第5話 小さな贈り物
部室に行ってみたら、爽は優達と楽しそうに活動していた。
やっぱり余計な心配だったのかもしれない。
「大丈夫そうみたいだね」
「うん……」
でも無理して笑ってるなんて事ないよね。
大丈夫だよね……。
「隆ー!」
「おおぅ、結子。どうした?」
「応援きた! 何か手伝う事ない? 何でもやるよ!」
結子はいつまでも隆とラブラブでいいね。
あたしはきっとまだ……勇気ない。
優となんて、全然進展しないまま。このまま時間が過ぎて何もないまま終わっちゃうのかな。
「暗いぞっ」
「痛っ」
頭を叩かれて叩いた本人を睨む。またこいつはこうやってイタズラ好きなんだから。
「良輔ってほんといつでも元気だよね。羨ましい限りだよ」
「こういう性格は何かと得だぞ! だから知沙も元気出せ! 何悩んでるか知んねーけど」
悩みなんていっぱいあるよ。数えきれないくらいね。
「じゃあ元気出る事して」
「例えば?」
「うーん……じゃあ、一曲歌って!」
「はあ!? 俺が歌うのか?」
「そっダメ? 良輔歌えるじゃん!」
「歌えるけどさ……そういう事はヴォーカル担当の優に頼めよ」
優の名前を聞いただけで心臓が強く高鳴る。良輔は知らない、あたしが優を好きな事。だからこんな事言えるんだ。
あたしは優が近くにいるだけで息苦しくなるのに……。
こんな想いは、あたしの中にずっと秘めてるだけでいい。
「いいのっ! 今は良輔に歌ってほしいんだから!」
すがるような目で見つめると、ほらいちころ。
頬を掻いて照れた仕草をする良輔。それで次には……。
「……分かった、仕方ねえな!」
「わあい! ありがとう良輔!」
やっぱり良輔は単純。
でも優しい。
そんなあなたは本当に素敵な人だよ、良輔。
「んじゃあ一曲……」
近くに置いてあったギターを手に取り、椅子に座って弾く姿勢をとる。
急にまじめな顔になり、この時の良輔の表情はあたし好きなんだ。
そして一呼吸おいて、ゆっくりと手を動かす……。
“冬のまだ寒空の下 君は僕の手を離した 追いかけたい衝動と 行かせたい想いとが混ざって 足を踏み出せなかった”
この歌は“GROPE"が結成されてから間もない頃に作った歌、題名がない歌なんだ。題名を付けない理由は単純、付けたくないかららしい。
題名がないのもカッコ良いって理由で。
だけど人気の曲。
あたしも好き。
“こんがらがる意識のパズルを組み合わせて 君の笑顔を浮かばせた だけどそれ以上はなかったよ ねえ 僕はちゃんと君を愛せてたかな”
歌詞が切なくて、ギターだから尚更切なさが込み上げてくる。ほんの少しだけど視界が歪んだ。
“もう一度過去をやり直したい それで君と笑う事ができるのなら なんだってしてやるのに 僕は無力だ 君をまだ解放できないでいる”
あぁ……切ないよ。
切なすぎるよ。
こんな気持ちは、辛すぎるよ。
歌はそこで終わり、ギターの音色で最後は切なくしめた。
終わった時、あたしは涙を流した。
泣く為に歌ってもらおうと思った訳じゃないのに、どうして涙が出てくるんだろう。
どうして……どうして?
「おい、知沙! 何泣いてんだよお前!」
「あ、は……ごめん……。ちょっと、顔洗ってくるね!」
逃げるようにその場を離れた。良輔はずっとあたしを心配そうに見つめててくれた。でもそれが余計辛くて、また泣いた。
最近情緒不安定なんだよね。優との事もあるし、それからもう一つ、一番悩んでる事がある。
まだ解決できなくて、誰にも相談できなかった。
結子にも……。
それは……。
クラスの友達の事。
あたしには結子以外にも仲の良い友達がいて、最近はみんな仲良くやってきた。でもいつからか亀裂が入って、仲良くできなくなってしまった。
一人一人が孤立するような形になって、あたしはまだ結子がいたけど他の子は一人になったりした。
つまり、みんなそれぞれが他の友達を嫌ったって事。あたしはみんな大好き。
だけどみんなは違う。だから離れなきゃいけなくて、辛くて、悲しくて。
また前みたいに戻りたいって思って。
でも上手くいかなくて。
爆発した、みんなが。
「はぁ……恋の歌なのに、変なの」
もう戻れないのかな、あの頃に。みんなで楽しかったあの頃に。
戻りたい……。
窓を見れば雨が降っていた。空は曇り空で、あたしは悲しくなった。晴れるように精一杯祈った。
今思えば、この時のあたしはバカみたいだったよね。
必死になりすぎて、周りが見えなかったんだ。
もし冷静になっていれば、何か変わったのかな……。