第3話 出会いは最高
四人と出会ったのは、桜が満開に咲く季節。春真っ只中の時期だった。
あたしは期待に胸を膨らませて新しい教室に入った。初めて見る人、中学も一緒だった人、様々だった。
席が近くの子と話して仲良くなって、これから楽しい高校生活が始まるんだってウキウキしてた。
でも……実際は違ってて。
クラスで浮く人って一人ぐらいいるもの。そこから始まるイジメ。それがあたしのクラス、1―Aにはあったんだ。
最初は初歩的なイジメ。
次には典型的なイジメへと変わっていった。
ターゲットにされたのは暗くてあまり話さない女の子。一般的にターゲットにされやすい女の子。
その子はいつも一人で、友達もいなくて、あたしは結構気になったりしてた。
でも近寄る勇気が無かったの。みんなから嫌われてるから。自分もいじめられるんじゃないかという恐怖心、辛さ。分かってたけど、やっぱり近寄れなくて。
だからその子はずっと一人で、みんなからいじめられて、あたしは嫌な気持ちになった。
だけど助けられなかった。同じクラスの結子に相談したけど、結子もあたしと同じ気持ちで、いじめは嫌だけど自分もいじめられたら嫌だから何もしないって言われた。
所詮そんなもん。
いじめはいつまでも無くならない。
でもその子へのいじめは徐々にだけど無くなっていったんだ。今でも少しだけあるにはあるけど、前よりひどくはないし。あたしも安心できた。
理由は分からないけど、その子に話し相手ができたのが一番の原因だと思う。
それは嬉しかったけど、あたしの胸はすっきりしなかった。
人の悩みは尽きないもの。
あたしの悩みはいじめ以外にも沢山あった。
勉強に、人付き合い。
あまり上手くいかない友達関係、難しくなる勉強。
日々の高校生活。
すべてにイラついて、自己嫌悪したりした。
ストレスも増えて、泣きたい日々もあった。
でもこれは我慢すれば解決できるものだと思ってたから我慢した。
だけど……辛かったんだ。我慢しても悩みはひどくなる一方だったから。
初めて授業をさぼった時、あの時は授業に出るのがめんどくさくてさぼったの。適当に見つからない場所を探そうと思って廊下を歩いてたら、音楽室から音楽が聞こえてきた。
ちょうど音楽の授業をしてる時だった。あたしは音楽が好きだったし、暇だったから聞いていく事にした。
知ってる音、ピアノが奏でる音色。
あぁ……カノンか。
カノンはあたしの好きな音楽で、中学の時クラスで流行ってたなぁ、などと音に浸ってたら、授業終わりのチャイムが鳴った。
時間がものすごく経ってたらしい。
あたしは焦ってそこから離れて、教室に戻った。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだけど、心が軽くなった気がした。
それはカノンを聞いたからだと思う。さぼって良かったなと、嬉しかった。
放課後にまた音楽室に来て、今度は自分で弾いてやろうと思って扉に近づいた時、聞き慣れない音がした。
それは音楽室の中から聞こえてきて、興味本意で覗いてみた。
扉の隙間から見えたのは四人の男子。靴の色を見ると二年生だと分かって、咄嗟に離れようとしたけど、聞こえた音色にあたしは惚れた。
真ん中の椅子に座って、周りなど気にしないで歌う一人の男子。その声は綺麗で、軽やかで、力強くて、もっと聞きたいと思うような歌声。
その周りを囲む三人の男子は、ギターのようなものとベースのようなものを持って声に合わせて弾いてる。
音楽が奏でられて、美しい音に綺麗すぎる声音。
つい聞き入ってしまった。
数分して音が止まり、四人は雑談に入る。それでもあたしはずっと四人を見つめていた。また歌わないかなという期待をして。
でもその時、制服のポケットに入ってる携帯が震えたのであたしは携帯を取り出した。結子からで、メールがきた。今どこっていう内容。あたしはすぐに、すぐ戻るから教室にいてとメールを返し、教室に行こうと戻ろうとした時にまた四人を見た。
記憶に残しておく、四人の顔。しっかりと頭に焼き付けてあたしはその場を離れた。
結子に会ってさっきあった事を説明した。また四人に会いたいと言った。
会えないかなと呟いた時、結子が簡単にあたしに言ったのだ。
「それってあのバンドじゃない?」
……って。
なんだ、意外と簡単に見つかったじゃん。
あのバンドと言うのは、今学校内で有名な軽音部からできたバンド“GROPE"。
いつも音楽室で練習してるんだって。でも有名になるのは分かる。すごい綺麗な音色だったから。また聞きたいと思ったから。
あたしは結子に誘われて“GROPE”のライブに行った。いつもライブは体育館でやってるみたいで、すごい人気だからライブの時は体育館全部人で埋まるんだって。それだけ人気の“GROPE”に近づけるかな、なんて思っていたけど、意外とあっさり近づけて。
それは結子が積極的にメンバーにアタックしてくれたからなんだけど。
実際は結子がメンバーの隆に惚れたからアタックしたんだけどね。
でもそのおかげでみんなと仲良くなれたし、結子は隆と付き合えたし、あたしは恋をしたし。悩みも“GROPE”の歌で軽くなった。
だからみんなには感謝してるんだ。
いつかお礼言うからね。
みんなは本当に優しくて、温かくて、何度勇気づけられた事か。
あの時の出会いは一生忘れないよ。
優、爽、良輔、隆。
「悩み? そんなの俺達の歌で忘れちゃいなよ!」
「俺達は自分の歌で勇気づけられてるから。情けないけどな」
「何でも前向きが大事だって」
「また悩みがあったら俺達の歌聞きにきてよ。また歌ってやるから」
あの出会いは最高だったよ。ありがとう、“GROPE”。