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unhuman  作者: イナゴ
8/51

008

あっ、と声を上げる間もなかった。

気づけばナジャが目の前にいて、反射的に身をかわさなければ、ナジャの爪で切り裂かれていただろう。

それでも頬をざっくりと切り裂かれてしまった。

ナジャは手を緩めない。

エマは防戦を強いられる。

攻戦に転じようにも、ナジャがそんな隙を見せるわけがない。

エマは必死にナジャの爪から逃れる。

しかし、かわしたつもりでも、危ういところでナジャの腕を受け止めたつもりでも、爪それ自体が意思を持ったように襲い掛かってきて、エマの肌を切り裂く。

瞬時にその傷は治癒していくのだが、それでも追いつかないほどに、次々に爪が襲ってきて、エマの全身を、彼女自身の血で真っ赤に染め上げる。

常人ならばとうの昔に失血死している。

どんなに切り刻まれようと、致命傷だけは何度か免れている。

死神の爪から逃れるため、肉体は機械的に動作し、そこに思考の入る余地はない。

思考など邪魔なだけだ。

ただ生き残るために肉体は動く。


エマの思考は浮遊している。


一体何をしているんだろうか私は。

別にナジャと殺し合いをしたいわけではないのに。

でも、もしナジャを殺さないと生きていけないのだとしたら、私はそれをするだろう。

ナジャを殺す。

でもそんなことがしたいわけじゃない。

私はただお父様と一緒にいたいだけ。

ただそれだけ。

なのになぜこんな馬鹿げた事をしなくちゃならないんだろう。

そうだ。

みんなエリザベータのせいだ。

エリザベータが邪魔をするから。

エリザベータが悪いんだ。

エリザベータがいけないんだ。

私の邪魔をして。


嫌いだ。


ナジャの体が吹き飛んだ。

壁に背中を強打しながらも、ナジャは見開いた目をエマに向けている。

「うそ」

呆れるべきか驚くべきか決めかねているような声をエリザベータは漏らす。

ナジャに生じたわずかな隙を、エマがたくみに捉えたわけではない。

放ったこぶしが偶然にもナジャの体を捉えたのだ。

幸運、である。

生まれた好機をエマは逃さなかった。

エリザベータに向かって飛び掛る。

エリザベータはもう、望むものを手に入れるための障害でしかなかった。

エマの行動がまったくの予想外だったのだろうか、エリザベータの反応は鈍い。

エマはためらわない。

伸ばした腕が――指が――爪が、エリザベータの青い瞳に突き刺さる。

――寸前、伸ばしたエマの指先がぴたりと止まった。

地に足を着いて、腰から腕――指先に向かってどんなに力を入れても、数ミリの間隔をあけて、エマの指先は宙に凍りつき、エリザベータの瞳をえぐることが出来ない。

ようやくエマの表情が今日が驚愕のものに変わる。

「どうして・・・」

「残念」

エリザベータがにっこりと微笑む。

途端、エマの体が吹き飛んだ。

奥の壁に激突し、崩れ落ちるエマ。

驚きを隠せないまま、エリザベータに目を向ける。

「エリザベータ・・・あなた・・・一体・・・」

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