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久世家戦記・現  作者:
宇宙編
16/18

第五部 創生と輪廻の融合

 宇宙船のブリッジ。

星々を結ぶ無数の光の航路がホログラムとして広がっていた。

銀河を縦横無尽に走る交易ルート、軍事航路、未踏宙域――

そのすべてを見下ろしながら、華陽だけが黙り込んでいた。

「……おかしい」


かやが振り返る。

「何が?」


華陽は指先で一部を拡大した。

本来なら活発に往来しているはずの宙域。

だがそこだけ、航路がごっそり消えている。

「この一帯、三日前までは主要銀河路だった」


さらに拡大すると――

星そのものが、存在していない。

爆発した痕跡もない。

戦闘ログもない。

ただ、“消去されたように空白”だった。

凛が息をのむ。

「……滅ぼされた?」


「違う」華陽は静かに言う。

「滅ぼされたなら残骸がある。これは――」


久世が画面を見る。

「削り取られているな。宇宙ごと」


ジンが震えた声で続ける。

「ネメシスの古い戦法だ……星のエネルギーごと回収する“銀河収穫”」


難波が低く唸る。

「つまり欠片探しどころじゃねぇってことか」


華陽はさらに範囲を広げた。

消失宙域は――

エーテルスターの欠片が反応している星々を、確実に繋ぐ線上に並んでいた。

「ネメシスは無差別じゃない」

「欠片を辿りながら、銀河を喰って進んでいる」


ブリッジが静まり返る。

久世がゆっくり笑った。

「なるほどな……旅じゃなくなったわけだ」

「これは――競争だ」


かやが拳を握る。

「私たちより先に欠片を集める気だ」


華陽は静かに頷く。

「そして集めきった先にあるのは」

「エーテルスターの完全支配」


ジンが呟いた。

「銀河の生命そのものを握る神になるつもりだ……」


久世の瞳が銀河色に淡く光る。

「なら先に行く」

「欠片も、銀河も、全部守る」



 次に辿り着いた星は、空そのものがコースだった。

巨大なリング状の都市、宙に浮かぶ無数のゲート、

大気圏ギリギリから宇宙空間までを縦断する立体航路。


ここは――

宇宙船レースが文化そのものの星。

子どもは操縦を覚え、

大人は賭けに熱狂し、

英雄は“最速の名”で語り継がれる。


賞金は惑星国家レベル。

一夜で人生が変わる。

だから誰もが命を削って走っていた。


だが、ある日。

中央ホログラムに一人の存在が現れる。

フードを深く被った人物。

声は加工され、性別すら分からない。

「次の銀河グランレース」

「優勝者に――これを渡す」


宙に浮かんだのは、淡く脈打つ光。

エーテルスターの欠片。

一瞬で空気が変わった。

金?名誉?

そんなものを超えた銀河級の価値。


「ふざけるな……本物か?」

「いや……あれは伝承の輝きだ」

「星一つ買えるぞ……」


ざわめきは狂気に変わった。

その日から星は異常になる。

普段は酒飲みのレーサーが禁酒

賭博狂が操縦訓練に籠もる

老レーサーが現役復帰


重力下特訓

真空宙域ドリフト

隕石帯走破訓練


空には爆音が絶えなくなった。

誰もが言う。

「今回は死んでも勝つ」

「欠片は俺のもんだ」


久世たちがそれを見下ろす展望台。

「……完全に餌まかれてんな」と難波。


ジンが震える声で言う。

「ネメシスの誘導手口です……」


華陽はすでに理解していた。

「欠片を景品にすれば」

「勝者も、星も、最後は回収できる」


凛が歯を食いしばる。

「勝っても奪われる罠だ……」


かやは静かに未来を見ていた。


数秒先――

レース終盤でネメシス艦隊が現れる光景。

「この星……滅ぶ」


久世が笑う。

「なら先に勝つだけだ」

「そして奪わせない」


こうして始まる。

欠片を賭けた

銀河最速決定戦

 


 銀河グランレースの参加条件が発表された。

「二人一組のリンク操縦制」

一人が操縦、

一人がエネルギー制御・索敵・妨害対応。

個の速さだけじゃ勝てない。

信頼と連携がすべて。

久世たちは自然と分かれていく。


■ 久世 × かや

主機操縦:久世

未来視ナビ:かや

ほぼ反則級コンビ。

障害物を出現前に回避、敵の妨害を事前に潰す。

「右、三秒後に爆発」

「了解」

宇宙がスローモーションに見える領域。


■ 朔姫 × 凛

スピード特化コンビ。

朔姫が限界加速、

凛が姿勢制御と瞬間判断。

「もっと出せるだろ!」

「機体が悲鳴あげてるんだけど!?」

でも結果――

誰よりも速い。


■ 夜叉 × 難波

完全破壊枠。

隕石帯?粉砕

妨害ドローン?体当たり

レースというより進軍。

実況が叫ぶ。

「コースが消えていくううう!!」


■ 風夏 × 華陽

知略&操作精密型。

エネルギー配分最適化

他チームのブーストをジャック

重力乱流を逆利用

「速さより“勝ち筋”を走るわ」

裏で順位を支配していく。


■ ミラ × ルーク

若き才能コンビ。

まだ粗いが、直感が異常。

「こっちだ!」

「理由は!?」

「分かんないけど合ってる!」

結果、なぜか最短ルート。

エーテルスターの欠片が共鳴して導いている。


■ ジン × サポートAI(補助枠)

宇宙種族ならではの視野と感覚。

宇宙空間の“流れ”そのものを読む操縦。

「ここは空が曲がっています」

誰にも見えない道を走る。


スタート直前。

空に巨大ホログラム。

参加数:312チーム

その中心に光る欠片。

観客は銀河規模。

賭け金は国家単位。


そして――

久世が静かに言う。

「このレース、途中で戦争になるな」


かやが未来を見る。

「うん…ゴール前で空が燃える」


ホイッスルが鳴る。

宇宙が爆発するように船が飛び出す。



 スタートシグナルが鳴った瞬間。

宇宙が――裂けた。

爆音と共に三百機以上の宇宙船が一斉に飛び出すはずだった。


だが。

その中で異常が起きる。

久世たちの船だけが――

“発進”ではなく“消失”した。


次の瞬間。

はるか前方のゲートが衝撃波と共に砕け散る。


実況が叫ぶ。

「え!?今スタート地点にいた船が――もう第三宙域!?」

「加速上限を突破している!!」


観客席が静まり返る。

そして一拍遅れて――

大歓声。


朔姫×凛の機体は光の線となってコースを切り裂き、


夜叉×難波は隕石帯を“道”に変えながら突き進み、


風夏×華陽は他チームのブーストを奪って順位を操作し、


ミラ×ルークはあり得ない近道を引き当てる。


そして――


久世×かや。

未来視と創世エネルギーの融合。

障害物は現れる前に消え、

妨害は放つ前に潰れ、

重力すら味方につける。

まるで宇宙が久世の進路を空けているようだった。


現地レーサーたちが絶叫する。

「ふざけんなあああ!!」

「ワープ使ってるだろ!!」

「いや……あれはワープじゃない……」

「空間が折れてる……」


ジンの声が通信に入る。

「これは……銀河航行法則を上書きしています」

「普通の文明が触れていい速度ではありません」


観客席では、年老いたレーサーが震えていた。

「……伝説だ」

「創世航行者の走りだ」


すでに久世たちは全体の先頭集団を丸ごと引き離している。

スタートからまだ十秒。

だが差は銀河単位。


ホログラム順位表。

1位〜11位:久世一行と謎の集団

12位以下:その他全員


実況が壊れかける。

「ええええ現在トップ十一機が同時に独走!!」

「残りは混戦どころか置いていかれています!!」


だが――

その瞬間。

コース奥に黒い歪みが開いた。

ネメシスの転移反応。


かやが息を呑む。

「来る……」

「レースはここから地獄になる」


久世が静かに笑う。

「ようやく本番だな」


銀河は気づいてしまった。

このレースは競技じゃない。

戦争の開幕だと。



 銀河を切り裂くように進む久世たちの先頭集団。

誰一人ついてこれないはずだった。

はずだった――

だが。


かやが未来視で“異物”を捉える。

「……一機、いる」

「ずっと後ろじゃない。真横に来てる」


久世が横を見る。

そこにいたのは、古びた機体。

最新型でもなければ武装も控えめ。


だが操縦が――

異常に美しい。

重力乱流を読む角度

隕石の影を踏み台にする軌道

ブーストを使わず速度を殺さない走り

まるで宇宙と会話しているようだった。


通信が割り込む。

「やれやれ……」

「最近の若い連中は宇宙を壊しながら走るのが流行りかい?」


渋い声。

落ち着きすぎている。


「銀河グランレース」

「八十年連続優勝者」

「スター・レギオンだ」


観客席が爆発する。

「出たああああああ!!」

「生きる伝説!!」

「負けなしの王者!!」


ジンが震える。

「彼らは……ネメシスすら避けてきた存在です」

「銀河最速の“自然体レーサー”」


スター・レギオンの機体は久世たちと並走しながら、余裕で微調整を続けている。

まるで速度を合わせているだけ。


リーダーの声が通信に響く。

「君たち……」

「速さは神域だ」

「だが操縦はまだ“力任せ”だよ」


朔姫がムッとする。

「何それ喧嘩売ってんの?」


「違う」

「褒めてる」

「そして忠告だ」

スター・レギオンの機体が一瞬だけ本気を出す。


音もなく――

久世たちの前へ出る。

ブーストなし。

純粋操縦だけで。


一同、戦慄。


「このレース」

「もうすぐ競技じゃなくなる」

「黒いのが来るだろ?」


かやが驚く。

「……見えてるの?」


「見えるさ」

「八十年、死線で走ってきた」

「宇宙が悲鳴を上げる瞬間は分かる」


久世が口角を上げる。

「面白い」

「じゃあ最後まで並走してもらおうか」


スター・レギオンが笑う。

「いいね」

「久々に命張れる相手だ」


こうして――

神域級チームと

銀河最強人類チームが並ぶ。

レースは

ただの勝負から

宇宙の未来を賭けた疾走戦争へ変わった。



 銀河航路を切り裂く光の群れ。

久世たちとスター・レギオンが並走する先頭。

その遥か後方――

宇宙そのものが歪み始めた。


黒い裂け目が一つ。

二つ。

十を超えて開く。

そこから現れたのは、鋭利なシルエットの戦闘機群。

ネメシス尖兵機。

レース仕様などではない。

殲滅専用機体。


観客席が一斉に悲鳴を上げる。

「戦闘機だ!!」

「レースに軍が入ってきてるぞ!!」

「運営止めろ!!」


だが止まらない。

ネメシス機はそのまま高速で突入。

数――十五機。

完全に久世たちを狙っている。


スター・レギオンのリーダーが低く笑う。

「来たね……やっぱり」

「噂通り、勝者ごと回収する気だ」


かやが未来を見る。

「このままだと、一般レーサーが巻き込まれる」

「数百人……死ぬ」


久世の声が鋭くなる。

「なら戦場を前にずらす」


朔姫がニヤリ。

「先頭で殴るってことね」


夜叉が拳を鳴らす。

「久々に暴れられるな」


ネメシス機が一斉射撃。

黒い光線が航路を焼き払う。

逃げ遅れたレーサーの機体が爆散する。

スター・レギオンが即座に機動を変える。

「君たち前へ行け!」

「こいつらの速度、俺たちが削ぐ!」


久世が短く言う。

「共闘だな」


瞬間。


久世チームが前方へ加速。

スター・レギオンが後方に反転。

神業操縦でネメシス機の射線に割り込み、誘導し、衝突させる。

だが数が多い。

十五機が包囲を形成。

宇宙が弾幕で埋まる。


かやが叫ぶ。

「三秒後、左から挟撃!」


久世が船を反転させる。

水流のようなエネルギー航路を作り、弾幕を逸らす。 


朔姫が別方向から突っ込む。

一機粉砕。


夜叉×難波が体当たりで二機消し飛ばす。


スター・レギオンの操縦はまさに芸術。

一発も被弾せず三機を誘爆させる。

残り――七機。


だがその奥でさらに歪みが広がり始めていた。

ジンが叫ぶ。

「追加転移反応!!」


久世が歯を見せて笑う。

「数で押すつもりか」

「なら――」

「宇宙ごと押し返す」



 黒い転移孔が、次々と空間を引き裂く。

十五機どころじゃない。

三十、五十、百――

ネメシス機が星雲の中から溢れ出てくる。

完全包囲。

銀河航路が戦場へと変質する。


スター・レギオンが舌打ちする。

「ちっ……」

「これは流石に厄介だ」


ネメシス機が一斉砲撃。

航路そのものが焼け焦げる。

一般レーサーが逃げ惑う。


その瞬間。


巨大ホログラムがレース上空に展開。

運営中枢AIの声が響く。

《緊急措置発動》

《銀河グランレースは“防衛モード”へ移行》

《参加レーサー全員を最前線へ転送》


空間が歪む。

次々と光が弾ける。

久世たちの周囲に――

さっきまで後方を走っていた何百機ものレーサーが出現する。


混乱。


そしてすぐに理解。

誰かが叫ぶ。

「ネメシスだ!!」

「逃げ場はねぇ!」

「なら戦うしかねぇだろ!!」


スター・レギオンが高らかに笑う。

「よし来た!」

「これが銀河の流儀だ!!」


久世が全通信回線に声を流す。

「俺たちは欠片を狙っている」

「だが――」

「この星を滅ぼさせる気はない」

「力を貸せ」


一瞬の沈黙。

そして――

無数のレーサーが応える。

「当然だ!」

「俺たちの星だ!」

「ぶっ潰せネメシス!!」


宇宙船が一斉に向きを変える。

レース隊形から――

迎撃陣形へ。


スター・レギオンが叫ぶ。

「編隊組め!」

「速いやつ前へ!重装は後衛!」


銀河史上初。

レーサー連合艦隊、誕生。

ネメシス機が突っ込んでくる。


だが今度は違う。

何百機の迎撃が迎え撃つ。

光線と衝突と爆発が星雲を染める。


久世たちは中央突破。

かやの未来視で敵の波を裂き、

朔姫が超高速で穴を開け、

夜叉と難波が盾となり、

華陽が戦場を指揮。


スター・レギオンはまさに空の騎士団。

「これが銀河の意地だぁ!!」


ネメシスの数は多い。


だが――

銀河の方が多かった。

戦場が逆転し始める。

ネメシス機が押し返される。

転移孔が一つずつ閉じていく。


ジンが震える声で言う。

「これが……文明の力……」


久世は静かに答える。

「俺一人じゃ無理だった」

「だが銀河は――強い」


そして最後の波が砕け散る。

宇宙に静寂が戻る。

観客席と星全体が歓声で震える。

これはレースじゃない。

銀河が勝ち取った初勝利だった。


スター・レギオンが通信で言う。

「久世」

「君たちはもうただの旅人じゃない」

「銀河の希望だ」



 ネメシス機が次々と爆散し、銀河の空に静寂が戻りかけた、その瞬間。

空間が――

音もなく沈んだ。

まるで宇宙が息を止めたかのように。


スター・レギオンが呟く。

「……来る」


転移孔が、今までとは比べ物にならない規模で開く。

直径数キロ。

星を飲み込めるほどの黒い裂け目。

そこからゆっくりと姿を現す影。


それは――

もはや戦闘機ではなかった。

ネメシス母艦を無理やり圧縮・改造した

幹部級決戦兵装体。

都市サイズの装甲。

無数の砲門。

中心には赤黒く脈打つコア。

母艦の残骸がそのまま骨格になっている異形。


ジンの声が震える。

「幹部級……」

「しかも任務失敗を罰として、母艦融合型に……」

「ネメシスで最も凶悪な処刑兵器です……!」


その機体から低い声が銀河全域に響く。


《欠片未回収》

《銀河抵抗確認》

《粛清開始》


スター・レギオンが苦笑する。

「はは……」

「さすがにレース用エンジンじゃ相手にならんサイズだな」


一般レーサーたちが震える。

「勝てるわけねぇ……」

「星ごと消される……」


かやの未来視が真っ黒になる。

「……多くの未来で、星が消える」

「正面からぶつかれば負ける」


久世だけが動じていなかった。

その瞳が銀河色に深く輝く。

「母艦を使ったのが間違いだ」

「でかいってことは――」

「宇宙そのものを敵に回したってことだ」


幹部機が主砲を展開。

恒星を貫く規模のエネルギーが溜まる。


久世が一歩前に出る。

「銀河よ」

「道を貸せ」


星雲が渦を巻き、重力が収束する。

創世エネルギーが空間に幾何学模様を描く。


スター・レギオンが息を呑む。

「……宇宙を武器にする気か」


久世が静かに宣言する。

「母艦だろうが」

「銀河の前じゃ――瓦礫だ」



 母艦融合型ネメシス幹部の装甲が開き、

赤黒いコアの中に人型の影が浮かぶ。


その視線は――

まっすぐ久世を射抜いていた。


《……ようやく会えた》

低く、感情を含んだ声。


久世は眉をひそめる。

「誰だ、お前」


幹部は静かに笑う。

《覚えていないか》

《当然だ》

《お前は“選ばれた瞬間”の記憶を失っている》


かやが息を呑む。

「久世……?」


《だが私は覚えている》

《エーテルスターが砕け》

《自然が一人の人間を器として選んだ日》

《その場にいたのが――私だ》


スター・レギオンがざわめく。

「創世の目撃者……?」


幹部が名を告げる。

《アーク・ゼル=ネメシス》

《かつては観測者》

《今は宇宙再構築の執行者》


久世は静かに構える。

「知らない過去を語られても」

「俺は今を守るだけだ」


アークはどこか哀しそうに笑う。

《それが君らしい》

《だから私は失望し》


《だからネメシスを選んだ》

《君は守る》


《私は壊して作り直す》

《同じ宇宙を愛した者同士なのに》


母艦の砲門が開き、恒星級エネルギーが集束する。

《思い出せなくてもいい》

《ここで終わればな》


かやが叫ぶ。

「久世……この人、危険……!」


久世が一歩前へ。

「記憶がなくても分かる」

「お前は止めるべき敵だ」



 母艦融合型アークの前線で、

久世とかやたちが銀河エネルギーをまとい構えるその後方。

混戦の外側でスター・レギオンが戦況を見守っていた。


そのリーダーが――ふと久世を見つめる。

胸の奥に、違和感が走る。

「……あれ?」


視界越しに見る久世の横顔。

その立ち姿。

敵意の前に出る癖。

仲間を背にして盾になる構え。


記憶の奥から一枚の写真が浮かぶ。

古びた紙。

白黒。

宇宙開拓初期に撮られた家族写真。

そこに写っていた男――

自分の曽祖父の隣に立っていた人物。


まったく同じ目。

まったく同じ雰囲気。

まったく同じ“空気の重さ”。


スター・レギオンのリーダーが息を呑む。

「……嘘だろ」

「あの人は……伝説の人類守護者だ」


副操縦士が聞く。

「隊長?」

「曽祖父が言ってた」

「“星を救った不死の人間がいた”って」

「名前は記録から消された」


再び久世を見る。

その存在が宇宙そのものを歪めている。

「まさか……」

「本当に生きていたのか」


ここでスター・レギオンは悟る。

久世はただの強者じゃない。

銀河史に刻まれては消された守護者そのもの。


つまり――

久世は昔から宇宙を救い続けてきた存在。

人々は忘れ、血だけが語り継いでいた。

スター・レギオンが小さく笑う。

「なるほどな……」

「そりゃ勝てるわけない」

「俺たちは英雄の子孫と肩を並べてたんだ」



 母艦融合型アークのコアが脈打つ。

その声はもはや宇宙全体に響いていた。


《覚えていないのも当然だ》

《君は“久世”という存在の――》

《一個体にすぎない》


戦場が凍りつく。

かやが叫ぶ。

「……なに、それ……?」


アークは淡々と語る。

《久世は死ぬ》

《だが終わらない》


《宇宙が危機に瀕するたび》

《自然とエーテルスターは彼を再構成する》


《姿を変え》

《時代を変え》

《記憶を消し》

《だが魂だけは同じまま》


スター・レギオンが震える。

「だから……歴史に断片的に現れてたのか……」


《宇宙創造以来》

《久世は何度も転生してきた》


《星の守護者として》

《英雄として》

《時には人として》


《そして毎回――》

《争いを止めてきた》


久世は静かに拳を握る。

「……それが本当でも」

「今の俺は俺だ」


アークの声に怒りが滲む。

《そこが愚かなんだ久世》

《君は毎回守って》

《そのたび宇宙はまた争う》


《だから私は循環を壊す》

《宇宙を作り直す》

《争う種そのものを消す》


かやが涙をこらえる。

「それは……守ることじゃない……」


アークが冷たく言う。

《君は感情で宇宙を甘やかす》

《私は理性で宇宙を救う》


《どちらが正しいか》

《この戦いで証明しよう》

母艦兵装が完全展開。

銀河が赤く染まる。



 母艦融合体アークのコアが、これまでで一番強く脈打つ。

赤黒い光が銀河を染める。

《……一つだけ》

《君に教えておくことがある》


久世が静かに見据える。

「何だ」


一瞬の沈黙。

そして――

アークは、笑った。

《初代久世》

《創生の個体》


《宇宙が最初に生み出した“守護そのもの”》

《――それを殺したのは私だ》


空間が割れたような衝撃。

かやが息を呑み、朔姫が声を失う。


スター・レギオンすら言葉を忘れる。

《あの存在は完璧すぎた》

《争いが起こる前に消し》

《宇宙は停滞する運命だった》


《だから私は試した》

《守護者は“死”を知るべきだと》


《そして突き立てた》


アークの背部装甲が開く。

そこから現れたのは――

銀河そのものを削り出したような槍。

光と闇が螺旋を描く神殺しの武装。


《クゼハルバード・エーテル》

《創生久世を貫いた宇宙唯一の武器》


かやの未来視が崩壊する。

「……この槍が当たる未来……全部、終わってる……」


アークは淡々と続ける。

《初代は死んだ》

《だが宇宙は彼を諦めなかった》

《だから転生が始まった》


《私が殺したことで》

《久世は“輪廻する存在”になった》


《皮肉だろう?》

《私は守護者を殺して》

《永遠の守護者を生み出してしまった》


久世の拳が震える。

怒りではない。

宇宙そのものが呼応して震えている。

「……お前が」

「俺を」

「何度も生まれさせてきた元凶か」


アークが静かに槍を構える。

《そうだ》

《そして今回こそ完全に終わらせる》


《輪廻ごと》

《久世という概念ごと》


銀河が悲鳴を上げる。

クゼハルバード・エーテルに創世エネルギーが集束する。

 


 クゼハルバード・エーテルを構え、勝利を確信していたアークの視線が――

ふと久世の横に立つかやへと移る。

その瞬間。


母艦融合体が、わずかに揺れた。

《……は?》


低く、信じられない声。

赤黒いコアが強く明滅する。

まるで心臓が跳ねたように。

《なぜ……》

《なぜお前が、そこにいる》


かやが一歩前に出る。

「……え?」


アークの声が震え始める。

《ありえない》

《お前は創生期に消えたはずだ》

《久世と共に宇宙を支えていた存在》


《“星の未来視”》

《創世の導き手》

《セラ=エーテリア》


戦場が静まり返る。

スター・レギオンが息を呑む。

「創生期に二人いた……?」

「守護者と、導き手……?」


アークは信じられないものを見るようにかやを見つめる。

《姿も》

《魂の波長も》

《完全に同じだ》


《久世が輪廻するなら》

《お前も……転生していたというのか》


かやの胸が熱くなる。

知らない記憶。

なのに、懐かしさだけが溢れる。

「……その人」

「久世のそばに、ずっといたの?」


アークの声に怒りが滲む。

《いた》

《常に》


《久世が暴走しないよう》

《未来を読み、選択を導き続けた女》


《お前は久世の“錨”だった》

《宇宙が壊れないための存在だった》


久世がかやを見る。

「……俺を、止めてたのか」


アークが吐き捨てるように言う。

《だから殺す必要があった》

《久世だけでは足りなかった》

《お前という歯止めがある限り》


《宇宙は変わらなかった》

《だが完全には消せなかった》

《魂は転生し続けた》


アークの声が低く歪む。

《久世だけでなく》

《お前まで蘇るとは》

《これこそ最大の誤算だ》


かやの未来視が暴走する。

無数の過去の光景が重なり始める。

創生の星々

久世の隣で未来を指し示す自分

銀河を導く二人の影


かやが震える声で言う。

「……私」

「昔から、久世と一緒だったんだ」


アークが静かに槍を構える。

《だから今回は二人まとめて終わらせる》

《守護と導きの輪廻を》

《この宇宙から消す》


久世が前に出る。

かやを背に庇って。

「それはさせない」


銀河エネルギーが二人に共鳴する。

久世の力とかやの未来視が完全に重なり始める。



 クゼハルバード・エーテルを構えたまま、

アークの声から怒りが消える。

代わりに――疲れと諦めが滲む。

《なあ、久世》

《かや》


《俺も創生期の民だった》

《星が生まれる瞬間を見》


《宇宙が呼吸する音を聞いていた》

《お前たちと同じ側に立っていた》


母艦融合体の装甲が軋む。

それはまるで痛みに耐えているようだった。

《だが今はどうだ》

《俺はネメシスの幹部だ》

《星を壊す側の化け物だ》


《創生の理想を守ろうとして》

《破壊の象徴になった》


スター・レギオンが歯を食いしばる。

「……そんな皮肉があるかよ」


アークは自嘲気味に笑う。

《俺を倒しても無意味だ》

《ネメシスは止まらない》


《俺はただの一つの壁》

《通過点にすぎない》


《この宇宙の再構築は》

《もっと上の存在が決めている》

《俺はその歯車だ》


かやが叫ぶ。

「それでも止める!」

「壁なら壊す!」


アークは静かに首を振る。

《何度も見た》

《英雄が壁を越え》

《その先で絶望する姿を》


《だから言っている》

《これは“勝てる戦争”じゃない》


久世が低く言う。

「勝てるかどうかは関係ない」

「守ると決めた」


アークの目がわずかに揺れる。

《……ああ》

《それも何度も聞いた台詞だ》


《だがそれでも》

《お前たちは進むんだろうな》

《だから俺は立ちはだかる》


《創生の同胞として》

《ネメシスの執行者として》

《この宇宙最初の壁として》

クゼハルバード・エーテルが銀河の光を吸い上げる。

戦場の重力が歪み始める。


アークが最後に言う。

《越えられるなら越えてみろ》

《守護者と導き手よ》


《ここから先は――》

《絶望の宇宙だ》



 銀河が、悲鳴を上げた。

クゼハルバード・エーテルが完全起動。

槍の周囲に創生エネルギーと崩壊エネルギーが同時に渦を巻き、

空間そのものが削り取られていく。


アークの声が低く響く。

《この槍はな》

《星を壊すための武器じゃない》

《“守護者を殺すための武器”だ》


一閃。


槍が振るわれただけで、銀河航路が裂ける。

久世のいた空間が消失する。


かやが叫ぶ。

「久世!!」


だが久世は寸前で転移。

しかし遅かった。

エネルギーの余波が肩を抉り取る。

銀河エネルギーが乱れる。


スター・レギオンが叫ぶ。

「久世が押されてる……!」


アークが追撃。

空間を踏み越えるように高速接近。

槍が再び突き出される。

久世が受け止める。


だが――

弾かれる。

重力ごと吹き飛ばされ、星雲へ叩きつけられる。


アークの声に怒りはない。

ただ任務の音だけ。

《効いている》

《やはり創生久世の殺し方は正しかった》


《同じ魂なら》 

《同じように壊れる》


久世が立ち上がる。

息が荒い。

銀河エネルギーが不安定に揺れる。

「……確かに」

「この槍は俺に効く」


アークが静かに槍を構える。

《なら終わりだ》


連続突き。

空間破壊の嵐。

回避不可能な殺戮軌道。

久世は防ぎきれない。

胸を貫かれ、宇宙へ吹き飛ぶ。

かやの未来視が崩れる。

「このままだと……久世が死ぬ未来しかない……!」


アークが低く言う。

《壁とは》

《越えられないものだから壁なんだ》


久世は膝をつく。

完全に追い詰められている。



 銀河エネルギーが乱れ、

久世の身体が崩れかけたその瞬間。

クゼハルバード・エーテルが再び振り下ろされる。


――終わりの一撃。


だが。

その刃が届く直前。

宇宙が、白く燃えた。

光が爆発するように広がり、

その中心に“影”が立っていた。

形は不完全。

輪郭は星雲のように揺らぎ、

だが――顔だけははっきりと久世。


アークが凍りつく。

《……そんな》

《ありえない》


《死んだはずだ》

《創生の久世は》


影が静かに前へ出る。

その声は重なり合うようだった。

《まだ終わっていない》


それは久世であり、

宇宙そのものの意思でもあった。


《私は消えた》

《だが魂は散った》

《そしてこの槍に刻まれた》 


クゼハルバード・エーテルが共鳴し、幻影として実体化していたのだ。


かやが震える。

「……久世……もう一人……」


初代久世の幻影が久世を見つめる。

《今の私は過去の残響》

《だが力は渡せる》


《お前は“守り続けてきた久世”》

《私は“始まりの久世”》

《今ここで重なれ》


アークが叫ぶ。

《やめろ!!》

《それを許せば輪廻が完成する!!》


幻影が静かに微笑む。

《完成して困るのは》

《破壊者だけだ》


クゼハルバード・エーテルが光の粒子へと崩れ、

そのエネルギーが久世へ流れ込む。

銀河が呼吸を取り戻す。

星々が一斉に輝く。

久世の背後に、創生の翼のような光が広がる。


初代の声が最後に響く。

《守れ》

《それがお前の存在理由だ》


そして幻影は宇宙へ溶けて消える。

久世がゆっくりと立ち上がる。

その瞳には――創生と現在の光が重なっていた。


アークが震える。

《……完全体》

《ついにここまで来たか》



 

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