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荒野につがれる物語  作者: |||&_.
砂の章
22/33

22

立ち昇る陽炎の中で、眸を凝らす。

ここら辺のはずだ。記憶装置メモリの中にあるMAPを呼び出し、同時に、GPSに辺り一体の座標を要求リクエストしてMAPと照合させる。だが相変わらず、それらしいものは片鱗も見つけられない。探索の範囲を地中にまで拡大して、最後に情報を観測した地点をひたすら目指す。


辺りは、一面の砂丘。

荒野を渡って、少女は歩く――――。



(反応があったのは、ここら辺のはず)


衛星から返される誤差は、数十から数百メートルにも及ぶ。

衛星自体の劣化が言及されて久しいが、今、問題にすべきなのは、そこではない、


足元に細心の注意を払って、砂の上をぐるぐると歩く。何かしらの痕跡があって然るべきだが、何も見つけることができないまま、時間だけが無為に過ぎた。

整合性が取れないとシステムがエラーを返すのを無視し、探索を続けるも、太陽が中天を過ぎ、傾き始める頃になって、それもやがて諦めに変わっていった。


もう、ここにはないのかもしれない。

元より、信憑性の低い情報源(データ)だった。夕暮れになり、五十度を越えていた気温も下がり始めている。今が引き時だと、進めていた歩を返した時だった。足の下から、微弱な電磁波が漏れているのを確認した。


掘り起こした砂の中から、それは出てきた。

完全に機能停止(ハングアップ)している。かなり汚れているが、外殻に目立つ疵などは見当たらなかった。

ただ眠っているだけのようにも見えるが、もちろん、このままでは起きることがない。応急処置が必要だと、私は辺りを見回した。


砂の上で出来ることは限られている。これから陽が沈んだあとは、氷点下まで気温も下がる。どこか、適切な場所へ移動しなくては――――。

周囲を視野拡大(スコープ)すると、遠くに家屋らしいものが見つかった。酷く朽ちていて、倒壊寸前という代物だが、少なくとも風や霜よけにはなるだろう。他に代替できそうな場所もない。

夕陽を浴びて、真っ赤に染まる砂の海を、それを引きずりながら、私は歩いた。



潤滑油(オイル)の欠乏、補填完了。動力の不足、充電完了。各回線の劣化、皮膚の損傷。こればかりは、ここではどうすることも出来ない。他にもいくつかの保守的なメンテナンスを完了した。ひとまずはこれで動くだろうが、これ以上のことは、保護都市(シェルター)につれていかなければ、ここでは無理だ。


両手で瞼を覆い、強く押さえる。数秒後に低い起動音が唸りだすのを確認し、手をどけた。

起動するまでに、通常よりも長い時間がかかっている。複数のノイズも生じている。

だが私には、他にできることもない。少し離れたところに腰を下ろして大人しく待った。ここに至るまでの行程を考えれば、これくらいの時間はないに等しいものだ。


結構な時間をかけて、ようやく起動した人工知能生命体(アンドロイド)は、だが眸を開いたまま、動こうとしない。私の存在にも、気づいていないようだった。


深く澄んだ眸の色が印象的だった。陽に灼け、風砂で相当、傷んでいるのに、その双眸は、不思議なくらい透き通っていた。

動かないのは、バグじゃない。それは私の直感だった。バグったアンドロイドは、もっと濁った眸を返す。


今では化石といえるくらい古い型のアンドロイドが、どういうものなのか。

私たちと何がちがうのか。


本当に、――――希望を持っていいのか。解らないすべてのことに、興味があった。

さらに充分な時間を待つ。それから私は、目の前のアンドロイドに話しかけた。


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