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荒野につがれる物語  作者: |||&_.
刻の章
11/33

11


「と、いうわけで、これの発注、よろしく」


お隣男は応える代わりに、受け取った紙切れに何度も目を走らせた。


「これ、……こんなに?」


「もちろん、支払いは私が持つよ」


「数、間違ってない?」


「間違えてないよ」


だってこれ、とお隣男は抗議した。


「何年、いや、何十年分なの? しかも純正……」


「備えあればって言うでしょ。つべこべ言うな。支払いは私」


それでもまだ、お隣男は納得できないというように、紙の切れ端を見つめている。


「本気?」


「くどい」


別に数を数えられなくなったとか、頭が可笑しくなったとか、自暴自棄になったわけでも、やけくそになったわけでもない。これは必要なものなのだ。


「だって、私たちより長生きしそうだしね」


それを使うか、使わないかは、きっと私の決めることではない。でもいざという時に選べるだけの材料は、揃えておいてやらなければいけない。


「君は、本当にシェルターには行かない気なの?」


「だから止めないって」


ここにあるものも、何でも持って行っていい。そう伝えると、お隣男は困った笑顔を浮かべた。


「一番、持って行きたいのは君とアンドロイドなんだけど。俺の飯の種だし」


「――――悪いね」


私は行かない。行っても、もうきっと意味がない。

笑顔の裏に本心を隠してはぐらかす私に、お隣男は取り付く島もないと不貞腐れた。


「君は本当に頑固だからなぁ。もう一生直らないよ、それ」


「直そうとも思ってないからね」


「余計に性質が悪いよ」


何を言っても無駄だと、両手を挙げた。


「ねぇ、アンドロイドは連れて行ってもいい?」


「あの子がそれを望むのならね」


いつか、アンドロイドもここを離れる時が来る。

私がここに残ると決めた以上、離れる時は必ず来るだろう。その時には、所有者(マスタ)の権利をお隣男に譲ることを約束した。


「でも、今は曲がりなりにも私がマスタなんだから、そこらへんを考慮してくれるとありがたいんだけど? まだ作りかけのものもあるし」


覚悟はしているつもりだけれど、決心はまだつかない。まだもう少し、今が少しでも長く、続けばいいと思ってしまっている。

そんな私の心を知ってか知らずか、お隣男が苦笑交じりの溜め息を吐いた。


「虐げられているわりに、あの子は君に懐いているからなぁ」


そして彼は、指先でもてあそんでいたメモをポケットにしまった。


「俺も、諦めの悪い男だよね」


「お互い様かな。窮屈な服は着られない性質なんだ」


「知ってるよ。何年、君と一緒にやってきたと思ってるの」


お互いにふっと笑う。

ここから逃げて、生きながらえたとしても、私はきっとそれを喜べない。

自分のことは自分が一番よく解る。一番よく解らないのも、自分だけれど。


「需要があるまで続けるし、かけなくなるまで作り続ける。死ぬまで生き続けるし、それ以外に、何かある?」


末端の人間に与えらる選択肢は限られている。選択肢を与えられたこと自体、私は幸運なのかもしれない。その中で抗うも、従うも、それは私の自由だ。


少し考えてから、お隣男は困ったように苦笑した。


「悔しいけど、それしかないね」


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