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unhuman  作者: イナゴ
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003

エリザベータはゆったりとした黄色いワンピース、ナジャはTシャツにがっちりとしたベルト、デニムの半ズボンという普段着で、囚われ人がいるその部屋に向かった。

二人は部屋の前で立ち止まる。

乱暴、といっていいしぐさでエリザベータが扉を開ける。

室内にいた男が、驚いて見返してきた。

囚われ人は何の戒めも受けてはいなかった。

それどころか室内には、調度品、家具一式がそろっていた。

この部屋で生活するのに、さして不自由があるとも思えない調いようだった。

男にはこの建造部――施設内でなら出歩く自由もある。

しかしそれは施設の外に出ることは許されないということであり、やはり彼は囚われ人だった。

「ごきげんよう、お父様」

エリザベータはJに笑顔を向けた。

しかしそれはエマに向けていたものとは違い、唇の端に軽蔑の色があった。

「エリザベータ・・・」

「気安く呼ばないでほしいのですけれど」

冷たく言い放つ。

Jは今にも泣き出しそうな顔になって、もう一人の少女に声をかけた。

「ナジャ・・・」

ナジャはぷいとそっぽを向く。

口をもぐもぐさせているのは、ガムを噛んでいるからだ。

Jはうなだれ、がっくりと肩を落とす。

それを冷ややかに見つめて、エリザベータは

「先ほどエマにあって来ました」

はっと顔を上げ、Jはエリザベータを見た。

彼女は笑っている。

それが嘲笑だと、Jは気づかない。

「エマはどうしてた――」

Jの言葉尻に、エリザベータの声がかぶさる。

「少しお話をしました。その後は、まだ具合が悪いようなので、ゆっくり休んでもらうことに」

Jは再びうつむいた。

次に顔を上げたとき、その表情には決意があった。

「エマに会わせてくれ」

エリザベータの笑みが深くなる。

「別にかまいませんが、お父様はそれでいいんですか?――会えるんですか?」

毅然としたものを見せていたJの表情が、途端に曇る。

「エマを裏切っておいて」

エリザベータの言葉が追い討ちをかける。

Jは苦痛をこらえるように、唇をゆがめる。

「怖かったんだ・・・」

ポツリと漏らす。

「怖かったんだ・・・」

再びうなだれる。

「怖かった・・・怖かったんだ・・・」

ほかの言葉を忘れたようにJは繰り返す。

「それでどうします?エマに会われますか?」

エリザベータを見上げたJの瞳には、彼女の笑顔が映っていた。

「いや」

Jは再びうなだれ、首を振った。

「やめておく」

「そうですか。――それでは私たちこれで失礼します」

エリザベータの言葉に、しかしJは顔を上げなかった。

彼が顔をあげたのは、何か小さなものがびしりと頭に当たったからだ。

エリザベータとナジャの後姿がほんの少しだけ見え、ドアは閉まった。

ため息をついたJが視線を落とすと、くるまれた小さな銀紙が床に落ちていた。


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