表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
久世家戦記・現  作者:
宇宙編
19/21

第八部 終焉へ向かう銀河

 巨大なホログラムモニターが宇宙船の前方に展開される。

そこに映ったのは、星雲のような光を背にした広間。


無数の艦隊が浮かぶ空間の中心に――玉座。

ゆっくりと視線を下ろす存在がいた。

銀色と蒼の装甲をまとい、背には翼のように広がるエネルギーフレーム。

その瞳は星そのもののように輝いている。


全空軍総司令

アストラ・ヴァレン。

その圧だけで空間が重く沈む。


ジンが小声で告げる。

「銀河空軍最高権力者だ……滅多に姿を現さない存在だよ」


久世たちは自然と膝をついた。

誰に命じられたわけでもない。

本能が“格の違い”を理解していた。


アストラの声が響く。

「久世一行。

 ネメシスと正面から渡り合い、生きて帰った者たち」


一瞬の沈黙。

「そして――創生の守護因子を宿す存在」


久世の目が僅かに見開かれる。

全部、見抜かれている。

「貴様らの戦いは既に銀河中に伝わっている」

「希望と同時に、危険としてもな」


空軍の幹部たちの視線が一斉に突き刺さる。

英雄を見る目と、災厄を見る目が混ざっていた。

アストラは玉座の肘掛けに指を置き、静かに言う。

「我々は同盟を望む」

「だが条件がある」

空気が張り詰める。

「久世よ。

 貴様が完全にネメシス側へ堕ちぬ証明をせよ」


かやが一歩前に出ようとするが、久世が軽く手で制する。

「方法は一つ」


アストラの背後に巨大な戦場映像が浮かぶ。

燃える星。

崩壊する都市。

そこに立つ――異形の存在。

「ネメシス最前線要塞アビス・クレイドル

「ここを落とせ」


幹部たちがざわめく。

「あそこは空軍でも正面突破不可能な地だぞ…」

「生還者ゼロの死域だ」


アストラは淡々と続ける。

「成功すれば同盟成立」

「失敗すれば――ここで貴様らを処分する」


容赦がない。

沈黙の中、久世がゆっくり立ち上がる。

「条件としては悪くない」


全員が息をのむ。

久世はモニター越しにアストラをまっすぐ見据える。

「だが一つ聞く」

「俺たちが落とした後、空軍は逃げないな?」


アストラの口元がわずかに笑う。

「面白い」

「なら誓おう。銀河空軍の名にかけて」


久世は頷いた。

「ならやろう」

「ネメシスの戦争、ここから終わらせる」


背後でかやたちが覚悟の目になる。

こうして――

銀河規模の反撃が始まる。


 

 玉座に座るアストラ・ヴァレンの視線は冷たいままだった。


「条件は提示した。

 受けるか、ここで終わるかだ」


その瞬間。

久世が一歩、前へ出る。

空気が――歪んだ。

床の金属が軋み、艦隊のホログラムがノイズを帯びる。

星の光が久世へと吸い寄せられていく。


「……久世?」

かやが名を呼ぶ。


久世の身体から、淡い銀河色の光が立ち上った。

それはエネルギーというより――宇宙そのもの。

創生の力。

ビッグバンの残響のような圧が広間を包む。


次の瞬間。

モニター越しにも関わらず、

空軍の指令室の床が砕け散った。

艦隊の動力炉が一斉に緊急停止。

星域全体がブラックアウト寸前になる。


幹部たちが悲鳴を上げる。

「な……何だこの出力……!」

「観測不能!?銀河規模エネルギー反応だぞ!!」


アストラの顔色が一瞬で変わった。

額に汗がにじむ。

威厳どころか、完全にビビっている。


久世は静かに言う。

「俺たちは頼みに来たんじゃない」

「共に戦いに来たんだ」


さらに一段、圧を上げる。

玉座の背後の星雲が引き裂かれ、

空間に亀裂が走る。

「もし敵なら――ここ、もう無い」


沈黙。


次の瞬間。

アストラが玉座からずり落ちた。

「ご、ごめんなさいぃぃぃ!!」


一同「え?」


銀河最強司令官が床に正座。

「あなたしか頼れる人いないの!!」

「ネメシス強すぎて空軍ボロボロなの!!」

「威厳とか演出なの!!本当は毎晩胃が痛いの!!」


幹部たち絶句。

「総司令!?!?」 「キャラ崩壊してます!!」


アストラは涙目で久世を見る。

「ツンデレとかじゃないの!!」

「もう切羽詰まってるの!!」


久世「……」


かやが小声で。

「久世、この人めちゃくちゃ追い込まれてる」


アストラは手を合わせる。

「お願い……銀河救って……」

「報酬なんでも出すから……!」


久世はため息をついた。

「最初からそう言えばいい」


アストラ「だってカッコつけたかったの!!」


その場の緊張、完全崩壊。

夜叉がぼそっと。

「ネメシスよりこの人の情緒の方が厄介だな」


 久世は静かに踵を返した。

「道明、行くぞ。アビス・クレイドルだ」


「了解」


その一言で空気が締まる。

――その瞬間。

「ま、待ってぇぇぇぇ!!」


振り返ると、

玉座から転げ落ちていたはずのアストラが全力ダッシュしてきていた。

ドレスの裾を踏み、豪快に転びながら。


「やだぁぁぁ!!道明連れてかないでぇぇ!!」


床にしがみつき、道明の足を抱きしめる。

「私の護衛なの!!唯一安心できる存在なの!!」

「この前も夜中にネメシスの悪夢見て泣いたら背中さすってくれたの!!」


幹部たち「言わなくていい情報です総司令!!」


道明「総司令……」


アストラ涙目。

「アビス・クレイドルとか名前からして絶対ヤバいでしょ!!」

「帰ってこなかったらどうするの!!」


久世が無言で見下ろす。

「……」


アストラ、察してさらに泣く。

「え、死地なの!?やっぱり死地なの!?」


久世「ほぼ」


「ほぼ!?ほぼって何ぃぃ!!」


その場に崩れ落ちるアストラ。

「私一人で銀河守るの無理ぃぃ……」

「会議も書類も全部道明がやってくれてるのに……」


幹部たち一斉に目をそらす。

(総司令の仕事ほぼ道明任せだった件)


久世はため息をつく。

「死なせん」

「それフラグぅぅ!!」


道明が静かに言う。

「総司令。私は久世の盾になります」


「いやぁぁぁ盾宣言しないでぇぇぇ!!」


アストラは久世にしがみついた。

「お願い……せめて……」

「毎日生存連絡して……」

「既読つかなくなったら艦隊全部出すから……」


久世「重い」


「司令官の愛は重いの!!」


かやがくすっと笑う。

「大丈夫ですよアストラ。久世がいるんですから」


アストラ「それが一番怖いのよ!!久世のいる場所だいたい戦場になるじゃない!!」

夜叉「正論」


 

 アビス・クレイドル――侵入。

ワープを抜けた瞬間、宇宙の色が死んだ。

星は存在しているのに光を出していない。

空間そのものが濁った深海のように重く沈み、視界がわずかに歪む。


ジンが震えた声で言う。

「……ここは重力も時間も、正常じゃない」


前方に見えたのは“母艦”と呼ぶにはあまりにも異様な構造物だった。

都市サイズの黒い塊。

だが金属ではない。骨と血管と結晶が混ざったような有機構造。

まるで宇宙そのものの死骸で作られた城。


表面を這うのは赤黒い光の筋――

それはエネルギーではなく、鼓動だった。

生きている。


久世が静かに呟く。

「……臓器だな」


入口が開くと同時に、空気が変わる。

中は“通路”ではなく――

奈落

足元が見えないほど深い縦穴がいくつも交差し、

その間を無数の橋のような骨状構造が張り巡らされている。


下を覗くと、星の残骸、艦隊の骸、文明の瓦礫が

終わりなく落ち続けていた。

底は存在しない。

永遠に落ちる地獄。

壁には巨大な結晶棺が何千何万と埋め込まれている。


中には――

異星人、兵士、子ども、王族、怪物。

すべて生命エネルギーを吸われながら生きたまま保存されていた。


ミラが息を呑む。

「……これ、全部……星の民……」


ジンが歯を食いしばる。

「ネメシスは滅ぼした星の生命をここで“燃料”にしている」


遠くで何かが蠢いた。

橋の影から這い出てくるのは、

元は生物だったものを無理やり兵器に変えられた存在。

骨の外殻

心臓むき出し

目だけが赤く光る


――尖兵。


数百。

空間そのものが悲鳴を上げているようだった。

さらに進むと中央に巨大空間が現れる。

そこにあったのは


銀河炉心


エーテルスターの欠片が何十個も融合させられ

黒い恒星のように脈打っている。


その周囲を囲むのは

星を滅ぼした記録が立体映像で延々と再生される地獄の回廊。


燃える文明

逃げ惑う民

崩壊する大地


ここは――

宇宙の虐殺を保存する博物館

久世の拳が震える。

「……ここまで堕ちたか」


かやが久世の手を強く握る。

「久世……これを終わらせよう」


その瞬間。

空間が歪み、重圧が降り注ぐ。

天井から降りてくる影。

惑星サイズの装甲を纏った存在。


――守護将。


ネメシスがこの地獄を守るためだけに作った

銀河級破壊兵器。

その目が光った瞬間、

重力が十倍に跳ね上がる。

膝をつく者たち。


だが久世だけが立ったまま。

「なるほどな」

静かに一歩前へ。

「ここは――

宇宙の絶望を煮詰めた棺桶だ」


そして久世の周囲に銀河エネルギーが灯る。

「なら俺は」

「ここを墓場に変える」



 守護将がゆっくりと腕を上げた瞬間――

空間が“潰れた”。

重力が百倍に跳ね上がり、骨の橋が粉砕されて奈落へ落ちていく。

遠くの瓦礫が引き寄せられ、守護将の周囲で惑星の輪のように回転し始めた。 


「ここは重力炉心だ」

低く響く声。

「侵入者は、星と同じ末路を辿る」


次の瞬間。

回転していた瓦礫群が光速近くで射出される。

銀河規模の散弾。

夜叉と難波が即座に前へ出るが、触れた岩塊が重力で圧縮されブラックホールのように潰れて消える。


「防げない……!」


だが久世は動いた。

一歩踏み出した瞬間、銀河エネルギーが爆発的に展開し、

空間そのものを押し返す。

飛来する破壊を存在ごと弾き飛ばした。

「重力ごと叩き返す」


久世の瞳が深い蒼に輝く。

「面白い玩具だな」


守護将の背中から巨大な結晶翼が展開。

翼が一度はためくと、

無数のエネルギー恒星弾が生まれ、雨のように降り注ぐ。

当たれば星が消えるレベル。


朔姫が高速で走り抜け、弾を誘導しながら叫ぶ。

「久世!中心核がある!」


だが守護将は理解していた。

胸部が開き、銀河炉心と同じエネルギー反応が露わになる。

「弱点など存在しない」


次の瞬間――

超重力崩壊波

波動が広がり、空間が折り畳まれた。

星の残骸が一瞬で圧縮され、爆縮して消滅。

久世の身体が地面に叩きつけられる。

銀河エネルギーが軋み、初めて防御が割れた。


かやが叫ぶ。

「久世!!」

守護将がゆっくり歩み寄る。

「創生の守護者であろうと、所詮は一個体」

巨大な拳が振り下ろされる。


――直撃。


久世の身体が奈落へ吹き飛ばされ、数千メートル下の瓦礫群に叩きつけられる。


静寂。

誰も動けない。


だが――

瓦礫の中で、青銀の光が再点火する。

久世が立ち上がる。

口元に血のようなエネルギーが垂れていた。


「……いい威力だ」


ゆっくりと拳を握る。

周囲の銀河エネルギーが恒星並みに圧縮されていく。


「だがな」

「俺は“滅び”を越えて輪廻してきた存在だ」


次の瞬間、久世が消えた。

重力すら追いつかない速度。

守護将の視界に映ったのは――

目の前に現れた久世の拳。


創生銀河衝ビッグバン・ブレイク


拳が触れた瞬間、

小さな光点が生まれ――

それが宇宙誕生級の爆発に変わった。


衝撃波が銀河炉心を揺るがし、

守護将の装甲が一枚、また一枚と剥がれ飛ぶ。

「不可能だ……」


久世はさらに踏み込む。

「可能にするのが守護者だ」


連撃。

拳一つ一つが恒星爆発。

重力制御が崩壊し、

守護将の身体が自壊を始める。

最後に久世が両手を掲げる。

銀河エネルギーが一本の槍になる。

「ここは墓場だと言ったな」

「なら——」


創生終焉槍エンド・ノヴァ


投擲。

槍が守護将を貫いた瞬間、

内部のエネルギー炉心が暴走。


眩い閃光の後――

守護将は存在ごと消滅した。

奈落が静まり返る。

漂うのは星屑だけ。


久世はゆっくり息を吐く。

「これで門番は終わりだ」


だが同時に、銀河炉心が不気味に脈打ち始めていた――

エーテルスター本源が目覚め始めている。


 

 守護将の残骸を越え、久世たちは奥へ進んだ。

砕けた銀河装甲の破片が無重力に漂い、

踏みしめるたびに光の粉となって崩れていく。


そこから先は――

音が消えた。

鼓動も、エネルギーの唸りも、何もない。

ただ静寂。


通路の終わりに見えたのは

建造物でも、機械でも、星でもなかった。

そこに“在った”のは、

黒。


光を吸い込む闇でもなく、影でもなく、

存在という概念そのものが欠けている空間。

まるで宇宙に開いた傷。

中心には、脈打つようにゆっくりと形を変える何か。


それを見た瞬間、ミラが息を詰まらせる。

「……星の糸が……消えてる」


黒い何かの周囲には

本来なら流れるはずの生命エネルギーが途中で断ち切られていた。

吸われているのではない。


——消されている。


ジンが震える声で言う。

「これが……ネメシスの核……」

久世は一歩近づく。

足元の空間がひび割れ、無へと崩れ落ちる。

「違うな」


低く言った。

「これは“兵器”じゃない」

「宇宙そのものを否定する存在だ」


その瞬間、黒い存在が反応した。

空間が裏返るように歪み、

無数の声が重なって響く。


怒り

恐怖

絶望

祈り


滅びた星々の記憶が一斉に流れ込む。

かやが頭を押さえる。

「星が……死んでいく……」


久世がかやを抱き寄せ、意識を遮断する。

「見るな。これは“宇宙の虐殺記録”だ」


黒い存在の中央に、ゆっくりと輪郭が生まれる。

人の形。

だが顔は空洞。

そこには光も感情もない。

ただ“無”。


それが語る。

「創生は過ちだった」

「生命は争いを生み続ける」

「ならば——存在そのものを消す」


久世の目が細まる。

「ネメシス……お前か」


無の存在は答えない。

代わりに、周囲の空間が次々と崩壊し始める。

星の残骸が消滅

エネルギーが蒸発

物質という概念が否定されていく

ここにいれば存在が消える。


久世が一歩前へ。

銀河エネルギーが全開で燃え上がる。

「宇宙を救うために宇宙を消すだと?」

「歪んだ正義にも程がある」


無の存在がゆっくり腕を広げる。

「守護者よ」

「お前もこの無へ還れ」


その瞬間、久世の身体の一部が“消失”しかける。

だが久世は踏みとどまる。

「消えるかどうかは」

「俺が決める」


 

 黒い存在――ネメシスは、ゆっくりと崩れかけた空間の中で形を歪めた。

その声は直接脳に響く。

「ここは終着点ではない」

「貴様らが踏み込んだのは、ただの中継座標だ」


空間の奥に無数の座標光が浮かび上がる。

銀河、星団、次元層、時間軸――重なり合う宇宙構造図。


その中心に、観測不能領域があった。

どんな光も届かず

時間も意味を失い

存在が定義できない場所。


ネメシスの声が冷たく響く。

「我が本体はそこに在る」

「貴様らの宇宙では測定できず、視認できず、到達もできぬ」

「ここは意識と力を中継する“影”にすぎん」


ミラが震える。

「じゃあ……今まで倒してきたのは……」


「触手だ」

その一言が重く落ちる。

「星を滅ぼした軍も」

「守護将も」

「幹部も」

「すべて我が延長」


久世の拳が軋む。

「つまり」

「まだ本気すら出していないと?」


ネメシスは歪んだ笑みのような波動を放つ。

「貴様はようやく門番を越えたに過ぎぬ」

「創生の守護者よ」

「だがその先にあるのは——」


空間が裂け、ほんの一瞬だけ“向こう側”が映る。

そこには

宇宙が生まれる前の闇

無限の星の死骸

崩壊した次元層

燃え尽きた時間の残響


それらを包み込む

巨大すぎて輪郭すら認識できない存在

存在するだけで宇宙が壊れていく。


かやが息を詰まらせる。

「……近づいたら……宇宙が……死ぬ……」


ネメシスの声が勝ち誇る。

「そこが我が真座」

「宇宙の外側」

「創生そのものを否定する場所だ」


久世は視線を逸らさない。

「ならそこまで行く」

「観測できないなら」

「存在ごと引きずり出す」


一瞬、ネメシスの波動が揺れた。

――初めての動揺。

「不可能だ」

「貴様らの次元構造では到達できぬ」


久世は静かに言い返す。

「創生の守護者を舐めるな」

「宇宙は“渡る”ものじゃない」

「創るものだ」


銀河エネルギーが次元そのものを震わせ始める。

ネメシスは初めて距離を取った。

「……面白い」

「ならば進め」

「本体へ辿り着けるならな」


黒い存在が霧散し始める。

「だが覚えておけ」

「貴様らが進めば進むほど」


「宇宙は壊れる」

「それでも守るか?」


久世は即答。

「壊れるなら」

「俺が創り直す」


完全に霧散。

残ったのは歪んだ宇宙座標だけ。

ジンが震えながら言う。

「……あれは……神とか悪とかじゃない……」

「宇宙の否定そのものだ……」


久世は静かに拳を開いた。

「だからこそ倒す価値がある」


 

 ネメシスの気配が完全に消えた瞬間――

アビス・クレイドル全体が悲鳴を上げた。

黒い壁がひび割れ、銀河炉心が暴走を始める。


生命を吸い尽くした結晶棺が次々と砕け、解放されたエネルギーが嵐のように噴き出した。


「まずい……!」

ジンが操縦席に飛び込む。

「エンジン起動――だめだ!!」


計器が赤く点滅する。

「負のエネルギーが船体に絡みついて動かない!」


床が崩れ、奈落が広がる。

遠くで母艦の構造が爆散していく。


ミラが叫ぶ。

「このままじゃ――沈む!」


その瞬間。

崩壊する宇宙の彼方から、

星よりも大きな影が滑るように現れた。

白銀と蒼の光に包まれた巨大母艦。

まるで宇宙そのものを航行する都市。

船体に刻まれた名――


《ステラ》


次の瞬間、温かなエネルギー波が広がり、

負のエネルギーを一瞬で押し流す。

久世たちの宇宙船がふわりと浮き上がった。


通信が入る。

穏やかで芯のある声。

「遅くなったね、ミラ」


ミラの目が潤む。

「……おばあちゃん……!」


ホログラムに映ったのは、

銀髪に星のような瞳を持つ女性。

穏やかだが、宇宙を導いてきた者の威厳を纏っている。


「よくここまで生き延びた」

「そして――守護者殿も」


久世を見て微笑む。

「噂以上だよ」


巨大母艦ステラから無数の救助光線が伸び、

崩壊する構造物を押しのけながら久世たちを引き上げる。

背後ではアビス・クレイドルが完全に崩れ落ち、

銀河サイズの爆光となって消滅した。


宇宙に静寂が戻る。

ミラは震えながら息を吐く。

「……助かった……」


ステラの艦内に収容される久世たち。

広大なホールには無数の星図と艦隊が並び、

ここが銀河防衛の中枢であることが一目でわかる。


ミラの祖母――ステラがゆっくり歩み寄る。

「ネメシスが中継点を失ったのは大きい」

「だが、これで本当の戦いが始まる」 


視線を久世に向ける。

「創生の守護者よ」

「あなたは宇宙の希望であり、同時に最後の鍵だ」


久世は静かに頷く。

「鍵なら」

「開けるのも壊すのも俺がやる」


ステラは微笑んだ。

「頼もしいね」


だが次の言葉は重かった。

「……本体へ行く道は、もう開き始めている」


星図に“観測不能領域”への亀裂が浮かび上がる。

「その先は、宇宙の終端だ」



 《ステラ》の中枢ホール。

天井には無数の星々の誕生と崩壊が映し出されていた。

ステラはゆっくりと歩きながら語り始める。

「創生の久世――初代守護者が存在していた時代」

「宇宙はまだ幼く、星々は互いに争いもせず、ただ生きていた」


星図に映るのは、調和の取れた銀河。

「だが生命が増え、文明が生まれ、欲望と恐怖が芽生えた」

「争いは必然となった」

映像が戦火に染まる。

「その時現れたのが……」


光の中に立つ一人の存在。

「創生の革命家・久世第二位相」


ミラが息を呑む。

「久世……なの?」


ステラは頷く。

「初代久世の死をきっかけに、“宇宙そのものを作り変えねばならない”と立ち上がった存在」

「争いを止めるために、力で秩序を再構築しようとした」


星々が一度リセットされ、再配置されていく映像。

「彼は多くの戦争を止めた」

「だが同時に、自由と選択を奪った」


久世が静かに聞く。

「それがネメシスとどう繋がる」


ステラの表情が曇る。

「革命はやがて独裁になる」

「宇宙を“正す”という思想は、いつしか“消す”へと変質した」

映像が歪み、黒い存在が生まれる。

「それがネメシスの原型」

「創生の革命家が辿り着いた最終思想」


——争いの可能性そのものを宇宙から消去する。

「だが完全には成れなかった」

「彼の意志と力は分裂し、一部がネメシスとなり、残りが輪廻する久世となった」


ミラが震える。

「じゃあ……久世さんは……」

「創生を守る側に残った意志」


ステラは静かに続ける。

「ネメシスは“正義の成れの果て”」

「久世は“選択を信じる創生の継承者”」


ホールに沈黙が落ちる。

久世は拳を見つめる。

「つまり俺は……」

「革命の失敗を修正する存在か」


ステラは首を横に振る。

「違う」

「あなたは“答えを押し付けない存在”だ」

「宇宙に選ばせるための守護者」


その瞬間、星図が激しく揺れる。

警報が鳴り響く。

「観測不能領域に異常反応!」

「ネメシス本体が、次元境界を削り始めています!」


ステラが振り返る。

「時間がない」

「革命の亡霊が、宇宙を無に戻そうとしている」


久世は静かに立ち上がった。

「なら終わらせる」

「正義ごと、救ってやる」


かやがそっと手を握る。

「一人じゃないよ」

 


 巨大母艦ステラの中枢戦略ホール。

床は半透明の星図になっていて、銀河全体が立体映像で浮かび上がっている。


無数の艦隊アイコン、崩壊した星、ネメシスの侵食領域が赤黒く広がっていた。


その中央に久世たち。

周囲には同盟宇宙空軍の司令官クラスが円形に並ぶ。

そして玉座型の浮遊指揮席に座る――

空軍総司令アストラ・ヴァレン。

腕を組み、偉そうにしているが目は少し不安げ。


アストラ

「……状況は最悪よ」


星図が拡大される。

黒い領域が銀河の縁を喰い破りながら中心へ伸びている。

「ネメシス本体は“観測不能層”から現実宇宙を削っている」

「このままなら二年どころか、数か月で銀河崩壊よ」


ざわつく司令官たち。


ジン

「通常艦隊では接触すらできません」

「近づけば存在そのものが分解されます」


凛が低く言う。

「つまり普通に殴れない相手か」


朔姫

「殴れないなら――壊せるところまで近づくしかない」


夜叉が静かに頷く。


アストラが久世を見る。

「創生の守護者」

「あなたしかネメシス領域に“存在を保ったまま”侵入できない」


少し言いにくそうに視線を逸らす。

「……正直に言うわ」

「我々空軍は主力で時間稼ぎしかできない」

「決着はあなたたちに任せる作戦になる」


場が静まり返る。

かやが一歩前へ。

「久世だけ行かせる気?」


アストラが即答する。

「させない」

「同盟艦隊すべてを盾にする」

「あなたたちがネメシス本体へ突入する航路を、命を賭けて開く」


指揮官たちが一斉に立ち上がる。

「「覚悟はできています」」


久世がゆっくり息を吐く。

「随分と重たい作戦だな」 


アストラが強がって笑う。

「銀河総司令ってのはね」

「こういう時に逃げたら終わりなのよ」


そして真剣な目で続ける。

「でも勝算はある」


星図の一点が光る。

「ネメシス本体はエーテルスター本源を核にして存在している」

「欠片を集めているあなたたちなら――」

「本源へ直接干渉できる可能性がある」


華陽がニヤっとする。

「つまり核心ぶん殴れば終わる」


アストラ

「そういう乱暴な言い方だけど……合ってる」


久世は星図を見つめる。

「革命の亡霊を」

「今度こそ終わらせる」


かやがその手を強く握る。

「一緒に行く」

「どこまででも」  


久世は静かに笑った。

「当然だろ」


アストラが号令をかける。

「同盟艦隊、総力戦準備!」

「これより作戦名――」


一瞬ためて、

創生決戦ラスト・エーテル発動!」

巨大母艦全体が震え、無数の艦が発進準備に入る。


 

 宇宙が、鳴いた。

それは音ではなく、空間そのものが悲鳴を上げるような振動だった。


観測不能層が裂け、

そこから――黒い海のようにネメシス軍が溢れ出す。 


無数。

本当に無数。

星を喰らい、文明を消してきた殲滅兵器群。


その正面に並ぶのは――

久世率いる創生軍と、同盟宇宙空軍全艦隊。

銀河史上最大規模の布陣だった。


アストラの声が全艦に響く。

「全艦突撃!」

「創生部隊の航路を開け!!」


次の瞬間、宇宙が光で埋め尽くされた。

レーザー、粒子砲、重力弾、反物質弾頭。

空軍の全火力が一斉に解放される。

ネメシス軍も応じるように黒い稲妻を放ち、

星々の間で爆発が連鎖する。


一つの戦闘が惑星崩壊レベル。

それが同時多発で起こっていた。


その中心を――

久世の創生軍が一直線に突き進む。

朔姫は閃光のように敵艦を貫き、

夜叉と難波は正面から艦隊ごと粉砕。

凛は空間を読み切り、味方を一切被弾させない。

かやの先読みが航路を導き、

ジンの操縦が奇跡の回避を連続で叩き出す。


まるで――

宇宙が彼らを通すために動いているかのようだった。


だが。

ネメシス側の本陣が動く。

巨大すぎて「艦」と呼べない存在。

それ自体が要塞であり兵器であり生命体のような母艦群。

そこから現れる幹部級。


空間を歪ませ、艦を触れずに粉砕し、

空軍が次々と撃墜されていく。


司令部に悲鳴が飛ぶ。

「第三艦隊消滅!」

「第七防衛線突破されました!」

「このままでは――」


アストラが叫ぶ。

「退くな!!」

「ここで止めなければ銀河は終わる!!」

彼女の艦も被弾しながらなお前進を続ける。

その時。

宇宙の中心で、

久世の創生エネルギーが銀河規模で膨張した。


星々の光が集まり、

まるで新たな宇宙が生まれる前触れのような輝き。


久世が低く言う。

「――来たな、ネメシス」


虚空が裂け、

黒の王が姿を現す。

銀河を覆うほどの存在感。

見るだけで精神が削れるような圧倒的な“終焉”。

ネメシスの声が直接脳に響く。

「また巡り合ったな、創生の残滓よ」

「今度こそ宇宙は静寂へ還る」


久世は一歩前に出る。

「なら止める」

「何度生まれ変わっても」

「俺はこの宇宙を選ぶ」


かやが隣に立つ。

「未来も、命も、全部守る」


その瞬間。

創生軍とネメシス軍が――

銀河規模で激突した。

光と闇が衝突し、

星々が砕け、時空が歪む。

宇宙存亡戦争、開戦。  


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ