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Lv.13 近づいたのは恐怖の夏休み

「はあ…………。はあぁ……………。」

「……音葉、さっきからため息ばっかり。どうかした?」

「『どうかした?』じゃないわよ!どうしたもこうしたもあるか!!ため息ぐらいつきたくなるわ!」



それでは私は食事の用意をしてきます。とかなんとか、無駄に笑顔を振り撒いて堺さんが先ほど出ていってしまった。




私と麻生奏を一つの部屋に押し込んで。


よって今、この部屋にいるのは不本意ながらも私とヤツ二人きりなわけである。

まあ紐は麻生奏に説得を重ねてほどいてもらったからまだよかったけど。





「………なんか近いんですけど。ってか本当近い!!もっと離れて!!」

「?なんで?」

「え?そんな不思議そうに聞く?まったく関係を持たない年頃の男女がこの距離の近さはまずいでしょ。むしろ駄目でしょ。」

「なら問題ない。俺達許嫁、だし。」

「恋人になった覚えもないのにさらに許嫁に進化した、だと…………!?」



(こ、怖すぎる…………!)


このままでは知らぬ間に産んだ覚えのない子どもまで出てきそうである。

流石にそれはないかもしれないが、このままヤツの妄想に付き合っていては私の精神が崩壊する。




「…………ねえ、麻生くん。私、麻生くんにプレゼントがあるの。恥ずかしいから目つぶってもらってもいい?」

「いいけど。………こう?」

「そうそう。私が良いって言うまで動かないでね。」

「ん、わかった。」



そして私は、先ほどのまで私と共にあった紐を、麻生奏の腕に厳重に巻きつけたのである。











「…うわー!美味しそうな匂いー!」


ヤツを近くにあった高級そうな椅子ごと紐で縛り付けた私は、あの部屋からの脱出に成功。


まずはこの別荘の部屋の位置など、逃走経路を把握しなくてはと、用心しながら廊下を歩いていれば匂いにつられたらしい私のお腹が、ぐうぅ、と心細く鳴ってしまった。



「………。腹が減っては戦はできぬって言うもんね!うん、仕方ないよ!これは仕方ない!」


匂いにつられて行って見るとそこには食事の用意をしている堺さんの姿があり、邪魔しないようにそーっと近づく。



「堺さん!何作ってるんですか?」

「!?音葉様、どうしてこちらに………!?」



あまりの堺さんの動揺っぷりに、思わず堺さんの手元を見れば、私の視線に気づいたのか、さっと何かをポケットにしまうのが見えた。



「?今何か隠しませんでした?」

「…え、えぇ。料理をしていましたら野菜の繊維が目に入ったようで、目薬をさしたのでございます。音葉様にわざわざ気にかけて頂くようなことではありませんので。」

「野菜の繊維が!?え、野菜の繊維が目に入ったとか人生で初めて聞きましたけど大丈夫なんですか?」

「ありがとうございます。音葉様はお優しいのですね。ですが本当に大丈夫ですので、その優しさは奏様に注いであげて下さいませ。」

「それは無理です。でも大丈夫なら、この出来上がった料理から運びますね!どこに運べばいいですか?」

「あ、それは音葉様の………!まだ仕上げが………!」

「……仕上げ?」


フランス料理というやつだろうか。

お皿を見る限り、美しく飾り付けられたそれは、どう見ても完成した料理で、素人の私には何が完成していないのかわからないくらいだ。



「え、こんなに綺麗なのに、まだこのお料理完成してないんですか?」

「…あ、…いえ、完成はしているのですが……。ある意味ではしてないというか……。」



はっきりしない物言いの堺さんを訝しげに見ながらも、お腹も空いていることだし、とりあえず完成しているなら良いかと、お皿を近くにあったトレイに乗せる。



「……じゃあ、運びます、よ?」

「お待ちください音葉様!!それは執事である私めの仕事でございます!」


トイレを持って歩き出そうとすれば、誰の目から見ても慌てているだろう堺さんのポケットから落ちた何かが、ころりと私の足元の前まで転がる。



(さっき使ったって言う目薬かな?)



トレイをいったん戻し、それを拾う。



「堺さん、目薬落ちまし、た…………………………媚、薬…………!?」

「チッ!」

「チッ、じゃないですよ!何しようとしてんだアンタ!!!」

「音葉様、この際、はっきりと申しあげます。」

「な、なんですか。」

「さっさと奏様のお子を孕め。」

「え、ストレートすぎませんか!?しかも命令!?」

「これは失礼。孕んでください。」

「言い方丁寧にしたって駄目ですからね!?もう信じられない!」



怪しげな薬を全て洗い場に流し、トレイに乗せた自分の分のご飯だけ持って足早にその場をさる。


堺さんが追いかけて来る気配があるが無視だ無視。



「お待ちください音葉様!音葉さまあああっ!!お子を!お子をををっ!!!」



(無視、ひたすら無視しろ私!止まったら人生の終わりだ私!!)






始まった恐怖の夏休みに、涙が止まらなくなった。




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