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荒野につがれる物語  作者: |||&_.
刻の章
13/33

13

どうも最近、よくないことばかりが頭を過ぎる。


ずっと続いている微熱のせいかもしれない。きっと頭の中が沸いているのだろう。

アンドロイドの取扱説明書を引っ張り出して、片っ端から熟読していく。夜明け前の、薄暗い部屋の中で、狂ったように仕様書をめくる。

一心不乱に活字を目で追う反面、酷く冷静な自分が警告を発する。


――――私は何を考えているんだ。


今さら、見苦しい。

だが思考回路はぐるぐると、思考はメビウスの輪を辿り、同じ場所に戻ってくる。落ち着けと諭す私を無視して、私はアンドロイドの構造書を調べ上げる。大人しく寝ているべきだ。頭では解っている。

本当に、私はどうかしているのだ。


「マスタ。昨日も遅くまで作業していたんですね? 明かりが点いていましたよ」


「まあね」


「病み上がりなんですから、ムリをしてはいけません。お隣さんにも言われているんですから」


「そうね」


いつもと変わらない笑顔を見せるアンドロイドに、私は平然を取り繕って、いつもと同じように、私は返事をする。そういえば、とアンドロイドが声を上げた。


「先ほど、お隣さんから電話がありましたよ。出張を終えて、明日にでもこちらに戻ってくるそうです」


「…………へ――――」


意外なことだった。彼は、もうここには戻ってこないと思っていたのだ。

私の意志は、もう伝えてある。ならば、彼がここに戻ってくる理由は、ひとつだ。

そうだ。それが一番いい。今がその時なのだ。


「お前さ。あいつが帰ってきたら、そのまま一緒に連れて行ってもらいなよ」


そうだ。これが一番、建設的で、平和的な解決策だ。


「どこにですか?」


「アイスクリームがたくさんあるところだよ」


思惑通り、アンドロイドは眸を輝かせた。


「アイスクリーム! 最近食べていないのです!」


「きっと、いっぱいあるよ」


近隣の街が消えて、もう随分と経つ。アンドロイドは何も言わなかったが、唯一の嗜好品だ。きっとずっと食べたかっただろう。


「マスタ! マスタも一緒に行きましょう! 他にもきっと美味しいものがたくさんありますよ!」


無邪気な笑顔に、少し胸が痛む。私はゆっくりと首を横に振った。


「私は行けないんだ。仕事が溜まっているからね。お隣男と、美味しいものをいっぱい食べておいで」


これで、私もお払い箱かと、少し寂しくなる。だがアンドロイドは笑顔を引っ込め、怪訝な顔を私に返した。


「マスタが行かないのなら、僕も行かないのですよ」


「いや、私のことはいいから。行っておいで」


「行かないのですよ」


「行っておいでって」


「行かないのです」


――――人の気も知らないで。


押し問答が続く。今まで、私に対して一度も「否」を言ったことのないアンドロイドが、今回に限って、決して頷こうとしないことに苛立った。


「――――好きにすればいい」


気がついたら、テーブルを強く叩いて、立ち上がっていた。

背後から、アンドロイドの戸惑う気配が伝わってくる。


「あーあ、おいしい、おいしいアイスクリームが、いーっぱいあるところなのになぁ」


我ながら、子供じみた態度にうんざりする。大人気ない。本当に、自分がなさけなくなる。

アンドロイドは、行きたがっている。アイスクリームだって、いっぱい食べたいのだと思う。それを止めているのは私の存在――――、マスタへの忠誠心だ。台無しにしているのは、私なのだ。

マスタとして、アンドロイドの可能性を奪うようなことは、あってはならない。してはいけない。

その時点で、私はマスタ失格なのだ。


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