【短文】とある読者の呟き
「転生とかチートとか、そんなのに憧れる理由が分からない」
私が思わず口にしたのはそんな言葉だった。
今私が読んでいるのはオリ主転生小説――別の言い方をするなら転生夢小説。中々に面白い作品ではある。ストーリーも作り込んであるし、キャラクターも魅力的な人物ばかりだ。
面白い。ランキングでも上位に食い込むだけはある。面白い、のだが。
私はこの作品の始まり方が無性に気に食わなかった。
「ごめーん、儂神様何じゃけど、間違ってお主のこと死なせちゃった☆」
直訳すればこんな内容の台詞に、思わずブラウザバックどころか右上の×ボタンを押しそうになっていた。
最近ではこういう作品はテンプレート作品として扱われているらしい。まあこれはこれで作品の形式として確立されているのだろうし、好んでる人も多いのだろうけれど……私は、気に食わない。
だって、いくら理不尽な死を与えられたからといって、様々な特典をつけてもらった上に別の世界に転生なんて有り得ないでしょうが。
私も一応転生作品は好きだ。シチュエーションによっては大好物にもなる。だけどそれは、神様や悪魔など、誰かの意思介入なんて無いのが殆どだ。物語の一登場人物ではない、ただ物語を都合のいいように進めるためだけの機械仕掛けの神には、退場以前に登場してほしくない。最も、
「私が言える台詞では無いんだけどな……」
今までぼんやりと眺めていただけの画面から目を離して、背もたれに深く背を預ける。何時間も画面を見つづけてかなり目が疲れてしまった。そろそろ止めるかと思った所に、部屋の扉の向こうから軽いノックの音が響いた。
「どうぞ?」
応えるとほぼ同時に扉が開く。その向こうから顔を出したのは同僚だった。
「あはは……よっすー」
「お前か……何の用だ?」
何の用かといったところで、こいつの用事はほぼ一つしかないのだけれど。
「あはははは、いやな、今日契約を交わした奴がいるんだけどさー、そいつ余りにも無茶苦茶な条件突き付けてきやがったんだ。それについてちょっと相談してーんだけど……」
苦笑しつつそう言って来るそいつに対して、呆れを込めた息を吐く。
「毎度毎度面倒事ばかり持ち込みやがって……。いい加減尻拭いは自分で出来るようになれこのバカ」
「別にいーじゃねえか! ノルマはちゃんとこなしてんだ、文句言われる筋合いは」
「尻拭い全部こっちの協力仰いどいてか」
「すいませんでした!」
少々腹が立ったために皮肉りまくれば、深々と礼をされつつ書類を差し出された。取り合えず受け取って中身を確認してみれば、それには確かに面倒臭い契約オプションの数々が記されていた。
「……こんな阿呆みたいな内容のを選ぶなんて……相手はどんなバカだ……」
「本人曰く『俺様の、俺様による、俺様のためのハーレム』を作りたいんだそうな」
「バカだ、今度の奴もただのバカだ……」
痛む頭を押さえつつそう言うと、目の前のバカ1号は「しょうがないっしょ」と笑った。
「そういうバカが何も考えずに魂差し出してくれるから、俺らの仕事は回ってんだもんよ」
ケケケ、という擬音が似合う顔で笑いながらそいつは部屋の中を歩く。私は再び背もたれに深くもたれ掛かる。
「ああ、全くもってそうだ」
口角が釣り上がっているのが嫌でも分かった。
「んじゃ、早いところ片付けたいからさっさと行こうぜ、ナベルス」
「毎度毎度人を当てにするなカークリノーラス。今回はちゃんと自分でやれる分はやれ」
「分かってるっつーの。にしても日本のOTAKU共は好きだねえ、チート転生って奴。お話みたいに上手く行く訳なんかないのにな」
笑いあいながら私は立ち上がり、カークリノーラスは扉に手を掛ける。
私には、私達には転生・チート作品をどうこう言う資格はない。何故なら、
私達もまた、その片棒を担いでいるのだから。
ナベルス(ナベリウス/ケルブス)
ソロモン72柱24位の魔界の侯爵。魔界の優れた死霊術士であるネビロスの配下。
カークリノーラス(グラシャラボラス)
ソロモン72柱25位の大総裁。ナベルス同様にネビロスの配下。殺戮の元締と呼ばれるが、仕事の一つはネビロスやナベルスを背に乗せて運ぶこと。
大した意味は無いです。