11
「と、いうわけで、これの発注、よろしく」
お隣男は応える代わりに、受け取った紙切れに何度も目を走らせた。
「これ、……こんなに?」
「もちろん、支払いは私が持つよ」
「数、間違ってない?」
「間違えてないよ」
だってこれ、とお隣男は抗議した。
「何年、いや、何十年分なの? しかも純正……」
「備えあればって言うでしょ。つべこべ言うな。支払いは私」
それでもまだ、お隣男は納得できないというように、紙の切れ端を見つめている。
「本気?」
「くどい」
別に数を数えられなくなったとか、頭が可笑しくなったとか、自暴自棄になったわけでも、やけくそになったわけでもない。これは必要なものなのだ。
「だって、私たちより長生きしそうだしね」
それを使うか、使わないかは、きっと私の決めることではない。でもいざという時に選べるだけの材料は、揃えておいてやらなければいけない。
「君は、本当にシェルターには行かない気なの?」
「だから止めないって」
ここにあるものも、何でも持って行っていい。そう伝えると、お隣男は困った笑顔を浮かべた。
「一番、持って行きたいのは君とアンドロイドなんだけど。俺の飯の種だし」
「――――悪いね」
私は行かない。行っても、もうきっと意味がない。
笑顔の裏に本心を隠してはぐらかす私に、お隣男は取り付く島もないと不貞腐れた。
「君は本当に頑固だからなぁ。もう一生直らないよ、それ」
「直そうとも思ってないからね」
「余計に性質が悪いよ」
何を言っても無駄だと、両手を挙げた。
「ねぇ、アンドロイドは連れて行ってもいい?」
「あの子がそれを望むのならね」
いつか、アンドロイドもここを離れる時が来る。
私がここに残ると決めた以上、離れる時は必ず来るだろう。その時には、所有者の権利をお隣男に譲ることを約束した。
「でも、今は曲がりなりにも私がマスタなんだから、そこらへんを考慮してくれるとありがたいんだけど? まだ作りかけのものもあるし」
覚悟はしているつもりだけれど、決心はまだつかない。まだもう少し、今が少しでも長く、続けばいいと思ってしまっている。
そんな私の心を知ってか知らずか、お隣男が苦笑交じりの溜め息を吐いた。
「虐げられているわりに、あの子は君に懐いているからなぁ」
そして彼は、指先でもてあそんでいたメモをポケットにしまった。
「俺も、諦めの悪い男だよね」
「お互い様かな。窮屈な服は着られない性質なんだ」
「知ってるよ。何年、君と一緒にやってきたと思ってるの」
お互いにふっと笑う。
ここから逃げて、生きながらえたとしても、私はきっとそれを喜べない。
自分のことは自分が一番よく解る。一番よく解らないのも、自分だけれど。
「需要があるまで続けるし、かけなくなるまで作り続ける。死ぬまで生き続けるし、それ以外に、何かある?」
末端の人間に与えらる選択肢は限られている。選択肢を与えられたこと自体、私は幸運なのかもしれない。その中で抗うも、従うも、それは私の自由だ。
少し考えてから、お隣男は困ったように苦笑した。
「悔しいけど、それしかないね」