輔は言った。

「何の業界なんだ。」

 麗華が言った。

「鉄道業界よ。多分そうらしいの。」

 大輔が言った。

「なんだと。俺は電車が好きだ。」

 麗華が言った。

「そういう意味じゃないの。後ろにいるお金持ちよ。」

 大輔が言った。

「なんだそいつら。」

 麗華が言った。

「鉄道族って言うのよ。まだお金を持ってるの。不思議なの。」

 大輔が言った。

「今日お父さんが言ってた。お金は滅茶苦茶なはずなんだ。どういうことだ。」

 麗華が言った。

「財産があるのよ。それが何処から来てるのかわからないのよ。」

 ホステスが来た。

「……あの、何か頼んで下さい。」

 ホステスは言った。

 麗華が言った。

「私はモカのホットひとつ。もう一人にはメロンソーダ一つ。」

 ホステスが言った。

「わかりました。変な話しないでね。」

 ホステスは早歩きで受付に戻って行った。

 泣いていた。

 大輔が言った。

「なんだ今のホステス。今日は少し違うな。」

 麗華が小声で言った。

「声が大きすぎたのよ。注意してくれたのよ。」

 大輔が言った。

「そんなにすごい話なのか?」

 麗華が言った。

「多分そうなのよ。あのホステス何か知ってるわ。」

 大輔が真剣になった。

 大輔が言った。

「もういい。帰ろう。帰り際にホステスに正体を聞いてやる。」

 ホステスが来た。

 ホステスは言った。

「いつものサービス。」

 ホステスはミント味のする小さな錠剤をメロンソーダに入れてくれた。

 ホステスは小声で言った。

「切符売りだよ。楽しいよねこういうギャグ。」

 ホステスは無理やり笑いながら早足で受付に戻って行った。

 大輔が言った。

「今のは暗号だ。改札の人が何か知ってるんだ。」

 麗華が小声で言った。

「多分当たりよ。すごいこと言うね、あのホステス。」

 大輔が小声で言った。

「俺は突っ込む。」

 麗華が言った。

「目が真剣ね。いつもと違う。一緒に出ようか。」

 大輔が言った。

「麗華も付いてくるのか。」

 麗華が言った。

「今回は付いていくわ。多分学校は休みね。」

 大輔が言った。

「俺がお金を全部払う。」

 大輔が会計を済ませた。

 ホステスは泣いていた。

「……はい。」

 ホステスは言った。

 ホステスは麗華にハンカチをくれた。

 白いレースのハンカチだった。

 麗華は黙って受け取った。

「私行くから。」

 麗華は言った。

 ホステスが言った。

「いつも通りにね。」

 大輔が言った。

「今日は違うんだ。」

 麗華が言った。

「言っちゃ駄目だよ。」

 麗華が大輔の手を引っ張った。

 大輔と麗華は喫茶店を出た。

「こっちだ。」

 大輔が言った。

 大輔は麗華を1階に連れていった。

「ここが改札だ。」

 大輔が言った。

 改札では暴動が起きていた。

 一人の大学生の男が改札によじ登って叫んでいた。

「こんなものいらないんだよ。」

 麗華が言った。

「相手にしたら駄目。」

 大学生の周囲ではお祭り騒ぎが起きていた。

「こっちだ。」

 大輔が言った。

 麗華が付いていった。

 改札横に受付の歳を取った男が立っていた。

 大輔がすごい声で叫んだ。

「鉄道のお金持ちってなんだよ。」

 改札の男は答えた。

「お前まで聞くのか。鉄だよ。正体は鉄のオタクだよ。」

 改札の男は泣き崩れた。

 それでも立ち続けていた。

 大輔は自動販売機で切符を買った。

「一番安くていいんだ。」

 大輔は言った。

「どういう事?」

 麗華が聞いた。

「敵に突っ込むんだ。」

 大輔は答えた。

 麗華が言った。

「本気なの?」

 大輔が言った。

「みんなの為なんだ。」

 麗華が言った。

「じゃあ私も行くわ。」

 麗華の目は真剣だった。

 大輔と麗華は改札を通った。

 大輔が言った。

「貨物列車だ。」

 麗華が言った。

「わかったわ。こっちよ。」

 麗華は通路脇の大きなドアを見せた。

 ドアの入口に一人の優しそうなおじさんが立っていた。私服だった。

「だいたい聞いてたよ。こう開けるんだよ。もう行きな。」

 おじさんは自作のカードキーでドアを開けた。

 早足でどこかに行ってしまった。

 「閉」のマークが「開」のマークになった。

「こっちだよ。」

 麗華が狭い階段を登って行った。

 大輔も登って行った。

 小さなホームがあった。

 小さな貨物列車が浮かんでいた。

「鉄鉱石だ。」

 大輔が叫んだ。

「それ何?」

 麗華が聞いた。

「昔社会で習った。鉄の元になるんだ。」

 大輔が言った。

「早く乗るんだ。」

 大輔は叫んだ。

 大輔は鉄鉱石の入った貨物列車の上に飛び乗った。

 麗華も乗った。

「怖いよ。」

 麗華が言った。

「どうせ電車だ。」

 大輔が言った。

 貨物列車が走り出した。

 麗華は震えていた。

 大輔は鉄鉱石の山の前に付いている看板を見た。

 「山梨」と書いてあった。

「山梨に行くのか。聞いたことないぞ。」

 大輔は言った。

 麗華はしゃがみこんでいた。

 貨物列車の前に小さな三角形の枠が見えてきた。

「ワープするのよあれ。今時珍しい。まだあったんだ。」

 麗華が驚いて言った。

 大輔は黙って周囲を見ていた。

 枠を潜り抜けた瞬間、いきなり空が暗くなった。

 鉄の塊の巨大な山が幾つも見えてきた。

 貨物列車がひとつの小さな駅に止まった。

「今降りなきゃ駄目。落とされる。」

 麗華が叫んだ。

 大輔と麗華はホームに飛び降りた。

「待ってたよ。」

 地面の下から声がした。

「何?」

 麗華が叫んだ。泣きそうだ。

「誰だお前は。」

 大輔が言った。

「私には名前など無い。

私に挑戦を挑んだな、大輔。

案内してやった。

そのまま進め。

私の居場所がある。」

 地面の下からまた声がした。

「行くぞ。」

 大輔が言った。

「はい。」

 麗華が答えた。

 大輔と麗華はホームを真っ直ぐ進んだ。

 小さな出口が一つあった。

 三角形の鉄で出来たトンネルだった。

 地下に向かって500メートル程の階段が伸びていた。

 大輔と麗華は降りていった。

 麗華が言った。

「やめようよ。」

 大輔が言った。

「全ての元凶はあいつだ。俺のパソコンにバグを起こしたのも麗華に会わせなかったのもあいつだ。」

 麗華が言った。

「なんなのその話。私にはわからない。私、夢で見ただけだよ。」

 大輔が言った。

「とにかく行くんだ。」

 大輔は走った。

「もういい。」

 麗華が叫んだ。

 麗華も走った。

 0の形をした水晶で出来た入口があった。

「二人とも入れ。」

 中から声がした。

「挑んでやる。」

 大輔は言った。

 大輔と麗華は中に入って行った。

 巨大なプラネタリウムのような部屋があった。

 座席の代わりに幾つも水晶で出来た三角形の板が転がっていた。

 空中に巨大な黒水晶の原石が浮いていた。

「来たか。」

 黒水晶は言った。

「教えてやる。

この世界は私が作った。

麗華をさらったのは私だ。

麗華はお前と同じ年に生まれたんだよ。

親ごとさらった。

お前と結婚する相手だったんだ。

よくここまで来れたな。」

 巨大な黒水晶はいきなり麗華を刺した。

 麗華のお腹に大きな穴が開いた。

 血がどんどん出てくる。

「あれ……、痛くない。」

 麗華が言った。

「やったな。やったな。」

 大輔が叫んだ。

 大輔が巨大な黒水晶を殴った。

 巨大な黒水晶が消えていく。

「遺言がある。」

 巨大な黒水晶は言った。

「私はお前の毒で出来ていた。

お前は麗華を恥ずかしがった。

ただそれだけだった。

私は太古の昔からいた。

世界が変わるだろう。

未来が変わるだろう。

私が作ったのだからな。

お前は幼稚園の頃に、麗華と間違えて、小さかった私を拾っている。

私はもう消える。

時間切れだ。

お前は麗華に会った。

もうおしまいだ。」

 巨大な黒水晶は消えた。

 麗華の傷が治ってきた。

 血がどんどん体に戻って行く。

 麗華の傷がふさがった。

 麗華の制服が元に戻った。

「大丈夫か?」

 大輔が聞いた。

「なんともないよ。」

 麗華は言った。

 周囲がぼやけてきた。

「全部聞いてたよ。こうなるはずだよ。」

 麗華は言った。

 麗華は泣いていた。

 周囲は何も無くなった。

 ただの白い世界が広がっていた。

 大輔と麗華は裸だった。

 麗華が言った。

「自由にどこでも行けるよ。」

 麗華が飛び回った。

 大輔が言った。

「浜松町に帰ろう。」

 麗華が言った。

「うん。」

 一瞬で二人とも浜松町駅があった場所に行った。

 裸の人達がたくさん浮いていた。

 大輔は考えた。

 大輔は言った。

「戻るんだ。あいつが言ったんだ。」

 麗華が言った。

「どうやるの。」

 大輔が考えた。

「そうだな。あの時の真似だ。麗華も協力するんだ。」

 大輔が両手を伸ばした。

 麗華が両手を握った。

 大輔が麗華の両手を握りしめた。

 大輔は真上を見て叫んだ。

「神様、全部1997年に戻してください。」

 麗華も言った。

「全部元に戻してください。」

 二人の体が金色に輝いてきた。

 世界が金色になった。

 1997年の浜松町駅が見えてきた。

 深夜だった。

 戻ったのだ。

 麗華も連れてこられた人達も一緒だ。

 大輔が言った。

「あの日だ。」

 麗華が言った。

「ビルにクリスマスの飾りが見える。面白い。クリスマスだ。」

 麗華は泣いた。

 大輔が言った。

「素っ裸だ。まず家に帰るんだ。」

 大輔が麗華を急いで家に連れていった。

 二人とも寒かった。

 大輔のお父さんとお母さんが待っていた。

 大輔のお母さんが言った。

「大変よ。行方不明者発見騒ぎ。」

 大輔が言った。

「そういうことか。」

 麗華が言った。

「……服を貸してください。」

 大輔のお母さんが言った。

「はいはい。お友達ね。今多いわよ。」

 大輔のお母さんは麗華に黄色いワンピースを貸してくれた。

 少しダブダブだった。

 大輔のお父さんが言った。

「今夜は徹夜だな。お前の名前なんだ?」

 麗華が答えた。

「麗華っていいます。家族も浜松町です。多分隣のマンションです。」

 麗華はベランダを見た。

 電気の付いた大きなマンションが向かいにあった。

 麗華の家族が手を振っていた。

 大輔のお母さんがベランダに出て大声で言った。

「会いましょうよ。」

 大輔が叫んだ。

「朝の7時に浜松町駅前で待ち合わせ。」

 麗華の家族が頷いた。泣いていた。

 大輔と麗華は朝まで大輔の部屋でパソコンゲームをやっていた。

 お母さんが言った。

「明日は学校休みでいいわよ。」

 大輔は喜んだ。

 朝になった。

 大輔の家族と麗華の家族は浜松町駅前に集まった。

 正面玄関だ。

 午前7時だった。

 みんなで泣いた。

 大輔のお父さんが言った。

「就職はこれからですよ。すぐ見つかりますよ。好景気ですから。」

 麗華のお父さんが頷いた。

 朝日が昇ってきた。

 綺麗な青空だった。

 大輔は後ろを振り向いた。

 東京タワーが見えた。

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