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荒野につがれる物語  作者: |||&_.
刻の章
12/33

12

ドアのノックに返事をすると、隙間からアンドロイドが顔を出した。


「マスタ、僕ですよ」


「うん」


「起きたりして、風邪は大丈夫なんですか?」


「問題ないよ」


「ご飯、食べますか?お粥、作りましょうか?」


「今はいらない」


窓辺で、私は本を読んでいる。陽が沈んで、めっきり冷え込んだ室内には、私の足元にだけ小さな暖房がつけられている。


「マスタ、今夜は冷えるんです」


「そうだね」


「せめて、肩掛けくらい、してください」


そう言うと、アンドロイドはストールを取り出して、私にかけた。


「ん。さんきゅ」


その後も、アンドロイドは落ち着かずに、部屋の中を行ったり来たりとうろついていた。


「マスタ、何を読んでいるんですか?」


「かつての文豪。推理小説有名傑作集」


それだけを応えて、私は目も上げずに本を読み続ける。


「推理小説ですか? ミステリというヤツですね? 誰の作品ですか?」


応えるまで聞いてくるので、作家の名前だけを簡潔に教えてやった。するとアンドロイドは独特な感嘆詞を唸り、なるほどと大げさに頷いた。

知識として、頭の中のデータベースには入っているのだろうが、読んだことなどないくせに、わざとらしい。一丁前に感想などを言おうとするところが、さらに鬱陶しい。あと少しで解答編だというのに、ちっとも進まない。それどころか読み終わる前に、結末を言われてしまいそうな危機感がある。


「うるさい。退場」


ドアを指差すと、アンドロイドはすごすごと退場した。

しかし五分も経たずに、再びドアがノックされる。


「マスタ、僕ですよ」


「知ってるよ」


今度はなんだ?と促すと、ドアから半分顔を出して、「コーヒーを淹れました」と言う。


「頼んでないけど?」


「で、でもっ、今日は寒いのでっ」


そこで私は、アンドロイドがおしゃべりをしたいのだと気がついた。いっちょう前に退屈をしていたらしい。仕方がない。


私は解答編を諦めて、読んでいた本をパタンと閉じた。


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