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久世家戦記・現  作者:
野球編
7/19

第六部 現代合戦、開幕

 バラエティ出演の嵐から数日後。

 

 城ならぬ新居のリビングで、かやは静かに言った。

 「……目立たずに暮らしたいです」

 

 久世、深く頷く。

 「うむ。戦より難しいが叶えよう」

 恒一「いや無理だろ」

 

 久世の導き出した答え

 「ならば――我らから動こう」

 恒一「嫌な予感しかしない」

 久世「“ゆーちゅーぶ”という戦場があると聞いた」

 全員「戦場じゃない!!!」

 

 久世家チャンネル開設

 

 名前:

『久世家の静かな日常(全然静かじゃない)』

 

 初動画:

 久世が包丁で丸太を切る

 難波が洗濯機を持ち上げる

 朔姫が秒速で掃除

 かやが料理

 

 再生数

 

 10分後:10万

 1時間後:100万

 翌朝:500万

 

 コメント欄:

  「静かとは」

  「人類じゃない」

  「癒しと恐怖が共存してる」

「登録しました」

 

 久世の感想

 「なるほど…兵の集まりが早いな」

 恒一「登録者だよ!!」

 

 かやの本音

 「……前より目立ってません?」

 久世「静かに世界を制圧しておるな」

 

 こうして久世家は

テレビよりヤバい存在としてネットを支配し始めた。


 

 久世の“紐無しバンジージャンプ”

 

 久世家チャンネルの登録者が一気に伸び始めた頃だった。

 

 「高さというものを試したい」

 久世がそう言い出したのは、山間にかかる古い渓谷橋を訪れた時だった。

 

 下を覗けば霧がかかり、底は見えない。

 

 恒一がスマホを構えながら言う。

 「ここバンジージャンプの名所らしいけど……安全装置あるからだぞ?」

 

 久世は首を傾げる。

 「紐があるのなら戦にならぬ」

 

 「いや戦じゃない!」

 

 

 そのまま久世は、何の器具も付けずに縁へ立った。

 

 かやが顔を青くする。

 「久世、やめてください」

 

 「案ずるな」

 

 一歩。

 

 消えるように落ちた。

 カメラが追う。

 風を切る音。

 岩肌が迫る。

 

 

 そして――

 

 川面すれすれで体勢を反転させ、足から着水。

 水柱が天まで跳ねた。

 

 数秒後。

 久世は何事もなかったように川から上がってくる。

 

 「深さは十分だ」

 

 恒一は震えながら叫ぶ。

 「人間じゃないだろ!!」

 

 動画はそのまま投稿された。

 

数時間後

 

 再生数は数千万。

 

 コメント欄は地獄だった。

 

 「真似する奴出たらどうすんだ」

 「危険行為すぎる」

 「子供が見たら終わる」

 「すごいけどアウト」

 

 ニュースにもなる。

 

 “人気配信者、命知らずの危険行為で炎上”

 

 スポンサーは距離を置き始め、チャンネルは警告を受けた。

 

 

 リビングで沈黙。

 

 かやが静かに言う。

 「……静かに暮らしたいって言いましたよね」


 久世は少し考えてから答える。

 「次は低いところにしよう」

 全員「そうじゃない」

 


 三日三晩の滝行ライブ

 炎上から一夜明け。

 久世家チャンネルに、久世が正座で映った。

 

 

 「久世だ」

 「昨日の行い、世を騒がせたこと詫びる」

 

 恒一が小声で補足する。

 「危険行為でした。真似しないでください」

 

 

 久世は一度深く頭を下げた。

 「よって、禊を行う」

 

 画面が切り替わる。

 

 

 山奥の滝。

 水音が轟く。

 久世はその下へ無言で歩いていった。

 

 「いや待ってこれ生配信なんだけど」

 

 そのまま滝に打たれる久世。

 

 微動だにしない。

 

 

1日目

 コメントが止まらない。

 

 「修行僧かよ」

 「ガチでやってるの草」

 「水圧えぐいぞ」

 

 夜になっても久世は動かない。

 

2日目

 

 ニュースになる。

 炎上YouTuber、滝行を48時間継続中

 専門家が呼ばれる。

 

 「普通は数分で低体温症です」

 久世、平然。

 

3日目

 

 世界トレンド入り。

 海外コメント。

 

 「SAMURAI REPENTANCE」

 「REAL WARRIOR」

 

 かやがタオルを持って近づく。

 「もう十分です……」

 

 久世はゆっくり滝を出て言った。

 「心は清まった」

 恒一「体の心配しろ!!」

 

配信終了後

 

 チャンネル登録者、逆に爆増。

 炎上 → 伝説化 完成。

 久世の謝罪スタイルがネット文化になる。


 

 久世家、静かに“異常”を投稿し始める

 滝行配信の騒動以降。

 久世家チャンネルは、編集も演出もやめた。

 

 ただ一つだけを映す。

 

 力。

 速さ。

 正確さ。

 

最初の動画

 タイトル:

「久世、ただ走る」


 カメラ固定。

 一直線の道路。

 合図と同時に久世が走る。

 

 次の瞬間、画面から消える。

 数秒後、数百メートル先で立っている。

 スロー再生でも残像。


 コメント欄。

 「カットしてないよな?」

 「ワープした?」

 「人類じゃない」

 

次の動画

 「難波、ただ持ち上げる」

 大型トラックを片手で浮かせる。

 地面が沈む。

 

 無言。

 

 

 「朔姫、ただ跳ぶ」

 電柱を越える高さ。

 着地音すらしない。


 

 「かや、ただ包丁を入れる」

 トマトが重力無視の薄さで透ける。


視聴者の反応

 

 騒がない。

 煽らない。

 逆に怖い。


 「静かなのに異常」

 「映画より現実の方がヤバい」

 「これ毎日見てしまう」

 

久世の満足

 「無駄な戦をせずとも伝わるものだな」

 恒一「それが一番バズるんだよ……」


 

 「……野球、してなくね?」

 撮影が終わった夜。

 リビングでスマホを眺めながら朔姫がぽつりと言った。

 

 「そういえば」

 全員が顔を上げる。


 「……最近、野球してませんね」

 静寂。

 

 

 久世がゆっくり頷く。

 「確かに戦場を離れておる」

 

 恒一が頭を抱える。

 「戦場じゃなくてグラウンドだよ……」

 

 かやが不安そうに聞く。

 「久遠クラブは……どうなってるんですか?」

 

 恒一は目を逸らした。

 「……連絡、めちゃくちゃ来てる」

 

 

 スマホを見せる。

 未読:200件以上。

 チームメイトから。

 監督から。

 大会運営から。

 

 「どこ行ったんですか」

 「次の試合どうするんですか」

 「久世さん現れたってニュース見ました」

 

 久世が腕を組む。

 「放置は良くないな」

 恒一「普通にクビレベルだよ!!」

 難波「戦場で逃げる兵と同じだな」

 恒一「例えが重すぎる!」

 

その瞬間

 

 着信。

 久遠クラブ監督。

 恒一、震えながら出る。

 

 「……はい」


 スピーカーから怒号。

 「明日来い!!説明しろ!!」

 

久世の一言

 「ならば正面から行こう」

 恒一「怖すぎる正面突破やめろ!」



 久世が呼び戻した風

 翌朝に久遠クラブへ戻る準備。

 机の上には新しく作られた人形が一体。

 

 恒一が首をかしげる。

 「……また増えるの?」

 

 

 久世は静かに頷いた。

 「男ばかりでは戦が荒れる」

 

 「戦じゃなくて野球な」

 

 久世は人形に手を添える。

 「そろそろ呼び戻そう」

 「風夏」

 

 空気が揺れる。

 柔らかい風が部屋を抜けた。

 人形の指先が動く。

 胸が上下する。

 ゆっくりと目が開いた。

 

 「……久世様」

 懐かしさと安堵の混ざった声。

 恒一「普通に生き返ってるの未だに慣れない」

 

風夏の第一声

 「ここは……随分と騒がしい世ですね」


 車の音。

 遠くのサイレン。

 

 「戦は終わったのですね」

 

 久世は静かに答える。

 「平和な世だ」

 

 風夏は微笑んだ。

 「それは……良きことです」

 

 「で、またとんでもない力とか持ってる感じ?」

 久世「知と判断の化身だ」

 恒一「頭脳枠か……よかった……」

 難波「力も相当だぞ」

 恒一「聞いてない!!」

 

 「久遠クラブには統率が必要だ」

 「風夏なら場をまとめられる」

 

 風夏は深く一礼。

 「久世様の軍なら、必ず」

 恒一「軍じゃなくてクラブ!!」


 

 まだ薄暗い早朝、久世たちは並んで久遠クラブへ向かった。土の匂いが近づくにつれて恒一の胸がざわつく。久々のグラウンドだった。

 入口に着いた瞬間、怒鳴り声が飛ぶ。


 「久世ぇ!!」


 監督が一直線に走ってきて恒一の胸ぐらを掴む。

 「どこ行ってたんだお前!連絡なしで何日も消えて!試合も練習も放り出して!」


 「すみませんでした!」

 恒一が頭を下げたその横で、監督の視線がずれていく。

 恒一の背後に立つ異様な集団。

 人間の枠を超えた体格の難波、無言で立つ夜叉、整いすぎた朔姫と華陽、静かな風夏、そして圧を放つ久世。


 監督の怒りが途中で止まった。

 「……なんだこれ」

 「え、撮影?」


 「いや、全員身内です」


 「身内でこの戦力?」


 久世が一歩前に出て頭を下げる。

 「久世恒一は戻った。再びここで戦わせてほしい」


 「戦うって野球だぞ?」


 「承知している」


 後ろでクラブ員たちがざわつく。

 「テレビの人じゃね?」

 「落下男だ……」

 「筋肉やばすぎだろ」


 恒一は小さく呟いた。

 「もう静かに暮らすとか無理だな……」


 

 監督はしばらく全員を見回していたが、次の瞬間さらに声を張り上げた。


 「見物じゃねぇんだよここは!」


 グラウンドに響く怒号。


 「消えてた理由がどうであれ、ルール破ったのは事実だ!」

 「全員並べ!!」


 恒一だけでなく、久世たちまで一列に立たされる。

 監督は腕を組んで睨みつけた。


 「罰走だ!」

 「グラウンド百周!」


 クラブ員がざわつく。

 「死ぬって……」

 「普通でも三十で限界だぞ」


 恒一の顔が青くなる。

 「監督それ無理ですって……」


 「無理だからやるんだ!」

 笛が鳴った。

 

 全員、一斉に走り出す。

 

 最初は恒一が先頭だった。

 だが十周もしないうちに異変が起こる。

 久世が呼吸一つ乱さず隣に並ぶ。

 朔姫は風のように前へ。

 難波は地面を揺らしながら追い抜く。

 夜叉は無音で走る。

 風夏は一定の速度を崩さない。

 

 五周後。

 恒一、すでに瀕死。

 「おかしいだろ……人間の練習じゃない……」

 

 二十周。

 他のクラブ員が脱落。

 芝生に転がる。

 

 五十周。

 久世たちだけが淡々と周回。

 

 百周。

 終わった瞬間。

 全員、息一つ乱れていない。

 

 監督の顔が引きつる。

 「……なんだお前ら」

 

 久世が静かに言う。

 「準備運動だ」

 

 恒一(地面に倒れながら)

 「準備運動で殺す気か……」


 

 百周走が終わり、グラウンドには倒れ込むクラブ員たちと、平然と立つ久世たちだけが残っていた。


 監督は額の汗を拭きながらため息をつく。

 「……もう何も言えん」


 そのままベンチへ戻ろうとして、ふと視線が止まった。

 

 そこに座っていたのは――

 

 日差しを受けてきらきらと光る髪。

 整いすぎた顔立ち。

 穏やかに微笑む少女。

 

 かやだった。

 

 監督の表情が一瞬で変わる。

 さっきまでの鬼が消える。

 

 「……お、おお?」

 

 ゆっくり、にやけながら歩み寄る。

 

 「君は……新しいマネージャーさんかな?」

 声が三割増しで優しい。

 

 かやは丁寧に立ち上がる。

 「いえ、違います。応援に来ただけです」

 

 「そ、そうかそうか!」

 

 「いやぁ若い子がいるとグラウンドも明るくなるねぇ!」

 

 恒一が遠くから叫ぶ。

 「監督!その人俺の家族です!」

 

 「家族ぅ!?!?!?」

 

 監督の動きが止まる。

 その背後に、静かに立つ久世。


 圧。

 

 視線だけで空気が凍る。

 

 監督「……あ、あの?」

 久世「近い」

 たった一言。

 監督は三歩下がった。

 「す、すみませんでした!!」


 かやは慌てて手を振る。

 「気にしないでください」

 恒一「いや気にして!!」 


 

 監督が引きつった笑顔のままかやを見つめている、その空気がほんの一瞬だけ続いた。


 久世の背後で、空気が変わった。

 静かだったはずの風が止まり、グラウンドの音が消える。

 誰も気づかないうちに、久世の気配だけが膨れ上がっていた。

 

 久世はゆっくりと一歩前に出る。

 「……妻だ」

 低く、よく通る声。

 

 監督の背筋が凍る。

 

 「その目で見るな」

 それだけだった。

 だが圧が違った。

 地面がきしむほどの威圧。

 クラブ員たちは本能的に後退する。

 

 「練習を始める」

 久世がそう告げた瞬間、鬼が戦場を支配するような空気が広がった。


地獄の特別練習

 

 「全員守備位置につけ」


 誰も逆らえない。

 

 久世がボールを軽く投げる。

 ――音が消える。

 次の瞬間、ボールがフェンスに突き刺さる。

 

 「捕れ」

 朔姫が瞬間移動のように追いつきキャッチ。

 

 「次」

 難波がフルスイング。

 打球が空を裂く。

 夜叉が無言でダイビングキャッチ。

 

 「遅い」

 久世の一言で全員背筋が伸びる。

 

 十分後。

 クラブ員全滅。

 膝をついて息もできない。

 久世だけが涼しい顔。

 「これが基礎だ」

 恒一「これ基礎なら全国大会地獄だろ……」

 

 

 いいねナツキ。

ここから久遠クラブは“普通の社会人野球”じゃなくなる。

 その日から、久世の特訓が始まった。

 

 監督は口を出そうとして一度だけ睨まれ、それ以降一切何も言わなくなった。

 

 「走れ」

 ただそれだけで始まる。

 だが内容が異常だった。

 久世が全力で投げるボールを追いかける走塁練習。

 普通なら危険球だが、朔姫と風夏が見本になり、常人では不可能な動きで捕球してみせる。


 「人は限界を越えねばならぬ」


 難波がバットを振るたび衝撃波が起き、夜叉がそれを真正面から捕る。

 クラブ員たちは最初恐怖していたが、次第に身体が追いつき始めた。

 

 筋肉が悲鳴を上げる。

 視界が揺れる。

 だが確実に速くなっていく。

 久世は妥協しなかった。

 

 「まだだ」

 「遅い」

 「考えろ」

 ただし怒鳴らない。

 

 淡々と事実だけを突きつける。

 それが一番効いた。

 一週間後。

 久遠クラブは別物になっていた。

 打球への反応が半分以下。

 

 走塁の速度が跳ね上がる。

 守備範囲が異常に広がる。

 

 監督が震えながら呟く。

 「……強豪校レベルだぞ」

 

 恒一は汗だくで笑った。

 「いや、もうプロ予備軍だろこれ」


 久世は静かに言う。

 「ようやく基礎が終わった

 全員「今まで基礎!?」

 

 久遠クラブは気づかぬうちに――

全国を狙える怪物チームへ変貌していた。

  


 久世の特訓が始まってから一か月。

 

 久遠クラブの名前が、地方大会で静かに広まり始めていた。

 

 そしてある日、監督が資料を抱えて走ってくる。

 「全国公式戦に出られるぞ」

 

 全員が顔を上げる。

 

 「ただし条件がある」

 

 監督は紙を広げた。

 「日本ランキング四十九位以内に入ることだ」

 

 ざわめきが走る。

 

 社会人、実業団、強豪クラブが並ぶ全国表。


 久遠クラブの現在順位――


 圏外。

 

 恒一が喉を鳴らす。

 「四十九位って……ほぼ全国トップ層じゃん」

 

 監督は頷く。

 「甘くない。ここから勝ち続けて登るしかない」

 

 

 久世は静かに順位表を見つめた。

 「四十九人斬ればよいのだな」

 

 「順位だから!!」


 朔姫が笑う。

 「面白くなってきましたね」

 

 風夏は冷静に言う。

 「連戦になります。体力管理も重要です」


 難波は拳を鳴らす。

 「全部潰せば早い」

 恒一「潰すな勝て!」

 

 久世は一歩前へ。

 「勝ち続ける」

 

 それだけだった。

 だがその一言で全員が理解した。

 

 このクラブは――

日本の頂点を本気で取りに行く。


 

 久遠クラブはまず地方のランキング戦に出場した。

久世の特訓で鍛え上げられた動きは明らかに他のクラブと違っていた。


 最初の試合は接戦だったが、終盤で一気に突き放す。

次の試合では相手が追いつけなくなり、点差が開いていく。

監督はベンチでスコアボードを見つめながら震えていた。

強いというより、別物だと理解してしまったからだ。


恒一は息を切らしながら笑う。

「……これ、ほんとに社会人野球か?」 


久世は腕を組み、静かに言った。

「まだ足りぬ」


ランキングは圏外から一気に八十位、七十位、六十位へと跳ね上がる。

だが四十九位の壁は厚かった。

ここから先は全国常連しかいない世界だった。


 

 久遠クラブは方針を変えた。

ランキング戦では久世たちは一切グラウンドに立たない。


ベンチの後方で静かに見守るだけだった。

「これは恒一たちの戦いだ」


久世のその一言で決まった。

最初は不安だった。

相手は全国レベルの強豪ばかりになっていく。


だが、久世の特訓で鍛え上げられた身体は裏切らなかった。

打球への反応が早い。

走塁が一瞬で加速する。

守備範囲が異常に広い。

点を取られても慌てない。

終盤で必ず巻き返す。


監督は何度も目をこすった。

別のチームを見ているようだった。

恒一はベンチに戻るたび久世を見る。

久世はただ小さく頷くだけ。


その無言の承認が一番の力になった。

ランキングは五十八位。

五十五位。

五十二位。

そして――五十位。

次の一勝で、四十九位に届く。


グラウンドに漂う緊張感が一気に変わった。

ここを越えれば全国。

越えられなければ終わり。


久世は静かに言った。

「ここからが本当の戦だ」


 

 四十九位決定戦の会場は、これまでとは空気が違っていた。

観客席はほぼ満席。スカウトらしき大人たちも並んでいる。


久遠クラブのベンチは静かだった。

久世たちはいつも通り後方で見守るだけ。

相手チームが入場した瞬間、空気が張り詰める。

その中に明らかに異質な二人がいた。


ひとりは冷静で老獪な目をした男。

もうひとりは獣のような闘気をまとった長身。


久世の視線がわずかに細まる。

「あれは……継ぎ手だ」


風夏が息をのむ。

「しかも、かなり古い魂です」


久世は静かに言った。

「毛利元就と、長宗我部元親だ」


恒一の背筋に寒気が走る。

「戦国オールスターじゃん……」


試合開始。

初回から異常だった。

毛利の継ぎ手が采配を振るうと、相手の守備位置が完璧に噛み合う。


打球はすべて最短距離で処理される。

長宗我部の継ぎ手が打席に立つと、風を裂くような打球が飛ぶ。


フェンス直撃。連続長打。

久遠クラブは一気に二点を失った。


ベンチがざわつく。

「強すぎる……」

「今までと次元が違うぞ……」


だが恒一は歯を食いしばった。

久世の特訓を思い出す。

逃げるな。見るな。踏み込め。


次の回、恒一は真正面から強打を受け止め、体ごと倒れ込みながらもアウトを取る。

朔姫たちがいないはずなのに、久世の教えが体を動かしていた。


一点を返す。

だがすぐに取り返される。

三対一。

四対二。

互いに譲らない展開。


終盤、七回。

毛利の継ぎ手が静かに笑った。

「ここで詰みだ」

長宗我部の継ぎ手がフルスイング。

完璧な当たり。


誰もが長打を確信した瞬間――

恒一が飛び込んだ。

限界を超えた反応速度。

グラブがボールを掴む。

スタンドがどよめく。


アウト。

久遠クラブの反撃が始まった。


連打。盗塁。スクイズ。

久世たちは一切動かない。

ただ見つめる。


そして九回裏。

同点、二アウト満塁。

恒一が打席に立つ。

毛利の継ぎ手が冷静に構える。

長宗我部の継ぎ手が背後で獣のように笑う。


久世が小さく呟いた。

「ここを越えねば、全国はない」

恒一は深く息を吸い、踏み込んだ。


――全力の一振り。


打球は一直線に外野を割った。

サヨナラ。


久遠クラブ、勝利。

四十九位、確定。


 ベンチが歓声に包まれる中、久世は静かに頷いた。

「よくやった」


だが視線は相手チームへ向いていた。

毛利と長宗我部の継ぎ手は、不敵に笑っていた。

「面白い人間だ」

「次は全国で会おうぞ」


本当の戦いは――ここからだった。


 

 全国大会の会場は異様な熱気に包まれていた。

久遠クラブが入場した瞬間、ざわめきが走る。

「四十九位から駆け上がったチームだ」

「継ぎ手を倒したらしいぞ」


恒一は息をのむ。

グラウンドに立つ選手たちの中に、明らかに普通じゃない気配が混じっていた。


久世が低く言う。

「来ているな……本物どもが」


第一試合の相手ベンチ。

鋭い眼光の青年が腕を組んで立っている。

久世が一瞬だけ目を細めた。

「あれは上杉謙信の魂だ」


投球が始まった瞬間、空気が切り裂かれる。

剣を振るうような直球。久遠クラブは序盤から追い込まれるが、鍛え抜かれた反応で何とか食らいつき、終盤で逆転。

辛勝だった。


次の試合。

豪快なフルスイングを連発する大男。

久世が苦笑する。

「力任せの化身……武田信玄だな」

スタンドまで届く怪物級の打球。

だが久遠クラブは守備で封じ、機動力で得点を重ねて勝ち切った。


さらに続く。

冷たい眼差しで相手を読む捕手。

「石田三成の継ぎ手か……」

異常な配球で翻弄されるが、恒一が読み合いを制し突破。


別のブロックでは雷のような走塁。

久世が小さく息を吐く。

「速さに特化した魂……伊達政宗」

一瞬で二塁三塁を奪う怪物スピード。

だが久遠クラブも朔姫仕込みの反応で食い止める。

試合を重ねるごとに分かってきた。

全国には――

歴史そのものを宿した継ぎ手が溢れている。


そして久世は静かに確信する。

「この大会は野球ではない」

「現代で行われる、第二の戦国だ」


恒一は汗を拭いながら笑った。

「やっとこの世界のレベルが見えてきたな……」


久遠クラブは勝ち進む。

だが相手も、もはや人間の枠ではなかった。

全国大会はここからが本番。

伝説級の魂たちが、次々と牙を剥く。


 

 全国大会二回戦。

久遠クラブがグラウンドに立った瞬間、空気が一段重くなった。

相手ベンチには九人だけ。

だが全員が異様な威圧を放っている。


久世の目が細まった。

「……島津で固めてきたか」


中央に立つ四人は特に別格だった。

島津義久

島津義弘

島津歳久

島津家久

島津四兄弟の継ぎ手。


恒一は喉を鳴らす。

「……軍隊じゃん」


久世は低く言った。

「島津は集団戦の化身だ。油断するな」


一回表。島津の攻撃。

先頭打者が構えた瞬間、空気が張り裂ける。

初球。

乾いた音。


打球は一直線にセンターを抜ける。

次の打者は送りバントではなく強打で進塁を作る。


連携が異常に早い。

誰も迷わず動く。

三人目、義弘の継ぎ手。

フルスイング。

外野の頭を越える長打。

一気に二点。


久遠クラブは守備で必死に食らいつくが、島津の動きに一切の無駄がない。

さらに内野ゴロの間にもう一点。

一回表で三失点。


スタンドがどよめく。

「強すぎる……」

「軍隊野球だ……」


一回裏。久遠クラブ。

恒一が打席に立つが、島津の投手は一切表情を変えない。

速球。

重い。

バットが弾かれる。

内野ゴロでなんとか一塁に出るが、すぐに牽制。


島津家久の継ぎ手が電光石火でタッチ。

アウト。

完璧な連携。

無得点。


二回表。

島津はさらに圧を強める。

短打と走塁を組み合わせ、確実に塁を進める。

久遠クラブの守備が追いついているはずなのに、なぜか間に合わない。

歳久の継ぎ手が打った打球はわずかにコースをずらされ、誰の守備範囲にも入らない。

まるで戦場の誘導。

追加点。

四点目。


恒一は歯を食いしばる。

「読まれてる……全部」


二回裏。

久遠クラブも反撃に出る。

連打で一二塁。

だが次の瞬間、島津の内野が一斉に前進。

完璧なゲッツー。

まるで心を読んでいたかのような守備配置。

流れが完全に島津側だった。


三回表。

義久の継ぎ手が静かに合図を出す。

その瞬間、全員の動きが変わる。

強打ではなく、確実に転がし、走らせ、崩す。

久遠クラブの守備は必死だが、島津の連携がそれを上回る。


さらに一点。

五対零。

圧倒。


三回裏。

ベンチは静まり返っていた。

今までの相手とは次元が違う。

個の強さではなく、組織そのものが怪物だった。


久世が小さく息を吐く。

「これが島津の戦だ」

「正面からぶつかれば飲み込まれる」


恒一は汗を拭いながら前を見た。

「……でも」

「ここで折れたら全国じゃ通用しない」


久遠クラブはまだ負けていなかった。

だが、完全に追い込まれていた。

島津軍団の真価は、ここからさらに牙を剥く。


 

 三回裏が終わり、久遠クラブのベンチには重い沈黙が落ちていた。

島津の九人はまるで一つの生き物のように動き、個の力ではどうにもならない壁を作っている。


その時だった。


観客席の端に、異様な気配を放つ男が立っているのに久世が気づく。

久世の目がわずかに細まった。

「あれは……豊臣か」


恒一も視線を追う。

そこにいたのは、かつて戦国を駆け上がった天下人の魂を宿す継ぎ手――


豊臣秀吉の継ぎ手だった。


男は静かに試合を見つめ、島津の連携に小さく息を吐く。

「やはり島津は化け物だな……」


隣にいた関係者が声をかける。

「豊臣さんでも勝てませんか?」


男は首を横に振った。

「無理だ」


即答だった。

「俺の力は人をまとめ、押し上げる力だ。だがあの連携は“戦そのもの”を知っている者の動きだ」

「正面からぶつかれば飲み込まれる」


しばらく黙った後、男の視線が恒一に移る。

「だが……あいつなら違う」


関係者が驚く。

「素人の青年ですよ?」


「いや」

豊臣の継ぎ手は小さく笑った。

「あの目は、戦場を越える目だ」

「久世に鍛えられ、武将の魂に触れ、それでも人間として立っている」

「俺の力は扱えない」

「だが――あいつなら扱える」


男は静かに呟く。

「俺の采配、流れを引き寄せる力を……久世恒一に託す」


その瞬間、恒一の胸がわずかに熱くなる。

理由は分からない。

だが確かに何かが流れ込んできた。

視界の端で、久世が小さく頷いた。

「感じたか」


恒一は息を飲む。

「……なんか、流れが見える」


グラウンドの配置、相手の癖、次に起こる動き。

島津の完璧な連携の“隙間”が、初めて見え始めていた。


五対零。

絶望的な点差。

だが、試合はここで終わらなかった。

豊臣の継ぎ手は背を向けながら言った。


「ここからが戦だ、少年」

「天下をひっくり返す戦を見せてみろ」


久遠クラブの反撃は――

この瞬間から始まろうとしていた。


 

 四回表が始まる直前、恒一は静かにグラウンドを見渡していた。

さっきまで“壁”だった島津の陣形が、今は糸で繋がった構造物のように見える。どこを引けば崩れるかが、はっきり分かった。


久世が低く言う。

「見えておるな」


恒一は小さく頷く。

「流れが…動いてる」


四回表。島津の攻撃。

先頭打者が構えた瞬間、恒一は捕手に合図を送る。

普段なら絶対選ばない内角低め。

打者は詰まらせ、力のないゴロ。

二塁手が余裕で処理。


島津の完璧な攻撃が、初めて止まった。

スタンドがざわつく。

「え?」

「今まで全部打ち抜いてたのに?」


次の打者。

恒一はわざと外角高めを要求する。

狙い通り、強振。

だが打球はファウルゾーンぎりぎり。

集中が乱れた。


次の球で空振り三振。

島津ベンチがわずかにざわつく。


三人目。

義弘の継ぎ手が出てくる。

強打確実の場面。


だが恒一は笑った。

「今だ」


低め変化球。

バットの先に当たり、内野フライ。

三者凡退。

初めての無失点イニング。


四回裏。

久遠クラブの攻撃。

恒一は流れを読む。


島津の守備位置がほんの一歩前に出ている。

「ここだ」

バントの構え。

だが直前で引き、セーフティ気味の打球。

完璧に空いた三塁線を抜ける。


出塁。

続く打者にはヒットエンドラン。

連携を逆手に取る。

一気に一三塁。

犠牲フライ。

一点返す。

五対一。


五回表。

島津は修正しようとする。

だが恒一はそれをさらに先読みする。

配球をずらし、守備位置を誘導し、相手の“完璧”を空回りさせる。


連続凡退。

島津のリズムが完全に崩れ始めた。


五回裏。

久遠クラブが再び仕掛ける。

盗塁。

ヒット。

スクイズ。

二点追加。

五対三。


スタンドが一気に沸く。

義久の継ぎ手が険しい表情になる。

「……流れを奪われている」


歳久の継ぎ手が低く言う。

「ただの人間ではない」


久世は静かに微笑んだ。

「それが恒一だ」


島津の強さは個でも連携でもない。

“勝ち続ける流れ”そのもの。

だが今、その流れは久遠クラブに移っていた。

逆転は、現実になり始めていた。


 

 七回を終えた時点で、点差は五対四。

久遠クラブが一点差まで詰め寄っていた。

島津の九人はまだ強い。だが、完璧だった連携はもう噛み合っていない。


恒一に流れを崩され続け、動きの端々に迷いが生まれていた。


それでも――

簡単には崩れない。

八回表、島津は粘りの連打で再び一点をもぎ取る。

六対四。


スタンドが揺れる。

「やっぱ島津だ…」

「ここで突き放すか」


久遠クラブのベンチには緊張が走った。

恒一は歯を食いしばる。

流れはまだこちらにある。だが、相手の地力がそれを押し返してくる。

その時だった。 


背後から、ゆっくりと足音がした。

久世が前へ出る。

夜叉、難波、朔姫、華陽、風夏。

久世家の面々が並ぶ。

ただ立っただけで、空気が変わった。


観客席がざわめく。

島津の継ぎ手たちが一斉に振り返る。

義久の継ぎ手が息をのむ。

「……本人たちか」


義弘の継ぎ手が低く唸る。

「継ぎ手では届かぬ領域の存在」


久世は静かにグラウンドを見渡した。

「ここから先は、魂の借り物では越えられぬ」

「戦は――本人が立つ場所だ」


その声だけで、島津の威圧が一段削がれる。

恒一の背中に鳥肌が走った。

流れがさらに大きく動くのを感じる。

島津の九人は強い。

だが目の前に現れたのは、“歴史そのもの”。

積み上げた戦、死線、生き残り続けた本物の圧。


継ぎ手では再現できない存在感だった。

朔姫が小さく笑う。

「ここまでよく持ちこたえましたね」


難波が拳を鳴らす。

「後は任せろって顔だな」


夜叉は無言で構える。 


島津の継ぎ手たちは理解してしまった。

ここから先は技術でも連携でもない。

“生きてきた重さ”のぶつかり合いだと。


義久の継ぎ手が静かに言う。

「……これが越えられぬ壁か」


久世はただ答えた。

「恒一が流れを作った」

「我らは、その流れを現実にするだけだ」


最終盤。

全国大会の空気は、完全に戦場へ変わった。

継ぎ手の時代はここで終わり、

本人たちの領域へ踏み込んだ瞬間だった。


 

 久世がゆっくりとマウンドに立った瞬間、空気が震えた。

ただ歩いただけなのに、地面の砂がふわりと舞い上がる。


スタンドのざわめきが一斉に消える。

次の瞬間――


島津の継ぎ手たちからも、凄まじい威圧が噴き上がった。

義弘の継ぎ手を中心に、九人全員が鬼のような気配を放つ。


戦場を生き抜いた者特有の殺気。

久世の鬼と、島津の鬼。

二つの圧が真正面からぶつかった。


空気が歪み、風が逆流する。

観客席では誰かが息を呑み、誰かが思わず身を縮めた。

理由は分からない。だが本能が告げている。


――ここは危険だ、と。


子どもが泣き出し、大人ですら手すりを握り締める。


恒一でさえ喉が渇く。

「……これ、野球だよな」


久世はゆっくりとボールを握った。

島津の義久の継ぎ手が低く構える。

その目は獣そのものだった。


久世が静かに言う。

「来い」

その一言で、圧がさらに跳ね上がる。


まるで戦場が再現されたかのようだった。


審判の声が震える。

「……プレイ!」


久世が振りかぶる。

その瞬間、島津の威圧がさらに強まる。

だが久世の鬼は一切揺るがない。


むしろ――飲み込んでいく。

観客の誰もが感じていた。

これは試合ではない。


歴史の怪物同士がぶつかる瞬間だと。

次の一球が――

この戦いの格を決める。



 久世がマウンドで静かに息を整えた瞬間だった。

その瞳が――ゆっくりと色を変える。

黒から、深い青へ。

夜の海のように澄み切り、底知れぬ光を宿した色。


それを見た瞬間、島津の継ぎ手たちの背筋が凍った。

「……来るぞ」


誰かが呟く。

久世の周囲で、圧が収束していく。

暴れていた鬼の威圧が、一点に凝縮されていく感覚。


久世は右腕を引いた。

その構えは、恒一や朔姫が何度も見た――

戦国で名を馳せた“飛車”。

一直線に、全てを貫く一撃。


「飛車――」

低く、久世が呟く。


次の瞬間。

腕が振り抜かれた。

空気が破裂する音。

ボールは“投げられた”のではなく、射出されたように飛び出す。


白い軌跡が残り、視界が追いつかない。

島津の打者が反射的に振る。


だが――

当たらない。


いや、近づくことすらできない。

キャッチャーミットに突き刺さった瞬間、衝撃で砂が舞い上がる。


ズドン、という重低音が球場を揺らした。

審判が一拍遅れて叫ぶ。


「ストライク!!」


観客席が一瞬静まり返り、次の瞬間爆発する。


島津の義弘の継ぎ手が歯を食いしばる。

「これが……本人の飛車か」

久世の青い瞳は揺れない。


ただまっすぐ、次の獲物を見据えている。

「逃げ場はない」


久世の“飛車”が出た瞬間、

この試合の次元は完全に変わった。


 久世の“飛車”が空を裂いた直後、流れは完全に久遠クラブへ傾いた。


その気配を誰よりも早く感じ取ったのが――朔姫だった。

「じゃあ次は私ね」


軽く地面を蹴っただけなのに、体が風に溶けるように前へ出る。

瞬間、内野の土が爆ぜる。


速さ特化の魂が解き放たれたその走りは、人の領域を超えていた。

打球が転がると同時に朔姫はもう一塁を蹴っている。


送球が飛ぶ前に二塁。

観客が息を吸う間に三塁。


「速すぎるだろ……」

島津側の継ぎ手が呆然とする中、朔姫は涼しい顔でホームを踏み抜いた。


続いて華陽。

一見優雅なフォーム。だがバットが振り抜かれた瞬間、空気が裂けた。

打球は一直線に外野フェンスを越える。

力任せじゃない。

角度も回転も完璧に計算された一撃。


「知で殴るってこういうことかよ……」


さらに難波。

構えた瞬間、相手投手の肩が震える。

打たれたボールは地面に落ちる前にスタンドへ消えた。

純粋な破壊。


そして――恒一。

久世の飛車で生まれた“流れ”を読み切り、相手の守備配置を逆手に取る一打。

抜ける場所へ、吸い込まれるようにボールが転がる。

完全に支配された盤面。


ベンチでは、かやが膝を抱えて楽しそうに笑っていた。

「すごいね……ほんと戦みたい」


声は柔らかいのに、目は真剣だった。

球場全体が異様な緊張に包まれている。

誰も戦場を見たことなどないはずなのに、

この空間そのものが“語っていた”。

ここはただの野球場じゃない。


陣取り

流れ

覚悟


すべてがぶつかり合う現代の戦。

観客は無意識に息を殺し、選手たちは命を懸ける勢いで動く。

そして皆が理解し始めていた。


――これは試合じゃない。

――合戦だ。


久世の飛車を合図に、久遠クラブの“戦国野球”が完全に始まったのだ。



 島津の継ぎ手たちの連携は確かに完璧だった。

だが――久世の飛車が動いた瞬間、その“完璧”という盤面そのものが崩壊した。


一球ごとに流れが削られ、

一打ごとに士気が折れていく。

島津の威圧は強かった。


だが久世の鬼は、それを呑み込む側だった。

朔姫の超速走塁で一気に点差が開き、

華陽の読み切った長打が希望をへし折り、

難波の破壊力が観客席を黙らせ、

恒一の采配が相手の守備を無力化する。


三回が終わる頃には――

スコアはもはや試合とは呼べない数字になっていた。

島津側の継ぎ手たちは肩で息をしながら立ち尽くす。

「……同じ人間の野球じゃない」


誰かがそう呟いた瞬間、

久世がマウンドからゆっくり歩き出る。

その背中だけで理解させる存在感。


――終わりだ。

最後の一球。

空気が震え、風が巻き上がり、

ボールは光の線になって捕手のミットへ突き刺さる。

三振。


試合終了。

一瞬の静寂のあと、

球場が爆発したような歓声に包まれる。

久遠クラブ、圧勝。


島津の継ぎ手たちは悔しさよりも、どこか清々しい表情で帽子を取った。

「負けたわ……戦場に立たされた気分だ」

ベンチでかやが小さく拍手する。

「久世、やりすぎ」

「加減した」


全員が同時にツッコんだ。

観客の誰もが確信していた。

今日見たのはスポーツじゃない。

歴史と魂がぶつかる現代の合戦だったと。


そして久遠クラブの名は――

この日を境に、日本中へと広がっていく。

ここから全国編さらに化け物だらけにするのもアツいし、

政府とか裏組織が目をつけ始める展開もできる。

 

 

 

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