004
エリザベータの言ったとおり、確かにあの液体は薬だった。
とんでもない薬だった。
良薬口に苦し、とは言うがあれは酷過ぎた。
注射を打たれたその後数時間、エマは激痛にのた打ち回ることになった。
体の心が解けてしまったような倦怠感が一気に襲ってきた後、その激痛はやってきた。
全身の骨からとげが生え、内臓は体の外に出ようと勝手に暴れまわっているような、しかもその内臓は鉄の塊になってしまっていて、内側から体をずたずたにされていくような――痛み、という言葉がもはや何の意味も持たない激痛だった。
死というものがどういうものか考える前に、エマは死にたいと思った。
この苦痛からのげれることが出来るなら、今すぐ死んでしまいたい。
だがエマは死ねない。
簡単には死ぬことが許されないアンヒューマンだから。
――耐えるしかなかった。
正気を取り戻したとき、エマは時間間隔を失っていた。
一体どれくらい、自分は地獄のような苦痛を耐え切ったのだろうか。
数時間――数日――数週間――数年――。
正気を取り戻した今も、時間間隔は麻痺したままだ。
エリザベータが現われたあのときから、一体どれくらいの時間がたっているのだろうか。
この部屋に時計などはもちろん、無い。
誰もやってくる気配が無い。
エリザベータもナジャも、来ない。
ひとり。
真っ白いこの部屋にいるのは、自分だけ。
自分ひとりだけ――。
そのとき気づいた。
あの液体は、確かに薬だったのだと。
胸がしめつけらるような孤独感を覚えたとき、体の奥から湧き上がってくる抑えられない衝動――吸血衝動が起きなかったのだ。
だから思い至った。
エリザベータは嘘なんかついていなかったのではないか、あれは本当に薬――吸血衝動を抑えるための薬だったのではないか。
だからといって、軟禁されているに等しいこの状況を良しと出来るはずもなかった。
白い部屋。
白い壁。
白いカーテン。
白いベッド。
白いシーツ。
白いドア。
白白白白白白白白白白白――。
気が変になりそうだ。
再びエリザベータとナジャが現われなければ、本当に気が変になっていたかもしれない。