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久世家戦記・現  作者:
野球編
5/18

第四部 現代社会にバレ始める鬼

 夜。


 恒一の家の庭。

 簡易コンロの火がぱちぱちと音を立てていた。


 「なんで武将とBBQしてんだ俺……」

 恒一が肉を焼きながら呟く。


 アキトは強引に焼きそばをかき混ぜている。

 「人生何が起こるかわからんってこういうことだな」


 朔姫は椅子に座り、興味津々で肉を見る。

 「これは戦の前の宴か?」


 「平和なやつだよ!」


 久世は腕を組んで火を見つめていた。

 「炎は変わらぬな」

 「時代が変わっても同じだ」


 恒一が肉を皿に乗せて渡す。

 「はい、くぜ」


 久世は受け取り、噛む。

 少し目を見開く。

 「……うまい」


 「素直だな今日」


 「戦場にこれがあれば争いは減る」


 アキト「それは無理だろ」


 朔姫も一口食べる。

 「……柔らかい」

 「敵を噛み砕く感触ではないな」


 「表現物騒すぎ!」


 笑い声が夜に溶ける。

 少しして、風が涼しくなる。


 久世がぽつりと言う。

 「こうして火を囲むのは久しい」

 「昔は出陣前だけだった」


 恒一が聞く。

 「……嫌じゃなかった?」


 久世は首を振る。

 「嫌ではない」

 「だが、戻れる場所がある今の方が良い」


 朔姫が静かに言う。

 「父上は戦がなくても生きられる」


 久世は少し驚き、そして微笑む。

 「お前たちがいるからな」


 沈黙。


 優しい時間。

 アキトが急に言う。

 「なあ久世」

 「現代、嫌いじゃないだろ?」


 久世は空を見上げる。

 星が瞬いている。

 「……悪くない」

 「いや、かなり良い」


 恒一が笑う。

 「戦国最強、BBQに感動」


 久世「茶化すな」


 だが否定はしなかった。

 火の音と笑い声だけが続く。

 この夜は、

 誰も戦わなかった。



 炭火が静かに赤く揺れている。

 夜風が煙を流していった。


 久世はしばらく黙って火を見つめていた。

 そして低く言う。

 「……俺はな」

 「前の時代では」

 「体をだいぶ置いてきた」


 恒一と朔姫が息を呑む。


 「左腕は戦場に」

 「右足も戦場に」

 「耳も、片方はほとんど聞こえなくなった」


 火がぱちっと弾ける。

 久世は続ける。

 「最後には」

 「目も、はっきりとは見えなくなった」


 アキトが思わず言う。

 「……それで戦ってたのかよ」


 久世は小さく笑う。

 「戦うしかなかった」

 「逃げれば、守る者が死ぬ」


 朔姫の手が震える。

 「父上……」


 久世は穏やかに言う。

 「だが今はこうして」

 「両腕も、両足も、耳も目もある」

 「それだけで十分すぎるほどだ」


 恒一が静かに聞く。

 「……怖くなかったの?」


 久世は即答しない。

 少しだけ考えてから言う。

 「怖いに決まっている」

 「だがな」

 「怖さより」

 「失う恐怖の方が大きかった」


 沈黙。


 炎だけが音を立てる。

 朔姫が涙をこらえて言う。

 「父上は……」 

 「全部捨てて守ったんだな」


 久世は首を振る。

 「捨てたのではない」

 「使っただけだ」

 「命も、体も、時間も」

 「守るための道具としてな」


 アキトが小さく呟く。

 「……化け物じゃなくて英雄だろ」


 久世は少し照れたように鼻で笑う。

 「今はただのBBQ好きだ」


 恒一が笑う。

 「それが一番平和だな」


 久世は炎を見る。

 「この夜が続けばいい」

 「それだけで、戦った意味がある」


 

 炎が静かに揺れていた。

 久世の過去を聞いたあと。

 誰も言葉を発さず、ただ火を見つめていた。

 その時だった。


 恒一の指が震えた。

 「……っ」


 恒一は胸を押さえる。

 「なんだ……これ……」


 頭の奥で、

 何かが叩く。


 ドン。

 ドン。

 ドン。

 鼓動じゃない。


 “意志”。


 アキトが気づく。

 「おい、久世……久世!」

 「恒一の様子がおかしい!」


 久世の表情が変わる。

 「……来たか」


 朔姫「父上?」


 恒一の視界が歪む。

 炎が黒く見える。

 耳鳴り。

 そして――

 声。


 『動け』

 『殺せ』

 『戦え』

 複数じゃない。


 ひとつだが、異常に重い。


 恒一が膝をつく。

 「やめろ……出てくるな……!」


 体が勝手に立ち上がる。

 拳を握る。

 地面の砂利が砕ける。

 朔姫が叫ぶ。

 「恒一!!」


 久世が前に出る。

 「違う」

 「これは俺でも朔姫でもない」

 「……戦だけを求める魂だ」


 恒一の口が勝手に動く。

 低く、異質な声。


 『血の匂いがしない』

 『戦場はどこだ』


 アキトが後ずさる。

 「な、なんだよそれ……」


 久世が睨みつける。

 「名を名乗れ」


 空気が震える。

 恒一の中の“それ”が嗤う。

 『名など不要』

 『我は戦そのもの』


 久世の目が細くなる。

 「……野良魂か」

 「時代に縛られず彷徨った殺戮の残滓」


 朔姫が息を呑む。

 「そんなものが恒一に……」


 恒一が歯を食いしばる。

 「出ていけ!!」


 内側で押し返す。

 だが力が強すぎる。

 地面にヒビが入る。


 久世が一歩踏み出す。

 「恒一、聞け」

 「お前は器だ」

 「だが支配者になれる」

 「魂を選べ」

 「選ばぬ力は災いになる」


 恒一の中で、怒号がぶつかる。


 『戦わせろ!!』


 「嫌だ!!」

 「俺は道具じゃない!!」


 心の中で叫ぶ。

 すると――


 久世の声が重なる。

 「退け」

 “鬼の威圧”。


 恒一の体から黒い気配が一瞬噴き出し――

 消えた。

 恒一がその場に倒れ込む。

 荒い息。

 「……はぁ……はぁ……」


 久世が肩を支える。

 「よく耐えた」

 「今のは危険だ」


 朔姫「まだ他にもいるのか?」


 久世は静かに答える。

 「いる」

 「歴史に名も残らぬほど殺し続けた魂ほど」

 「制御を欲しがる」


 アキトが震え声。

 「この能力……便利どころじゃねぇな」


 久世「戦場そのものだ」


 恒一は息を整えながら言う。

 「……でも」

 「俺が選ぶ」

 「使われない」


 久世は少し笑った。

 「それでこそ器だ」

 炎が再び静かに揺れる。

 だがもう、

 ただの平和な夜ではなかった。



 炎が静まり返った庭。

恒一は地面に座り込み、肩で息をしていた。

さっきまで体を支配しかけていた“戦の魂”の余韻が、まだ指先に残っている。


「……あれ、まだいるのか」


久世は頷く。

「いる」

「しかも一つや二つではない」


アキトが青ざめる。

「ホラー映画じゃん……」


久世は静かに立ち上がる。

「恒一の器は強すぎる」

「だから引き寄せる」

「放っておけば、いずれ乗っ取られる」


恒一が歯を食いしばる。

「……じゃあどうすればいい」


久世は庭の闇を見つめた。

「魂の逃げ場を作る」

「お前の中だけに閉じ込めるから暴れる」

「外に“受け皿”を用意する」


「……また人形?」


久世は頷く。

「だが今回は違う」

「抑える役が必要だ」


その瞬間、空気が変わった。

夜風が止み、炎がまっすぐ立つ。

久世が低く呼ぶ。

「——華陽」


何もないはずの庭の奥。

影が揺れ、人の形になる。

次の瞬間、長身で整った青年が立っていた。

モデルのような体格。

静かな眼差し。

だが久世と同じ“圧”を持つ存在。


朔姫が息を呑む。

「……兄上」


アキト「増えた!?また増えた!!」


華陽は久世に軽く頭を下げる。

「父上」

「呼び戻された理由は察しています」


久世は真っ直ぐ言う。

「恒一を守る」

「暴走魂を抑える器が要る」

「お前に任せたい」


華陽は恒一を見る。

震えが残る少年を。

そして静かに微笑った。

「なるほど」

「私は“封じ役”ですね」


恒一が思わず言う。

「え、めっちゃ頼もしそうなんだけど……」


華陽は近づき、低く囁く。

「安心してください」

「暴れた魂は私が叩き伏せます」


優しい声なのに内容が物騒。

アキト「一番怖いタイプ来たぞこれ」


久世は頷く。

「明日、新しい人形を作る」

「華陽を核にしてな」


朔姫が真剣な顔になる。

「父上」

「これで恒一は安全になるのか?」


久世は少しだけ間を置いて答える。

「“暴走は止まる”」

「だが力はさらに強くなる」


恒一「え」


「魂を制御できる器は」

「魂を引き寄せる磁石にもなる」


静寂。


華陽が穏やかに言う。

「つまり恒一さん」

「あなたは歴史そのものに狙われ始めました」


アキト「最悪のスケールアップやめろ」


久世は炎を見つめる。

「だが進むしかない」

「逃げれば飲まれる」

「制すれば英雄だ」


恒一は拳を握った。

「……やる」

「俺が選ぶ側になる」


久世は少しだけ笑った。

「それでいい」


こうして——

抑制のための人形計画が始動する。

そして恒一はまだ知らない。

華陽は“封じ役”であると同時に、

久世軍最恐クラスの知将だということを。


 

 新しい人形の儀式が終わった翌日。

 ――華陽は、完全に“現代の体”を手に入れていた。


 鏡の前で身体を動かす華陽。

 「……軽い」

 「視界が澄んでいます」

 「血も巡る」


 久世が腕を組む。

 「戦場向きだな」


 恒一「感想が物騒すぎる」


 朔姫は華陽の周りをぐるぐる回る。

 「兄上、さらにモデル体型になってるぞ」


 華陽「否定できませんね」

 アキト(不在)


 華陽は穏やかに微笑む。

 「父上」

 「この体、気に入りました」

 「ここで暮らします」


 恒一「え」

 久世「うむ」

 朔姫「当然だ」

 恒一「決定事項なの!?」


 そして――

 問題が発覚した。

 リビング。

 四人並ぶ。

 恒一、久世、朔姫、華陽。

 ソファぎゅうぎゅう。


 「……狭くない?」


 久世が辺りを見回す。

 「陣地が小さい」

 「城なら兵三百は置ける広さだが」


 「城基準やめろ!!」


 華陽は冷静に分析。

 「寝室二つ」

 「風呂一つ」

 「収納、致命的」


 朔姫「兵糧も足りぬ」

 恒一「全部現代用語に変換しろ!」 


 久世が腕を組む。

 「つまり」

 「狭い」


 恒一「結論そこかよ!」 


 沈黙。


 華陽がぽつり。

 「……引っ越し、ですね」


 恒一「だよねぇぇぇぇ!!!」


 久世は即答。

 「城を建てよう」


 恒一「無理!!」

 朔姫「ならば屋敷だ」

 恒一「それも無理!!」

 華陽「現代では“マンション”という選択肢があります」

 久世「城の集合体か」


 「違う!」


 しばらく沈黙。

 恒一が頭を抱える。

 「俺の人生、急に戦国ファミリー同居ルート入ってるんだけど……」


 久世が肩を叩く。

 「安心しろ」

 「俺が守る」

 「生活費も多分なんとかなる」


 恒一「“多分”が怖い!」


 華陽が静かに言う。

 「父上がパンチングマシンで稼げば良いのでは」

 久世「なるほど」

 恒一「ダメだそれは伝説になる」

 朔姫は楽しそうに笑う。

 「現代も戦だな」


 久世「うむ」

 「住処の確保という戦だ」

 こうして始まる――

戦国最強一家の現代引っ越し編。



 引っ越し候補の物件を探すため、四人で街に出た。

 目的はただ一つ。


 ――「広い家」。


 だが、問題は別のところで起きた。

 駅前。

 人通りの多い通りを歩いているだけなのに、

 やけに視線が集まる。

 ひそひそ。

 「……え、なにあの人たち」

 「モデル?」

 「撮影じゃない?」


 恒一が気づく。

 「……なあ」

 「見られてない?」


 朔姫は首を傾げる。

 「何故だ」

 「敵はいないが」


 「敵じゃなくて注目!」


 華陽は落ち着いている。

 「視線の角度と密度からして」

 「好意的な観察ですね」


 「冷静に分析すんな!」


 ふと、背後から声。

 「すみません!」

 振り返ると、スマホを持った若い女性。

 「モデルさんですよね?」

 朔姫「?」

 華陽「?」

 恒一「違います!!」


 だがもう遅い。

 周囲の人も気づき始める。

 「やっぱりそうだよね」

 「雰囲気が違うもん」

 「オーラある」


 朔姫が小声で言う。

 「父上」

 「囲まれているが」 


 久世は腕を組む。

 「……戦場ではないな」

 「落ち着いている」


 「そういう問題じゃない!」


 華陽が一歩前に出て、丁寧に頭を下げる。

 「申し訳ありません」

 「撮影ではありません」

 低く穏やかな声。


 それだけで、

 空気が静まる。

 「……え、声まで反則」

 「俳優?」

 「絶対なんかやってる人だよ」


 朔姫は腕を組む。

 「この時代は」

 「強さより姿が武器になるのか」


 久世「戦と同じだ」

 「目を奪えば勝ちだ」


 恒一「勝つな!!」


 その時、別方向から声。

 「失礼します!」

 今度は名刺。

 「芸能関係のお仕事、興味ありませんか?」

 恒一「出た!」


 華陽は一瞬考え、微笑む。

 「……今回は遠慮します」

 「家探しが優先ですので」

 完璧すぎる断り方。


 朔姫も頷く。

 「今は戦に出る予定はない」


 「戦って何!?」


 ようやく人波を抜ける。


 恒一は肩で息。

 「もう無理」

 「一緒に歩くだけでイベント発生する」


 久世が真顔で言う。

 「では次は」

 「人の少ない場所を選ぼう」


 朔姫「山か」

 華陽「僻地ですね」

 恒一「現代の住宅展示場にしろ!!」


 だが三人は平然としていた。

 戦国で視線を浴び続けた者たちにとって、

 現代の注目など――

 ただの雑音だった。



 なんとか人混みを抜け出し、四人は不動産屋に入った。

 ガラス扉が閉まる。


 「いらっしゃいませー」

 若い営業マンが顔を上げ――

 一瞬で固まった。

 「……え?」

 「え??」


 視線が朔姫と華陽に吸い寄せられる。

 心の声が顔に出ている。

(モデル来た)

(絶対ハイスペ客だ)

(これは逃すな)


 営業マン、姿勢を正す。

 「こちらへどうぞ!!!」

 声のトーンが二段階アップ。


 恒一「急に丁寧すぎない?」

 久世「城に招かれる時と同じだな」


 「その例えやめて!」


 席につくや否や、お茶が即出てくる。

 「本日はどのようなお部屋をお探しで?」


 恒一が答える。

 「えっと、四人で住める広めのとこで……」


 営業マン、目が光る。

 「ファミリータイプですね!」

 「即ご案内できます!!」


 「え、早」

 パソコンを叩く音が戦場の太鼓みたいに響く。

 「こちら最新物件!」

 「駅徒歩三分!」

 「最上階角部屋!」

 「日当たり抜群!」

 次々と資料が出てくる。


 朔姫が真剣に見る。

 「見晴らしは重要だ」


 華陽「防音性はありますか」

 営業マン「ございます!!!」

 即答。


 恒一(全部あるじゃん)

 久世が指をさす。

 「この城のような造りのものはないか」


 営業マン「タワーマンションございます!!!」


 「あるんだ!?」


 営業マン、汗をかきながら笑顔。

 「ちなみにご予算は……?」


 恒一がもごもご。

 「えっと……普通くらいで……」


 営業マンが朔姫と華陽を見る。

 「……普通とは」

 (絶対富裕層だこの人たち)


 華陽が冷静に言う。

 「無理のない範囲で構いません」


 営業マン「はい!!一番良いところで!!」


 恒一「話聞いて!」

 五分後。

 机の上は高級物件だらけ。

 久世「どれも城だな」

 朔姫「良き陣地だ」

 恒一「住居だから!」

 営業マン、渾身の一撃。

 「ちなみにこちら……」

 「芸能関係の方にも人気で……」


 華陽が微笑む。

 「……そうですか」


 その瞬間。

 営業マンの闘志が燃え上がる。

 (絶対決めていただく!!!)


 恒一は悟った。

 「……俺たち」

 「一番高いとこ住む流れだよな」


 久世が頷く。

 「良い城ほど守りやすい」

 「だから城じゃないって!!」

 こうして不動産屋は――

 戦場になった。



 高級物件の資料が机いっぱいに広がっていた。

 恒一は青ざめていた。

 「……なあ」

 「これ全部」

 「家賃、普通じゃないよな?」


 営業マン「とても良い物件です!!!」


 「誤魔化すな!!」


 久世は平然。

 「良き城には価値がある」

 「現代でも城は高いんだよ!」


 恒一は頭を抱える。

 「俺の給料じゃ無理だって!」


 朔姫「では奪えばよいのでは」


 「犯罪!!」


 その時。

 華陽が静かに言う。

 「問題ありません」

 「資金は既に確保しています」

 恒一「え?」

 久世「……もうか」

 朔姫「早いな」

 恒一「待ってどういうこと!?」


 華陽はスマホを操作し、画面を見せる。

 「父上が前世で蓄えていた資産です」

 「現代に残っていた形跡がありました」


 恒一「まさか……」


 「金山」

 「土地」

 「隠し蔵」

 「美術品」

 「古文書」

 次々表示される額。

 ゼロが多すぎる。

 恒一「……桁が狂ってる」

 華陽「一部を売却しました」

 「まだ大半は残っています」


 久世が頷く。

 「戦は金でも勝つものだ」


 恒一「戦国貯金エグすぎる!!」

 朔姫「父上は浪費しない」

 「必要な時だけ使う」

 華陽「現代で言う資産運用の鬼ですね」


 営業マン、完全に固まる。

 「……失礼ですが」

 「ご職業は……?」


 久世「元・武将だ」


 営業マン「ですよね!!!」

 恒一「納得するな!!」


 華陽は落ち着いて言う。

 「この最上階物件を」

 「購入でお願いします」

 営業マン「かしこまりましたぁぁぁ!!!」

 恒一「購入!?!?」

 久世「借りるより良い」

 「一生城になる」

 恒一「スケールが戦国なんだよ!!」

 朔姫が満足そうに頷く。

 「これで陣地確保だな」


 こうして――

久遠クラブ+戦国ファミリーはタワマン住民になった。



 新居――高層タワーマンション最上階。

 広すぎるリビング。

 窓から見える夜景。


 恒一は床に座り込んでいた。

 「……人生一気に飛びすぎだろ」


 久世は景色を眺める。

 「見張り台として優秀だ」


 「展望台じゃなくて自宅!」


 朔姫は窓際を走る。

 「落ちたら死ぬ高さだな」


 「やめろ縁起悪い!」


 華陽は冷静に家具配置を決めている。

 「死角を減らしましょう」


 「なんの死角!?」


 引っ越しから数日後。

 エレベーター内。

 住人たちが恒一たちを見る目が変わり始めていた。

 ひそひそ。


 「最上階の人たちだよね」

 「なんか雰囲気違くない?」

 「モデル二人いるし」

 「でも男の人……目つき怖い」

 久世のことだった。


 ある日、管理人が声をかけてくる。

 「最近ですね……」

 「防犯カメラがよく反応するんです」


 恒一「え?」


 「夜中に廊下で」

 「誰もいないのに“人影”が映るんですよ」


 久世がピクリと反応。

 華陽も目を細める。

 朔姫が小声。

 「……魂だな」


 恒一「やっぱそういう展開来るよね!?」


 管理人は続ける。

 「あと……」

 「この階だけ温度が下がることがありまして」

 「エアコン切れてるのに」


 沈黙。


 久世が静かに言う。

 「寄ってきているな」

 「強い魂に」


 恒一「俺、霊的磁石かよ」


 その夜。

 リビングの照明が一瞬だけ揺れる。

 ――ぱち。

 風もないのにカーテンが動く。


 朔姫が構える。

 「来る」


 華陽が低く言う。

 「気配、複数」


 恒一「ちょっと待ってホラー始まってない!?」


 久世は前に出る。

 「怯むな」

 「ここはもう俺たちの陣地だ」


 窓ガラスに、

 誰かの“影”が映る。

 だが振り返ると誰もいない。


 久世が睨む。

 「覗くだけの雑魚だ」

 「そのうち本物が来る」


 恒一「全然安心できねぇ!!」

 こうして住人たちは気づき始めた。

この最上階には、普通じゃない者が住んでいる。



 夜。


 最上階の空気が、はっきりと冷えた。

 窓が震える。

 照明が一斉に暗くなる。


 ――ドン。


 何かが、部屋の中央に“落ちた”。

 黒い靄が人の形を取り始める。

 さっきまでの雑魚とは違う。


 圧が段違い。

 恒一が息を呑む。

 「……でかい」

 「今までのとレベル違うだろこれ」


 朔姫が歯を食いしばる。

 「親玉だな」


 久世が静かに前へ出る。

 「戦の匂いが濃すぎる」

 「相当、血を浴びた魂だ」


 黒い影が笑う。

 『力をよこせ』

 『器をよこせ』

 『戦わせろ』


 床が軋む。

 窓にヒビが走る。


 恒一の頭がズキンと痛む。

 「っ……また来る……!」


 華陽が一歩前へ。

 表情が一変する。

 ――知将の顔。

 「父上」

 「この魂、私が封じます」


 久世は短く頷く。

 「任せた」


 次の瞬間。

 華陽の足元に、無数の光の紋が走る。

 まるで陣形。

 魂を囲む“封陣”。


 『なにを——』


 影が暴れる。

 だが動けない。


 華陽が静かに手をかざす。

 「あなたは強すぎる」

 「だから自由にさせません」


 圧縮されるように、影が縮む。

 叫び声が変わる。

 『ぐ……』

 『くそ……久世……』

 その名に、全員が凍る。


 久世の目が見開かれる。

 「……今、何と言った」


 影が苦しげに笑う。

 『相変わらず怖ぇな……殿』

 『あんたの背中、追いかけ続けた』


 その声。

 低くて、荒くて、

 聞き覚えがありすぎた。


 久世が一歩近づく。

 「……難波」

 空気が止まる。


 朔姫が震える声で言う。

 「槍の達人……難波殿……?」


 影がふっと笑う。

 『やっと気づいたかよ』

 『死んでも戦場から離れられなくてな』

 『気づいたら化け物みたいになってた』


 恒一が呆然。

 「え……味方だった人……?」


 久世の拳が震える。

 「なぜ……こうなるまで……」


 難波の魂は苦笑する。

 『止まれなかったんだよ』

 『戦が終わっても』

 『殿の背中が眩しすぎてな』


 華陽が静かに締め上げながら言う。

 「あなたはもう戦士ではありません」

 「暴走魂です」


 難波は目を閉じる。

 『だよな……』

 『だから捕まえてくれてありがとよ』

 『これ以上……誰も傷つけずに済む』


 久世の声がかすれる。

 「難波……すまなかった」


 『謝るな殿』

 『あんたの戦は正しかった』

 『俺が追いすぎただけだ』


 そして最後に笑う。

 『現代でも……相変わらず化け物だな』


 封陣が完成し、魂は静かに結晶のように固まった。

 部屋の空気が戻る。

 静寂。


 恒一が小さく言う。

 「……敵じゃなくて」

 「迷子の魂だったんだな」


 久世は結晶を見つめる。

 「戦が生んだ亡霊だ」

 「だからこそ、俺たちが終わらせる」


 華陽が頷く。

 「これから来る魂は」

 「皆、何かの戦いの残骸です」


 朔姫が拳を握る。

 「なら戦う理由は一つだ」

 「救うためだな」


 久世は静かに言う。

 「その通りだ」

 こうして恒一たちは知る。

憑依の力は、戦う力ではなく――魂を救う戦いでもあることを。

 


 結晶となった難波の魂が、静かに棚に置かれた。

 部屋はしん……と静まり返る。


 恒一がぽつり。

 「……救えたんだな」


 朔姫が頷く。

 「迷いは終わった」


 久世も目を閉じる。

 「難波はようやく休める」


 しんみり。

 ……のはずだった。


 カタン。

 背後で音。

 全員振り返る。

 いつの間にか。

 新品の人形が一体、完成している。


 恒一「え」

 朔姫「父上……」


 久世、腕を組んで当然の顔。

 「用意していた」


 「早すぎる!!」


 華陽「効率化です」


 結晶がふわっと浮き、

 人形の胸に吸い込まれる。

 ドクン。

 ドクン。

 心臓の音。

 筋肉がつき、皮膚が張り、呼吸が始まる。

 次の瞬間。


 「……っは!!」

 難波が目を開く。

 「空気うめぇ!!」


 恒一「復活はっや!!」

 朔姫「感動返せ!!」


 難波は自分の腕を見る。

 「おお!?」

 「ある!!」

 「足もある!!」

 飛び跳ねる。

 「生き返ったああああ!!!」


 久世「静かにしろ」

 難波「無理です殿!!」 


 華陽が冷静に言う。

 「あなたは現在“現代人ボディ”です」

 「暴れると近隣トラブルになります」


 難波「現代って最高かよ!!!」


 恒一が頭を抱える。

 「さっきまで泣きそうだったのに」

 「何このノリの急変」


 朔姫が呆れる。

 「戦国の亡霊とは思えんな」


 難波はニヤニヤ。

 「殿の家で暮らせるなら」

 「成仏とかどうでもよくなりました!」


 久世「勝手に決めるな」

 難波「え、だめ?」


 沈黙。


 久世、ため息。

 「……好きにしろ」


 難波「殿ぉぉぉ!!」

 抱きつこうとして止められる。


 恒一「また住人増えた!!」

 朔姫「城が遠のいたな」

 華陽「引っ越し確定ですね」


 こうして――

戦国ファミリー+槍の亡霊(復活)同居生活が始まった。



 復活した難波は、しばらく自分の体を眺めていた。

 腕。

 太い。


 肩。

 岩。


 胸板。

 壁。


 そして——

 頭が天井に近い。


 恒一がゆっくり見上げる。

 「……でかくね?」


 朔姫「でかいな」

 華陽「二メートルは超えています」

 久世「戦場サイズだ」


 難波は胸を張る。

 「殿の槍兵は伊達じゃありません!!」


 ぐっと力を入れると、

 筋肉が盛り上がり、シャツがミシッと鳴る。

 恒一「服が悲鳴あげてる!!」

 朔姫「鎧なら耐えたのに」

 華陽「現代の布は戦向きではありません」


 難波が腕を振る。

 ブォンッと風が鳴る。


 植木鉢が転がる。

 恒一「凶器!!」

 難波「まだ力抑えてますが!?」


 久世が即言う。

 「抑えろ」


 難波「はい!!!」


 ピタッ。

 即従う。

 恒一「体育会系が過ぎる」

 朔姫が興味深そうに難波を叩く。

 ゴン。

 手が痺れる。

 「……岩だ」


 難波「よく言われます!」


 華陽が冷静に計測アプリを見せる。

 「推定体重」

 「百三十キロ以上」


 恒一「エレベーター耐えられるかな!?」

 久世「城門なら問題ない」


 「基準戻せ!!」


 難波は感動している。

 「殿……」

 「こんな体で現代を生きられるとは……」

 「槍がなくても戦えますね!!」


 久世「戦うな」

 難波「はい!!」


 即答。

 恒一は悟った。

 この家には――

 もう普通の人間はいない。



 翌日。

 近所の公園。

 恒一、久世、朔姫、華陽、そして――難波。

 難波はジャージ姿。

 だがサイズが合わず、ピチピチ。


 恒一「とりあえず体動かしてみようか」

 難波「了解です!!」


 久世が腕を組む。

 「力加減を覚えろ」


 難波「善処します!!」


 (絶対できないやつ)


 バスケットボール

 難波が軽く投げる。

 ボールが――

 ゴォン!!!

 ゴールの金属リングが曲がる。

 支柱が倒れる。

 ネットが宙を舞う。


 恒一「破壊神じゃん!!!」

 朔姫「城門攻めだな」

 華陽「器具耐久値が足りません」

 難波「力抜いたんですが!!」

 久世「それでこれか」


  サッカー

 難波がそっと蹴る。

 ドン!!!

 ボールが一直線に消える。

 数秒後、遠くで爆音。

 フェンスが凹む。


 恒一「ミサイルじゃん!!!」

 難波「足が軽く当たっただけで!!」

 久世「戦場の投石だな」


  短距離走

 位置について。

 よーい。

 ドン!!

 地面がえぐれる。

 砂煙。

 難波、視界から消える。


 数秒後。

 「もう着きました!!」


 恒一「ワープした!?」

 朔姫「馬より速いな」

 華陽「道路交通法に触れますね」


 パンチングマシン(再び)

 難波が軽く拳を当てる。

 ——バァン!!!

 機械が壁から吹き飛ぶ。


 スコア表示:ERROR

 恒一「機械が諦めた!!!」

 朔姫「父上超えだな」


 久世は静かに認める。

 「……力だけならな」


 難波が誇らしげ。

 「殿より強いですか!?」


 久世「頭は俺の勝ちだ」

 難波「ぐぬぬ」


 華陽がまとめる。

 「結論」

 「難波はスポーツ禁止です」

 恒一「人類には早すぎる存在だった」


 難波はしょんぼり。

 「戦場以外でも役立ちたいのに……」


 久世が肩を叩く。

 「役立ちすぎて世界を壊す」


 難波「褒められてます?」


 「微妙だな!!」

 こうして――

難波は“現代競技災害指定人物”となった


 

 公園での破壊祭りの帰り道。

 久世がふと空を見て言った。

 「……酒はあるのか」


 恒一「あるよ」

 即答。


 朔姫・華陽・難波が同時に振り向く。

 「ダメだ」

 「やめてください」

 「絶対にやめろ」

 声が重なる。


 恒一「え、そんなに?」

 久世「?」


 朔姫が恒一の肩を掴む。

 「父上は」

 「酒にめっぽう弱い」


 華陽が補足。

 「一口で人格が崩壊します」


 難波が深刻な顔。

 「戦場より危険です」


 恒一「なにそれこわ」


 久世は腕を組む。

 「誇張だ」

 「昔は飲めた」


 三人が即答。

 「飲めてません」

 「全くです」

 「秒で壊れました」


 恒一「そんな漫画みたいな……」


 久世が静かに言う。

 「現代の酒を」

 「少し試したいだけだ」


 朔姫「少しが一番危険だ」

 華陽「一口=災害です」

 難波「過去に城一つ壊れかけました」

 恒一「なにやってんだよ!!」

 久世「事故だ」


 「事故の規模じゃねぇ!」


 恒一は戸棚から缶ビールを出しかける。

 その瞬間。


 三人が同時に飛びかかる。

 「やめろォォォ!!!」


 恒一「うわっ!?」


 缶が宙を舞う。

 久世が無意識でキャッチ。

 プシュ。

 開いた。

 静寂。

 久世「……」

 泡を見つめる。

 「泡立つ兵糧か」


 恒一「もう飲んでいいよな……?」

 三人「ダメ!!!」


 久世が一口。

 ごく。

 一瞬の沈黙。

 そして。

 「……うまい」


 恒一「え、普通だ」


 全員ほっとする。

 ……次の瞬間。

 久世の顔が赤くなる。

 視線がトロン。

 「……恒一」

 「お前好きだ」


 恒一「は?」

 朔姫「来た」

 華陽「第一段階です」

 難波「まだ軽症」


 久世が難波を指差す。

 「でかいな」

 「抱えてよいか」


 難波「やめてください殿!!」


 久世が本気で持ち上げる。

 床がミシッ。

 恒一「床が悲鳴あげてる!!!」

 久世「ははははは!!」

 朔姫「第二段階突入だ」

 華陽「止めないと家が消えます」

 難波「もう遅いです!!」

 こうして始まる――

戦国最強・酔拳災害編。


 

 久世は完全に出来上がっていた。

 顔は真っ赤。

 目はとろん。


 「ははははは!!」

 「この城、高いなぁ!!」


 恒一「城じゃなくてマンション!!!」

 朔姫「父上、動くな」

 華陽「窓から離れてください」

 難波「殿!!それは戦場でも危険です!!」


 久世は夜景を見下ろして、満足そうに頷く。

 「……良き見張り台だ」

 「風もよい」


 恒一「いやそれフラグ!!」


 久世が振り返る。

 「恒一」

 「川が見えるな」


 「見えるけど!?だから何!?」


 久世はにっこり笑う。

 「着水できそうだ」


 全員「やめろォォォ!!!」


 だが――

 久世はすでに動いていた。

 窓枠を踏み、

 そのまま空へ。

 「うおおおおおおおお!!」

 夜空を切り裂いて落下。


 恒一「飛んだぁぁぁぁ!!!」

 朔姫「父上えええええ!!」

 難波「殿ォォォォ!!」

 数秒後。


 ――ドォォォン!!!


 遠くの川で巨大な水柱。

 しばし沈黙。


 恒一「……終わったよな?」

 華陽「いいえ」


 次の瞬間。

 川から人影が立ち上がる。

 びしょ濡れの久世。

 「冷たい!!」

 「だが気持ちいい!!」

 腕を振る。

 水しぶきが月明かりに光る。

 「泳ぎも悪くないな!!」


 恒一「人間じゃねぇぇぇ!!」


 朔姫が呆然。

 「父上、酔うと飛ぶのか……」

 難波「戦場でも飛びませんでした!!」


 華陽が冷静に言う。

 「明日、ニュースになりますね」

 恒一「絶対なるわ!!!」


 しばらくして。

 びしょびしょのまま帰宅。

 久世は満足そうに座り込む。

 「良き酒だった」


 「二度と飲ますか!!」


 朔姫「父上、反省は?」

 久世「ない」

 全員「だろうな!!」

 こうして――

戦国最強、現代で飛翔事件を起こす


 

 翌朝。

 恒一のスマホが震え続けていた。


 ピコン

 ピコン

 ピコン

 通知の嵐。

 恒一「……嫌な予感しかしない」

 画面を開く。


 【速報】

 《深夜、川に“人が落下”か 目撃多数》


 恒一「……は?」


 リビングでは久世が普通にお茶を飲んでいる。

 「よく眠れた」


 「寝覚め最悪だよこっちは!!」


 朔姫と華陽もスマホを見て固まっていた。

 朔姫「父上……載っている」

 華陽「全国です」

 難波「やりましたね殿!!」


 「やってねぇよ!!」


 テレビをつける。

 ニュース映像。

 夜の川。

 巨大な水しぶき。

 そして――

 川から立ち上がる筋肉ムキムキの人影。


 ナレーター:

 「目撃者によりますと、男性は高層マンションから落下したとみられ――」

 「その後、自力で川から上がり、歩いて立ち去ったということです」


 恒一「立ち去ったって何!?」

 画面にはぼやけた久世の姿。

 だが体格が異常に目立つ。


 テロップ:

 《謎の落下男》

 《人間ではない可能性も》


 恒一「UMA扱いされてる!!!」

 朔姫「父上、妖怪になったぞ」


 久世は首を傾げる。

 「落ちただけだが」


 「だけじゃない!!!」


 華陽が冷静に解説。

 「高さ推定四十階」

 「生存確率ほぼゼロです」

 恒一「だろうね!!!」


 SNS画面も映る。

 《マジで人間じゃない》

 《CGじゃね?》

 《新種のヒーロー?》

 《筋肉ヤバすぎ》


 難波「殿、人気者ですな!」

 久世「戦果か?」


 「違う!」


 ニュースは続く。

 「警察は現在、落下したとみられる男性の行方を追っています」


 恒一「追われてる!!!」

 朔姫「逃げる準備だな」

 華陽「引っ越しが早まりそうです」


 久世は湯のみを置く。

 「……騒ぎすぎだ」

 「現代は落ちただけで国が動くのか」

 恒一「そりゃそうだよ!!!」


 その瞬間、インターホン。

 ピンポーン。

 全員凍る。

 恒一「……来た?」

 久世「迎撃か?」


 「戦うな!!!」

 こうして――

戦国最強は現代社会に認識された。

しかもUMA枠で。



 ――ピンポーン。

 

 重すぎる音だった。

 恒一の喉が鳴る。

 

 「……来た」

 

 朔姫が腕を組む。

 「討たれるのか?」

 

 「討たれない!!事情聴取!!」

 

 久世は落ち着いている。

 「迎え撃つか?」

 

 「戦うな!!!」

 

 ドアを開ける。

 そこに立っていたのは

 制服姿の警察官二人。

 めちゃくちゃ普通。

 

 警察「おはようございます」

 恒一「お、おはようございます……」

 警察「昨夜この付近で落下事故がありまして」

 恒一(事故って言ってくれてる……)

 警察「何か物音など聞きませんでしたか?」

 

 その瞬間。

 後ろから濡れ髪オールバックの久世が現れる。

 身長高い

 肩幅異常

 存在感が暴力

 

 警察「……」

 警察「…………」

 明らかに固まる。

 

 警察「……失礼ですが」

 「あなた……」

 「昨夜、川に……」

 

 久世、にこやかに一礼。

 「拙者、よく眠っておったが?」

 

 恒一「言葉遣い!!!」

 

 警察の無線がピッと鳴る。

 「特徴一致」

 「筋肉量、異常」

 警察「少しお話を――」

 

 その瞬間。

 久世が一歩前に出る。

 床がミシッと鳴る。

 

 警察(本能的に後退)

 

 久世「捕縛か?」

 

 「違う違う違う!!!」

 

 朔姫が小声で。

 「父上、現代では捕縛=ニュースだ」

 

 久世「それはまずいな」

 

 華陽が間に入る。

 「昨夜は皆でゲームをしていました」

 「川には誰も行っておりません」

 

 警察、汗だく。

 「で、ですが映像が……」

 

 久世、首を傾げる。

 「世には似た者もおる」

 

 恒一(無理ある!!)

 

 沈黙。

 

 警察官がゴクリと唾を飲む。

 「……失礼しました」

 「何かあればまたご連絡します」

 逃げるように帰っていく警察。

 

 ドアが閉まる。

 全員崩れ落ちる。

 

 恒一「心臓止まるかと思った……」

 朔姫「父上、完全に犯人扱いだったな」

 久世「疑われるのは強者の宿命」

 

 「違う!!社会のルール!!」

 

 難波「殿、もう飛ぶのは禁止です」

 久世「努力しよう」

 

 「約束しろ!!!」

 

 その頃ネットでは――

 

 《警察が接触したらしい》

 《筋肉の圧で引き下がったとか》

 《やっぱ人間じゃない》

 

 “謎の落下男”伝説、加速。


 

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