表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
unhuman  作者: イナゴ
7/51

007

Jに注がれたエマの瞳には、彼の唇の震えが止まり、瞳には悲しみの色をたたえたまま、戸惑いと悔恨の色が浮かび、うつむき、エマから目を逸らすのが映った。

それで十分だった。

真実を理解した。

言葉にはしてほしくなかった。

それだけがせめてもの慰めだったから。

「じゃあ、私って何なの?」

なのに言葉が口をついて出る。

「お父様にとって、私ってなんだったの?」

「人形よ」

ポツリとエリザベータが漏らしたが、エマには聞こえていなかった。

Jはうつむいたまま何も答えない。

「そう」

エマは小さく呟く。

体から、血のほかにも何か――もっと大事な何かが流れ出ていくようだった。

「もういいかしら」

その声はどこまでもエマを苛立たせる。

エリザベータに向けた瞳に、再び敵意が宿る。

「エリザベータ・・・」

エリザベータは微笑んでいる。

笑っている。

「エリザベータ!」

叫び声がエリザベータに届くより早く、エマの体はまっすぐに跳躍した。

防護服たちに反応できるはずもない。

エマのこぶしがエリザベータの体を捉えるより早く、ナジャがエマの眼前に立った。

とっさに身を沈め、エマは飛びのく。

鉈を振り上げるように振り上げられたナジャの腕。

その指先は異様に長かった。

爪が剣のように伸びているのだ。

それが死神の爪、と呼ばれていたことをエマは知っている。

ダイヤモンドさえ切り裂く凶器だ。

ナジャ固有の能力だった。

エマにもエリザベータにもない能力。

「リズには指一本触れさせない」

冷たい声と敵意ある視線を向けられ、エマはぞくりと震える。

ただそのおかげで冷静さを取り戻すことが出来た。

今の自分ではナジャには敵わない。

この重い体のまま――無数の鉛だまを体の中に抱えた、この重い体のままではかなわない。

一矢を報いることさえ出来ない。

エマは息を吐きながら、体をまっすぐに伸ばす。

ゆっくりと息を吸い込み、止める。

「ああああああああ!!」

大きくのけぞり、叫ぶ。

エマの体から無数の弾丸が飛び出した。

打ち込まれた鉛だまだった。

エマの血でコーティングされた赤い弾丸は、防護服たちの体にめり込み、貫通し、男たちに苦悶の声を上げさせていた。

「ふう」

体の中の違和感をすべて取り除くと、エマは大きく息を吐いた。

ナジャを見ると、彼女は無傷だった。

高速で襲ってきた弾丸を、ナジャはそれ以上のスピードで死神の爪をふるい、細切れにしていたのだ。

ナジャの後ろにいるエリザベータも、もちろん無傷だった。

エマは地を蹴った。

瞬時にナジャの眼前に迫る。

腕をふるう。

ひょいとかわされた。

焼け付くような殺気を感じ、あわてて飛び退る。

突風が塊となって目の前を吹き上がる。

エマは笑いたくなった。

まるで勝負にならない。

こちらの攻撃は完全に見切られているし、ナジャはまだ本気にはなっていない。

ナジャにとっては遊びなのだ。

だが本気でエマの命を刈り取ろうとしている。

その、死神の爪で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ