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unhuman  作者: イナゴ
14/51

014

「聞いていいかな?」

「はい」

「エマはどこから来たの?」

どこ、と問われても、エマにはすぐには答えられない。

どことも知れない地下施設から来た――それが、リュウギが聞きたいことでも、またエマ自身の答えにもなっていないことは分かっていた。

「どこからなんでしょうか・・・。分かりません」

「どこかに行くつもりだったの?」

これにも答えられない。

まさか、逃げてきた――ともいえないし・・・。

「別にそういうわけではないんです。あてがあるわけでもないし・・・」

エマについて分かったことは、結局その名前だけだった。

ほかの全てを秘密にしておきたいのか、あるいは本当に、どこから来たわけでもなく、どこに行くわけでもない、そんな存在なのかもしれない。

「これからどうするつもりなの?」

「これから?」

初めて聴いた言葉を繰り返すように、呟く。

「どうしましょうか?」

冗談めかして答えるエマに、呑気だな、とリュウギは笑う。

つられたようにエマも笑って、それからリュウギから視線を外すと、再び正面を向く。

リュウギは美しいエマの横顔に見入る。

はっと気付く。

エマが、声も上げず、表情も変えず、ただ静かに涙を流していた。

「わからない」

泣き顔を両手で覆い、エマはひざの間に顔をうずめるように、身を二つに折る。

「わからないんです。私、これからどうしたら・・・」

絞り出すように、そう漏らし、嗚咽する。

エマの震える背中。

リュウギはただ狼狽する。

挙句に口にした言葉が――

「だ、大丈夫。何とかなるさ」

無責任この上なかった。

エマの嗚咽は止まない。

何とかしてエマを慰めたいのだが、なかなか言葉が出てこない。

それでもやっとのことで声を出す。

「大丈夫だよ。俺が――俺が何とかするよ。俺が付いてるから」」

やはり無責任にしか聞こえないものだった。

だが言葉にしたからこそ、生まれる感情もある。


エマの嗚咽の声がやがて小さくなる。

「でも・・・」

ポツリと漏らし、すぐに嗚咽を再開する。

リュウギも再びおろおろしだす。

このままでは困る。

本当に人目につく。

「と、とにかく場所を変えよう。ど、どこか落ち着く場所にいこう」

エマは泣き止まないまま、こくりとうなづいた。

「立てる?」

リュウギは立ち上がると、エマに手を差し伸べる。

静かに泣き止むと、エマは不思議な微笑でリュウギを見た。

安堵に満ちた表情――そこにはなぜか謝罪もこめられていて、相手を哀れむような色もある。

だが、リュウギが凍りついたように立ち尽くしたのは、エマの目を見たからだった。

泣き腫らしたその目は赤かった。

真っ赤だ。

血のように赤い。

まぶたの奥にはただ赤い眼球があるだけ。

人間の目ではなかった。

血が滴るように赤いその眼が、潤んでいる。

「リュウギ・・・」

恐怖で体は凍り付いているのに、その囁きは耳に熱い。

リュウギはあっさりとエマに押し倒された。

そのショックで一瞬意識がはっきりしたが、首筋に走った痛みと、襲ってきた快感の波に、また頭の中に霞がかかって――

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