021
三人は連れ立って、駅前のアーケード街に向かった。
エマの服を買うためだ(エマが履いているスニーカーは、リュウギが買ったもののようだ)。
店はアーケード街にあるのだ。
『お兄ちゃん、あの人との関係、後でしっかり答えてもらいますからね』
――そう予告しておきながら、いおがリュウギに詰問することはなかった。
エマに対しても、何も尋ねない。
積極的に会話を交わそうとはしない。
エマに何かを尋ねられると、『はい』とか『ええ』とか、生返事を返すだけ。
いおのそんな態度に、しかしエマが気を悪くした様子はない。
しかしリュウギに対しては違った。
エマはリュウギに対してもあれこれと話しかけるのだが、それに対してのリュウギの答えは、『ああ』とか『うん』とか、適当な相槌だったのだが、これにはエマは気を悪くし、怒って見せたり、拗ねたりした。
リュウギはそのたびにはっと我に返り謝るのだが、心に片隅では、ずっと同じことを考えていた。
いおに、エマのことをどうやって説明すればいいのか、そのことばかりを考えていた。
そんなわけで、目的の場所に着いたとき、三人が三人とも、微妙に不機嫌だった。
しかしそれも店内に入るまで。
中の様子を見ると、エマといおの気分は見事に切り替わったようだった。
「リュウギ。好きなもの、選んでいいんでしょう?」
「え、ああ。いいよ」
リュウギだけは、いまだ道中の気分を引きずっているようだったが。
リュウギの了承を得ると、エマは大きな笑顔でうなずく。
それを見て、やっぱり普通の女の子なんだなあ――と、リュウギは思う。
「ずいぶんと大きなこと言ってるけど、予算ってあるんでしょう。いくら?」
そこへ、いおの皮肉交じりの声。
リュウギは右手を開いてみせる。
「五万」
と、いお。
「五千だよ」
いおは、正気を疑うような目で兄を見て
「全然足りない。せめてこのくらいは要るわよ」
両手を開いてみせる。
「十万!?」
叫ぶリュウギ。
「一万よ」
「うーん。もう少し負けてもらえないかなあ」
「私に言われてもねえ」
答えながら、いおは、開いたままの両手を、兄に向かって差し出す。
「はい。一万」
「仕方ないなあ」
渋りながらもリュウギは、財布から万冊を一枚抜き取ると、いおの手のひらにのせた。
「まいど」
いおは、にっと笑うと、エマの元へ駆け寄っていく。
店の入り口で待っているのも居心地が悪いし、かといって、いおとエマについて回るのも気恥ずかしいので、リュウギは外で待つことにした。




