028
アンヒューマンと言えど、食事もとれば、睡眠もとる。
おなかが減って動けない、と言うことも、睡眠不足で動けない、と言うことも、アンヒューマンと言え、十分ありえることだった。
だからエリザベータとナジャは、三食きちんと食べるし、きっちり8時間は眠る。
パジャマに着替え、ベッドに腰掛け、エリザベータはもう寝る姿勢に入っていた。
しかしナジャはパジャマ(エリザベータとおそろいの)に着替えたきり、ベッドから離れたところで、立ったままでいる。
むすっと頬を膨らませて、エリザベータを見ていた。
案外としつこいナジャに、エリザベータはため息をつく。
「まだ怒ってるの?」
「べつに」
ぷいとそっぽを向くナジャ。
「怒ってるじゃない」
「怒ってないよ」
エリザベータはまたため息をつく。
「いい加減に死なさい、ナジャ。ちょっとしつこいわよ」
「しつこくない。リズがずるいんじゃないか。『ちから』を使われたら、リズに勝てるやつなんか一人もいないのに」
「だから、あれはそんなつもりじゃなかったって言ったでしょう。つい、使ってしまったのよ」
「ずるいよ、リズは」
感情が昂ぶったのか、ナジャの目には涙が浮かんで、その声も震えている。
ナジャに泣かれたら、エリザベータは降参するしかない。
「ごめんなさい」
ナジャに向かってエリザベータは両腕を差し伸べる。
「許してくれる?ナジャ」
ナジャは声を返すわけでも、うなずくわけでもなく、やはりまだむすっとした膨れ面のままでベッドに近づいていくと、エリザベータの胸にもたれかかった。
エリザベータは、ゆっくりとナジャを抱きしめる。
「ごめんね、ナジャ」
「いいよ、もう」
拗ねたような声。
エリザベータは、ナジャの頭を優しく撫でる。
ナジャは、気持ちよさそうに目をつむる。
「大丈夫よ、ナジャ。何があっても私が守るから」
エリザベータの柔らかな胸に顔をうずめて夢見心地のナジャだったが、顔を上げると、エリザベータを見返す。
「守んなくていいよ。リズには勝てないけど、ナジャだって十分強いんだから」
頼もしい言葉に、エリザベータは微笑む。
「そうね。私のほうこそ守ってもらわなくちゃならないかもね」
「まかせて」
にっと笑った後、ナジャは大きくあくびをした。
「眠い」
「そうね。私も」
ナジャは、もぞもぞとエリザベータから身を離すと、ベッドに横になる。
エリザベータも、ナジャと向かい合うように横になる。
シーツを胸元まで引き寄せる。
ナジャにも同じようにしてやる。
ナジャはもう目を閉じている。
「おやすみ、リズ」
「おやすみなさい、ナジャ」
あっという間に寝息を立て始めたナジャの寝顔を見つめながら、エリザベータもまた、ゆっくりと目を閉じた。