017
美香子のさびしげな背中に、いおは駆け寄った。
しかし言葉をかけることは出来ずに、友人の隣に身を置き、一緒に歩いていく。
言葉を交わすことのなかった二人だったが、しばらくして、美香子がポツリと漏らす。
「あの人、綺麗だったね・・・」
「何言ってるの!」
いおは憤慨した。
弱気な美香子に対してだ。
「でもあんな綺麗な人が相手じゃ、私・・・。それにリュウギさんだって・・・」
美香子の歩みが止まる。
うつむいて、鼻をすんすんと鳴らす。
「女は顔じゃない!度胸よ!」
友人の励ましの言葉にも、美香子はすぐには言葉を返せなかったが、やがて
「いおが言うと説得力あるね」
「言ってくれますねえ」
減らず口をたたく元気があることにほっとしつつも、半ば本気で美香子を睨んでしまう。
顔を上げて、いおに笑顔を向ける美香子だったが、やはりその笑みは弱々しい。
「お兄ちゃんにはさあ」
「うん」
「あの人は似合わないよ」
「綺麗だから?」
「しつこいね、君も。つか酷い。――確かにお兄ちゃんではつりあわないと思うけど、そういうことじゃなくて・・・なんていうのかなあ・・・お兄ちゃんには、もっと普通の人が似合うってこと」
「確かに普通じゃないほど綺麗だったもんね」
「だからしつこいって。――つまりお兄ちゃんには美香子が似合ってるって言いたいわけ」
「そ、そうかな」
「そうです。だからもっと自信持ちなさい。なんたって私が応援してるのよ。梁瀬リュウギの妹が」
「そうだね。うん」
うなずく美香子に、いおはほっと胸をなでおろす。
「でも、いおはいいなあ」
「え?」
「リュウギさんの妹で。私もそうだったら良かったのに」
「妹なんてそんないいものじゃないけど」
「でも兄妹って関係はずっと続くんでしょう。何があっても。それが羨ましいの」
「まあ、家族ってそうだよね」
「あーあ、お母さん、いおのお父さんと再婚しないかなあ」
「勝手に人の親を離婚させないで」
「でも、それでしかリュウギさんの妹になれないよ」
「君はおにいちゃんの妹になりたいのか?恋人になりたいのか?」
「妹で恋人?」
「それは駄目だろ」




