018
リュウギが中学に上がったその年の春に、両親は離婚した。
何が原因だったのかはわからない。
両親は特に不仲なようでもなかった。
積もりに積もった互いに対する小さな不満が、分かれることを選択させたのだろう。
どんな事情があったところで、それはリュウギの知ることの出来ない大人の事情で、だからリュウギには両親の離婚を止めることが出来なかった。
当たり前と思っていたものが、何の前触れもなく突然崩れた。
13歳のリュウギにとっては、両親がいる――ということは、当然過ぎるほど当然のことだった。
彼の現実を安定させている楔だった。
それが突然に外れた。
リュウギは父親に引き取られた。
母もリュウギと別れることは望まなかったが、経済的な理由などで、リュウギは父親の元に残るほうが良いと、両親の間で合意は出来ているようだった。
もともと母などいなかったように、それからの五ヶ月間を、リュウギは過ごした。
夏休みも終わり、一月経とうというころ、父親が再婚した。
このときはさすがに父から事前に話は聞いていたから、心構えは出来ていた。
新しい母親に連れ子がいるということも。
そ連れ子が、いおだ。
血のつながらない、四つ年下の妹。
13歳にして出来た妹は可愛かった。
リュウギは乞われるまま、エマに、いおが妹になった経緯を話した。
なぜエマが、いおが本当の妹でないことを知っていたのか、何度か問いただしたが、のらりくらりとかわされ、逆にリュウギのほうがエマに尋ねられ、答える羽目になっていたのだ。
「確かに血はつながっていない。そういう意味では他人だよ。でも7年も一緒に住んでいれば、もう家族だよ。大事な妹さ」
「7年・・・。それだけ過ごさなければ、家族にはなれないんでしょうか」
「え?あ、いや、そういうわけじゃないと思うけど。そもそも本当の家族なら、年月は関係ないしね」
「そう・・・そうね」
物思いに沈んでいくように見えるエマに、リュウギは声をかけかねる。
「ありがとう、リュウギ。本当はあまり話したくないことだったんでしょ」
「うん、本当言うとね。でもエマに頼まれると、断りにくいしね」
「ありがとう、リュウギ。――ごめんね」
『ごめんね』――エマのその言葉を、リュウギは深く考えなかった。