014
「聞いていいかな?」
「はい」
「エマはどこから来たの?」
どこ、と問われても、エマにはすぐには答えられない。
どことも知れない地下施設から来た――それが、リュウギが聞きたいことでも、またエマ自身の答えにもなっていないことは分かっていた。
「どこからなんでしょうか・・・。分かりません」
「どこかに行くつもりだったの?」
これにも答えられない。
まさか、逃げてきた――ともいえないし・・・。
「別にそういうわけではないんです。あてがあるわけでもないし・・・」
エマについて分かったことは、結局その名前だけだった。
ほかの全てを秘密にしておきたいのか、あるいは本当に、どこから来たわけでもなく、どこに行くわけでもない、そんな存在なのかもしれない。
「これからどうするつもりなの?」
「これから?」
初めて聴いた言葉を繰り返すように、呟く。
「どうしましょうか?」
冗談めかして答えるエマに、呑気だな、とリュウギは笑う。
つられたようにエマも笑って、それからリュウギから視線を外すと、再び正面を向く。
リュウギは美しいエマの横顔に見入る。
はっと気付く。
エマが、声も上げず、表情も変えず、ただ静かに涙を流していた。
「わからない」
泣き顔を両手で覆い、エマはひざの間に顔をうずめるように、身を二つに折る。
「わからないんです。私、これからどうしたら・・・」
絞り出すように、そう漏らし、嗚咽する。
エマの震える背中。
リュウギはただ狼狽する。
挙句に口にした言葉が――
「だ、大丈夫。何とかなるさ」
無責任この上なかった。
エマの嗚咽は止まない。
何とかしてエマを慰めたいのだが、なかなか言葉が出てこない。
それでもやっとのことで声を出す。
「大丈夫だよ。俺が――俺が何とかするよ。俺が付いてるから」」
やはり無責任にしか聞こえないものだった。
だが言葉にしたからこそ、生まれる感情もある。
エマの嗚咽の声がやがて小さくなる。
「でも・・・」
ポツリと漏らし、すぐに嗚咽を再開する。
リュウギも再びおろおろしだす。
このままでは困る。
本当に人目につく。
「と、とにかく場所を変えよう。ど、どこか落ち着く場所にいこう」
エマは泣き止まないまま、こくりとうなづいた。
「立てる?」
リュウギは立ち上がると、エマに手を差し伸べる。
静かに泣き止むと、エマは不思議な微笑でリュウギを見た。
安堵に満ちた表情――そこにはなぜか謝罪もこめられていて、相手を哀れむような色もある。
だが、リュウギが凍りついたように立ち尽くしたのは、エマの目を見たからだった。
泣き腫らしたその目は赤かった。
真っ赤だ。
血のように赤い。
まぶたの奥にはただ赤い眼球があるだけ。
人間の目ではなかった。
血が滴るように赤いその眼が、潤んでいる。
「リュウギ・・・」
恐怖で体は凍り付いているのに、その囁きは耳に熱い。
リュウギはあっさりとエマに押し倒された。
そのショックで一瞬意識がはっきりしたが、首筋に走った痛みと、襲ってきた快感の波に、また頭の中に霞がかかって――