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「処分の決定が下された時、世界はどうしようもないところまで崩れていたの。出生率と死亡率の均衡が崩れて、社会の体系が維持できなくなっていた。だから保護都市が造られた。有益な人間を選出して、世界を創り直す。そのために」
映像を消す。
選別は、極秘裏に行われた。
元々は優秀な人材を無為に死なせない為に造られた施設だった。
世界はどんどん劣悪になっていき、とても棲める環境にはない。人材と設備を整え、世界を立て直すために必要なものを揃えた施設だった。
「でも、途中で用途が変わってしまった。保護都市を私有化しようとする派閥に乗っ取られてしまった。最初に処分されたのは高齢者。次に権利だけを主張する人間たち。有益な活動をしない人間たち。反対勢力も軒並み処分されていった」
保護都市に入れるのは、資金と権力を持つ人間。人類の維持に必要な医師や研究者。娯楽を提供する芸能や文化人。
逆に、選ばれなかった人間は保護都市の外で野垂れ死ぬしかなかった。
「保護都市のことを『ノアの方舟』や『神の祠』なんて呼ぶ政治かもいたわ。途中で消されたみたいだけれど。選ばれた人間には『招待状』が送られ、保護都市の中で管理された」
いつの間にか、月はどこかに隠れていた。
昼間にダウンロードした気象情報を引っ張りだして、今夜は晴れだったはずだと思い出す。
真っ暗な部屋の中で、彼の眸だけが微かに光を湛え、揺れていた。
「マスタも?」
彼は、静かに私を見ていた。