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unhuman  作者: イナゴ
35/51

035

そういうわけで、三人の応援も取り付け、美香子といおは学校が終わると、早速リュウギのアパートに向かった。

リュウギが留守かもしれないということは、美香子も承知している。

それでも、何の問題もなかった。

今日の目的は、リュウギに会うことではないのだ。

エマ、というあの女性に会うことが目的なのだ。

もし、リュウギと同棲しているのならば、彼の留守中、エマはどうしているのか?留守番をしているのか?

もしそうだとしても、訪れたとき、エマが出て来たならば、話をするつもりだった。

リュウギとの関係を、きっちりと聞きだすつもりだった。

そして、自分のリュウギへの思いを、はっきりと告げるつもりだった。

アパートに着いた。

昨日と同じように、インターホンを押しても返事はなく、誰も出てこなかった。

やはり、リュウギはいないのだろう。

エマもいないのだろうか。

それともまた、居留守を使っているのだろうか。

ためらっていると、いおが、ドアノブに手をかけた。

開かない。

いおは、ちっ、と舌打ちすると、インターホンを押す。

押す押す押す押す押す。

連打した。

「うるさいっ!」

ドア越しにも聞こえる、大きな声だった。

エマの声ではない。

リュウギの声だった。

二人が驚いていると、ドアが開いた。

エマだった。

一瞬見えた不機嫌な表情は、しかし来訪者が、いおと美香子だと知ると、驚いた後、にこやかなものに変わる。

「こんにちは。いお、今日はどうしました」

「お兄ちゃん!出て来なさいよ!」

エマには答えず、いおは部屋の奥に大声を放つ。

「リュウギは、今日、体調がよくないんです。だからお仕事もお休みしているんです」

無視をされても、エマに気にした様子は一向にない。

「そんな簡単に仕事って休んでいいものなの?違うでしょ?」

いおの声は、エマに向けられたものではなく、やはり、部屋の奥に向けられたものだった。

「いお、静かに。そんな大きな声、ご近所に迷惑ですよ」

いおは黙って、エマに顔を向ける。

睨みつける。

しかしエマは涼しい顔だ。

まるで動じていない。

「あの、だったらお見舞いさせてもらえませんか?」

そう言ったのは美香子。

「リュウギさんの具合が悪いというのなら、お見舞いさせてください」

「だめです」

冷たくエマは答える。

「何でよ!」


エマを睨みつけたまま、いおは叫ぶ。

「今、リュウギは誰にも会いたくないんです」

「何であなたがそんな事わかるのよ!」

「わかりますよ、それくらい」

いおは、エマに対する嫌悪を、もう隠そうとしなかった。

それでも、エマはやはり涼しい顔だ。

答えた言葉には、微笑みさえあった。

「エマさんは」

いおが、ずいぶんと物騒な雰囲気になっているのに気を配りつつ、美香子は言った。

「エマさんは、リュウギさんとは、一体どういう関係なんですか?」

恋人同士、あるいはそれに類する言葉が返ってくると、美香子も、いおも、思っていた。

だからエマが返した言葉は、あまりのも突拍子もないものに聞こえた。

「そうですね。お互い、血の絆で結ばれた・・・、とでも言えばいいのかしら?」

血の絆。

一体どういった意味で、エマはその言葉を口にしたのか?

家族。

とでも言いたいのだろうか。

それほど、深い関係だとでも、言いたいのだろうか?

かっ、と血がのぼった。

いおは、自分を抑えることが出来なかった。

いおの張り手が、エマの頬に飛ぶより早く、彼女の右手は、美香子の手でぐっと押さえつけられていた。

「私、リュウギさんが好きです」

まっすぐな目をエマに向け、美香子は突然、宣言した。

「でも今日は帰ります」

肩透かしを食らって、かくっと肩をおとすいお。

エマも、目をぱちくりさせる。

二人に構わず、美香子は部屋の奥にむかって、呼ばわった。

「リュウギさん。具合がよくなったら、会ってくださいね」

リュウギの返事がないことに、美香子はさびしく笑ってから、再びエマにまっすぐな視線を向ける。

「また来ます」

「え、ええ」

すごい気迫・・・。そんなふうにエマは思っているかもしれない。

「行こ」

「う、うん」

いおの手を引きながら、美香子はリュウギの部屋を後にした。


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