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unhuman  作者: イナゴ
10/51

0010

病室を出てJの元に向かったときのように、逃走経路に迷うことはなかった。

進むべき道が分かるのだ。

それがなぜかは分からない。

だが、確かな感覚だった。

これが自分に与えられた能力なのだ。

ナジャに死神の爪があるように、エリザベータに不可視の力があるように。


結局、Jを救うことは出来なかった。

エリザベータの力の前に、なすすべもなかった。

Jを見捨てて、逃げた。

今のエマには、罪悪感しかない。

結局、自分の命が一番大事だったということだ。

命を捨てる覚悟があれば、Jを救えたかもしれないのに。

(不可能だ。そんなこと)

答える声がある。

エリザベータの不可視の力に対抗するすべなどあったはずもない。

抗っていたところで、結局はJと一緒に殺されていただけだ。

そうすれば、確かに罪の意識もなく、死にいくことはできただろう。

だが――

(死ぬのはいやだ。死にたくない)

だからエマは逃げる。


どうやらエマは、地下にある建造物にいたようだ。

地上はひどい土砂降りで、深い森の中ということもあり、辺りは真っ暗だった。

だがその暗闇も、エマには関係なかった。

彼女には森の様子が見えるからだ。

さすがに日中のように明るくは見えないが、不安を感じるほどでもなかった。

木々の間を縫いながらエマは走り続ける。

やがてたたきつけるようだった雨が小降りになり、止んだ。

雲間から、月が覗く。

白い月明かりが、エマを照らす。

エマの全身をぬらしていた血は、きれいに洗い流されていた。

傷跡さえすでにない。

淡い月の光のせいもあり、エマの肌はまるでほのかな光を放っているように、白く輝いて見えた。

しかし森の住人たちが、エマの美しさに安らぎを見出すはずもない。

彼女は闖入者でしかない。

真夜中の来訪者に、森はざわめく。

前触れもなしに眠りを妨げられ、何事かと走り回る小さなものたち。

時ならぬ羽音を響かせ、飛び立っていく何か。

光る目が、闇の中からじっと侵入者を見つめている――。


走ってきた道順など分かるはずもないが、いつの間にかエマは幹線道路に出ていた。

全速で走り続けてきたが、ようやく速度を緩める。

気付けば夜の気配はすでに消えていた。

東の空が白み始めている。

山の稜線が輪郭を浮かび上がらせ、町並みを包んでいる。

そんな景色を、今、エマは見ている。

――夜が明けようとしている。


エマは道の真ん中で立ち止まっていた。


唐突に巨大な衝撃がエマを襲った。

文字通り巨人の手で張り飛ばされたような衝撃。

視界がぐるぐる回って真っ暗になった。


エマの体は宙を舞い、地面に激突し、数度バウンドしてごろごろと転がる。

動かなくなった。

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