第1話 まだまだ近くない距離
恋愛の話です。こちらもよろしくお願いします。
愛なんて、恋なんて、恋愛なんて馬鹿馬鹿しい。
本気になるなんて頭が軽い女しかいない。
信じない、あたしは信じない。
こんな奴を好きになった自分を、あたしは信じない。
あ……また見つけた。
今日で三回目。
あなたはモテる。だからあたしみたいな凡人な気持ちなんて分からないよね。
だからこっちに気付かないで、見ないで。
あたしの赤い顔を見ないで。
あなたがあたしを見つけた。それは愛しそうに微笑んでくれる。だけどあたしにとってそれは毒でしかないんだよ。
分かってよ……。
今日もあなたは、その笑顔を別の女にも見せるんでしょ?
だから見ないで、どこかに行って。早く、早く。
あなたは、友達と笑いながら、あたしの横を通っていった。
それがどんなに苦しいか、胸が締め付けられるか、一生気付かないくせに、あなたにはまた出会ってしまう。
最悪だよ、こんなの、いらない。
また今日も涙を流した。
あなたの声を聞きながら。
あなたはこんなあたしなんて眼中にない。それでもいいって思ってる自分が嫌い。大嫌い。
だけどね、求めてしまうの。愛してしまうの。
あなたにとってすごく小さなあたしでも、いいって思っちゃうの。
あたしはあなたにハマってる女の一人。
あなたにとって大したことない女の中の、一人。
悲しくても、辛くても、自分を見てほしい。
だからあたしを見て、笑って、その笑顔を、あたしにちょうだい。
「知沙」
呼ぶな、バカ。あたしの名前を呼ぶな。調子に乗るな、アホ。
「今日の来てなかっただろ。だからはい、これ」
渡された物は、紙切れ一枚。
それだけで嬉しくなるあたしはもっとバカでアホ。こいつよりアホだ。
「期間限定なんだから、大切にしろよ? お前の為に取っておいたんだからな」
渡された物は、あなたの言葉が書かれた紙。
みんなへ送った至上最高のメッセージ。
やっぱりあなたの方がバカでアホだ。
これを大切にするファンの一人にしないでほしい。
でももらう。あなたが笑ってるから。その笑顔は、今はあたしのものだって思ってもいいよね。
でもあたしは素直じゃないから、ごめんね。
「自惚れんな」
あなたの前に出した紙切れ一枚。それを見てあなたは驚いた顔をする。あたしはこれが見れただけでも満足。
実は持ってました。
あなたは苦笑する。
あたしも笑う。
この時間が好き。
お互いに紙切れを持って、それを交換した。
あなたにはあたしがあげたものを。
あたしにはあなたがくれたものを持って、別れる。
また会いましょう、今夜。
あなたのステージで。
ここまで読んでいただきありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。そんなに長くはならないので、最後まで付き合っていただけたら嬉しいです。