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unhuman  作者: イナゴ
9/51

009

笑みを絶やさないまま、エリザベータはエマに近づいていく。

と、唇がまっすぐに結ばれ、エリザベータは立ち止まった。

ゆっくりと、後ろを振り向く。

Jの体が、肩からぶつかるようにして、エリザベータの体にくっついていた。

そう見えた。

「逃げろ、エマ!逃げるんだ!」

必死の形相でJは叫んだ。

エリザベータの背中を透かして、エマの姿が見えてでもいるように。

「何のつもり?」

エリザベータの氷のような声など聞こえないのか、再びJは叫んだ。

「逃げるんだ!」

その瞬間Jの体が吹き飛んだ。

お父様!エマの悲鳴が聞こえたが、エリザベータは気にしなかった。

背中の、柄まで深々と突き刺さったナイフを、顔色一つ変えずに抜き取ると、そのまま床に落とす。

落ちた瞬間、ナイフの刃は粉々に砕け散った。

Jに刺された傷口は、もう完全にふさがっていて見つけることは出来なかったが、裂けた衣服は隠しようがなく、血で真っ赤に染まっている。

Jに飛び掛ろうとするナジャをエリザベータは制して

「どういうつもり?お父様」

「エマは人形ではない!」

返ってきた言葉に、エリザベータは困惑しているようにも、怒りを抑えているようにも見える、奇妙な表情を作った。

しかしそれはすぐに消えて――

「エマは私の大切な――」

「そう」

――にっこりと微笑んだ。

「じゃあついでに聞きたいのだけれど、答えてくれるかしら、お父様。なら、私たちはお父様にとって何なの?私とナジャは?」

Jは答えなかった。

目を大きく見開いて、陸に上がった魚みたいに、口を開いたり閉じたりしている。

そのうち、顔面から血の気が失せて、青を通り越して白くなる。

涙がにじんでいるまぶたが裂けそうに大きな目は、哀願するようにエリザベータに向けられている。

「お父様!」

その悲鳴に、Jはエマを見た。唇をわななかせ、必死に言葉をつむごうとする。

ニ・・・ゲ・・・ロ・・・。

逃・・・げ・・・ろ・・・。

エマがJの言葉に従ったことには気づいていたが、エリザベータはもう彼女にはかまわなかった。

「お父様」

微笑は絶やさず

「もうあなたに用はないわ。死んで」

エリザベータの言葉が終わると同時に、Jの体は宙にはりつけになってぴたりと静止し、倒れていった。

もう動くことはなかった。

エリザベータはJの背中を見下ろす。

Jの体から体温が抜けていくのが分かる。

冷たくなっていくのが分かる。

「リズ・・・」

指先にナジャの手が触れるのを感じた。

「リズ・・・」

しかし振り向かなかった。

「リズ・・・」

「何?」

三度目の呼びかけに、エリザベータはいつもの笑顔をナジャに向けた。

その微笑をじっと見つめてナジャは

「ううん。何でもない」

エリザベータの指先を、そっと握った。

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