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荒野につがれる物語  作者: |||&_.
砂の章
28/33

28

少女は言う。

ヒトの手で管理できるはずだったウイルスが、突然変異を起こしたのだと。

もちろん突然変異も想定した上での計画だった。ウィルスの進化段階化し、いく通りものパターンを合わせてワクチンの開発は進めらられていた。


「予想外だったのは、ウイルスの進化が研究者たちの想定していたベクトルから反れてしまったということ。遺伝子に異常を持たない人間もウィルスに感染をし始める段階になって――――もっとも、その場合は毒性が低くて、死ぬまでに時間がかかる場合が多かったみたいだけれど、ようやく計画を立てた人間たちは慌て始めた。安全圏にいたはずの自分に、脅威が迫ってきている。頼みの綱のワクチンは効かない。世界中が混乱した。死ぬ間際の大統領が、錯乱して核ミサイルのスイッチを押しちゃうくらいにね。そしてさらに人口の二割が減った」


外で、ごうっと音が響いた。

何の音だろうと考えて、風の音だと気づいた。


気づいた――――。


「温暖化が、突然変異の原因じゃないかと言われているわ。地球の生態系が変化してしまったからだと。ある時期を境に、それまで見たこともないような新種の生物や最近が世界中で発見された。南極の氷は少しずつ溶けて、海が広がり陸地は狭くなった。食物連鎖の生態系は崩れ、地球上の生命が進化せざるを得なくなったのだと考えられた」


世界の古代文明について、知っているかと聞かれた。

メモリの中に、教養の一般常識としてインプットされている。


少女が軽く指を鳴らすと、掌の中にグラフィックが起ち上がる。

目を凝らすと、淡い色彩の世界地図なのだと解った。

それを見ながら、少女は続ける。


「じゃあ、古代文明の栄えた場所、その土地が、その後ずっと砂漠になっていることは?」


少女がもう一度、指を鳴らすと、地図は緩やかに色を変えはじめた。時間軸を基にした時代の変遷を目で追う。


「メソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明、黄河文明。有名な世界四大文明ね。この古代文明の殆どが、建築に煉瓦を使っていた。煉瓦を作るために木を燃やして、樹木が張っていた根を切った。根を失った土地は緩み、地面は水を溜められなくなった。水は海へ流れた」


少女の手の中の映像が変わる。世界地図の一点に拡大(ズームアップ)されると、画面は大河を映し、晴天から旱魃、大雨、氾濫までを早送りで表示した。


水が一気に海へ流れると、海から遠い土地では雨が降りにくくなるのだと、少女は言った。

地面から水分が奪われて、土地は枯れた。木を切ることが、土地の気象までを変えるのだそうだ。


「だから古代文明のあった土地では、永く砂漠が続いたの。それと同じよ」


人間は自分達のために木を切った。住む場所を作った。畑を作った。工場を作った。そのしわ寄せが、自分たちに返ってきた。


「水を留められなくなった土地では、雨が降ると簡単に河が氾濫する。土の養分が流れた場所には、新しい植物が育たない。そういう場所に残ったのは岩や石ばかりで、やがて人間たちは生きるために土地を捨てた。人間の棲める土地がどんどん狭くなって、――――やがて暴動が起きた」


やがて映像は、ひび割れた大地に倒れる細い木を映し、切り替わる。

手を振って、弾幕を掲げて、大衆が口々に何かを叫んでいる

険しい顔をして、笑顔はどこにもない。


なぜ、もっと保証してくれない。土地を整備してくれない。

なぜ、もっと棲み易く、快適にしてくれない。


「そういう人間に限って、自分では何もしようとしないの。ただ、声を上げるだけ。改善の努力も、方法も他人任せで、不満を言うことだけが自分の役目だと思っている。暮らしていけない。だから保証しろ。金を寄越せと、自分が豊かになるのなら、他人の犠牲は厭わない。自国が生き延びるなら、他国が滅びたって構わない。

だから戦争は何度でも起きるし、争いは終わらない」


「だから、――――『処分』したの?」


少女は静かに頷いた。


『処分』の決定が下された時、世界はどうしようもないところまで崩れていた。

出生率と死亡率の均衡が崩れて、社会体系の維持ができない。


「だから保護都市(シェルター)が造られた」


そう、言った。


「最初は、有益な人材を無為に死なせないための施設だったの。世界を立て直すために必要な人間と、設備を確保することが目的だった。でも、途中で用途が摩り替わってしまった。保護都市を私有化しようとする派閥に乗っ取られ、意に沿わない人間は真っ先に処分された」


保護都市に入ることを許されるのは、資金と権力のある人間。人類の維持に必要な医師や研究者たち。娯楽を提供する芸能人や文化人。選ばれなかった人間は、保護都市の外で野垂れ死ぬしかなかった。


「保護都市のことを『ノアの方舟』や『神の祠』なんて呼ぶ政治家もいたわ。途中で消されたみたいだけれど。


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